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「朝鮮語の音韻」の版間の差分

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{{複数の問題
'''朝鮮語の音韻'''(ちょうせんごのおんいん)では、現代韓国標準語を中心に、地方変種や中期朝鮮語にも言及しつつ朝鮮語の音韻に関して記述する。
| 出典の明記 = 2021年2月
| 更新 = 2021年2月
}}
'''朝鮮語の音韻'''(ちょうせんごのおんいん)では、[[朝鮮語|韓国語・朝鮮語]]のうち[[大韓民国]]の標準語(以下「南の標準語」)の音韻に関して記述する。必要に応じて[[朝鮮民主主義人民共和国]]の標準語(「[[文化語 (朝鮮語)|文化語]]」、以下「北の標準語」)の音韻に関して補う。


標準語の発音は南北ともに条文化された規範によって規定されている。その意味では、標準語の発音とは手本となるべき一種の「理想音」と言うことができる。しかしながら、実質的には南の標準語の発音は[[ソウル特別市|ソウル]]の発音に基づき、北の標準語の発音は[[平壌直轄市|平壌]]の発音に基づいている。
== 音節構造 ==
朝鮮語の[[音節]]は(C)V(C)の構造を持つ。ここで、Cは[[子音]]、Vは[[母音]]である。[[ハングル]]による表記では、CVCCのように書かれることがあるが、実際には音節末の子音は2つのうちどちらか1つしか発音されない。伝統的に音節頭子音を[[初声]]、母音を[[中声]]、音節末子音を[[終声]]という。終声を[[パッチム]]({{lang|ko|받침}})ともいう。パッチムは「支え」という意味の朝鮮語である。ハングルによって朝鮮語を表記した場合、一つの音節を表す方形の文字の底の部分に終声が来るためこれをパッチムと呼ぶのである。


== 音 ==
== 音 ==
=== 母音 ===
下の表に示すように朝鮮語の[[本土方言]]は基本的に{{ipa|a}}, {{ipa|ɛ}}, {{ipa|e}}, {{ipa|i}}, {{ipa|ɔ}}, {{ipa|o}}, {{ipa|u}}, {{ipa|ɯ}}の八つの母音を持つ。
==== 単母音 ====
[[画像:Korean_vowels.png|frame|'''【図1】'''朝鮮語の母音音素と実際の音声。{{lang|ko|이호영}}(1996)に基づく。]]
標準語における単母音の[[音素]]は以下の10種類である。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
!音素
!
!代表的な音声
! align="center" |[[前舌母音|前舌]]
!例
! align="center" |[[中舌母音|中舌]]
! align="center" |[[後舌母音|後舌]]
|-
|-
! align="left"|[[狭母音|狭]]
align=""||
| align="center"|{{IPA|i}}
|{{IPA|}}
|{{lang|ko|아이}} {{ipa|ai}} {{IPA|ai}} (子ども)
|
| align="center"|{{IPA|ɯ}}, {{IPA|u}}
|-
|-
! align="left"|[[半狭母音|半狭]]
align=""||
| align="center"|{{IPA|e}}
|{{IPA|}}
|{{lang|ko|어디}} {{ipa|ɔdi}} {{IPA|ɔdi}} (どこ)
|
| align="center"|{{IPA|o}}
|-
|-
! align="left"|[[半広母音|半広]]
align=""||
| align="center"|{{IPA|ɛ}}
|{{IPA|}}
|{{lang|ko|오이}} {{ipa|oi}} {{IPA|oi}} (きゅうり)
|
| align="center"|{{IPA|ɔ}}
|-
|-
! align="left"|[[広母音|広]]
align=""||
|{{IPA|u}}
|
|{{lang|ko|우리}} {{ipa|uri}} {{IPA|uɾi}} (我々)
| align="center"|{{IPA|a}}
|
|
| align="center"|{{lang|ko|ㅡ}} {{ipa|ɯ}}
|{{IPA|ɯ}}
|{{lang|ko|그}} {{ipa|gɯ}} {{IPA|kɯ}} (その)
|-
| align="center"|{{lang|ko|ㅣ}} {{ipa|i}}
|{{IPA|i}}
|{{lang|ko|이마}} {{ipa|ima}} {{IPA|ima}} (ひたい)
|-
| align="center"|{{lang|ko|ㅐ}} {{ipa|ɛ}}
|{{IPA|ɛ}}
|{{lang|ko|해}} {{ipa|hɛ}} {{IPA|hɛ}} (太陽)
|-
| align="center"|{{lang|ko|ㅔ}} {{ipa|e}}
|{{IPA|e}}
|{{lang|ko|누에}} {{ipa|nue}} {{IPA|nue}} (蚕)
|-
| align="center"|{{lang|ko|ㅚ}} {{ipa|ö}}
|{{IPA|ø}}
|{{lang|ko|쇠}} {{ipa|sö}} {{IPA|sø}} (鉄)
|-
| align="center"|{{lang|ko|ㅟ}} {{ipa|ü}}
|{{IPA|y}}
|{{lang|ko|위}} {{ipa|ü}} {{IPA|y}} (上)
|}
|}


