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動物福祉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リラックスしているブタ

動物福祉(どうぶつふくし、英語: Animal welfare)とは、一般的に、人間が動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えるなどの配慮により、動物の待遇を改善しようとする考えのことをいう。

動物福祉(アニマルウェルフェア)は、近代以降に西洋で生まれ、家畜動物を対象として大きく発展した概念である[1]

日本国内では、英語の「Animal Welfare(アニマルウェルフェア)」は「動物福祉」や「家畜福祉」と和訳されることが多いが、動物福祉という語感から介護医療など含む社会保障を連想する「福祉」だと誤解される場合もあるため、日本国内で使用するときは和訳せずに「アニマルウェルフェア」とそのまま表記されることもある[2]

概要

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産業利用される家畜動物動物園水族館などで飼育される展示動物、研究施設などで科学使用される実験動物、一般家庭で飼われる愛玩動物、さらには野生動物も含めて、多くの動物は人間の利益のために動物本来の特性や行動、寿命などが大きく規制されていることが多い。こうした利用を認めつつも、それら現場で動物の感じる苦痛の回避・除去などに極力配慮しようとする考えが動物福祉である[3][4]

動物の権利と異なり、動物福祉は人間が動物を利用することや殺すことを否定していない[3]。しかしながら一方で、動物福祉の意識の高まりから肉食を削減する動きも広まっている。韓国では2024年1月9日、犬食を禁止する法案を可決した[5][6][7]

やむを得ず動物を殺さなければならない場合は、可能な限り苦痛のない手法を用いること(安楽死)が求められる[3]。具体的な方法には、家畜銃斬首感電死マイクロ波照射、捕殺罠などがあるがいずれの方法においても即死させることが求められる[8]。アメリカでは中規模から大規模な屠殺場の大半は、アニマルウェルフェアの監査を受けている[9]。2022年スペインは、すべての屠殺場に、動物の扱いを監視するためのビデオカメラの設置を法制化した。EU加盟国では初となる[10]

歴史

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動物福祉(アニマルウェルフェア)は、家畜動物を対象として大きく発展した概念である。

20世紀後半まで動物福祉は普及していなかったが[11]、1964年に工場型の集約畜産の批判本「アニマルマシーン」(ルース・ハリソン英語版著)が発表されたことから大きく発展することとなった[12]。「アニマルマシ―ン」により、家畜の扱いに社会の関心が集まり、イギリスにおいて専門委員会が立ち上げられ家畜の調査・検討が行われた。その結果、集約畜産に虐待の可能性がはらんでいることが、調査報告書(1965年)で指摘された。この時の調査報告書(ブランベル・レポ―ト)が、その後のアニマルウェルフェアの礎となり、ヨーロッパ全体に広がり、「農用動物の保護に関する協約(1976年)」「と畜場での家畜の保護に関する協約(1979年)」などの成立につながった。続いて1979年、イギリス政府によって設立された独立機関である家畜福祉委員会(farm animal welfare council:FAWC)が実例の項に詳述する「5つの自由」を提案し[13]、その後、この基本原則が世界の共通認識となり、2002年の国際獣疫事務局 (OIE:改称WOAH) 総会においてアニマルウェルフェアに関する専門家会合が開かれ「アニマルウェルフェアは動物の健康と密接な関係にあり、その検討の場としてOIEが最適である」と提案され、その基準の検討が行われることが決議された。以降、OIEは、と殺や輸送、畜種ごとのアニマルウェルフェアなど様々な基準を策定している[14][15]

2003年、動物が感覚を持っていることを認め、虐待を防ぎ苦痛を軽減し、家畜、ペット、実験動物、野生動物、展示動物などの動物の福祉に関する基準を推進するための政府間協定である世界動物福祉宣言(UDAW )が策定された。WOAH(OIE)や国連食糧農業機関(FAO)もこの宣言の支持を表明しているが、日本は支持を表明していない[16][17]

日本では、1987年に初めて佐藤衆介 農学博士が畜産動物福祉を紹介した[14]

FAOは2014年、「農業における責任ある投資と、食品システムのための原則」の中で、投資において動物福祉を考慮することを記載[18]。以来、近年では、動物福祉は企業のデューデリジェンスの一つといわれ[19]、動物福祉を評価の一つとするESG投資が広まり[20]、投資機関にとって、投資リスクとも考えられるようになっている[21]EUは2024年、「企業の持続可能性デュー・ディリジェンスに関する欧州議会および欧州理事会指令」において、「企業は動物福祉に貢献すべき」という条文を組み込んだ[22]。2024年における米国の動物福祉関連の株主提案数は少なくとも30件にのぼっているという。米マクドナルドの2024年度総会では、家畜の鶏の福祉に関する株主提案がだされた。[23]世界銀行グループの国際金融公社(IFC)も「IFCは、動物福祉基準に関して、投資クライアントと連携している」とし、過密飼育や妊娠ストールなどが動物福祉のリスクを高めると報告する[24]。しかし2023年、IFCは4階建ての工業用養豚団地建設への融資を承認。動物福祉に対する世界銀行の取り組みと、この融資は一致しないとして環境団体らから非難を受けている[25]

