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コロボリンクス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コロボリンクス
生息年代: 前期白亜紀, 140–136 Ma
C. clavirostrisのホロタイプ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: 翼竜目 Pterosauria
亜目 : 翼指竜亜目 Pterodactyloidea
: アンハングエラ科 Anhangueridae
: コロボリンクス属 Coloborhynchus
学名
Coloborhynchus
Owen, 1874
シノニム
  • Ptenodactylus Seeley, 1869 (既使用)
和名
コロボリンクス

C. clavirostris Owen, 1874

コロボリンクス Coloborhynchusは、アンハングエラ科(もしくはオルニトケイルス科)の翼竜の一つ。イギリス前期白亜紀バランジュ期(140-136 Ma:Maは百万��前)に生息しており[1]、属する種によっては、オーブ期(113-100.5 Ma)まで広がる。長い間無効名とされていたが90年代半ばからまた使われ始め、その後も分類に関して議論が続いている。

説明

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様々な角度から見たC. clavirostrisの顎の断片

ホロタイプは部分的な上顎骨のみで知られる。そのため、ロドリゲス Rodrigues とケルナー Kellner による2008年の再評価では、コロボリンクス・クラヴィロストリス Coloborhynchus clavirostrisは歯槽の位置の独特な組み合わせによってしか近縁の動物と区別することができない。コロボリンクスは、前の2本の歯が前方に伸び、他の歯よりも顎における位置が高いのに対し、次の3対の歯は外側に伸びていた。最後の(少なくとも保存された中で)2対の歯は下に伸びている。最後に、独特な楕円形のくぼみが、第1対の歯の下に位置している[2]

近縁のアンハングエラウクテナダクティルスのように、顎の後ろ側の狭さとは対照的に、吻端が広いロゼット状に広がる。しかし、典型的にアンハングエラに属する種のロゼットは丸いスプーン型だが、コロボリンクス・クラヴィロストリスでは厚みがある箱形である。

近縁の属のように、コロボリンクスの顎の前にはキール状の隆起があるが、他の属が一様に細い隆起を持つのに対し、基部では幅広く上部に向かって薄くなっている。この様な肥厚した隆起は、最も近縁な属で、同属とされることもあるシロッコプテリクス・モロッケンシスにも見られる。それはまた他の種類のものとは違って、湾曲していないまっすぐな前縁を持ち、他の種が口先のすこし後ろ側から隆起するのに対し、口先の先端から始まっている[2]

これらと同じ特徴を持つ第二の標本は、2007年にダレン・ナイシュによってブラジルの古生物学者アレクサンダー・ケルナー Alexander Kellner に報告され、おそらくC. clavirostris の2番目の標本であろうとされているが、まだ記載されていない[2]

有効かもしれない種であるコロボリンクス・カピト Coloborhynchus capitoトロペオグナトゥス標本に次いで2番目に大きな既知のオルニトケイルス類 ornithocheirid である。そして歯を持つことがわかっている翼竜のなかでは最大のものでもある。2011年に記載されたイングランドのケンブリッジ海緑色砂岩から発掘された標本は、歯を備えた大きな上顎の先端部からなり、C. capito を独自の種とする歯の特徴が識別できる。標本の長さは10cm、幅が5.6cmで、歯の基部の直径は1.3cmである。この比率がコロボリンクスの他の既知の種と同じであるとすれば、推定される頭骨の長さは最大75cmになり、翼開長は7mになる[3]。しかしこの種は別の属であると思われる[1]

イングランドのウェセックス累層からはColoborhynchus sp.とされる嘴の断片が知られている[4]

分類と種

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C. capitoのホロタイプ

19世紀に記載された多くのオルニトケイルス類のように、コロボリンクスの分類は非常に複雑な経緯を経ている。数年にわたって何人もの研究者たちによってたくさんの種がコロボリンクスや近縁の属として分類され続け、かなり混乱したものになっていた。

