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サネカズラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サネカズラ
Kadsura japonica
1. サネカズラ
Flora Japonica, Sectio Prima (Tafelband)
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales
: マツブサ科 Schisandraceae
: サネカズラ属 Kadsura
: サネカズラ K. japonica
学名
Kadsura japonica (L.) Dunal (1817)[1][2]
シノニム
和名
サネカズラ(実葛[4]、核葛[5]、五味葛[6]、狭根葛[7]、佐禰加豆良[8])、サナカズラ[4](真葛、狭名葛[9]、佐名葛[10]、左名葛[11]、左那葛[12]、佐那葛[13]、佐奈葛[14]、真玉葛[15])、ヤマサナカズラ(山さな葛[16])、ビナンカズラ(美男葛[17])、ビジンソウ(美人草[18])、ビンカズラ(鬢葛[19])、ビンズケズル(鬢付蔓[20])、ノリカズラ(糊葛[21])、トロロカズラ(薯蕷汁葛[22])、フノリカズラ(布海苔葛[23])、ヒメカズラ(姫葛[24])、ヤマオウレン(山黄蓮[25]
英名
Japanese kadsura, false schisandra[3]

サネカズラ(実葛、学名: Kadsura japonica)は、マツブサ科サネカズラ属分類される常緑つる性木本の1である。単性花をつけ、赤い液果が球形に集まった集合果が実る(図1)。などから得られる粘液は、古くは整髪料などに用いられた。果実は生薬とされることがあり、また美しいため観賞用に栽培される。古くから日本人になじみ深い植物であり、『万葉集』にも多数詠まれている。別名が多く(分類表参照)、サナカズラ、ビナンカズラ(美男葛)などともよばれる。

特徴

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常緑、または半常緑のつる性木本 (藤本) であり、他の植物などに絡まって���がる[26][27][28](下図2a)。つるとなり、巻き方向は右から左へと巻き付き、丈夫で柔らかい[29]。春から夏にかけて、直立して茎を伸ばし、夏から秋にかけて生長したつるが縄のように絡まり合う[29]。つる性であるが、他のつる植物と比べてあまり巻き付く印象はなく、一般的な若木と見た目が紛らわしい[29]。つるが若いうちは赤紫色を帯び、粘液を含んでいる[26][27][29](下図2a)。つるが太くなるとコルク層が発達し、樹皮はゴツゴツした灰褐色になり、太さ2センチメートル (cm) ほどになる[26][27][29]。冬芽は長卵形で長さ3 - 7ミリメートル (mm) 、芽鱗が多い[27]

互生し、葉身の形は変異が大きく、楕円形、長楕円形または長卵形、長さ 5 - 13 cm、幅 2 - 6 cm、基部はくさび形、先端は多少とも尖り、両面とも無毛[26][27][30][31](下図2)。葉縁には低い鋸歯があって日当たり具合などによって目立つものから目立たないものまで変異が大きい[28][32]葉脈は羽状、側脈は目立たないが5 - 8対ある[31]。表面は濃緑色でやや光沢があり、葉質は厚みがあって柔らかく、なめし皮のような手触りがする[26][27][32]。裏面は灰緑色、しばしば赤紫色の斑紋がでて紫色を帯びる[26][27][30][29]葉柄は長さ 0.8 - 1.5 cm、淡い紅色を帯びている[26][27][32][31]

2a. つると葉
2b. 葉 (表面)
2c. 葉 (裏面)

ふつう雌雄異株だが、まれに雌雄同株[26][27][32]。花期はの7 - 8月ごろであり[33][29]、新枝の葉腋から、長さ 2 cm 前後の花柄が垂れ下がり、その先端に1個の淡黄色の小さなを下向きにつける[26][28][32]。花は葉の陰にありあまり目立たない[27][33]。花は直径 1 - 2 cm ほどで、雌花はふつう雄花よりも小さい[32]花被片は8 - 17枚、淡黄色、楕円形から倒卵形、萼片花弁の区別ははっきりしないが、外側のものは内側よりも大きい(長さ 10 - 14 mm)[26][27][30][32]。雄花の中央には、が紅色の雄しべが球状に集まっている[34][27]。雌花の中央には、淡緑色の雌しべの集合体があり、各雌しべの下部は子房となり、その側面から白色の花柱が伸びている[27][32]。まれに両性花をつける[34]

果期はから晩秋で��り、花が終わると雌花の長い花柄(7 cm になることもある)の先に、花托が球状にふくらみ、キイチゴを大きくしたようなツヤがある真っ赤な粒々の丸い集合果(直径 2 - 3 cm)がぶら下がって実る[26][28][30][29](下図3b)。個々の果実液果であり、直径 1 cm ほどになる[33]和菓子鹿の子餅を思わせる果実は、初冬の林縁でよく目立つ[33]。11月頃に熟し[33]、果実は個々に落ちて、あとにはやはり真っ赤なふくらんだ花托が残る[27][35](下図3c)。1つの液果にふつう2 - 3個ずつ種子が含まれており、種子は腎臓形で長さ 5 - 6 mm、表面は光沢があり滑らかである[26][27][33]

3a. 未熟な果実
3b. 熟した果実
3c. ほとんどの果実が脱落し肥大した花托が残っている

染色体数は 2n = 28[26]

分布と生育環境

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本州関東以西)、四国九州済州島南西諸島台湾に分布する[2][26]。南西諸島から台湾には、近縁のリュウキュウサネカズラも生育している[36]

暖地に自生し[28]丘陵山野広葉樹林の林縁、林床などで見られる[37][33]。庭木としてもよく植えられる[30]

