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アニメ業界の未来はどうなる?ヒット作の秘密&制作のリアルをプロデューサーに聞いてみた

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アニメのヒットには「推し活」が大きく関わっている!?SNSの拡散や配信サービスの普及で、アニメ業界のビジネスモデルは大きく変化しています。かつてはDVDやBlu-rayの売上が成功の指標でしたが、今では「推しキャラ」のグッズやイベントが業界を支える時代に。本記事では人気アニメを歴任してきたプロデューサー・中山浩太郎さんがアニメ制作の裏側、ヒットの法則、アニメ業界の未来についてお話を伺いました。あなたの“推し”が輝くアニメは、どうやって生まれるのか、ぜひチェックしてください!

お話を聞いた人:中山浩太郎さん

サンライズ(現・株式会社バンダイナムコフィルムワークス)でアニメ企画制作に携わり、その後独立。『交響詩篇エウレカセブン』『FAIRY TAIL』『少年アシベ GO! GO! ゴマちゃん』『SHAMAN KING』などのプロデューサーとして活躍。大正大学表現学部メディア表現学科/表現文化学科教授としても教鞭をとっている。

HP:大正大学HP

中山浩太郎先生(取材はオンラインで実施しました)

アニメーションプロデューサーの仕事とは?

ーー アニメーションプロデューサーとして活躍しながら、大学でアニメーションについて教えていらっしゃる中山先生ですが、現在のご担当について教えてください。

中山先生:現在は『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』(テレビ東京系列で毎週日曜日放送中)のアニメーションプロデューサーを務めています。アニメーションの制作を統括する役割ですね。ただ、アニメ業界には「プロデューサー」と呼ばれる職種がたくさんあるんですよ。

ーー 具体的には、どういった種類のプロデューサーがいるのでしょうか?

中山先生:例えば、制作委員会を立ち上げたり、お金の流れを管理したりする「プロデューサー」の他、宣伝活動を行う「宣伝プロデューサー」などがいます。私が担当しているのは、現場でアニメを形にするためのプロデュース業務です。「アニメーションプロデューサー」と呼ばれることもあれば、「ラインプロデューサー」や「制作プロデューサー」と呼ばれることもありますね。

プロデューサーの仕事全般を簡単に言ってしまうと、「人集め、金集め、出口探し」です。まず、スポンサーを集めて制作資金を確保する。次に、その資金をもとにアニメを作るスタッフを集める。そして、完成した作品をテレビ放送や映画館で上映するなどして世に出す。この3つがプロデューサーの基本的な役割ですね。

アニメは総合芸術ですが、限られた時間と予算の中で最高のものを作らなくてはならない。クリエイターが安心して作品作りに集中できるように、スケジュール管理や資金の調整などを行うのが私たちの仕事です。

ーー そんな忙しいお仕事をしながら、大正大学で教鞭をとられているとか。

中山先生:はい。大学では、アニメーションの歴史や商業アニメの制作手順、ビジネスの構造などを講義しています。ワークショップ形式で学生にアニメ制作をしてもらうこともありますね。アニメーションは創作活動であると同時に、ビジネスとしても成り立たせなければなりません。そのため、業界の仕組みや制作フローを知ることは、将来のアニメクリエイターにとって重要なんですよ。

アニメーションができるまでーー制作の流れとその舞台裏

ーー ここからはアニメの制作の全貌を伺いたく。まずアニメーションができるまでの工程を教えてください。

中山先生:アニメ制作の流れは大きく分けるとプリプロダクション(企画・準備)、プロダクション(制作)、ポストプロダクション(仕上げ・編集)の3つですね。まず、企画が通ったらシナリオを作ります。ここまでは映画と似ているんですけど、アニメならではの工程である絵コンテ制作が入ります。

1.絵コンテ

中山先生:絵コンテというのは、シーンの構図やキャラクターの動き、カメラワークを詳細に決めるもの。映画なら、カメラを動かしながら構図を調整できますが、アニメは手描きなので、最初にしっかり計画しておかないと後で変更が難しいんです。

2.作画作業(レイアウト・原画・動画制作)

中山先生:絵コンテが完成したら、いよいよ作画作業に入ります。まずレイアウトを作り、キャラクターの位置や背景を決めて、どんな構図にするか整理するんですね。その後、動きの要所を描く原画(キーアニメーション)を作ります。例えば、キャラクターがコップを持ち上げる動きなら、“持ち上げる前”と“持ち上げた後”の姿勢を原画として描くんです。

ーー その間の動きは?