近年では、アニマルウェルフェアはSDGsの指標にももなっている。企業の国連持続可能な開発目標(SDGs)推進国際NGOのWorld Benchmarking Alliance(WBA)の企業評価項目の一つには家畜福祉が含まれている[26]。日本でも2020年に制定された日本農林規格「持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉」においてアニマルウェルフェアが基準の一つになっている[27]。2021年にアメリカで行われた調査では、「持続可能な食肉に向けた課題とは何か」との質問に対して、「動物福祉」と回答した者が約44%と二番目に多く、「持続可能な畜産に向けた最も重要な取り組みとは何か」との質問に対しては、「動物福祉に係る取り組み」と回答した者が約29%と最も多かった[28]EUが、2020 年に持続可能な食料システムを目指して掲げた「Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)」では 2023 年までに家畜福祉関連法制度を改定することが盛り込まれた[29]

2022年3月2日、国連環境計画が主催する国連環境総会(UNEA)における「持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための自然のための行動の強化」をテーマにした第5回国連環境会議で、「動物福祉–環境–持続可能な開発ネクサス決議」が採択された。動物福祉が国際的な持続可能な開発ガバナンスにおいて採択されるのはこれが初となる[30][31][32][28][33]。また2022年11月3-4日に行われたOECD農業大臣会合において採択された「持続可能な農業と食料システムに向けた変革を導く解決策に関する宣言」には『動物の健康と福祉に害を及ぼすような畜産物の生産や生産方法による環境への負の影響を軽減する。』と盛り込まれた[34]。さらに2023年、OECDは「多国籍企業の責任ある事業行動に関するガイドライン」を発表。ガイドラインにおいて、人道的な家畜の取り扱いや屠殺などについて、国際獣疫事務局 (WOAH) の動物福祉基準の遵守を求めた[35]。毎年のダボス会議(世界経済フォーラム会議年次総会)ではサステナビリティの観点で世界各国の企業を評価して発表されるが、評価項目の一つに「動物福祉専門機関により「遅れている」と認識されていないか」というものがある[33]

2023年時点で、ヨーロッパを中心に、動物福祉や動物の権利を目指す世界で10の動物党が、議会での議席を獲得している[36]。家畜福祉で国際社会をリードしているEUは、2022年6月には、新しいEUの企業の持続可能性規則に、動物福祉についての報告を盛り込んだ[37][38]。また、EUにおいて農業共通政策(CAP)の直接支払いを受給するためには動物福祉基準を満たす必要がある[39]。2024年には欧州委員会に動物福祉専門の委員が加わった[40]

米国では近年アニマルウェルウェアに配慮した家畜の飼養を目指す動きが広まっており、放牧の牛肉やケージフリー飼養による卵が多く販売されている[41]

2018年韓国の京畿道は動物福祉の認証制度を導入。2018年から2022年までに296農場ほどが認定されている。京畿道同認証における施設整備に補助金制度を設けている[42][43]。2022年8月、デンマーク、フィンランド、フランス、アイルランド、ポーランド、ポルトガル、スペインは、家畜福祉を盛り込んだ2023-2027年の農業共通政策(CAP)計画を発表。いずれの国の計画においても、家畜福祉の改善に助成金を出す予定となっている[44]。同年、カナダは国内の家畜福祉を強化するために300万ドルを投資することを発表している[45]。同国家牛肉戦略の目標に基づき、カナダ牛肉業界団体は、アニマルウェルフェアを含む今後10年間の長期的な目標を示す「2030年目標」を設定している[46]。イギリスも採卵鶏の福祉向上に助成金制度を設けている。この助成金制度では、羽数の拡大への助成はできず屋外スペースの設置など採卵鶏の健康と福祉のための整備を目的とする [47][48]

定義

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動物福祉を科学的に定義するのは難しい[3]。その理由として、健康や幸福など個人の価値観によって重要性や意味がそれぞれ異なる多くの要因をともなうことがあり、したがって基準となる値を提示することが求められる[49]

基本的に動物福祉を説明するうえで以下の3つの概念が用いられる[49]

主観的経験
痛みや恐怖、欲求不満による幸福の低下を問題視する[49]。主観的な感情を経験できる生物にのみ適用される[49]
生物学的機能性
生物学的機能性が病気や怪我、栄養不良によって低減されることを重視する[49]行動学的、生理学的、病理学的指標によってはかられ、とくにストレスを指標として用いる事例が多く、脳下垂体前葉副腎皮質の賦活化、グルココルチコイド分泌の増加などで示される[49]
本来の性質
動物は本来の行動のほとんどを自然に実行できる自由を持つべきという考えに基づく[49]。この概念の欠点として、自然界の動物は常に本来の性質にとって問題を抱えて生存のために努力しているのであり、自然状態が必ずしも動物福祉を満たすとは限らないという指摘もある[49]

動物倫理の点で、動物福祉という語は場合によっては動物福祉主義という意味を含む。Saunders Comprehensive Veterinary Dictionaryでは動物福祉を「飼育環境、食餌、日常的なケア、病気の予防や治療、苦痛から解放される保証、不必要な不快感や痛みから動物を保護し、人間による虐待や動物を利己的に利用することの回避」と定義している[50]

