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グッドナイト・ウィーン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『グッドナイト・ウィーン』
リンゴ・スタースタジオ・アルバム
リリース
録音
ジャンル ロック
時間
レーベル アップル・レコードEMI
プロデュース リチャード・ペリー
専門評論家によるレビュー
チャート最高順位
  • イギリスの旗 30位
  • アメリカ合衆国の旗 8位
  • 日本の旗 53位
リンゴ・スター アルバム 年表
リンゴ
(1973年)
グッドナイト・ウィーン
(1974年)
想い出を映して
(1975年)
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グッドナイト・ウィーン』(英語: Goodnight Vienna )は、リンゴ・スター1974年11月に発表した4枚目のスタジオ・アルバムである。

1992年にCDで再リリースされ、ボーナス・トラック3曲が収録された。

解説

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1974年6月、当時ロサンゼルスにいたスターは、4月まで毎晩のように一緒に飲み歩いていた旧友ジョン・レノンハリー・ニルソンがレコーディングのためニューヨークに行ってしまった[注釈 1]ので、1年ぶりに自分も新しいアルバムの制作をすることにした。前作『リンゴ』同様、プロデュースはリチャード・ペリーに、レノンらには楽曲提供やレコーディングへの参加を依頼した[1]

アルバム『心の壁、愛の橋』のレコーディングの準備を進めていたレノンは「グッドナイト・ウィーン」を書き上げ[2]、セッション・ミュージシャンとデモを録音してスターのもとに届けた[3]。またプラターズのヒット曲「オンリー・ユー」のカバーをスターに提案し[4]、スターがフォローできるようにガイドボーカルとアコースティック・ギターの演奏を���むベーシックトラックを提供した[1]エルトン・ジョンバーニー・トーピンとの共作で「スヌーカルー」を提供[5]ハリー・ニルソンは「イージー・フォー・ミー」を提供した[注釈 2]

8月、クラウス・フォアマンジム・ケルトナーなど主要メンバーが『心の壁、愛の橋』のセッションに参加していたので、その終了を待って本格的なレコーディングを開始した。セッションにはジェシ・エド・デイヴィスビリー・プレストンデイヴィッド・フォスターニッキー・ホプキンス、後にリンゴ・スター&ヒズ・オール・スター・バンドにも参加したドクター・ジョンなど有名ミュージシャンが集結した。レノンも8月下旬にロサンゼルスを訪れ、セッションに参加した。

アルバム・タイトルはレノンの提供曲「グッドナイト・ウィーン((It's All Da-Da-Down to) Goodnight Vienna)」から取られた。「Goodnight Vienna」はレノンやスターの故郷リバプールなどイングランド北方の俗語で「ずらかるぞ (I'm getting out of here.)」という意味である[2][注釈 3]。なお、原題の "Vienna" はオーストリアの首都 "Wien" の英語名であり「ヴィエナ」と発音する。邦題の「ウィーン」は元々ドイツ語の「Wien」をローマ字式に読んだ、実際の発音とは異なった、日本でのみ使われているカタカナ言葉である[注釈 4]

このアルバムのテレビCMは、スターを乗せてロサンゼルス上空を飛ぶ円盤がハリウッドのキャピトル・レコード・ビルの屋上に着陸する、というものであった[1]。『心の壁、愛の橋』のCMでスターがナレーションを引き受けてくれたお返しにレノンがナレーションを担当し、最後にスターが「Thank You, John」とお礼を述べている。

アメリカでは11月18日に発売された[8]。折しも元ビートルズのメンバーの作品が相次いでリリースされて話題となっており[注釈 5]、1週間前に先行発売されたシングル「オンリー・ユー」[9]も好評だった[注釈 6]ため、大ヒットした前作『リンゴ』には及ばなかったものの、翌年1月11日にビルボード・アルバムチャートで8位に到達した。一方、イギリスでは11月15日にシングル「オンリー・ユー」と同時に発売されたが、30位までしか届かなかった[注釈 7]