中山先生:そこを補完するのが動画(中割り)です。原画の間をスムーズにつなぐように作画して、キャラクターの動きを自然に見せる作業ですね。これらを担当するのがアニメーターと呼ばれる職種になります。

3.背景&彩色

中山先生:作画作業が終わると、背景や彩色の工程に移ります。背景は主に背景美術チームが描きます。昔は手描きでしたが、今はデジタル技術を使うことがほとんどですね。一方、キャラクターは彩色の工程に入ります。こちらも昔はセル画に手作業で色を塗っていましたが、今はパソコンで色を付けています���。

4.撮影

中山先生:そして、映像を完成させるためのコンポジット(撮影)の工程に入ります。キャラクターと背景を合成したり、エフェクトや光の処理を加えたりします。最近のアニメは、撮影の段階でかなり演出が加えられることが多いですね。

5.音入れ

中山先生:最後に音を入れる作業へ進みます。ここでアフレコ(音声収録)で声優さんのセリフを録音して、BGMや効果音を入れ、最終的に音をミックスするダビング作業を行い、最後にビデオ編集という作業で、映像と音を合わせて、納品用のデータを作成します。

アニメ1話あたりの制作期間は?

ーー 多くの工程と手間をかけて制作されているんですね。テレビアニメの1話分を作るのに、どれくらいの時間がかかるんですか?

中山先生:30分アニメ1話につき、100~200人が関わって、制作期間は3~4ヶ月くらいですね。ただし、設定やデザインの準備はもっと前から進めないと間に合いません。

プリプロダクションでしっかり世界観や設定を固めるのは重要なんですが、時間をかけすぎると、肝心の制作期間が圧迫されてしまう。一方で、ポストプロダクションの撮影やエフェクト処理は、作品のクオリティを大きく左右するので、どこに時間をかけるかのバランスが重要です。

ヒットするアニメの共通点とは?

ーー 近年、多くのアニメ作品が制作されていますが、特にヒットする作品にはどんな共通点があるのでしょうか?

中山先生:いくつか要因はありますが、まず“現場の熱量”がフィルムに伝わっていることが大きいですね。例えば、新海誠監督の作品や、『鬼滅の刃』のような大ヒット作は、画作りに対するこだわりが尋常じゃない。ものすごい熱量と努力が詰め込まれていて、それが観る側にも伝わるんです。そういう熱意が作品の魅力につながるんだと思います。

ーー 確かに、映像のクオリティが話題になることも多いですよね。他にヒットの傾向はありますか?

中山先生:最近は、特に『ジャンプ』系の作品のヒットが目立ちますね。すでに原作が人気のある作品がアニメ化され、さらに高クオリティな映像になったとき、大ヒットにつながるケースが多いです。今の視聴者は、ある意味“失敗したくない”んじゃないかなと。評判のいい作品を選んで観る傾向が強くなっているので、もともと知名度がある作品は有利ですね。

ただ予想外のことが起こることもしばしばあります。『鬼滅の刃』なんかはまさにそうで、元々はコアな層向けのダークな作品でした。それが気付けば小学生まで炭治郎の衣装を着るような社会現象になってしまった。

こういう現象は作り手側からすると“神風”が吹いたようなものかなと思います。近年、ネットをはじめとする様々なメディアにはもっと刺激的なものが溢れています。その中で育った子供たちにとって、最近の作品に多く見られる残酷描写やダークな物語などは、もはや当たり前の領域になっているのかもしれません。

SNSと配信プラットフォームが変えたアニメの広がりと推し活文化

ーー 予想外のヒットにはSNSの影響も無視できないと思いますが、昔と比べてヒットの仕方に変化はありますか?