:<span style="font-size:90%;">【注】{{ipa| }} は音素表記、{{IPA| }} は[[国際音声記号]]による音声表記を表す(以下同じ)。なお、音素表記は本項目独自のものであるため必ずしも一般的ではない。</span>
[[ソウル方言]]では{{ipa|e}}と{{ipa|ɛ}}の区別がほぼ失われ、{{ipa|e}}という一つの音韻に同化した。この変化は慶尚道方言に始まり、北上してソウルを含む中部方言にまで伝播した。[[済州方言]]においては{{ipa|o}}と{{ipa|ɔ}}の同化が進んでおり、また北朝鮮の[[平安道方言]]では{{ipa|e}}と{{ipa|ɛ}}、{{ipa|o}}と{{ipa|ɔ}}、{{ipa|u}}と{{ipa|ɯ}}の同化が進んでいるといわれている。また、地域によっては{{ipa|y, ø}}の[[音韻]]が存在する場合もある。これらは他の地域においては{{ipa|wi, we}}となる。


それぞれの音素について、より厳密には以下の通りである。
{{ipa|ɯ}}は{{ipa|ɨ}}と表記されることもある。{{IPA|ɯ}}も{{IPA|ɨ}}も[[非円唇母音|非円唇]]の[[狭母音]]であり、違いは[[後舌]]であるか[[中舌]]であるかである。


* {{ipa|a}} は中舌寄りの {{IPA|ɐ}} である。
朝鮮語の[[長母音]]は第一音節のみに現れる。現代[[ソウル方言]]ではその弁別的機能は失われつつある。
* {{ipa|ɔ}} はソウル方言では唇の丸めがより弱い {{IPA|ɞ}} であり、平壌方言では唇の丸めがより強い {{IPA|ɔ}} である。


韓国ではほぼ全域において、老年層を除き {{ipa|ɛ}}(広い「エ」)と {{ipa|e}}(狭い「エ」)の区別が失われ、ともに同一の音で発音される。その音声は {{IPA|ɛ}} と {{IPA|e}} の中間音で、[[日本語]]の {{ipa|e}} (エ)に近い('''【図1】'''の「1」参照)。また、ソウル方言、平壌方言ともに {{ipa|ö}}、{{ipa|ü}} が存在しない。これらの方言では通常、{{ipa|ö}} は {{IPA|we}} (平壌方言では {{IPA|wɛ}})で現れ、{{ipa|ü}} は {{IPA|wi}} で現れる。従って、現代の非老年層におけるソウル方言では、単母音は最も少ない話者で7種類({{ipa|a,ɔ,o,u,ɯ,i,e}})となっている。
朝鮮語における[[二重母音]]には上昇二重母音{{ipa|ja, ju, je, jɔ, jo, wa, wi, we, ɯi}}などがある。{{ipa|ai, ei, oi, au}}などはそれぞれの母音がほぼ等しい長さと強さで発音されるため、(下降)二重母音とはみなされず、単純に[[短母音]]の連続(連母音)とみなされる。


== 母音調和 ==
== 母音 ==
[[長母音]]は単語の第1音節にのみ現れる。ソウル方言の場合、老年層は母音の長短によって単語の意味を区別しうるが、非老年層は母音の長短の区別がなく、おしなべて短母音で現れる。
[[中期朝鮮語]]には[[母音調和]]の規則が存在したが、現代語にはその痕跡が残るのみである。

