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組織開発

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

組織開発(そしきかいはつ、英:Organization Development 略称OD)とは、組織の効果性と健全性を高めることを目指した計画的で長期的な変革の実践であり、組織文化や、やる気・満足度・コミュニケーション・人間関係・協働性・リーダーシップ規範などのヒューマンプロセスに働きかけるための理論や手法の一群である[1]

1950年代にアメリカで生まれ、日本には1960年代に導入されたが、なかなか全体像が理解されなかったため広く浸透せず、個々のテクニックがバラバラに紹介・導入されていた[2][1]。組織に焦点をあてて行われるリストラ対して、組織開発は人に焦点をあてたものだが、実際には同時に行なわざるを得ない面がある[3]

概要

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クルト・レヴィンロバート・F・ベールズ英語版らの系譜のTグループ系のリーダーシップ開発の手法と、レンシス・リッカートに始まる、現場の客観的(であることを目指した)調査とサーベイ・フィードバックドイツ語版の2つが主な源流であり、他の組織開発に役立ちそうな様々なテクニックなどが雑然とまとめられ、「組織開発」というくくりで扱われている。[4][5]

ジョン・デューイなどによる哲学的な基盤があり、集団精神療法の影響を受け、その上に具体的な個々のテクニックの研究があって構成されている。基盤になる哲学部分から「見えないものを見る、今ここを問う、そして振り返る」というテーマが生じており、集団精神療法から集団力学という観点が持ち込まれている。[4]

自己啓発セミナーと同じく、集団精神療法Tグループ英語版感受性訓練とおおよそ同一視される)をルーツとし、Tグループのトレーナー達が集団への働きかけの理論やスキルを、企業のミーティングにおけるチーム・ビルディングに応用したことから始まった[1][4]。Tグループは組織化され、1947年にナショナル・トレーニング・ラボラトリー英語版(National Training Laboratories、NTL Institute)という組織が作られ、企業向けの人材開発として普及した[4]。ナショナル・トレーニング・ラボラトリーのメンバー達は組織開発を発展させたパイオニアであったが、彼らはTグループのトレーナーであり、かつ、集団力学または組織論の研究者だった[5]エドガー・シャイン、組織開発の豊富な実践を行ったリチャード・ベックハード英語版X理論とY理論ダグラス・マクレガー、組織学習論のクリス・アージリス英語版マネジリアル・グリッド英語版を開発したロバート・ブレーク英語版ジェーン・ムートン英語版ワーナー・バークなどがいた[5][1]

集団力学の研究から、グループで何が起こっているかを客観的に見える化し、本人たちに返すという研究が行われた[4]。組織開発の源流のひとつとして、ミシガン大学レンシス・リッカートによって始まった、従業員の仕事のモチベーションやお互いの関係性、コミュニケーション、風土や組織文化など組織・部署で起こっているプロセスを調査し、その分析結果を回答者にフィードバックして、それをきっかけに話し合い解決策を探るというサーベイ・フィードバックの流れがある[5]。これは組織開発の基本的な進め方の基礎となっている[5]

組織開発の手法として、コーチングファシリテーションチーム・ビルディング英語版プロセス・コンサルテーション英語版フューチャーサーチ[6]ワールドカフェアプリシエイティブ・インクワイアリー英語版などがある[1]

「人を変える」「人が変わる」ことを扱うため、害悪を生じかねない危うさがあり、「ファシリテーター(トレーナー)の暴走」と「組織開発の質の保証」の問題が初期から存在した[4]

日本では1960-70年代に組織開発がブームになり、企業戦士を生み出すために感受性訓練(ST)が流行したが、STを理解していなかったり倫理観に問題のある低品質なトレーナー、ファシリテーターもおり、参加者を大勢の前でつるし上げたり、講師が参加者に自己開示が足りないと言って暴力を振るうなど問題が多発し、参加者に精神障害が起きたり、大怪我を負ったり、セミナー中に自殺者が出るなど刑事事件にも発展した。企業向けの低品質な研修は犠牲者が現れてからも下火になることなく、企業は研修を求め続け、時代が変わり企業戦士・モーレツ社員が必要とされなくなるまで続いた[7][8]。企業のニーズが衰えると、個人向けの自己啓発セミナーが入れ替わるように流行した[7]。低品質なSTと組織開発は混同されるようになり、日本で組織開発は低迷し、それまで注目していた人々も「なかったこと」として扱うようになり、研究もあまり行われなくなった。[4]

日本では、バブル崩壊後、戦略や成果主義の導入、リストラの断行、組織の改組といったハード面の改革がさまざまに行われたが、望ましい成果は得られなかったため、日本企業は人間や人間関係といったソフト面に注目し、リーダーを対象としたコーチング研修やファシリテーション研修を導入した。これも大きな変化を起こすことはできず、新たな方法として組織開発が注目されるようになった[2]。しかし、2013年のゼリア新薬工業ノジマの子会社ビジネスグランドワークスに委託して行った新人研修後に新入社員が自殺し、労働基準監督署が研修内容に「ひどいいやがらせ、いじめに該当する」ものがあると判断し労災認定するなど、依然として組織開発には問題も見られる[9][10][11]

フィクション

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  • 宮部みゆきペテロの葬列』:現代日本が舞台のミステリ小説。企業向けSTのトレーナーという過去を持つ男が、バスジャック事件を起こすところから物語が始まる。作中でトレーナーについて「人を見る目じゃない。ものを見る目だ」「考えてみればそれは当然なんだ。人は教育できる。だが連中が目指すのは教育じゃない。<改造>だ。人は改造などできない。改造できるのは<もの>だよ」と語られている。

脚注

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  1. ^ a b c d e 第7回組織開発ラボラトリー 南山大学 人間関係研究センター
  2. ^ a b 組織に関する問題を「人」「関係性」に働きかけることで解決 いま日本企業に必要な“組織開発”の理論と手法とは 中村和彦さんインタビュー(前編) 2015年9月4日 株式会社アイキュー
  3. ^ 組織開発 事例レポート 産労総合研究所。
  4. ^ a b c d e f g 中原淳・中村和彦 南山大学 人間関係研究センター 公開講演会「組織開発」再考 理論的系譜と実践現場のリアルから考える 人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要)2016, 211‑273.
  5. ^ a b c d e 中村和彦 組織開発の特徴とその必要性 欧米組織開発調査団 公益財団法人関西生産性本部
  6. ^ フューチャーサーチ DeCoCiS でこなび - 参加型手法と実践事例のデータベース 大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)
  7. ^ a b 心を操る男たち 【アルカリ】0255号 99/06/24(木)
  8. ^ 坂口孝則 デキない人を狙う自己啓発セミナーの正体 東洋経済 2016年04月05日
  9. ^ ゼリア新薬 自殺新入社員、労災認定 遺族が会社を提訴 毎日新聞 2017年8月9日
  10. ^ 渡辺一樹 ゼリア新薬の22歳男性「ある種異様な」新人研修受け自殺 両親が提訴 BuzzFeed Japan 2017年08月8日
  11. ^ ビジネスグランドワークス、大きな返事で職場に活 行動力を引き出す秘訣 日経Bizアカデミー 2015年7月22日

関連項目

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外部リンク

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