畜産動物

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放し飼いのニワトリに日陰を与えるためのシェルター
屋内のケージフリー農場

動物福祉の考えは畜産業に多大な影響を与えており、欧米を中心に活動や研究が盛んである[51]。その内容は、閉じ込め飼育(ケージ飼育)だけでなく、屠殺においては極力苦しませないなどの取り組み、採卵鶏のオスの殺処分問題、家畜の輸送時の扱い、豚の無麻酔去勢などの家畜の体の一部の切断処置に関するものなど、多岐にわたり、改善を求める運動の結果、様々な法的・自主的な枠組みが作られている。

5つの自由

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1979年、イギリス政府によって設立された独立機関である家畜福祉委員会(farm animal welfare council:FAWC)が「5つの自由」を提案し[13][3]、その後、この基本原則が世界の家畜動物福祉の共通認識となり、国際獣疫事務局 (WOAH) の陸生動物衛生規約にも示されている[14]。日本は五つの自由を法律で明文化していないが、法律で明文化している国もある[52]

  • 飢えおよび渇きからの自由(給餌・給水の確保)
  • 不快からの自由(適切な飼育環境の供給)
  • 苦痛、損傷、疾病からの自由(予防・診断・治療の適用)
  • 正常な行動発現の自由(適切な空間、刺激、仲間の存在)
  • 恐怖および苦悩からの自由(適切な取扱い)

国際基準

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国際獣疫事務局 (WOAH) は、2004年以降、陸生動物衛生規約の動物福祉(アニマルウェルフェア)の基準を策定しており[53]、現在次の12章が公表されている(採卵鶏については議論が行われたものの、加盟国間の意見の隔たりが大きく採決に至っていない。詳細はバタリーケージ#採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する基準の進行状況)。

  • アニマルウェルフェアに関する勧告
  • 海上での動物の輸送
  • 陸上での動物の輸送
  • 空輸による動物の輸送
  • 動物の屠殺
  • 疾病管理のための動物の殺処分
  • アニマルウェルフェアと肉牛生産システム
  • アニマルウェルフェアと肉用鶏(ブロイラー)生産システム
  • アニマルウェルフェアと乳牛生産システム
  • 作業用馬のアニマルウェルフェア
  • アニマルウェルフェアと豚の生産システム
  • 皮、肉、その他の製品を目的とした爬虫類の殺処分

また、2008年以降、水生動物衛生規約の動物福祉(アニマルウェルフェア)の基準を策定しており[53]、現在次の4章が公表されている。

  • 養殖魚のアニマルウェルフェアに関する勧告の紹介
  • 輸送中の養殖魚のアニマルウェルフェア
  • 食用養殖魚の解体・殺処分の福祉的側面
  • 疾病管理のための養殖魚の殺処分

閉じ込め飼育

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家畜動物の動物福祉として問題になる主要なテーマは、採卵鶏のバタリーケージ飼育や母豚の妊娠ストールといった動物の閉じ込め飼育(ケージ飼育)である。これらについては欧米を中心に法律による規制や、企業による自主廃止が進んでいる。

EUでは、EU市民140万人の署名により(欧州市民イニシアチブ(ECI))、2021年6月に、欧州委員会が、飼育動物のケージを禁止するという取り組みを発表した。これは、すでに規制がある産卵や母の使用制限の強化に加え、ウサギや若鶏、種鶏、カモ、ガチョウなども規制の対象とする予定ととなっている[54]

「フリーストール」とも呼ばれる広い場所で、複数の家畜動物が伸び伸びと動けるような環境は、家畜動物にとっては健康的な環境であるが、逆に課題もある。野放しの状態だと家畜動物が自由に動き回るため個々の識別が難しくなり、妊娠中の家畜は急に体調を崩したり、餌を食べなくなることもあり、常に個体を見張っていないと迅速な治療や分娩の介護ができない[55]

輸出

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動物の生体の輸出は、中東などの家畜需要の増加に対応するために増加している。しかし輸出はストレスの多い環境条件、高い飼育密度などから動物福祉上の問題が指摘されている[56]。そのため動物輸送に反対する運動が広まった結果、ニュージーランドでは2021年4月、2年間の移行期間を経た23年4月から生体牛の海上輸出を禁止することが公表された。2022年4月時点で、その実現に向けた動物福祉法の改正手続きを進められている(審議されている動物福祉法改正案では、海上輸出を禁止する対象が牛、鹿、ヤギおよび羊となっている)[57]ドイツは非 EU 諸国向けに牛、羊、山羊を屠殺・肥育するために輸出することを禁止していたが、2022年に範囲を拡大し、繁殖目的の輸出も停止すると発表した[58][59]。同2022年、ルクセンブルクも動物福祉の観点から、屠殺のために他国に家畜を輸出することを禁止した[60]。2011年、オーストラリアから輸出された牛がインドネシアで虐待的扱いを受けていたことが発覚[61][62]。これを受けてオーストラリアは生きたまま牛を輸入するためには、アニマルウェルフェア基準(と畜や牛の収容施設について)を満たさなければならないという規定を策定した[63][64]。さらにオーストラリアは、2023年3月に、海上輸送中の羊が大量死する事故が相次いだことをうけ、羊の生体輸出禁止を決定した[65]。2023年4月には、ブラジルの裁判所が「動物は感覚を持った生き物である」として、国内のすべての港からの生きた動物の輸出を禁止しする判決を下した[66]。2024年5月にはイギリスが生きた家畜の輸出禁止を決定した[67]

