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エレベーター試験塔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エレベーター試験塔
レンガづくりの街並みの中に円筒ケイの塔が建っています。コンクリート製の外壁がやや土色がかっているのは、まわりの景観に合わせているのでしょうか。
白くてシンプルなデザインの塔です。一番高い所に四角くて横長の窓が開いています。足元に昭和モダン建築の民家があるため、キン未来ふうのタワーとの対比が面白いことになっています。
塔は全体的に円筒ケイ。外壁が螺旋状になっている変わったデザインです。ちん
左:ナショナルリフトタワーイギリスの旗 イギリス  1982年竣工) - 地上高 127.5 m
中央:SOLAÉ日本の旗 日本  2007年竣工) - 地上高 173.0 m
右:ロットヴァイル試験塔ドイツの旗 ドイツ  2017年竣工) - 地上高 246 m

エレベーター試験塔(エレベーターしけんとう、: elevator test tower)とは、エレベーター製造会社がエレベーターの技術研究性能試験を行うことのみを目的として使用する、の形をした研究施設である。エレベーター研究塔(エレベーターけんきゅうとう)ともいう。

概要

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1888年、オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)はアメリカ合衆国ニューヨーク州ヨンカーズニューヨーク市の北隣にある都市)にある自社工場にエレベーター試験塔を完成させた[1]。おそらくはこれが米国で最初のエレベーター試験塔であったと考えられる[1]

高い塔と高層ビルを主とする高層建築物にはエレベーターが不可欠である。1950年代までの世界のエレベーター試験塔は地上高 50 m強というものであったが、1967年に地上高 90 mの日立製作所水戸工場エレベーター研究塔 (Hitachi Test Tower) が日本勝田市(現・ひたちなか市)に登場し、建築物のますますの高層化に対応した。1982年にはイングランドノーサンプトンナショナルリフトタワー(地上高 127.5 m)が登場し、100 m超の時代に入った。その後、100 m超のエレベーター試験塔が世界で幾棟も建てられていったが、50 m前後のものも新たに建てられてはいる[注 1]2009年現代峨山韓国利川市に地上高 205 mの試験塔 (Hyundai Asan Tower) を建てると、これを皮切りに世界のエレベーター試験塔は200 m級の時代に突入してゆく。2010年代後期後半から現在(※2021年時点)までは、200 m級後半の時代である。

また、2010年代後期後半から2020年までは、世界の大手エレベーター・メーカーがこぞって中国本土に世界最大級(200 m級の半ばから後半)のエレベーター試験塔を建設していった時代でもある。2021年時の地上高ランキングで上位 6棟のうち 5棟までが中国本土で新築されており、例外はドイツで新築されたロットヴァイル試験塔のみである。

世界のエレベーター試験塔

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エレベーター試験塔は、ほとんどの場合、特別な名称が付けられていない。例えば、オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)のエレベーター試験塔は、様々な時代に建てられたものがあって、それらのいくつかは未だ現役もしくは現存するにもかかわらず(※4棟まで確認)、どれもが区別なく "Otis Test Tower(オーチス試験塔)" である。上海市にて2018年に竣工した1棟も、完成時に世界一、現在も世界第2位の高さを誇りながら、名称は単なる "Otis Test Tower(オーチス試験塔)" でしかない。そのようなことで、当セクションで用いる名称も、固有名称か通称があるもの以外は多分に説明的名称となっている。

※なお、上記の「エレベーター試験塔の一覧」も下記の記述も、世界のエレベーター試験塔を網羅したものではない。情報の不明瞭なもの、地上高の不明なもの、特筆性の低いものなどは、記述していない。また、特筆性があっても英語版に記述されていないものもある。

