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近世朝鮮語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
近世朝鮮語
근대 국어
近代 國語
粛宗の手紙
粛宗の手紙
粛宗の御書
使われる国 朝鮮大韓帝国
地域 朝鮮半島
消滅時期 19世紀
言語系統
表記体系 訓民正音(→ハングル)・漢字
参考言語による分類 中期朝鮮語
公的地位
公用語 朝鮮大韓帝国
言語コード
ISO 639-3
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近世朝鮮語(きんせいちょうせんご)あるいは近代朝鮮語(きんだいちょうせんご)とは、17世紀以降の朝鮮語を指す。河野六郎の定義によれば、近世朝鮮語は文禄の役(1592年)以降、現代に至るまでの朝鮮語を指すが、20世紀以降の言語を「現代朝鮮語」と呼ぶ場合が多い。

韓国では通常「近代国語」と「現代国語」を区分する。「近代国語」は壬辰倭乱(文禄の役;1592年)から開化期(19世紀末)までの朝鮮語を指す。近年では近世朝鮮語研究の深化に伴い、18世紀中葉を境にして「前期近代国語」と「後期近代国語」に分ける傾向にある。

本項目では、近世朝鮮語のうち現代の言語を除いた17世紀~19世紀の言語の特徴について概観する。なお、本文中の朝鮮語のローマ字表記法は、福井玲方式の翻字である。現代朝鮮語に用いられないハングルのローマ字への翻字に関しては、「中期朝鮮語」の項を参照。

音韻

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子音

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16世紀までその痕跡を保っていた語中の有声音 [β] [z] [ɦ] は17世紀には見られない。[w] に変化し、 は音価を失った。中期朝鮮語において ㄹㅇ [lɦ] という音連続であったものは、近世朝鮮語に入り ㄹㄹ [ll] に変化した。

  • 놀애놀래 (歌;現代語「노래」)

初声の合用並書は17世紀初めに混乱が見られ、このころに初声の位���における複子音が消滅し濃音へ移行したものと見られる(後述「表記法」参照)。

近世朝鮮語期に特徴的な音変化として、口蓋音化がある。舌音 など)・牙音 など)の直後に母音 /i/ および半母音 /j/ が来ると、 などの歯茎硬口蓋音になる現象が17世紀後半より見られ、18世紀に一般化する。

  • 디새지새 (瓦;現代語「기와」)

近世朝鮮語においては、歯音の口蓋音化も起こる。歯音 など)は、中期朝鮮語においては非口蓋音 [s][ts][tsʰ] などであったが、これらの音は18世紀に母音 /i/ および半母音 /j/ の直前で口蓋音化して [ɕ][tɕ][tɕʰ] などとなり、19世紀に入って他の母音の直前においても口蓋音化する。

語頭において母音 /i/ および半母音 /j/ に先んじる が脱落する現象(頭音法則)は、18世紀後半から見られる。

母音

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母音 (アレア)は16世紀に第2音節以降において音価を失ったが、第1音節の は17世紀に入って音価を失い始め、18世紀後半に変化が完了したと見られる。

といった母音は中期朝鮮語では二重母音 [ai][əi] と発音されたが、これらの二重母音は18世紀末から19世紀初にかけて現代朝鮮語のように単母音化する。

表記法

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近世朝鮮語の表記法は、中期朝鮮語期から続く表音主義的な表記法を踏襲している。ただし、成文化された正書法があったわけではないので、表記の方法は慣習的なものであった。それゆえに統一性に欠け、また多様な表記がありえた。

激音・濃音の表記

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激音の表記に「」のように激音字母の左に「」を添える表記例が見られる(skoh@ro「鼻で」など)。

濃音の表記は非常に混乱した。「」のように平音字母の左に「」を添える表記法(系合用並書)と、「」のように「」を添える表記法(系合用並書)が一般的であるが、それ以外にも現代の表記法と同様の「」(各自並書)も見られる。また、中期朝鮮語において複子音を表記した3字の合用「」も近世朝鮮語で見られるが、これらは表記通りに発音したのではなく、単に濃音 //,// を表したものと推測される。「」という表記は懐古主義的な表記法と言えよう。// 音の表記に至っては「」や「」といった特異な表記も見られる。

語幹と語尾の境界の表記

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語幹と語尾の境界における表記法は、中期朝鮮語期にあっては「모미(体が)」のように語幹と語尾を区分せず発音通りにつづる表記法(連綴)がほとんどであった。しかし、近世朝鮮語期には連綴のほかに「몸이(体が)」のように語幹と語尾を区分する表記法(分綴)や、「깁퍼(深く)」のように終声と初声を二重につづる表記法(重綴)といった多様な方法で語幹と語尾の境界が表示された。

