洗濯
洗濯(せんたく、英: laundry[1])とは、衣類などについた汚れを洗い落とすこと[1]。機械的作用と化学的作用を利用して衣類などの布地を洗うこと[2]。
概説
一般家庭における洗濯は一般に、(まず一度洗濯表示の確認をした後に)浸水、洗い、すすぎ、脱水、乾燥、(アイロンがけ)、折りたたみ、収納、という過程を経る。洗濯することを職業としている人々もいる。専門の業種は「クリーニング業」と呼ばれる。界面活性剤による洗濯のほか、ドライクリーニングなどの手法を用いて洗浄する。業者による洗濯の過程には、一般家庭同様の「浸水、洗い、すすぎ、脱水、乾燥、アイロンがけ」の他にも「ネーム付け」「プレス」「検査」「包装」などがある。
洗濯は歴史上長きにわたり、女性の家事労働のなかでもかなり大きな部分を占めるような大変な作業だったが、(20世紀の)電気洗濯機の普及や化学繊維や新しいタイプの洗剤の出現などにより、(先進国では)洗濯に費やす時間と労力は相当に削減できるようになった[1]。
水中でわたを打つ漂(洗濯)を仕事とする人を漂母と呼び、水でふやけた皺を漂母皮と呼ぶ[3][4]。安土桃山時代では洗濯士という職人が現れ、江戸時代に入ると染物を行う紺屋から独立して洗い物を行う江戸では洗濁屋、京都では洗い物屋という専業の洗濯業者が現れた[5]。英語圏では、洗濯に従事する女性をWasherwomanという。
- 現代のさまざまな洗濯
歴史
古代
洗濯や洗浄剤に関する歴史(つまり文字による記録)は四大文明(メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・中国文明)の黎明期には既にあり、特に古代オリエントには多くの記録が発見されている[2]。
古代、人々は水辺に住んでその水を利用して洗濯していた[2]。一方、水の乏しい地域では砂でもんで洗濯をしていた[2]。古代エジプトや古代ギリシャでは洗濯方法は踏み洗いが一般的だった[2]。古代エジプトでは洗濯は水中の2本の足の象形文字(ヒエログリフ)で表現された[2]。また、古代ギリシャの叙事詩オデッセイには王女ナウシカアーが川で踏み洗いをする記述がある[2]。日本の平安時代末期の扇面古写経にも洗濯の様子が描かれており、日本でも踏み洗いが一般的だったことが判る[2]。なお日本の『万葉集』(7世紀後半-8世紀後半)には「ときあらい」という言葉があり、日本では着物をほどいて洗う方法も行われていた[2]。
紀元前5000年頃には洗浄剤が使用されるようになった[2]。紀元前3000年頃のエジプトでは湖水から得られる天然炭酸ソーダが利用された[2]。
紀元前3000年頃からは、洗浄剤として灰を溶かした灰汁が利用されるようになり、19世紀後半まで最も一般的な洗浄剤だった[2]。日本でも『古事記』の「さねかずら」、『万葉集』の「さなかづら」や「さいかち」など植物の浸出液を洗濯に使っており、平安時代には灰汁も使われるようになった[2]。
また重曹やアンモニアが溶けて弱アルカリ性となった水は、汚れの皮脂成分の脂肪酸と反応して水溶性の鹸化物質となり汚れが落ちる。古代ローマでは回収して発酵させた尿を使って洗濯する業者がいたことが知られている[注 1]。またフラー土やモンモリロナイトなど油を吸着する性質の泥や土も用いられた。
なお、冷水よりも温水のほうが汚れ落ちの効果が高いことは「古く??[いつ?]」から知られていた[2]。(正確性)「" 最初[要検証 ] " の " 洗濯条件 " の改良は湯の使用」と某研究者は主張した。(時代が跳んで平安期、西暦9世紀後半-10世紀ころの『枕草子』にも湯による洗濯の記述がある[2]。)
中世〜近世
中世になるとヨーロッパでは湯沸かし、洗濯槽、たたき洗いに使用する石、洗濯板などを備えた共同の洗濯場が設置されるようになった[2]。一週間のうち主に月曜日が「洗濯日」とされ、洗濯は社会的行事であった[2]。(イギリス、ドイツなど伝染病が広がった歴史のある地域では)都市部の家庭の女性が自宅内で洗濯する場合は、かまどで煮沸しつつ棒でかきまわしつつ洗濯したり、あるいは床においた金属製のタライに水と洗濯物を入れ、手で洗ったり足で踏んで、きれいな水ですすぐ、などといった方法が一般的だった。パリのセーヌ川は何世紀もの間、公共の洗濯場として使われ、18世紀から19世紀にかけては女性の職場としての機能を果たしていた[6]。パリの洗濯店「ラヴォワール」(洗濯場の意)はそれまで家事として行われていた洗濯をプロによる職業として特化させたものだった[注 2]。
近現代
