建甌語
建甌語 | |
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Gṳ̿ing-é-dī / 建甌事 | |
発音 | IPA: [kuiŋ˧˧ ɪ˥˦ ti˦˦] |
話される国 | 中国 |
地域 | 福建省南平市建甌市 |
話者数 | 200万(1992年) |
言語系統 | |
表記体系 |
漢字(方言字) 建州ローマ字 |
言語コード | |
ISO 639-3 | — |
建甌語(けんおうご、閩北語の発音: [kuiŋ33 ɪ54 ti44]、ローマ字: Gṳ̿ing-é-dī、漢字:建甌事)は、閩北語東片の代表的な方言である。通用地域は福建省南平の建甌市一帯。閩北語の標準発音とされている。建甌語の標準的な発音は一般的には建甌(芝城)の城関話とされ、建甌全域で通じる。建甌語の下には建安話と甌寧話の二つの方言がある[1]。
発音
[編集]『建州八音』(1795年編纂)の記載によれば、建甌語の声母は15個、韻母は34個、声調は7つである。 ただし、福建の学者による1984年の調査によれば、今日残っている声調は6つのみである[2]。
声母
[編集]左側には国際音標記号(IPA)。例字に続き、かっこ内は建寧ローマ字の書法である。
唇音 | 歯茎音 | 軟口蓋音 | 声門音 | ||
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鼻音 | m 問埋 (m) | n 日乃 (n) | ŋ 語艾 (ng) | ||
破裂音 | 無声無気音 | p 邊拜 (b) | t 直蹄 (d) | k 求介 (g) | ʔ 鶯埃 (不標) |
無声有気音 | pʰ 坡派 (p) | tʰ 他替 (t) | kʰ 氣概 (k) | ||
摩擦音 | s 時細 (s) | x 非瞎 (h) | |||
破擦音 | 無声無気音 | ts 曾在 (c) | |||
無声有気音 | tsʰ 出差 (ch) | ||||
接近音 | l 柳來 (l) |
韻母
[編集]左側には国際音標記号(IPA)。例字に続き、かっこ内は建寧ローマ字の書法である。
開韻尾 | 母音韻尾 | 鼻音韻尾 | ||||||||||||||
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開口呼 | a 鴉茶 (a) | ɪ 歐茅 (e) | ɛ 壓臍 (a̤) | œ 而兒 (e̤) | ʊ 禾梅 (o) | ɔ 荷峨 (o̤) | [ai] 矮犁 (ai) | [au] 襖柴 (au) | [aŋ] 含南 (ang) | [aiŋ] 恩田 (aing) | [eiŋ] 音人 (eng) | [œyŋ] 云種 (e̤ng) | [ɔŋ] 溫囥 (o̤ng) | |||
斉歯呼 | i 衣時 (i) | [ia] 野舍 (ia) | [iɛ] 熱㓟 (ie) | [iɔ] 約茄 (io̤) | [iau] 腰橋 (iau) | [iu] 優油 (iu) | [iŋ] 煙年 (ing) | [iaŋ] 營正 (iang) | [ieiŋ] 延 | [iɔŋ] 央陽 (iong / io̤ng) | ||||||
合口呼 | u 烏吳 (u) | [ua] 窩過 (ua) | [uɛ] 哀麻 (uoi) | [uai] 歪發 (uai) | [uiŋ] 安蟠 (uing) | [uaŋ] 汪黃 (uang) | [uaiŋ] 凡販 (uaing) | [uɔŋ] 文放 (uo̤ng) | ||||||||
撮口呼 | y 威魚 (ṳ) | [yɛ] 銳蛇 (ṳe) | [yiŋ] 彎園 (ṳing) |
声調
[編集]清代中頃の建甌語には7つの声調があったが、今日残るのは6つのみである。百数十年の変化を経て、今日の建甌語では、陽平調が陰去調に合流しており,平声から陰・陽の区分がなくなっている。