企業への影響

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畜産物を扱うグローバル企業の動物福祉評価を行うBBFAW(The Business Benchmark on Farm Animal Welfare)の2022年の評価によると、調査対象と150社のうち約80%が、家畜福祉の正式な企業方針や目標を明示し、家畜動物の福祉のガバナンスを強化していることがわかった[68][69]。調査対象には日本企業も含まれており、調査対象となったイオンは自社ブランドの平飼い卵販売強化に着手し、日本ハムはアニマルウェルフェアポリシーを公表し妊娠ストールの廃止を発表するなど、BBFAWの評価は企業への影響を及ぼしている[12]

また世界売り上げトップ企業250社のうち73%が、企業のサステナビリティ報告の開示枠組みとしてGRI (Global Reporting Initiative)基準を使用しているが[70]、GRIの基準は畜産動物のアニマルウェルフェアについて、動物の輸送・住環境・閉じ込め、屠殺に関する方針を種別に開示することを求めている[71]

近年では、各国との貿易協定においてもアニマルウェルフェアが求められるようになってきている[72]。2021年、欧州議会は、欧州委員会に対して、EU域外国で生産された畜産製品の域内流通は、EUが定めた動物福祉の基準を満たした製品のみ承認するよう求めた[73]。EUでは「農場から食卓まで(Farm to Fork)」戦略の一環として動物福祉規則の改正が2023年から始まる予定となっているが、EUの農業団体や政治家らは、輸入食品をEU域内と同様の生産基準に適合させる新たなEU規則を要求しており、実現すれば、EUの動物福祉基準は対外的な規制となる[39]。その後、農場段階、と畜段階および表示ラベルの動物福祉改正案は見送られ、輸送に関する動物福祉規則の改正案が審議中である。この改正案は畜種ごとの輸送時の密度や輸送時間、温度管理が求められており、EU域外での動物輸送時にも一部が適用されることになっている[74]。ニュージーランドとは、2023年11月、EU・ニュージーランド自由貿易協定を批准。この協定は、動物福祉基準の尊重を市場アクセスの条件とする初の貿易協定として、貿易政策における重要な先例となった[75]

イギリスは2021年、家畜、ペット、野生動物も含めた動物福祉計画を発表。貿易交渉においても、動物福祉の観点について妥協することはないことを明言した[76]。2023年には英国鶏卵産業評議会らが環太平洋パートナーシップにおいてバタリーケージ卵の輸入規制をするよう政府に求めた[77]。日本もアメリカ、イギリス、スイス、ノルウェー、カナダ、台湾、香港、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、ウルグアイなどに牛肉を輸出する場合、屠殺場における人道的な扱いが必須となっている。これら輸出先国からアニマルウェルフェアに配慮した肉用牛の取扱いの遵守を求められているからだ[78]

なお、WTOの貿易協定には、動物や畜産物について規定されているものとしてSPS協定がある。WTOは動物衛生に関してWOAH基準を採用する立場を明確にしているが、現時点では動物福祉はSPS協定の範囲外とされている。しかしながら、非人道的な殺傷方法が行われていたアザラシの毛皮の輸入を規制したEUにカナダとノルウェーがWTOに提訴した件で、2014年、WTOは動物福祉を理由とした輸入規制を「公徳の保護のために必要な措置」(GATT 第 20 条(a)が認める例外事項)に該当すると判断した。このことから、今後、動物福祉を理由とした貿易規制が認められる可能性はある[79]。また、EUはWTOに動物福祉の世界基準を求める提案書を提出しており、今後WOAHの動物福祉基準がWTOにおいてどのような役割となるのか注目されている[80]

家畜福祉への関心

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諸外国における市民の家畜福祉への関心は高い。

オーストラリア、バングラデシュ、ブラジル、チリ、中国、インド、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、スーダン、タイ、英国、米国の14か国を対象に2021年に実施された調査では、「畜産動物福祉は、自分にとって重要である」という質問に対して、平均87%が同意している[81]

また、アメリカで2022年に実施された世論調査によると、どの政党を支持するかにかかわらず、「畜産動物虐待の防止は道徳的関心事項である」と考える有権者が多かった(全体80%、共和党支持者77%、民主党支持者 83%、無所属80%)。また、「畜産動物の極端な閉じ込めの廃止を強く支持する」と回答した有権者も、どの政党を支持するかにかかわらず多かった(全体80%、共和党支持者76%、民主党支持者85%、無所属81%)[82]