文法

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曲用

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体言語幹の交替

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中期朝鮮語において、語末に を持っていた体言(いわゆる曲用体言)は、近世朝鮮語の前期までその語形を維持していたが、後期になって現代語のように末音の が脱落した。語末の の一部は現代語において [ŋ] で現れる場合がある。

  • ᄯᅡᇂ(sdah) > (ttang)(地)
  • 집웋(jibuh) > 지붕(jibung)(屋根)

曲用語尾

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近世朝鮮語の格語尾の主な特徴は以下の通りである。

  1. 主格語尾 - が出現する。- は17世紀に用例が見え始めるが、当初は母音 /i/ で終わる体言(/ai/ などの二重母音も含む)の後に現れた。
    • b@iga(船が)
  2. 属格語尾のうち中期朝鮮語に特徴的だった - は、近世朝鮮語期に入り属格としての具体的な機能を失い、現代朝鮮語と同様に合成名詞を形作る「間のs(사이시옷)」として定着する。
  3. 処格に関しては、中期朝鮮語において分布がはっきりと分かれていた -/- と -@i/-yi が近世朝鮮語に至って混同されるようになる。また、母音調和による区分も混乱が次第に見られ、19世紀には処格が - にほぼ統合される。
  4. 中期朝鮮語では与格に多様な異形態が存在したが、近世朝鮮語では非尊敬形 -@igei/-yigei、尊敬形 -sgyi に統合されてゆく。
  5. 中期朝鮮語の呼格のうち尊敬形 - は近世朝鮮語において消滅し、 -/- のみが残った。

活用

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用言活用の交替

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近世朝鮮語において [β] [z] が朝鮮語の音韻から消滅したため、中期朝鮮語において語幹末に終声 を有していた用言は // 音が /w/ に変化し、終声 を有していた用言は // が完全に脱落した。このようにして、現代朝鮮語に見られる変格用言、変格用言が近世朝鮮語期に形成された。

中期朝鮮語に存在したいわゆる「意図法」 --/-- は近世朝鮮語において消滅する。

敬語

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用言の活用においては、尊待法・待遇法といった敬語表現に顕著な変化が見られる。尊待法のうち、尊敬接尾辞 -- はそのまま維持されたが、謙譲接尾辞は後ろに付く語尾類と融合して1つの語尾と化し謙譲の意味を失い、全体で丁寧の意味を担うようになった。中期朝鮮語における丁寧の接尾辞 -qi- も、他の語尾類と融合し固有の形と意味を失った。

  • -s@bn@qida(謙譲+現在+丁寧+語尾) > -s@bn@ida > -s@bnyida > -sybnida(-습니다

時制・相

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現在接尾辞 -n@- が終止形語尾 - の直前において、母音が脱落して -- と現れる。現代語の現在終止形 -ㄴ다 はここに遡る。

現代語の過去接尾辞 -았-/-었-中期朝鮮語-아잇-/-어잇--앳-/-엣--앗-/-엇- に遡るが、中期朝鮮語では完了の意味として用いられていたこれらの形は、近世朝鮮語では過去を表す形として用いられるようになった。

時相接尾辞のうち -- と -- は、中期朝鮮語においては尊敬接尾辞 -- の直前に来るのが一般的であったが、近世朝鮮語においては -- の直後に来て -시거-、-시더- という順序になる。この順序は現代朝鮮語も同様である。

意志・推量

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意志・推量を表す -겠- は近世朝鮮語期に形成されたが、その起源についてはいまだ明らかではない。これまでは接続形 - あるいは時相接尾辞 -- に存在詞 잇-(ある)が付いたとする説が有力であったが、文献資料による裏づけが十分でない。近年では、- に動詞 h@-(する)の過去形 h@’ias- が付き、それが -게얏- と縮約されて形成されたとする説も唱えられている。

動名詞形

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近世朝鮮語の動名詞形(体言形)は現代朝鮮語と同じく - である。中期朝鮮語に存在した -/- は近世朝鮮語期に入り失われた。その一方で、中期朝鮮語では稀であった - が、近世朝鮮語になってから多く見られるようになる。

関連項目

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参考文献

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  • 이광호(2004)“근대국어문법론”,태학사
  • 李基文(1998)“新訂版 國語史概説���,태학사
  • 홍윤표(1994)“근대국어연구(I)”,태학사