以下が6つの声調である。例字の出典は『建州八音』(1795年編纂)。
《建甌県志》の声調番号 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
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声調名 | 平声(陰平) | 上声 | 陰去 | 陽去 | 陰入 | 陽入 |
調値 | [˥˦] (54) | [˨˩] (21) | [˧˧] (33) | [˦˦] (44) | [˨˦] (24) | [˦˨] (42) |
『建州八音』の表記 | 五環 | 三環 | 二環 | 八環 | 四環 | 七環 |
建寧ローマ字の声調記号 | ˊ (á) | ˇ (ǎ) | ̿ (a̿) ˆ (â)(陽平) |
- (ā) | ̆ (ă) | ˋ (à) |
例字 | 芝依居 | 指椅舉 | 志意貴 | 字易脆 | 即益菊 | 集實巨 |
この表では『建甌県志』の声調番号を採用した。『福建省志・方言志』での対応する声調番号は次の通り。1、3、5、6、7、8。
建甌語には明確な連続変調や軽声は存在しない。
上声(声調番号:2)の文字が二つ連続するときに、前の字が陰去調(3)に変わることがある。例えば、「老虎」は「[lau˨˩]+[k'u˨˩]」だが、「[lau˧˧k'u˨˩]」とすることも可能である。ただし、普遍的なルールはなく、原調(本来の声調)での発音も可能である。
名詞語尾の「仔」([tsiɛ˨˩])は必ず軽声で発音されるが、この文字の原調である上声(2)の調値とは明瞭な差異はない[3]。
文白異読
[編集]その他の閩語方言と同様に、建甌語にも文白異読現象は豊富に存在する。
近年は、現地の政府が普通話(標準中国語)政策を強力に進めており、建甌語は普通話と南平官話の影響を強く受けてきた。数多くの字詞の「老派文読」(古い時代の文読)が「新派文読」(新しい時代の文読)に取って代わられている。
建甌語の文白異読は以下のように分類できる。
- 声母の異読:「雷」の字は文読で/lo˧˧/、白読で/so˧˧/。苗字に使うときは文読。「響雷」では「雷」は白読。
- 韻母の異読:「西」の字は文読で/si˥˦/、白読で/sai˥˦/。「西瓜」では文読。「東西」では白読。
- 声調の異読:「稻」の字は文読で/tʰau˦˦/、白読で/tsau˨˩/。「水稻」では文読。「截稻」では白読。
- 声母・声調とも異読:「高」の字は文読では/kau˥˦/、白読では/au˨˩/。苗字に使うときは文読。形容詞を作るときは白読。
- 韻母・声調とも異読:「臍」の字は文読で/tsi˨˩/、白読で/tsʰɛ˧˧/。「臍帯」では「臍」は文読。「腹臍」では白読。
- 声母・韻母・声調の全て異読:「婦」の字は文読で/xu˦˦/、白読で/py˦˨/。「婦女」の「婦」は文読。「新婦」の「婦」は白読。
文字
[編集]1795年(清の乾隆60年)、福清の人、林端材が閩東語福州話の音韻書『戚林八音』にならって音韻書『建州八音字義便覧』(略称『建州八音』)を編纂し、建寧府で刊行した。これは歴史上、初の建甌語の音韻書である。
1900年、西洋の宣教師が『建州八音』を参照して建甌語表記のための「建寧府土腔羅馬字」(Gṳ̿ing-Nǎing-Hǔ Gâ̤ Tǔ-kióng Lô̤-mǎ-cī)(「建寧府口語ローマ字」)を作成した。しかし、その他の数多くの教会ローマ字と同様に、建寧ローマ字も教会の圏内を出て使用されることはなく、人々から忘れられたままになっている。
参考文献
[編集]- 『建甌方言詞典』(現代漢語方言大詞典分巻),李栄主編,李如龍、潘渭水編纂,江蘇教育出版社,1998年出版。ISBN 7-5343-3411-X
- 『建甌県志》(「第三十六篇 方言」節)
脚注
[編集]- ^ 《建甌県志》(“第三十六篇 方言”の節を参照)
- ^ 建甌県志·第三十六篇·第一節 声韻調
- ^ 《建甌方言詞典・引論》,第7頁