2022年にオーストラリアで実施された、食肉に関する調査では、「食肉産業に対する回答者の関心事」として最も高いのが、『農家におけるアニマルウェルフェア』で、全体の46%を占めた[83]。同年、イギリスでは一般的な畜産慣行(豚の妊娠ストールや鶏のバタリーケージや畜産動物の体の一部の切断など)についてのアンケートが実施されたが、73-96%がこれらの畜産慣行を「容認できない」と回答した。またこれらの畜産慣行についてのイギリス人の認知度が高いこともうかがえる結果であった[84]

2024年に発表された調査によると、中国人の 66% が家畜の福祉のための法律を制定することが重要であることに同意している[85]

日本国内の状況

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日本国内では、2011年に、公益社団法人畜産技術協会が、畜種ごとの「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を発表し、農林水産省がこの指針の普及を行った。しかしながら、家畜動物のアニマルウェルフェアについて、日本は国際社会の中で後れを取っている。NGOや投資機関による日本国内の食品関連企業のアニマルウェルフェア評価は軒並み低い[86]。世界動物保護協会(World Animal Protection)の評価によると最低ランクのGとなっている[87]。世界の小売・食品の大手企業150社を対象としたAWのベンチマーク評価指標である「BBFAW:Business Benchmark on Farm Animal Welfare」では国内企業5社(イオン・グループマルハニチロ日本ハム明治ホールディングスセブン&アイホールディングス)が評価対象となっているがいずれも最低ランクの評価となっている[88]

こういった中、2022年1月に、農林水産省は生産者や流通などの関係者らと、アニマルウェルフェアの初会合を開いた[89]。続いて、畜産技術協会が作成した畜種ごとの指針を普及するというこれまでの方針を改め、農林水産省自らが畜種ごとの指針を示すことを決定し、5月に畜種ごとの指針の案を発表した。ただし、畜産技術協会の指針、農林水産省の指針いずれも強制力はなく、法律に基づく指針ではないため、罰則やペナルティーを伴うものではない[90]。しかしながら、三重県における「アニマルウェルフェアに即した豚の飼養管理技術の検討(2021~2023年度)」[91]岩手県における家畜福祉研修(2023年)[92]など、アニマルウェルフェアへの取り組みは少しずつ進んでいるといえる。2024年には食料・農業・農村基本法の改正に伴う付帯決議において「アニマルウェルフェアへの配慮」「家畜にできるだけ苦痛を与えない飼養管理」が盛り込まれた[93]

しかしながら諸外国に比べて市民の認知度や意識は依然低く、国内で、アニマルウェルフェアに配慮した畜産物の購入経験がある人は5.8%にとどまる。他方、アメリカは35.2%、イギリスは60.4%、オーストラリアは65.3%となっている。また、アニマルウェルフェア食品の購入意向も日本は他国よりも低い[94]。また、2011年の調査では「アニマルウェルフェア」を82%が知らないと回答[95]。10年後の2021年の調査でも「アニマルウェルフェアを知っていたか」との問いに対して、75%の消費者が「聞いたことがなかった」と回答しており[96]、国内の周知は遅い。

なお、2024年時点で、日本には家畜福祉の法規制はない[97]

展示動物

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国内の法規制では、基本的に動物が寿命を全うする最期まで飼育し続けること(終生飼育)が大原則となっている[98]。しかしながら、飼育下にある野生動物の多くは檻の中を行ったり来たりするなどの常同行動を繰り返しており、動物園の動物の60%が飼育下で苦しんでいると言われる[99]。こういったことから、近年では、動物園や水族館などで、動物福祉を取り入れる動きが広まっている。こうした「種特有の行動の発現を促して健康や繁殖といった生物機能を向上することで生活環境を改善させる試み」を環境エンリッチメントという[100]。動物園で行われている生態展示がその一例である[101]

国内でも一部動物園では動物福祉を導入しつつある。2015年に札幌市円山動物園でマレーグマが訓練のたびに攻撃を受け衰弱し、死に至った事件を契機に、札幌市は2022年、日本初の動物園条例制定に向けて動いていることを発表した。また、同園は飼育する動物の種類を減らす方針で、2022年2月末時点で飼育する155種のうち32種は個体が死んだり、他の園に転出したりしたら飼育を終了するという[102]京都市動物園は2020年から、群れで生活するライオンに望ましい環境を作ることができないとの理由から、ライオン飼育をしないという方針に転換した[103]

諸外国では、動物の展示そのものが議論されており、インドがクジラ目の動物の飼育を禁止したり(2013年)、韓国が新たにつくられる水族館ではイルカの飼育を禁止したり(2018年)、フランスが野生動物の展示を禁止を決定したりする(2021年)などの動きがみられる[104]。スペインでは、動物園とイルカ水族館において外来種を購入したり繁殖したりすることを禁止し、これらの施設を在来種の回復センターに変えようとする動物福祉法案が議論されている(2022年時点)[105][106]コスタリカは動物福祉を優先するために、すべての州立動物園を閉鎖し、動物を野生動物センター��移送した[107]

イルカやシャチなどのクジラ類については、1993年の映画「フリーウィリー」や2013年のドキュメンタリー「ブラックフィッシュ」を契機に、水族館でのクジラ類飼育の禁止の動きが広まっているが、その動きは国によって大きく差がある。2019年時点で、3,603頭のクジラ類が飼育されており、そのうち6割は5か国で占められている(中国 23%、日本 16%、米国 13%、メキシコ 8%、ロシア 5%)[108]