1992年に初めてデジタル・マスタリングを行ったCDが発売された。ボーナス・トラックとして1972年リリースのシングル「バック・オフ・ブーガルー/ブラインドマン」とアルバム『リンゴ』のテスト盤・プローモション盤に収録されていた「シックス・オクロック(エクステンデッド・ヴァージョン)」[5]の3曲が収録された。

なお、このアルバムには 4チャンネルステレオ・ミックス・ヴァージョンが存在しており、アメリカのみで8トラック・カートリッジがリリースされた[11]

アートワーク

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アルバムのアートディレクションはロイ・コハラ[注釈 8]が担当した。アルバム・ジャケットの表面は、1951年のアメリカSF映画『地球の静止する日』のスチール写真を基に、ロボットゴートの後ろに立っているマイケル・レニー演じる宇宙人クラトゥの姿にスターの頭を重ね合わせ、胸には星マークをあしらったものになっている[13]。これは、スターがニルソンの自宅に飾られていた同映画のロビーカードを見つけたことに端を発している。インナースリーブのフォトモンタージュには、エンジニアのラリー・エメライン[注釈 9]が撮影したセッション風景の写真が使われた。

収録曲

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オリジナル・アナログ・LP

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サイド1
#タイトル作詞・作曲オリジナル・シンガー(リリース年)時間
1.グッドナイト・ウィーン((It's All Da-Da-Down to) Goodnight Vienna)ジョン・レノン 
2.「オカペラ」(Occapella)アラン・トゥーサンリー・ドーシー(1971年)
3.「ウー・ウィー」(Oo-Wee)ヴィニ・ポンシア, リチャード・スターキー 
4.「ハズバンズ・アンド・ワイブス」(Husbands and Wives)ロジャー・ミラーロジャー・ミラー(1966年)
5.「スヌーカルー」(Snookeroo)エルトン・ジョン, バーニー・トーピン 
合計時間:
サイド2
#タイトル作詞・作曲オリジナル・シンガー(リリース年)時間
1.「オール・バイ・マイセルフ」(All By Myself)ヴィニ・ポンシア, リチャード・スターキー 
2.「コール・ミー」(Call Me)リチャード・スターキー 
3.「ノー・ノー・ソング」(No No Song)ホイト・アクストン, デヴィッド・ジャクソン[注釈 10] 
4.オンリー・ユー(Only You (And You Alone))バック・ラムプラターズ(1955年)
5.「イージー・フォー・ミー」(Easy for Me)ハリー・ニルソン 
6.「グッドナイト・ウィーン (リプライズ)」(Goodnight Vienna (Reprise))ジョン・レノン 
合計時間:

1992年再発盤

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CD
#タイトル作詞・作曲時間
1.「グッドナイト・ウィーン」((It's All Down to) Goodnight Vienna)ジョン・レノン
2.「オカペラ」(Occapella)アラン・トゥーサン
3.「ウー・ウィー」(Oo-Wee)ヴィニ・ポンシア, リチャード・スターキー
4.「ハズバンズ・アンド・ワイブス」(Husbands and Wives)ロジャー・ミラー
5.「スヌーカルー」(Snookeroo)エルトン・ジョン, バーニー・トーピン
6.「オール・バイ・マイセルフ」(All By Myself)ヴィニ・ポンシア, リチャード・スターキー
7.「コール・ミー」(Call Me)リチャード・スターキー
8.「ノー・ノー・ソング」(No No Song)ホイト・アクストン, デヴィッド・ジャクソン
9.「オンリー・ユー」(Only You (And You Alone))バック・ラム
10.「イージー・フォー・ミー」(Easy for Me)ハリー・ニルソン
11.「グッドナイト・ウィーン (リプライズ)」(Goodnight Vienna (Reprise))ジョン・レノン
12.バック・オフ・ブーガルー(Back Off Boogaloo)リチャード・スターキー
13.「ブラインドマン」(Blindman)リチャード・スターキー
14.「シックス・オクロック(エクステンデッド・ヴァージョン)」(Six O'Clock (Extended Version))ポール・マッカートニー, リンダ・マッカートニー
合計時間:

参加ミュージシャン

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チャート

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脚注

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注釈

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  1. ^ 3月末からスターも参加していた、ニルソンのアルバム『プシー・キャッツ』の仕上げをするために4月末に移動していた。
  2. ^ ニルソンは1975年にアルバム『俺たちは天使じゃない』で自身のバージョンを録音した[6]
  3. ^ 元々イギリスでは、現在行っていることを継続しても困難が回避できないことが判明している状況での「もうおしまいだ (It's all over.)」という意味で使われている[7]。転じて、その場にいることが無駄もしくは危険だから「ここから立ち去るぞ」という意味で使われている。
  4. ^ ドイツ語では「ヴィーン」、イタリア語では「ヴィエンナ」と発音する。
  5. ^ 9月にレノンがシングル「真夜中を突っ走れ」とアルバム『心の壁、愛の橋』を、10月にはマッカートニーがシングル「ジュニアズ・ファーム」を、そして12月にはハリスンがシングル「ディン・ドン」とアルバム『ダーク・ホース』を発表していた。
  6. ^ オンリー・ユー」はビルボード・シングルチャートで6位、イージーリスニングチャートでは1位となった[10]
  7. ^ なお、その後スターのアルバムが母国イギリスでチャート入りすることは、1998年リリースの『ヴァーティカル・マン』まで23年間なかった。
  8. ^ アメリカの写真家、デザイナー。1963年、キャピトル・レコードのクリエイティブ・サービス部門に入社。1972年にアシスタント・アート・ディレクター、1974年にアート・ディレクターに昇進。1980年リリースのボブ・シーガー&ザ・シルヴァー・ブレット・バンドの『奔馬の如く』で1981年グラミー賞最優秀アルバム・パッケージ・グラミー賞を受賞。ビートルズの『ロックン・ロール・ミュージック』『リール・ミュージック』、レノンの『メンローヴ・アヴェニュー』のアート・ディレクションを担当した[12]
  9. ^ アメリカのマスタリング・エンジニア。スティービー・ワンダーの『ホッター・ザン・ジュライ』、ロッド・スチュワートの『トゥナイト・アイム・ユアーズ』などの制作に関わった[14]
  10. ^ ロサンゼルスを拠点としている、ベーシスト、ピアニスト、アコーディオン奏者[15]
  11. ^ アメリカのトランペット奏者、ソングライター、プロデューサー、スティーヴィーワンダーのトランペット奏者として最もよく知られている[16]
  12. ^ カリフォルニア州サンフランシスコ出身のアコーディオン奏者(1929–2014)。ハリウッドで『スタートレック ジェネレーションズ』など数多くの映画やテレビのサウンドトラックで演奏した[17]
  13. ^ アメリカのソングライター、ピアニスト、アレンジャー、ニール・ダイアモンドのバンドメンバーとして知られている[18]
  14. ^ アメリカのジャズトロンボーン奏者。レイ・アンソニー、グレン・グレイ&ザ・カサ・ロマ・オーケストラ、ローレンス・ウェルク、ヘンリー・マンシーニなどと共演した[19]
  15. ^ クラウス・フォアマンのガールフレンド。後に結婚した。