人間との関わり

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利用

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4a. サネカズラの盆栽
4b. 御薬園のサネカズラ

果実が美しく、庭木盆栽(鉢植え)として利用されている[37][38][39][40][41][42](図4)。栽培は、挿し木株分け繁殖させることができ、栽培に向いている[28]。つるは軟らかいので、材やの代用としても使われることがある[29]

果実は食べても味はしないが[35]果実酒に利用できる。また、茎葉は2倍量の水に入れておくと粘液が出るので、その液を頭髪につけて、整髪料として利用できる[28]奈良時代には、整髪料(髪油)としてサネカズラがふつうに使われていたと考えられている[43]。この整髪料は葛水(かずらみ���)、鬢水(びんみず)、水鬘(すいかずら)とよばれた[44][45][46]。またサネカズラを浸けておく入れ物を蔓壺(かずらつぼ)、鬢盥(びんだらい)といったが、江戸時代には男の髪結いが持ち歩く道具箱を鬢盥というようになった[47][48]。サネカズラから得られた粘液質は、和紙の製紙用糊料(ネリ)としても用いられた[49]

生薬とされることがあり、茎や葉から得られる粘液は美男葛(びなんかずら)、赤く熟した果実を乾燥したものは南五味子(なんごみし)とよばれる[28][39]。茎葉は、利用する都度に生のものを採取するか、夏に刈り取って陰干しして保存する[28]。これを水につけて得られた粘液は、上記のように整髪料などとして利用されたが、ヒビやあかぎれに外用する生薬ともなる[39]。果実は晩秋に熟した果実を採取し、天日で乾燥して保存する[28]。果実は鎮咳滋養強壮に効用があるものとされ、五味子(同じマツブサ科チョウセンゴミシの果実)の代用品とされることもある[28][39][50]。ただし本来の南五味子は、同属の Kadsura longipedunculata ともされる[51]民間療法では、強壮、咳止めに1日量5グラムの南五味子をコップ2杯ほどの水で半量になるまで煎じ、食間3回に分けて服用する方法が知られる[52]。 ref

文化・文学

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サネカズラは古くから日本人になじみ深い植物であり、文献上の初見は『古事記』にさかのぼる(「さなかづら」として)[53]奈良時代に成立した『万葉集』や、中世に成立した『百人一首』にも登場する[29][50]。サネカズラはつる状の茎が絡み合うことから、「小寝さね」(一緒に寝ること) の掛詞として、またしばしば「逢おう」の縁語として用いられた[54][55]

あしひきの 山さなかづら もみつまで 妹に逢わずや わが恋ひ居らむ
作者不詳『万葉集』巻10‐2296
さねかづら 後も逢はむと 夢のみに うけひわたりて 年は経につつ
柿本人麻呂万葉集』巻11‐2479
木綿ゆふ包み 白月山しらつきやまの さなかづら 後もかならず 逢はむとぞ思ふ
作者不詳『万葉集』巻12-3073
名にし負はば 逢坂山あふさかやまの さねかづら 人に知られで 来るよしもがな
藤原定方後撰和歌集』巻11・恋歌3・701/『百人一首』25

花言葉は「再会」、「好機をつかむ」など[42]

名称

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別名が多い(上分類表参照)。上記のように、古くは若いつるから粘液をとって男性の整髪料に使われていたため、ビナンカズラ(美男葛)の名がある[17][26][27][32][56][37]。関連して鬢葛(ビンカズラ)[19]、鬢付蔓(ビンズケズル)[20]、糊葛 (ノリカズラ)[21]、薯蕷汁葛 (トロロカズラ)[22]、布海苔葛(フノリカズラ)[23] などもある。また、大阪ではビジョカズラ(美女葛)と称したともいわれる[56]サナカズラ(真葛)の名は、枝に粘液が含まれ、粘ることによるとされる[30]

脚注

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出典

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Kadsura japonica (L.) Dunal サネカズラ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
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  4. ^ a b 真葛」『デジタル大辞泉』https://kotobank.jp/word/%E7%9C%9F%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  5. ^ 核葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E6%A0%B8%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
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  7. ^ 狭根葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E7%8B%AD%E6%A0%B9%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
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  13. ^ 佐那葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E4%BD%90%E9%82%A3%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  14. ^ 佐奈葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E4%BD%90%E5%A5%88%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  15. ^ 真玉葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E7%9C%9F%E7%8E%89%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  16. ^ 山さな葛」『デジタル大辞泉』https://kotobank.jp/word/%E5%B1%B1%E3%81%95%E3%81%AA%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
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  21. ^ a b 糊葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E7%B3%8A%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  22. ^ a b 薯蕷汁葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E8%96%AF%E8%95%B7%E6%B1%81%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
  23. ^ a b 布海苔葛」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%B8%83%E6%B5%B7%E8%8B%94%E8%91%9Bコトバンクより2021年8月11日閲覧 
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  25. ^ 山黄蓮」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%B1%B1%E9%BB%84%E8%93%AEコトバンクより2021年8月11日閲覧 
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参考文献

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  • 勝山輝男「シキミ」『樹に咲く花 離弁花1』山と渓谷社、2000年、390頁。ISBN 4-635-07003-4 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『増補改訂 草木の 種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2018年9月20日、270頁。ISBN 978-4-416-51874-8 
  • 谷川栄子『里山のつる性植物 観察の楽しみ』本間秀和(写真)、NHK出版、2015年6月20日、32–34頁。ISBN 978-4-14-040271-9 
  • 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂フィールドベスト図鑑 5〉、2009年8月4日、233頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、56頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 林弥栄『日本の樹木』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2011年11月30日、201頁。ISBN 978-4635090438 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、117頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 山下智道『野草と暮らす365日』山と溪谷社、2018年7月1日、113頁。ISBN 978-4-635-58039-7 

外部リンク

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