国際社会では、野生動物を利用したふれあいカフェも問題視されるようになっている。2022年1月には、韓国環境省が「野生動物カフェ」を全て禁止とする方針を発表した。現在飼育されているミーアキャット、プレーリードッグ、両生類、爬虫類などは、動物保護施設へ移されることになる[109]。さらに動物に乗ったり餌をやったりなどの不適切な体験活動や移動展示も禁止される[110]。いっぽうでふれあいカフェはアジアで拡大しており、動物福祉についての深刻な懸念が指摘されている。ふれあいカフェの一大拠点は、このような施設を管理・規制する法律が未整備の日本だと指摘される[111][112]。実態調査では、動物が本来の生息地と異なる飼育環境で展示されていたり、鳥がストレスで毛引きしていたりと、動物の習性に配慮した施設はほとんど存在しないという[113][114]。日本発祥である「フクロウカフェ」も問題視されている[115]。国内では改善に向けた動きも一部あり、動物園や水族館での触れ合いイベントを廃止したり改善したりなどの動きもみられる[116][117][118]

その他、展示動物の福祉が問題になるケースとして、テレビ番組などが、出演する動物(チンパンジーなど)の種が本来有する習性を損なわれるような過剰演出をするという例などがある[119]

実験動物

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1999年「生命科学における代替法と動物使用に関する世界会議」で、3Rの原則(動物を使用しない方法に置き換え(Replacement)、利用する動物の数を減らし(Reduction)、動物に与える苦痛を少なくする(Refinement))を法律に組み込むこと、動物実験に関係する全ての者に教育や訓練を行う機構を設置すること、動物実験の科学的,倫理的妥当性を審査委員会で審査を受けること、を勧告するボロニア宣言が採択された[120][121]

OECD(経済協力開発機構)は、人間の健康と環境に対する化学物質の潜在的な影響を評価するためのOECDテストガイドラインを定めているが、1996年には動物実験代替法を積極的に採用していく意向が示した。2001年には一度に60匹以上の動物を使用する急性経口毒性試験LD50をそのガイドラインから削除した[122]。2022時点で、ヒト健康に関するOECDテストガイドラインのうち40%が動物実験を用いない試験法となっている[123]

動物を使用しない試験方法へ移行しようとする国際的な流れがあり、2009年に代替試験法国際協力(ICATM)合意書への署名が行われ、現在はEU、アメリカ、カナダ、日本、韓国、ブラジルの5か国の政府機関が動物実験代替法を促進するために協力している[124]。国際化学工業協会協議会が環境ホルモン問題を契機にグローバルな活動としてスタートした研究助成事業(LRI)が募集するテーマの一つも動物実験代替試験法となっている[125]

EUは1986年に定めた実験動物保護に関する指令を、2010年に改正[126]、実験施設や実験者、実験計画の許認可等を含む、世界の中でも厳しい法規制を採用している地域だ。そのEUでは2015年3月、EU市民が動物実験の廃止を求める117万名の署名を提出した。欧州委員会は、提出された動物実験廃止提案について審議し、同年6月に結果を報告書にまとめた。欧州委員会は動物実験を段階的に廃止するための法規制の枠組みを作ることを求める市民の提案は退けたが、報告書には「EUは動物実験を段階的に廃止すべきという市民の考えを共有しており、動物実験の段階的廃止はEUの法規制の最終目標である。」との明言を繰り返し記載した[127]。2021年9月、欧州議会は、動物実験そのものを段階的に廃止するためのEU全体の行動計画を確立するよう欧州委員会に求める決議を採択した[128]

Cell、Nature、Science、Journal of Clinical Investigationなどのような代表的な国際学術誌は、動物実験に関する投稿規定を設けており、動物実験のガイドラインや規則の順守及び動物実験委員会の承認を求めている[129]

愛玩動物

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たびたび巻き起こる特定の動物についての飼育ブームや、飼育者による動物の不完全な飼養により、飼育動物を無計画に繁殖させ、ときに劣悪な飼育環境を発生させる事例が動物福祉上問題となる[98]

日本では2012年6月からペット販売展示業者に対して午後8時から午前8時までの夜間におけるイヌネコの展示が禁止された[130]。また2021年には犬猫を扱うペット業者の繁殖・飼育方法に、飼育頭数の上限やケージの広さなどを規定した「数値規制」が導入された[131]。諸外国ではペットの展示販売そのものが問題視されるようになっており、フランスでは動物福祉や衝動買い防止の観点から、犬と猫はペットショップでの販売を2024年から禁止することが決まった[132]

保健所や動物保護センターで収容された犬や猫は、飼い主が見つからなければ殺処分される。殺処分方法は、低コストで多数殺処分できることから二酸化炭素装置(ガス室)が一般的だが、安楽死ではないという非難から麻酔薬方式に変更する自治体もある[133]。400以上の動物保護団体が賛同する「アシロマ合意」は安楽死を無くすことを目指すガイドラインだが、動物福祉が担保できない場合「健康な動物であっても安楽死を選ぶことは、動物保護団体の責任である」旨が記載されている[134]