*{{lang|ko|눈}} {{ipa|nun}} (目) ― {{lang|ko|눈}} {{ipa|nuːn}} (雪)
*{{lang|ko|새}} {{ipa|sɛ}} (新しい) ― {{lang|ko|새}} {{ipa|sɛː}} (鳥)
*{{lang|ko|밤}} {{ipa|pam}} (夜) ― {{lang|ko|밤}} {{ipa|paːm}} (栗)
*{{lang|ko|발}} {{ipa|pal}} (足) ― {{lang|ko|발}} {{ipa|paːl}} (簾)
*{{lang|ko|말}} {{ipa|mal}} (馬または枡、斗) ― {{lang|ko|말}} {{ipa|maːl}} (言葉、言語)
*{{lang|ko|적다}} {{ipa|tɕɔk̚t'a}} (書く) ― {{lang|ko|적다}} {{ipa|tɕɔːk̚t'a}} (少ない)
*{{lang|ko|의사}} {{ipa|ɯisa}} (議事または医師) ― {{lang|ko|의사}} {{ipa|ɯiːsa}} (意思または義士)

なお、老年層におけるソウル方言の場合、{{ipa|ɔ}} の長母音の音声は {{IPA|əː}} で現れ、短母音の場合と異なる音声で現れるのが特徴である('''【図1】'''の「2」参照)。

*{{lang|ko|어른}} {{ipa|ɔːrɯn}} {{IPA|əːɾɯn}} (大人)


==== 半母音と二重母音 ====
中期朝鮮語の母音は'''陽母音'''{{ipa|a, ɛ, o, ʌ}}と'''陰母音'''{{ipa|ə, e, u, ɯ}}、'''中性母音'''{{ipa|i}}に分かれ、外来語を除く朝鮮語本来の[[固有語]]は'''「陽母音と陰母音は同じ単語内に現れない」'''という[[母音調和]]の規則に縛られる。つまり、陽母音を含む単語は陽母音と中性母音のみを含むことができ、陰母音を含む単語は陰母音と中性母音のみを含むことができる。
朝鮮語には {{ipa|y}} {{IPA|j}} と {{ipa|w}} {{IPA|w}} 2つの[[半母音]]がある。研究者によっては半母音を認めず、半母音と単母音の結合を[[二重母音]](上昇二重母音)と見なす場合もある。


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
! align="left"|陽母音
!母音
| align="center"|{{lang|ko|ㅏ}}{{ipa|a}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅏ}}{{ipa|a}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|ɛ}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅗ}}{{ipa|o}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅗ}}{{ipa|o}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|ʌ}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center" rowspan="2"|{{lang|ko|}}{{ipa|i}}
| align="center" =""|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center" width="50"|{{lang|ko|ㅣ}}<br />{{ipa|i}}
| align="center" width="50"|{{lang|ko|ㅐ}}<br />{{ipa|ɛ}}
| align="center" width="50"|{{lang|ko|ㅔ}}<br />{{ipa|e}}
| align="center" width="50"|{{lang|ko|ㅚ}}<br />{{ipa|ö}}
| align="center" width="50"|{{lang|ko|ㅟ}}<br />{{ipa|ü}}
|-
|-
! align="left"|母音
!|母音
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|ə}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|e}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|u}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|ɯ}}
| align="center"|{{lang|ko|}}{{ipa|}}
| align="center"|
| align="center"|
| align="center"|{{lang|ko|ㅒ}}<br />{{ipa|yɛ}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅖ}}<br />{{ipa|ye}}
| align="center"|
| align="center"|
|-
!{{ipa|w}}+母音
| align="center"|{{lang|ko|ㅘ}}<br />{{ipa|wa}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅝ}}<br />{{ipa|wɔ}}
| align="center"|
| align="center"|
| align="center"|
| align="center"|({{lang|ko|ㅟ}})<br />({{ipa|wi}})
| align="center"|{{lang|ko|ㅙ}}<br />{{ipa|wɛ}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅞ}}<br />{{ipa|we}}
| align="center"|
| align="center"|
|}
|}


