IERS基準子午線
IERS基準子午線(アイイーアールエスきじゅんしごせん、IERS Reference Meridian, IRM)または国際基準子午線(こくさいきじゅんしごせん、International Reference Meridian)とは、国際地球回転・基準系事業 (IERS) が維持管理している、国際的に使用されている本初子午線(経度0度の子午線)である。
IRMは、かつての本初子午線であるグリニッジ子午線(イギリス・グリニッジのグリニッジ天文台にある、1851年にジョージ・ビドル・エアリーが設置した子午環を通過する子午線)から見て、経度にして5.3101秒、距離にして102.478メートル東を通っている.[1][2][3]。IRMは、アメリカ国防総省が運営するグローバル・ポジショニング・システム (GPS) や世界測地系1984 (WGS84) の基準子午線となっている。国際地球基準座標系 (ITRS, ITRF) は、地球の質量中心を原点とし、IRMと赤道との交点への方向をX軸、東経90度線と赤道との交点への方向をY軸、IERS基準極点(IRP: IERS reference pole。北極点)への方向をZ軸とする三次元直交座標系として定義される。
概要
[編集]IRMとグリニッジ子午線との間の約5.3秒のずれは、グリニッジ子午線がグリニッジにおける局所的な鉛直を用いた局所座標系であったために生じたものである。IRMは地心座標系であり、IRMを含む平面は地球の重力中心を通る[4]。
国際水路機関 (IHO) は1983年に全ての海図でIRMを採用した[5]。国際民間航空機関 (ICAO) は1989年3月3日に航空航法にIRMを採用した[6]。プレートテクトニクスにより、プレートは地球表面をゆっくり移動するので、プレート上の陸地のある地点の座標は年によってわずかずつ変化することになる。実際には、ほとんどの国で、その国の地図に使用する測地系として、特定の年の年初にその国の国土が載っているプレートが存在した位置に固定して、その時のIRMに基づいて測地系を定義している。例えば、北米測地系1983 (NAD83) 、欧州地球基準系1989 (ETRF89) 、オーストラリア地心測地系1994 (GDA94) などである。プレートに関連づけられた測地系と実際のIRMに関連づけられた測地系との差は、数センチメートル程度である。
しかし、IRMは地球上のどの地点にも固定されていない。その代わりに、ヨーロッパの全ての地域(グリニッジ天文台も含まれる)が載っているユーラシアプレートは、IRMと比較して北東方向に年間約2.5cm移動している。IRMは、IERSネットワークに関与している何百もの地上局の基準子午線の最小二乗法による加重平均によって決定される。ネットワークには、GPS局、衛星レーザ測距 (SLR) 局、月レーザー測距 (LLR) 局、および高精度の超長基線電波干渉法 (VLBI) 局が含まれる[7]。全ての地上局の座標は、毎年、主要なプレートと比較して平均回転 (net rotation) を取り除くように調整される。仮に地球上のプレートが2つの半球状のものだけで、互いに���対的にそれらの中心または交点を横切る軸を中心として移動している場合、地球上の全く反対側の2点の(回転の中心でない方を軸とした)経度は、同じ量だけ反対の方向に動くことになる。
180度経線はIERS基準子午線の反対側にあり、180度経線とIERS基準子午線によって作られる大円によって地球は西半球と東半球に分けられる。
世界時 (UT) は、WGS84子午線に基づいている。地球の回転率の変化のため、標準的な国際時間協定世界時 (UTC) は、本初子午線における平均太陽時と最大0.9秒異なる場合がある。地球から見た太陽の相対位置とUTCを近い値に保つために、閏秒が挿入される。
IRMが通過する場所
[編集]IERS基準子午線は、北極点から南極点までに8つの国を通過する。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ History of the Prime Meridian – Past and Present
- ^ IRM on grounds of Royal Observatory from Google Earth Accessed 30 March 2012
- ^ グリニッジ天文台の天文緯度は北緯51度28分38秒、欧州地球基準系1989 (ETRF89) による緯度は北緯51度28分40.1247秒である。
- ^ Malys, Stephen; Seago, John H.; Palvis, Nikolaos K.; Seidelmann, P. Kenneth; Kaplan, George H. (1 August 2015). “Why the Greenwich meridian moved”. Journal of Geodesy. doi:10.1007/s00190-015-0844-6 .
- ^ A manual on the technical aspects of the United Nations Convention on the Law of the Sea – 1982 (PDF, 4.89 MB) Section 2.4.4.
- ^ WGS 84 Implementation Manual page i, 1998
- ^ IERS Conventions (2003): Conventional Terrestrial Reference System and Frame (PDF, 419 KB)