1874年、 リチャード・オーウェンハリー・ゴーヴィア・シーリーが設けたオルニトケイルス属を排除し、コロボリンクス・クラヴィロストリス Coloborhynchus clavirostris をホロタイプ BMNH 1822 (イーストサセックス州ウィールデン層群のヘイスティング層で見つかった部分的な吻部)に基づいて記載した。属名は、標本のダメージが酷かったことから「傷つけられた嘴」を意味する。 種小名はその断面の形状から「鍵のような吻」を意味する。オーウェンはまたオルニトケイルス・クヴィエリ Ornithocheirus cuvieri とセドグウィッキー O. sedgwickii もコロボリンクス属に再分類した。しかしオーウェンはこれら3種のいずれもこの属の模式種として指定しなかった。彼はこの属を定義づける固有の特徴として、上顎側面において前の数対の歯が高い位置にあることを挙げた。しかし1913年にレジナルド・フーリー Reginald Walter Hooley はこの歯の位置は浸食による2次的なものだと結論づけ、オーウェンが1874年に提唱した2番目の属・種であるクリオリンクス・シムス Criorhynchus simus と同一であるとした。フーリーはまた、オーウェンによる2種のオルニトケイルスの再分類を見落とし、その属のままとした。1967年、クーン Kuhn はフーリーに同意し、コロボリンクス・クラヴィロストリスはクリオリンクス・シムスのシノニムであると主張した。さらに、クーンはC. clavirostris を、オルニトケイルス属の一種とするのではなく、その属の模式種として初めて正式に指定した。後のほとんどの研究者もコロボリンクスがクリオリンクスに近縁な無効名であるという意見に従った[2]

C. piscatorの復原図

その状況は1994年に李隆濫 Lee Yuong-Nam が1992年にテキサス州のパウパウ累層のアルビアン期の地層で発見された吻端の骨の化石をコロボリンクス・ウェドレイギ Coloborhynchus wadleighi と命名した時に一変した。コロボリンクス属の復活は、他の属に分類された他の種の復活も意味し、それらが実際にコロボリンクスに属していたかどうかを判断するために再評価されなければならなかった。2008年には、ロドリゲスとケルナーがコロボリンクスの主な特徴を再定義した。主に歯槽の独特な位置に基づいて同定される。ロドリゲスとケルナーは、ウェドレイギはクラヴィロストリスとは頭骨と歯にいくつかの違いがあり、より古い時代から産出していることから、別属であるとしてウクテナダクティルスと改名した[2]

ブラジルサンタナ累層のロムアルド部層から発掘されトロペオグナトゥス・ロブストゥス Tropeognathus robustusと名付けられた部分的な下顎骨が、2001年にFastnachtによってコロボリンクスに割り当てられ、コロボリンクス・ロブストゥス Coloborhynchus robustus と改名された。2002年にデヴィッド・アンウィン David Unwin はこの分類を支持し、さらに、よく知られている種であるアンハングエラ・ピスカトルもコロボリンクス・ロブストゥスと同一であるとした。しかしロドリゲスとケルナーは、両者には特徴的な吻の先端から始まる真っ直ぐな隆起、および横向きの尖った歯といったクラヴィロストリスの特徴が見られないことからこの分類には反対していた。よって、ロドリゲスとケルナーは、ロブストゥス種とピスカトル種の両方をアンハングエラの有効種とみなした[2]

ロムアルド部層の別の種は2003年にVeldmeijerによってコロボリンクス・スピエルベルギ Coloborhynchus spielbergi と命名された。これは1つまたは2つの特徴(吻の上部表面が平らであることなど)を模式種と共有するとされたが、ロドリゲスとケルナーはそれも疑わしいと考え、その特徴は他の属にも存在すると指摘した。 ケルナーは2006年にそれをアンハングエラ・スピエルベルギ Anhanguera spielbergiとして再分類した。同様に、ケルナーは以前にはサンタナダクティルス Santanadactylus に分類されていたコロボリンクス・アラリペンシスColoborhynchus araripensisを、比較可能で有効な特徴が存在しないことから、コロボリンクス属から除外した。アンウィンは2001年にシロッコプテリクス・モロッケンシスSiroccopteryx moroccensisをC.ウェドレイギ(ケルナーのウクテナダクティルス)との類似からコロボリンクス属に組み入れた。2008年にC.ウェドレイギはウクテナダクティルスという別属であるとしたケルナーは、シロッコプテリクスも別属であるとみなしており、コロボリンクス属に属する他の種もまた、2001年にFastnachtも認めている歯列における固有の特徴を欠いていると述べた[2]

アンウィンは2001年にまた、ケンブリッジ海緑色砂岩で見つかった2つの他の種をコロボリンクスに再分類した。カピト種とセドグウィッキー種であり、後者は、1874年にリチャードオーウェンによる属創設時の種の1つである。ケルナーによると、カピト種の方は断定するにはあまりにも不完全であるためクラヴィロストリス種と充分に比較することができず、その正確な分類には議論の余地がある。セドグウィッキー種に至ってはコロボリンクス特有の特徴をもっておらず(実際、キール状の隆起が全くない)、むしろオルニトケイルス・コンプレッシロストリス(=ロンコデクテス)と同属に属するかもしれないとも述べた[2]

2013年には、ロドリゲスとケルナーはコロボリンクスは、クラヴィロストリス一種のみを含む単形の属であると発表した。他の全ての種は他の属に帰属させたり、疑問名と宣言したりした[1]