日立電梯(中国)有限公司(※日立グループ中国現地法人の一つ)所有。2020年(令和2年)竣工。地上高 273.8 m、地下深度 15.0 m、建物全高 288.8 m。中国広州市に所在。
史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本企業が建てた史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)[注 2]日立グループ史上最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。中国で最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。
  • オーチス試験塔 (Otis Test Tower, Shanghai 2018)
オーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)が所有。2018年竣工。地上高 270 m。中国の上海市に所在。完成当時は史上最も背の高いエレベーター試験塔であった。
G1TOWER
フジテック エレベータ研究塔(2006年竣工)
ティッセンクルップ社が所有。2017年竣工。地上高 246 m。ドイツ南西部の町ロットヴァイル英語版に所在。正式名称は特に無く、メーカー名を冠して単に「ティッセンクルップ試験塔」と呼ばれることもある。ただし、ティッセンクルップ社のエレベーター試験塔はほかに何棟もあるので、こちらの名称では呼び分けに難がある。
日立製作所が所有。2010年(平成22年)竣工。地上高 213.5 m、地下深度 15 m、建物全高 228.5 m。日本の茨城県ひたちなか市に所在。
世界で7番目に背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本で最も背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。日本で9番目に高い塔(2021年時点)。日本企業が建てた2番目に背の高い塔(2021年時点)。
三菱電機が所有。2007年(平成19年)竣工。地上高 173.0 m。日本の愛知県稲沢市に所在。世界で10番目に背の高いエレベーター試験塔(2021年時点)。
  • 日立電梯の上海青浦工場エレベーター研究塔 [7]
日立電梯(上海)有限公司(※日立グループの中国現地法人の一つ)が所有[7]。2010年(平成22年)竣工[7]。地上高 172.6 m[7]。地上32階、地下2階[7]。中国の上海市青浦区にある青浦工業園区に所在[7]。完成当時、中国で最も背の高いエレベーター試験塔であった[7]。正式名称は特に無い。
フジテック所有。2006年11月竣工[10][8]。地上高 170 m[8]。日本の滋賀県彦根市にある同社の拠点「ビッグウィング」の中に所在[8]。正式名称は特に無く、ビッグウィングの「エレベータ研究塔」と呼ばれている[8]。展望台があるものの、通常は非公開[11]
  • オーチス芝山テストタワー
日本オーチス・エレベータ所有。1998年竣工。地上高 154.2 m。日本の千葉県芝山町に所在[12][13]
華昇富士達電梯有限公司(華昇フジテック。フジテックの中国現地法人。)所有[9]。2014年3月竣工[9]。地上高 151 m[14]。中国河北省廊坊市に所在[14]
東芝エレベータ府中工場エレベータ研究塔
フジテック所有。1975年9月竣工[15]。地上高 150 m[15]。往時は世界最大の高さと規模を誇っていた[15]。日本の大阪府茨木市に所在したが、2006年4月に本社が滋賀県彦根市へ移転し、そちらで後継の塔が改正したことを受けて、2008年9月22日から同年12月末までかけて解体された[15]
  • 東芝エレベータ府中工場エレベータ研究塔
東芝エレベータ所有。1997年竣工。地上高 135.65 m。日本の東京都府中市に所在。
エクスプレス・リフト・カンパニー (Express Lift Company) 所有。1982年竣工。地上高 127.5 m。イングランド中東部の都市ノーサンプトンに所在。完成当時は世界一背の高いエレベーター試験塔であった。
  • 日立製作所水戸工場エレベーター研究塔 (Hitachi Test Tower)
日立製作所が所有。1967年竣工。地上高 90 m。茨城県勝田市市毛(現・ひたちなか市市毛。G1TOWERの隣。)に所在。完成当時は規格外の高さを誇る世界一のエレベーター試験塔 "Hitachi Test Tower" として名が通っていた。
  • 日本エレベーター製造埼玉テストタワー
日本エレベーター製造が所有。1968年竣工。地上高 68 m。日本の埼玉県越谷市に所在。

脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、2010年ギリシャキルキスに建てられたクリーマン社 (Kleemannの試験塔 (Kleemann Test Tower) は地上高 61 mであった。2013年に米国サウスカロライナ州フローレンスに建てられたオーチス・ワールドワイド(オーチス・エレベータ・カンパニー)のオーチス試験塔 (Otis Test Tower, Florence, SC) は地上高 46 mであった。
  2. ^ 仮の話として、日本国内で建設されていた場合、塔としての高さは2021年時点で以下の順位になる。第1位:東京スカイツリー(634 m。2012年竣工。東京都墨田区所在。)、第2位:東京タワー(日本電波塔)(332.6 m。1958年竣工。東京都港区所在。)、第3位:明石海峡大橋主塔(298.3 m。兵庫県神戸市と同県淡路市に各1基あり。)、第4位:H1 TOWER(273.8 m。2020年竣工。)。

出典

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  1. ^ a b Gray (2002), p. 171.
  2. ^ 株式会社日立製作所、日立電梯(中国)有限公司 (2020年1月16日). “世界トップクラスの高さを有するエレベーター試験塔「H1 TOWER」が中国・広州の研究開発・製造拠点内に完成 < ニュースリリース”. 日立グループ. 2021年2月14日閲覧。
  3. ^ 288.8米!日立电梯“H1 TOWER”刷新电梯试验塔新高度 < 日立新闻”. 日立电梯(中国)有限公司 (2020年1月17日). 2021年2月14日閲覧。
  4. ^ 日立、中国・広州にエレベーター試験塔を完成」『日本経済新聞日本経済新聞社、2020年1月16日。2021年2月14日閲覧。
  5. ^ 日立電梯、広州にエレベーター試験塔」『NNA ASIA』株式会社エヌ・エヌ・エー、2020年1月17日。2021年2月14日閲覧。
  6. ^ 日立の世界一高い“288.8m”エレベーター試験塔、中国・広州市で完成」『ITmedia News』アイティメディア株式会社、2020年2月12日。2021年2月14日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 株式会社日立製作所、日立電梯(中国)有限公司、日立電梯(上海)有限公司 (2010年5月24日). “中国で最も高い地上高172mのエレベーター研究塔が10月に上海で完成 超高速エレベーターや、高速・大容量のダブルデッキエレベーターなどを開発 < ニュースリリース”. 日立グループ. 2021年2月14日閲覧。
  8. ^ a b c d e 開発から生産までの一貫したモノづくりのコア拠点”. フジテック株式会社. 2021年2月14日閲覧。
  9. ^ a b c d e 沿革”. フジテック株式会社. 2021年2月20日閲覧。
  10. ^ a b フジテックエレベータ研究塔”. 株式会社大林組. 2021年2月20日閲覧。
  11. ^ 宮内禎一「高いタワー、なぜ関西には建たないのか」『NIKKEI STYLE』日本経済新聞社日経BP、2012年3月24日。2021年2月20日閲覧。
  12. ^ 日本オーチス・エレベータ芝山事業所(芝山町)”. 日本経済新聞 (2018年7月4日). 2021年2月15日閲覧。
  13. ^ 日本オーチスが世界一高いエレベーター試験塔を完成”. ASCII.jp (1998年2月18日). 2021年2月15日閲覧。
  14. ^ a b c 富岡恒憲「フジテック、技術開発力強化で中国に新エレベータ研究塔を建設---中国で大規模化する建設需要に対応」『日経クロステック』日本経済新聞社日経BP、2012年4月10日。2021年2月20日閲覧。
  15. ^ a b c d e フジテック「エレベータ研究塔」解体工事のお知らせフィールド拠点「ビッグフィット」再構築に向けて』(プレスリリース)フジテック株式会社、2008年9月5日https://www.fujitec.co.jp/common/fjhp/doc/top/document/announcement/260/080905-1.pdf2021年2月20日閲覧 
  16. ^ フジテック大阪製作所跡地 ライオンズ茨木ニューシティA街区 2013年7月12日の建設状況”. 陽は西から昇る! 関西のプロジェクト探訪 - ココログ (2013年7月15日). 2021年2月20日閲覧。

参考文献

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ISBN 1-886536-46-5, ISBN 978-1-886536-46-3, OCLC 928877827.

関連項目

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外部リンク

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