野生動物

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外来生物法では外来種を駆除する場合には可能な限り苦痛を与えない方法で安楽死させることと定められている[135]捕鯨においてもその見地から絶命させるまでの時間が短い電気銛が復活した。

動物福祉の法規制

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国の憲法において動物の感受性を認め、動物保護や動物福祉を盛り込んでいる国には、ベルギーイタリアドイツルクセンブルクスロベニアオーストリアスイスエジプトブラジルインドなどがある[136]。日本の憲法は動物に言及していない[137][138]

動物福祉を促進するために必要な包括的な措置を定めた法規制としては、アメリカ合衆国(1966年)や欧州など、多くの国で法律として存在する。日本では、動物虐待等を禁じ、罰則規定のある動物愛護法が該当する。2022年、動物虐待等により動物愛護法違反で警察が検挙(逮捕・書類送検など)した事件は166件。検挙された動物は猫(91件)と犬(53件)で9割近くを占めた。内容別では、「遺棄」が74件と最多で、「虐待」が49件、「殺傷」が43件と続いた[139][140]

動物福祉の法規制の対象動物は哺乳類、鳥類などに必ずしも限定されていない。例えば、EU指令「科学的目的で使用される動物の保護(on the protection of animals used for scientific purposes)」は、本指令の前文(8)の中で次のように規定している。「円口類を含む脊椎動物に加えて、頭足類もこの指令の範囲に含める必要があります。これは、痛み、苦痛、および永続的な危害を経験する能力があるという科学的証拠があるためです」。また、2021年11月に、イギリス政府は、専門家チームによる調査が「タコやイカのような頭足動物と、カニや大型エビ、ザリガニのような十脚甲殻類は、感覚をもつ存在として扱う必要がある」と結論付けたことから、同国で審議されている動物福祉法案の保護対象に感覚をもつ動物として追加している[141]

畜産動物を対象とした法規制

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アメリカ
連邦政府による、家畜の輸送時の規制の「28時間法」および、と殺時の規制の「家畜の人道的と畜法」があるが、家畜の飼養時における法規制はない。また「28時間法」、「家畜の人道的と畜法」いずれも対象家畜に家禽は含まれない[28][142]。一方で、複数の州で、家畜の飼養についての規制が、州法で設けられている。9州が、子牛のストール(単頭での閉じ込め飼育)について法規制を行っており、10州が母豚の妊娠ストールについて法規制を行っている。また11州が、採卵鶏などのバタリーケージについて法規制を行っており、4州がの断尾について法規制を行っている。これらの規制の違反者には、拘留、罰金、事業停止といった罰則が規定されている[28]
ヨーロッパ
家畜福祉の意識が高く法規制が進んでいるEUでは、殺害時(屠殺時)の動物保護、輸送時の動物保護、豚の保護に関する最低基準、肉用鶏の保護に関する最低基準、採卵鶏の保護に関する最低基準などのEU指令が定められており、日本では一般的な気絶無しのと殺や豚の妊娠ストール、採卵鶏のバタリーケージ飼育などはこれらのEU指令で禁止されている[143]。EU加盟国はこのEU指令に従って国内法を制定しなければならないが、EU加盟国の中にはこれらのEU指令よりも厳しい法規制を設定している国もある。例えばEUの妊娠ストール規制は35日までなら使用が認められているが、ドイツでは原則使用禁止としている。ドイツの豚の飼育密度規制もEUよりも厳しい。このようなドイツでは、繁殖養豚農家の59.2%が10年以内の廃業を考えているという[144]。デンマークでは子豚の輸送時条件として、高温から子豚を守るために、トラックの天井の高さを十分に確保することが要求されている[145][146]
日本
家畜福祉を対象とした法規制は、動物愛護管理法のみだが、同法において、と殺や輸送、ストールやバタリーケージなどの飼養方法についての規制はない。動物愛護管理法では、ペットへの配慮は進んでいるが、家畜については愛護の名称があることもあり、理解が進まず、名称の変更や、新たな法制度を求める声もある。

畜産物の動物福祉認証

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諸外国ではアニマルウェルフェアに配慮した畜産物を認証し、ラベルを貼ることで、他の畜産物と区別化できる認証制度が普及している[147]。デンマークやスウェーデンのように国の栄養・食事摂取基準において、動物福祉認証ラベルを消費者への情報提供として示している国もある[148]。なお、動物福祉認証の導入は、食肉消費量の削減にはつながらないとされる[149]

アメリカには"Certified Animal Welfare Approved" "Certified Humane" "Global Animal Partnership" "Farm Animal Care Training & Auditing"など様々なアニマルウェルフェアラベルがあり、それぞれ民間組織が認証している。ただし極端な閉じ込め飼育をしていても認証が取得できるラベルもある[150]

韓国では倫理的消費や家畜福祉に対する消費者の関心も共に高まりをうけて、2012年に動物福祉畜産農場認証制を導入[151]