中山先生:大きく変わりましたね。昔はテレビの宣伝や口コミが中心でしたが、今はおっしゃる通りSNSの拡散力がヒットのカギになっています。X(Twitter)やTikTokで話題になると、それが一気に広がる。『鬼滅の刃』は、SNSでのファンの盛り上がりが人気を後押ししていた印象です。

ーー それに加えて、最近は配信プラットフォームの影響も大きいですよね?

中山先生:そうですね。昔はアニメを観るには、放送時間に合わせるか、DVDを買う必要があった。でも今は、NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信サービスで、いつでもどこでも視聴できるようになりました。これもアニメのヒットを後押ししていると思います。

ーー 配信サービスの普及によって、アニメのビジネスモデルも変わってきていますよね?

中山先生:大きく変わりましたね。昔は、おもちゃを売るためのアニメが中心でした。たとえば、スポンサーのおもちゃメーカーが『このロボットを売りたいからアニメを作ってくれ』という感じですね。その後、OVA(オリジナルビデオアニメ)やDVD販売が収益の柱になり、そこからブルーレイの時代へと移りました。でも、ここ10年でまた変化が起きています。

ーー どんな変化が起きたのでしょうか?

中山先生:今は推し活文化がアニメの収益を支えているんですよ。昔は「好きな作品だからDVDを買って手元に置いておきたい」という人が多かった。でも今は、「自分の好きなキャラクターのグッズを買いたい」という流れに変わりました。アクリルスタンドやフィギュア、缶バッジといったグッズが売れる時代になったんです。

サブスクリプション型の配信が普及したことで、アニメ業界の収益モデルが変わりました。昔はDVDやBlu-rayの売上が成功の基準だったけど、今は配信サービスで視聴者を増やしつつ、グッズやイベントで収益を上げるという形が主流になっています。

ーー 確かに、最近は推しキャラグッズを集めるファンもたくさんいますよね。

中山先生:そうなんです。ファンは「作品」ではなく、「キャラクター」にお金を使うようになりましたね。例えば、推しキャラがいるからアニメを観る、推しキャラのグッズを買う、推しの誕生日を祝う。こういう文化が今のアニメ業界のビジネスモデルを大きく変えていると思いますね。

アニメの未来ーー業界の変化と可能性

ーー 近年、アニメの作品数が増え続ける中で、人手不足の問題からクオリティを維持することが難しくなっていると言われています。今後のアニメ業界に求められるものとは何でしょうか?

中山先生:現在、日本では年間200タイトル以上のアニメが制作されていると言われていますが、明らかにアニメーターや演出家の数が増えていないのに、作品数だけが増えている。そうなると、本来ならプロのレベルに達していない人でも仕事をもらえてしまう状態になってしまうんです。結果として、質の向上が難しくなり、流れ作業のようにアニメが制作されてしまう。それが今、一番の課題ですね。

ーー それらの課題を解決するために、今後どのような技術革新が求められるのでしょうか?

中山先生:AI技術の活用が大きな鍵になると思います。例えば、アニメーションの“中割り”(動きの補間)や彩色といった作業は、ある程度AIが担うことが可能です。もしAIがこれらの細かい作業を担当すれば、アニメーターはよりクリエイティブな部分に集中できる。極端な話ですが、技術が進化すればアニメーター1人で30分の作品を作ることも可能かもしれません。

ーー AI以外にも、デジタル技術の進化によってアニメ業界が変わる可能性はありますか?

中山先生:そうですね。例えば、同人作家や個人クリエイターがアニメを作る時代が来るかもしれません。すでに『クリップスタジオ』や『アフターエフェクト』といったソフトを使えば、個人でもアニメが作れる環境が整っています。新海誠監督のように、もともと自主制作で活動していた人が成功する例もありますし、今後はこういった「個人制作」がさらに増える可能性があります。

ーー 学生の中でも、デジタルツールを使って独自のアニメを作る人が増えていると聞きました。

中山先生:そうなんです。最近の学生は、いわゆる「商業アニメ」よりもボーカロイドのMVやショートアニメを作りたいという人が多いですね。例えば、YOASOBIのMVのような映像作品や、ボカロPが作るアニメーションなど、従来のアニメとは異なる形で「アニメーション」が発展している。アニメ業界も今後はこうした細分化が進んでいくかもしれません。