1930年代のアメリカでは一般家庭に電気と水道が供給されるようになり、電気洗濯機が普及した[2]。先進国では洗濯機の普及とともに粉末の合成洗剤も使われるようになった。
家庭の洗濯用品
- 洗浄のための機械・道具類
- 洗浄剤、柔軟剤、ノリなど
- 乾燥のための道具類
- しわのばし
- 砧(きぬた) ‐ 生乾きの状態の洗濯物を棒や槌で伸ばす道具。
- 衣類スチーマー
- アイロン、火熨斗(ひのし)、炭火アイロン ‐ 鍋やこて形で、中に炭火や燠を入れて、衣類を熱しながら、しわを伸ばす方法が取られた[11][8]。
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洗剤(近年は液状が一般的)、漂白剤、柔軟剤など
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砥石の上に置かれる皺伸ばしようの砧
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煮洗い用の鍋Wash copperでかき混ぜるために使用されたPosser
業者による洗濯
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1944年、イギリス、ロンドン近郊キャットフォードの洗濯業者
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現代の産業的な洗濯業者(洗濯工場)の例。飲食業界の洗濯物を引き受けている洗濯業者、病院のリネン類の洗濯ばかりを引き受ける洗濯業者...など業種の棲み分けをしていることも。
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乾燥後、ベルトコンベアーから次々と落ちてくる洗濯物を受け止めている洗濯業者。
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現代の洗濯工場の乾燥機から落ちてくる洗濯物
比喩
「洗濯」という表現は、たとえば以下のように、比喩的にも使われる。
脚注
注釈
- ^ 排出されたばかりの尿にアンモニアは含まれないが、体外では土中の細菌などによってアンモニアに分解される。“「尿を使って衣服を洗濯していた」など現代では想像できない古代ローマのトイレ事情とは?”. GIGAZINE (2018年4月5日). 2018年11月12日閲覧。
- ^ 「洗濯婦」の同義語として、«lavandière≫, ≪laveuse≫, ≪buandière≫, ≪blanchisseuse»という言い回しがある。
- ^ 所在地は5区ヌーヴ・サン=メダール通り(現グラシエーズ通り)。
出典
- ^ a b c コトバンク
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 二宮健一「洗浄と清潔の歴史概観」『繊維製品消費科学』第37巻第6号、日本繊維製品消費科学会、1996年、292-299頁、doi:10.11419/senshoshi1960.37.292、2020年7月23日閲覧。
- ^ 「漂母」 。
- ^ 「水死」 。
- ^ 「洗濁屋」 。
- ^ versalita, Caminade (2005). Éditions Christian. ed. Linge, lessive, lavoir – une histoire de femmes. París. ISBN 2-8649-6131-8
- ^ a b Louis Figuier著、Les merveilles de l'industrie, Tome 3 (1875)より
- ^ a b “デジタルミュージアム「昔のくらしと道具」”. www.city.tome.miyagi.jp. 2023年10月4日閲覧。
- ^ 国立国会図書館. “江戸時代、洗濯に石鹸と洗濯板を使用したか。”. レファレンス協同データベース. 2023年10月4日閲覧。
- ^ “「尿を使って衣服を洗濯していた」など現代では想像できない古代ローマのトイレ事情とは? - GIGAZINE”. gigazine.net (2018年4月5日). 2023年10月4日閲覧。
- ^ 「火熨斗」 。
- ^ 三省堂 2002『何でもわかる日本語便利帳』 p.341
- ^ 山口鍾一 · 2005 『心の洗濯: 新潟県の四季素人の写真集』
- ^ アルボムッレ・スマナサーラ 、2008『こころの洗濯』
- ^ 『東洋の知恵・内観: こころの洗濯法』1985