映画「サブスタンス」で美と若さに執着する元人気女優を怪演してアカデミー賞主演女優賞に初ノミネートされたデミ・ムーアは、受賞こそ逃したものの見事なカムバックで今年の賞レースを席巻しました。62歳のムーアは、45年近いキャリアで数々のヒット作に出演しながらもこれまで映画賞とは無縁で、近年はヒット作からも遠ざかっていました。そんなムーアがゴールデン・グローブ賞を初受賞した際には「お金を稼げるヒット作には出演できても、(女優として)評価されることはないと思っていました」と感動的なスピーチを披露し、大きな話題を呼びました。

第97回アカデミー賞 「サブスタンス」のデミ・ムーア(ロイター)
第97回アカデミー賞 「サブスタンス」のデミ・ムーア(ロイター)
英アカデミー賞 「サブスタンス」主演のデミ・ムーア(2025年2月撮影)(ロイター)
英アカデミー賞 「サブスタンス」主演のデミ・ムーア(2025年2月撮影)(ロイター)
ゴールデン・グローブ賞授賞式 「サブスタンス」でミュージカル・コメディ部門主演女優賞のデミ・ムーア(ロイター)
ゴールデン・グローブ賞授賞式 「サブスタンス」でミュージカル・コメディ部門主演女優賞のデミ・ムーア(ロイター)

あるプロデューサーから若かりし日に「ポップコーン女優」と呼ばれたエピソードを披露したムーアは、ゴールデン・グローブ賞受賞の勢いに乗って放送映画批評家協会賞と全米映画俳優組合(SAG)賞にも輝き、そのままオスカーも手にすると期待されていました。最終的にアカデミー賞の会員が主演女優賞に選んだのは、「ANORA アノーラ」のマイキー・マディソンでしたが、ポップコーン女優ムーアにとって「サブスタンス」はキャリアの集大成になったことは間違いありません。

80年代にモデルとしてキャリアをスタートさせ、その後メロドラマに出演して女優としての道を歩み始めたムーアの代表作と共に、そのキャリアを振り返ります。

「セント・エルモス・ファイヤー」(1985年)

1981年に「恋人たちの選択」でスクリーンデビューしたムーアは、奔放な銀行員役を演じたロマンティックコメディー「セント・エルモス・ファイヤー」でブレーク。批評家からは否定的な評価を受けたものの興行的には成功を収め、ムーアにとってまさにポップコーン女優の原点となった作品として知られています。

「ゴースト/ニューヨークの幻」(1990年)

ムーアの名が一躍世界に知れ渡るきっかけとなったのは、愛する人が死後に幽霊として目の前に現れる恋愛やファンタジー、ホラー/スリラーを組み合わせた大ヒット作「ゴースト/ニューヨークの幻」。作品はアカデミー賞作品賞にノミネートされ、共演したウーピー・ゴールドバーグは助演女優賞を受賞しましたが、主演のムーアがノミネートされることはありませんでした。相手役を演じたパトリック・スウェイジと共に陶芸のろくろを回すシーンは、今も語り継がれるロマンチックな名シーンとして多くの人の記憶に残っています。

「素顔のままで」(1996年)

元FBIのストリッパーという役を演じ、当時の女優として史上最高となる1250万ドルのギャラを手にした「素顔のままで」も大きな話題を呼びました。大胆なヌードを披露したムーアに対し、世間は「Gimme More(Give me more=もっとくれ)」という意地悪なあだ名で呼んだほど、批評家のみならず観客からも酷評されました。

「G.I.ジェーン」(1997年)

ストリッパー役から一転、頭を丸刈りにして女性初の海軍特殊部隊(SEAL)隊員役に挑戦したのが、リドリー・スコット監督の「G.I.ジェーン」。ハードなトレーニングで肉体的にも精神的にも自身を追い込み、体当たりの演技を披露するも、それが評価されることはありませんでした。

「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」(2003年)

ドリュー・バリモア、キャメロン・ディアス、ルーシー・リューの3人が美人探偵エンジェルを演じた映画「チャーリーズ・エンジェル」(2000年)の続編で、悪役を演じて久々に表舞台に復帰。劇中で若い女優たちに混ざってビキニ姿を披露して注目を集めましたが、役作りのために大金を投じて全身整形したとのうわさが浮上。最低映画や俳優を決めるラジー賞ことゴールデン・ラズベリー賞で最低助演女優賞に選ばれるなど、またしても世間から酷評されることに。

デミ・ムーア(2008年撮影)
デミ・ムーア(2008年撮影)

「サブスタンス」(2024年)

2000年代に入ってからはロバート・F・ケネディ上院議員が1968年に暗殺された日にホテルに居合わせた人々を描いた群像劇「ボビー」(2006年)など話題作に出演するも、脇役やテレビドラマ出演が続いていたムーアにとってキャリアの転換となったのが「サブスタンス」でした。若い頃には多くのヒット作に出演して大金を稼ぎながら演技を評価されることはなかったムーアが、容姿の衰えや年齢を理由に仕事が激変する元スター女優が禁断の再生医療に手を出すという、老いをテーマにしたホラーに挑戦。心身ともに自らをさらけ出し、自身のイメージをパロディーにしたともいえる大胆な役柄に挑み、62歳にして初めて演技派の称号を手に入れました。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)