大淀病院事件
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大淀町立大淀病院事件(おおよどちょうりつおおよどびょういんじけん)とは、2006年8月7日に奈良県大淀町の町立大淀病院で出産中だった32歳の女性が脳出血をおこし、転送先の病院で出産後に死亡したこと。および、それをうけて巻き起こった社会的議論、混乱のこと。
事件の経緯
2006年8月7日、分娩のため奈良県南部にある大淀町立大淀病院に入院。8日午前0時すぎに頭痛を訴えて意識不明となり、主治医は子癇発作と判断し、奈良県立医大病院に受け入れを打診したが満床。その後も各病院に受け入れ能力上、転院を断られたのち国立循環器病センターに転送され午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。妊婦は同月16日に死亡した。
奈良県警は死因となった脳内出血と、担当医が診断した子癇(しかん)発作との判別は困難で、刑事責任を問えないと判断し、刑事事件としての立件を見送った[1]。
遺族は当初民事訴訟はしないと言っていたが、後ほど病院側の対応を不満とし、2007年5月23日に損害賠償を請求する民事訴訟を提起している[2][3]。
医学的見地
この事件のように出産中に脳内出血を起こすのはまれな事例[4]であり、このケースでは即時手術されていたとしても、救命される可能性は低かったとされている。ガイドラインに沿うと、脳出血の昏睡例は手術の適応にならない(推薦グレードD)[5]。
毎日新聞の報道
この一件は、2006年10月17日、毎日新聞奈良支局と同社大阪科学環境部取材班によるスクープ[6]をきっかけに全国に知れ渡ることになった[7]。 この報道で毎日新聞奈良支局は第11回新聞労連ジャーナリスト大賞特別賞、および坂田記念ジャーナリズム賞を受賞した。
毎日新聞奈良支局は2006年10月22日時点で「支局長からの手紙」において「結��的には本紙のスクープになったのですが」「何度足を運んでもミスや責任を認めるコメントは取れませんでした」と、医療訴訟すらおこされていない時点で医療ミスであったと主張している。これに関しては奈良県医師会が医療ミスではなかったとの声明文を発表した[8]。
また、毎日新聞はこの報道を後に「母子救急搬送システムの改善に役立てるため」の報道であったと主張している[9]。しかしこれに関しては、報道との直接因果関係を示すものではないが、後に大淀病院が産科を閉鎖するだけでなく、奈良県南部から産科が消滅することになり、大淀町が「(事件の影響で)県南部は産科医療の崩壊に至っている」と言及されるまでになっている[10]。なお2008年12月時点で、厚労省の調査では、15~49歳の女子人口10万人当たりの産婦人科・産科の医師数は、奈良県では26.4人と、全国で最少となっている[11]。
その後も受け入れ先がなかなか見つからなかった事がマスコミ報道の焦点となったが、実際には転院を断った病院も受け入れ先を探すべく努力していたことが明らかになっている[12]。だがマスコミ報道ではその後も「たらい回し」という用語が使われ続けている。
1年後の妊婦の事故
この事故から、約1年後(2007年8月29日)の事故。奈良県橿原市の妊娠数ヶ月の女性が、深夜、スーパーマーケットで腹痛を訴え、救急車で搬送された。中和広域消防本部が搬送先の病院を探したが、奈良県立医科大学附属病院など奈良県と大阪府の9病院に断られ、通報から1時間35分後に大阪府高槻市の高槻病院に搬送が決まったが搬送途中に女性が破水、さらに破水後に救急車が交通事故を起こし、別の救急車に乗り換え救急車内で流産。病院に到着するのに3時間も時間を要す結果となった。[13]
事故後の聞き取り調査により、中和広域消防本部と所属の救命士と奈良県立医大病院の意思疎通のずさんさが明らかになり[14]、舛添要一厚生労働大臣が荒井正吾奈良県知事を呼び、産婦人科体制の整備を要請した。[15]
ただし、今回の事故に関しては、
- 妊婦の年齢・妊娠時期に関して、報道が錯綜しているため二転三転している。
- 当初は「36歳、妊娠3ヶ月」と報道、後に「38歳、妊娠7ヶ月」と修正されている(妊娠時期については、「20週」などの報道もある)。
- この妊婦は、以前にも流産している。
- 妊婦健診を受けていない(かかりつけ医がいない)。
と一部メディアで報道されており妊婦側にも問題があったことがうかがえる。[16]
札幌南二条産科婦人科の院長は、
と、述べた(STV『どさんこワイド180』2007年9月4日より)。
なお、通報した人物は「(一緒にいた)男性」と報道されている。
Wikipediaへの誤記載と民事訴訟書面での引用
本項目では2007年6月15日 (金) 05:42 (UTC)(差分)以降「検察」による立件断念、及び2009年10月12日 (月) 07:53 (UTC)(差分)以降「遺族が申し立てて検察審査会が不起訴不当議決されたことを受けて検察が再捜査をしたが、2008年11月26日に再度不起訴処分とした」と書かれていた。しかし、前者は実際には県警による立件断念、後者は奈良県で発生した全く別の事件の記述を混同して記述したものであった[17]。
遺族による損害賠償請求訴訟において、被告大淀町側の訴訟代理人である弁護士が上記記述の内容をそのまま準備書面に記載して裁判所に提出し、口頭弁論において原告遺族側から誤りが指摘された[18][19]。
関連項目
文献
- ^ 「奈良妊婦死亡:転送先探し難航の末、立件は見送り」『毎日新聞』2007年2月2日。
- ^ 中日新聞2007年5月24日
- ^ 共同通信「遺族は責任を転嫁」 妊婦死亡で町が争う姿勢(2007/06/25 08:47)
- ^ BT Bateman らの報告[1]によると、妊娠に関連した脳内出血の発症率は、分娩10万に対し6.1とされる
- ^ http://www.jsts.gr.jp/guideline/114-118.pdf
- ^ 「病院受け入れ拒否:意識不明、6時間“放置” 妊婦転送で奈良18病院、脳内出血死亡」 (2006.10.17 毎日新聞大阪朝刊)
- ^ http://www.47news.jp/CN/200610/CN2006101701000363.html 共同通信 処置遅れて出産後に死亡 奈良の妊婦、転送拒否続き 2006/10/17 04:26]
- ^ 朝日新聞、共同通信2006年10月19日
- ^ 毎日新聞 2006年12月18日 支局長からの手紙 および まいまい倶楽部2006年10月26日
- ^ 「遺族は責任を転嫁」 妊婦死亡で町が争う姿勢 (共同通信 2007.6.25)
- ^ 平成20年(2008)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 (厚生労働省)
- ^ 2006年10月23日新聞
- ^ 「36歳妊婦、9カ所病院たらい回しで流産」 日刊スポーツ 2007年8月30日
- ^ 「「わからぬ」会見2度中断、奈良県の危機管理意識薄く」 読売新聞 2007年8月30日
- ^ 「舛添厚労相、奈良県に産科の受け入れ体制整備を要請」 読売新聞 2007年9月3日
- ^ 「奈良、札幌の受け入れ拒否 「受診しない妊婦にも責任」 出産費用未払い背景」北海道新聞 2007年9月7日
- ^ 産経新聞2008年11月26日記事
- ^ http://www.asahi.com/national/update/1222/OSK200912210168.html ウィキペディア丸写しで書面間違い 妊婦死亡訴訟で町側 asahi.com2009年12月22日 2009年12月22日閲覧
- ^ 「奈良・妊婦転送死亡:賠償訴訟 被告側弁護士がミス 誤記準備書面を提出 /奈良」 毎日jp、2009年12月22日。