2021年イギリスは、食品への動物福祉ラベルについての意見募集を実施し、2022年9月に結果を公表した。イギリス政府は今後、食品の動物福祉ラベル要件を改善・拡大する(殻付き卵のみ、ラベルの義務付けが実施されている[152])。また、飲食業界においても補完的な施策案を検討される予定となっている。この施策案は英国産品と輸入品の両方が対象となる[153][154]。しかしながら2023年、イギリスは殻付き卵以外の畜産物にも拡大する動物福祉ラベルの義務付けを見送った[152]

2022年6月、ドイツは、国による公的かつ義務的なアニマルウェルフェアの畜産ラベル制度導入に向けた概要を発表した[155]。ドイツでのラベル表示はまず豚肉製品に導入され、その後拡張される予定となっている[152][144]

家畜福祉に対する批判 

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動物福祉は、動物からの搾取は減りつつあるという間違った印象を与え、市民の道徳的不安を和らげる術を与え、工場畜産廃止の選択肢が見落とされやすくなるという指摘や、農場に動物福祉を導入しても、工場畜産であることには変わりがないとの指摘もある[156][157][158][159]。米国の法律学者であるゲイリー・フランシオンは、動物福祉は畜産業を効率的にし、畜産の拡大に資する可能性の方が大きいと主張する[160][161]。放し飼いの卵生産量が2004年-2023年にかけて2倍以上に増加したイギリスでは、卵の消費量も同期間16 億個増加している[162]

また、動物福祉の徹底をしても、最終的に家畜は屠殺されることから、動物福祉は動物の信頼に対する裏切りになるという指摘などもある[163]。いっぽうで、屠殺場の福祉改革を試みた動物行動学者で全米の屠殺場の半分を設計したテンプル・グランディンは、人道性と屠殺の矛盾を問われた際、「末期患者にモルヒネを投与するのと同様に動物が生きている間なるべく快適にするのは意味がある」と答えている[164]

畜産物のヒューマンウォッシュ

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動物福祉の普及につれて、動物福祉を謳った肉や乳製品が増加しているが、実際には劣悪な飼育環境であるにもかかわらず、動物福祉を主張するパッケージと広告で、消費者の懸念を和らげようとする問題が浮上している[165]

例えば採卵鶏のバタリーケージ飼育が国内外で問題提起されているが、卵の「平飼い」を謳っている商品であっても、近代の集約畜産では、通常、鶏が屋外へのアクセスができず、自然光の入らない薄暗い鶏舎の中で過密に飼育される[166]

米国では、消費者団体が、政府機関である連邦取引委員会(FTC)に対して「人道的に飼育された」畜産物という誤解を招く表示をした会社を調査するよう要請したり、大手食肉加工会社タイソン・フーズや、ベン&ジェリーズ社、コカ・コーラ社が、自社製品に動物福祉の虚偽表示をしたとして訴訟になるなどしている[167][168]

諸外国では第三者機関に認証された畜産物に添付できる動物福祉認証ラベルが普及しているが、家畜の飼育改善に取り組むFARM FORWARDは2021年にレポートを発表し、これらの動物福祉認証は、消費者が人道的な肉、卵、乳製品を識別するのに役立っておらず、消費者はだまされていると報告した[169]。なお、FARM FORWARDのチームメンバーのうち三人は、10年以上にわたり、米国最大の独立した動物福祉認証機関であるグローバル・アニマル・パートナーシップ(GAP)英語版の役員を務めたあと、「GAPが発足当初から変容し、集約畜産を支持し、家畜福祉を低下させ畜産企業の宣伝目的として使用させている」として、抗議後に辞任している[170]。同GAP認証取得農場においては、これまでに10人が家禽虐待で有罪判決を受けている[171][172]

動物福祉の広まりとともに、動物福祉が認定された農場における動物虐待が報告されている[173][171]。2015年以降、グローバル・アニマル・パートナーシップの動物福祉認証を受けた複数の農場で、七面鳥が劣悪な環境、暴力的な手技で飼育されていることが明らかになっている[174][175]。イギリス最大の農場認証スキームであるレッドトラクター(Red Tractor)英語版の動物福祉認証を受けた複数の農場においても、2018年以降、覆面調査により日常的な動物虐待が発生していることが、メディアに報じられている[176][177][178][179][180][181][182][183]。同じくイギリスのRSPCAは同団体の動物福祉認証をうけた40の農場における、家畜の悲惨な飼育環境が告発されたことをうけ、本認証制度を見直すと発表した[184]

日本では2016年7月から、一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会により、「乳牛のアニマルウェルフェア畜産認証基準」が施行されたが、乳牛のつなぎ飼いをしていても認証を取得でき、その乳牛から生産された畜産物にアニマルウェルフェアのロゴを貼ることが可能な基準[185]となっている。また、2021年には山梨県が畜産物のアニマルウェルフェア認証制度を開始したが、欧米で禁止が進んでいる母豚の妊娠ストールケージ飼育、乳牛のつなぎ飼いなどの拘束飼育をしていても認証を取得でき、その家畜から生産された畜産物にアニマルウェルフェアのロゴを貼ることが可能な基準となっている[186]

脚注

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関連項目

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外部リンク

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関連組織
ガイドライン