出典

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  1. ^ a b c Badman 2001.
  2. ^ a b NME 2005, p. 91.
  3. ^ Harry 2004, p. 120.
  4. ^ Rodriguez 2010, p. 37.
  5. ^ a b Rodriguez 2010, p. 36.
  6. ^ Harry 2004, p. 193.
  7. ^ The Phrase Finder:Goodnight Vienna”. Phrases.org.uk. 2022年12月21日閲覧。
  8. ^ Harry 2004, p. 185.
  9. ^ Harry 2004, p. 183.
  10. ^ Whitburn 2002, p. 230.
  11. ^ Ringo Starr – Goodnight Vienna”. www.discogs.com. 2022年12月21日閲覧。
  12. ^ Roy Kohara”. Discogs. 2022年3月31日閲覧。
  13. ^ Harry 2004, p. 206.
  14. ^ Larry Emerine”. Discogs. 2022年12月28日閲覧。
  15. ^ David Jackson (4)”. www.discogs.com. 2022年12月15日閲覧。
  16. ^ Steve Madaio”. Discogs. 2022年12月28日閲覧。
  17. ^ Carl Fortina”. Discogs. 2022年12月28日閲覧。
  18. ^ Tom Hensley”. Discogs. 2022年12月28日閲覧。
  19. ^ Lew McCreary”. Discogs. 2022年12月28日閲覧。
  20. ^ a b Kent 1993.
  21. ^ austriancharts.at Ringo Starr - Goodnight Vienna” (ASP) (ドイツ語). Hung Medien. 10 November 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。2 July 2012閲覧。
  22. ^ Library and Archives Canada. Archived 26 April 2014 at the Wayback Machine. Retrieved 2 July 2012
  23. ^ Billboard -11 January- 1975. (11 January 1975). https://books.google.com/books?id=6gwEAAAAMBAJ&q=Billboard+1975+goodnight+vienna&pg=PT57 2 July 2012閲覧。 
  24. ^ InfoDisc : Tous les Albums classés par Artiste > Choisir Un Artiste Dans la Liste : Ringo STARR” (フランス語). infodisc.fr. 6 May 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。2 July 2012閲覧。
  25. ^ - Yamachan Land (Archives of the Japanese record charts) - Albums Chart Daijiten - The Beatles”. 14 February 2012時点のa-ビートルズ オリジナルよりアーカイブ。2 July 2012閲覧。
  26. ^ norwegiancharts.com Ringo Starr - Goodnight Vienna” (ASP). VG-lista. 13 November 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。2 July 2012閲覧。
  27. ^ The Official Charts Company Ringo Starr - Goodnight Vienna” (PHP). The Official Charts Company. 2 July 2012閲覧。
  28. ^ “Ringo Starr Chart History: Billboard 200”. Billboard. https://www.billboard.com/artist/ringo-starr/chart-history/tlp/ 2022年12月26日閲覧。. 
  29. ^ Ringo Starr: Goodnight Vienna” (ドイツ語). Media Control. 16 February 2022閲覧。
  30. ^ “RPM Top 100 Albums of 1975”. RPM. オリジナルの19 July 2013時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130719025009/http://www.collectionscanada.gc.ca/rpm/028020-119.01-e.php?file_num=nlc008388.6489b&brws_s=&type=1&interval=20&PHPSESSID=c6btf3r8hs459qqt5ln3o3dcv5 2 July 2012閲覧。. 
  31. ^ Les Albums (CD) de 1975 par InfoDisc” (PHP) (フランス語). infodisc.fr. 11 July 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。2 July 2012閲覧。
  32. ^ Top Pop Albums of 1975”. Billboard. 2 July 2012閲覧。
  33. ^ BRIT Certified”. British Phonographic Industry. 2022年12月20日閲覧。
  34. ^ RIAA GOLD & PLATINUM”. Recording Industry Association of America. 2022年12月20日閲覧。

参考文献

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  • Kent, David (1993). Australian Chart Book 1970-1992. St Ives, N.S.W.: Australian Chart Book. ISBN 0-646-11917-6 
  • Badman, Keith (2001). The Beatles Diary Volume 2: After the Break-Up 1970-2001. Omnibus Press. ISBN 978-0-711-98307-6 
  • Harry, Bill (2004). The Ringo Starr Encyclopedia. London: Virgin Books. ISBN 978-0-7535-0843-5 
  • Whitburn, Joel (2002). Top Adult Contemporary: 1961-2001. Record Research 
  • Blaney, John (2005). John Lennon: Listen to This Book (illustrated ed.). Paper Jukebox. ISBN 978-0-9544528-1-0 
  • “A Space Odyssey”. NME. NME Originals 2 (3). (2005). 
  • Rodriguez, Robert (2010). Fab Four FAQ 2.0: The Beatles' Solo Years, 1970–1980 (illustrated ed.). New York: Backbeat Books. ISBN 978-0-87930-968-8