以下はアンドレスとマイヤーズによる2013年のクラドグラム [5]で、この属をクレード Pteranodontia に含ませている。


 プテラノドン類 
 ニクトサウルス科 

ムズキゾプテリクス

ニクトサウルス・ラメゴイ

ニクトサウルス・グラキリス

アラモダクティルス

 プテラノドン上科 

プテラノドン

ゲオステルンベルギア

 イスティオダクティルス科 

ロンケンプテリクス

ヌルハチウス

リャオクシプテリクス

イスティオダクティルス・ラティデンス

イスティオダクティルス・シネンシス

ロンコデクテス

アエトダクティルス

ケアラダクティルス

ブラシレオダクティルス

ルドダクティルス

オルニトケイルス類
 アンハングエラ科 

リャオニンゴプテルス

アンハングエラ・アラリペンシス

アンハングエラ・ブリッテルスドルフィ

アンハングエラ・ピスカトル

アンハングエラ・サンタナエ

 オルニトケイルス科 

トロペオグナトゥス

オルニトケイルス

コロボリンクス・クラヴィロストリス

コロボリンクス・ワドレイギ

種とシノニムのリスト

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2000年以降、多くの研究者によってコロボリンクスに属するとされてきた種は、以下のようになる。

C. spielbergiとされている標本の模型
  • ?C. capito (Seeley 1869) = Pterodactylus capito Sauvage 1882 = Ornithocheirus capito Seeley 1870 = Ptenodactylus capito Seeley 1869
  • C. clavirostris Owen, 1874, 模式種
  • ?C. sedgwicki (Owen 1874) = Ornithocheirus sedgwicki (Newton 1888) = Pterodactylus sedgwickii Owen 1859 [現在は Camposipterus]
  • ?C. araripensis[6] (Wellnhofer 1985) = Santanadactylus araripensis Wellnhofer 1985 [Anhangueraとされることもある]
  • ?C. robustus (Wellnhofer 1987) = Tropeognathus robustus Wellnhofer 1987 [Anhangueraとされることもある]
  • ?C. ligabuei (Dalla Vecchia 1993) = Cearadactylus ligabuei Dalla Vecchia 1993 [AnhangueraCearadactylus とされることもある]
  • ?C. wadleighi Lee 1994 [Uktenadactylusとされることもある]
  • ?C. moroccensis (Mader & Kellner 1999) = Siroccopteryx moroccensis Mader & Kellner 1999
  • ?C. piscator[6] (Kellner & Tomida 2000) = Anhanguera piscator Kellner & Tomida 2000 [AnhangueraC. robustusとされることもある]
  • ?C. spielbergi[6] Veldmeijer 2003 [Anhangueraとされることもある]

かつてコロボリンクスに属するとされた種には以下のものがある。

出典

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  1. ^ a b c Rodrigues, T.; Kellner, A. (2013). “Taxonomic review of the Ornithocheirus complex (Pterosauria) from the Cretaceous of England”. ZooKeys 308: 1–112. doi:10.3897/zookeys.308.5559. PMC 3689139. PMID 23794925. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3689139/. 
  2. ^ a b c d e f g h Rodrigues, T. and Kellner, A.W.A. (2008). "Review of the pterodactyloid pterosaur Colobrohynchus." Pp. 219–228 in: Hone, D.W.E. and Buffetaut, E. (eds), Flugsaurier: pterosaur papers in honour of Peter Wellnhofer. Zitteliana B, 28.
  3. ^ Martill, D.M. and Unwin, D.M. (2011). "The world's largest toothed pterosaur, NHMUK R481, an incomplete rostrum of Coloborhynchus capito (Seeley 1870) from the Cambridge Greensand of England." Cretaceous Research, (advance online publication). doi:10.1016/j.cretres.2011.09.003
  4. ^ Martill, David M. (2015) (3), First occurrence of the pterosaur Coloborhynchus (Pterosauria, Ornithocheiridae) from the Wessex Formation (Lower Cretaceous) of the Isle of Wight, England., 126, 3, Proceedings of the Geologists' Association, pp. 377-380, http://eprints.port.ac.uk/20198/ 
  5. ^ Andres, B.; Myers, T. S. (2013). “Lone Star Pterosaurs”. Earth and Environmental Science Transactions of the Royal Society of Edinburgh 103: 1. doi:10.1017/S1755691013000303. 
  6. ^ a b c Veldmeijer, A.J. (2003). “Description of Coloborhynchus spielbergi sp. nov. (Pterodactyloidea) from the Albian (Lower Cretaceous) of Brazil”. Scripta Geologica 125: 35–139.