{{ipa|ɯi}} という音の連続は「半母音+単母音」と見ず、二重母音と見なす見解が一般的である。しかしながら、{{ipa|ɯi}} はソウル方言では単母音化して {{ipa|ɯ}}(語頭で) あるいは {{ipa|i}}(非語頭で) と現れる場合が多い。
上の表のように{{ipa|a}}と{{ipa|ə}}、{{ipa|ɛ}}と{{ipa|e}}、{{ipa|o}}と{{ipa|u}}、{{ipa|ʌ}}と{{ipa|ɯ}}がそれぞれ対をなす。[[アルタイ諸語]]でそうであるように、中期朝鮮語における母音調和は形態素内のみにとどまらずその形態素に付属する語尾にまで及んだ。例えば主題の助詞は{{ipa|nʌn~nɯn}}、対格助詞は{{ipa|lʌl~lɯl}}という交替形を持っており、陽母音からなる名詞には{{ipa|nʌn}}, {{ipa|lʌl}}が、陰母音からなる名詞には{{ipa|nɯn}}, {{ipa|lɯl}}が後続した。


*{{lang|ko|의사}} {{ipa|ɯisa}} (医者)― ソウル方言 {{ipa|ɯsa}}
現代朝鮮語に残る母音調和の痕跡としては以下のようなものがある。
*{{lang|ko|예의}} {{ipa|yeɯi}} (礼儀)― ソウル方言 {{ipa|yei}}


=== 子音 ===
[[色彩形容詞]]は母音の陰陽の違によるペアを持つ。陽母音を含む色彩形容詞はその色に対する話者の肯定的、もしくは中立的なニュアンスを含み、陰母音を含む色彩形容詞は否定的なニュアンスを含む。
標準語における子音音素は全部で19種類ある。


==== 初声 ====
*{{lang|ko|빨갛다 / 뻘겋다}} 赤い
音節頭の位置にある子音を'''初声'''と呼ぶ。19種類の子音全てが初声の位置に来ることができる。
*{{lang|ko|파랗다 / 퍼렇다}} 青い
*{{lang|ko|노랗다 / 누렇다}} 黄色い


{| class="wikitable"
また、[[オノマトペ]]([[擬態語]]、[[擬音語]])も母音の陰陽の違によるペアを持つ。陽母音を含むオノマトペが明るく、小さく、軽快なニュアンスを含むのに対し陰母音を含むオノマトペは暗く、大きく、鈍重なニュアンスを含む。
! rowspan="2" colspan="2"|
! rowspan="2" width="70"|両唇音
! colspan="2"|歯茎音
! rowspan="2" width="70"|硬口蓋音
! rowspan="2" width="70"|軟口蓋音
! rowspan="2" width="70"|声門音
|-
! width="70"|閉鎖音
! width="70"|摩擦音
|-
! rowspan="3" |阻<br />害<br />音
!平音
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅂ]]}} {{ipa|b}}<br />{{IPA|p}}
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄷ]]}} {{ipa|d}}<br />{{IPA|t}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |{{lang|ko|[[ㅅ]]}} {{ipa|s}}<br />{{IPA|s~ɕ}}<ref>[[異音|条件異音]]であり、/i/, /y/の前では[ɕ]、それ以外では[s]となる。</ref>
| align="center" style="background-color:#FFF" |{{lang|ko|[[ㅈ]]}} {{ipa|j}}<br />{{IPA|ʨ}}
| align="center" style="background-color:#CFD" |{{lang|ko|[[ㄱ]]}} {{ipa|g}}<br />{{IPA|k}}
| align="center" style="background-color:#CCC" |
|-
!濃音
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅃ]]}} {{ipa|β}}<br />{{IPA|p&#700;}}
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄸ]]}} {{ipa|δ}}<br />{{IPA|t&#700;}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |{{lang|ko|[[ㅆ]]}} {{ipa|σ}}<br />{{IPA|s&#700;~ɕ&#700;}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |{{lang|ko|[[ㅉ]]}} {{ipa|ζ}}<br />{{IPA|ʨ&#700;}}
| align="center" style="background-color:#CFD" |{{lang|ko|[[ㄲ]]}} {{ipa|γ}}<br />{{IPA|k&#700;}}
| align="center" style="background-color:#CCC" |
|-
!激音
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅍ]]}} {{ipa|p}}<br />{{IPA|pʰ}}
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㅌ]]}} {{ipa|t}}<br />{{IPA|tʰ}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |
| align="center" style="background-color:#FFF" |{{lang|ko|[[ㅊ]]}} {{ipa|c}}<br />{{IPA|ʨʰ}}
| align="center" style="background-color:#CFD" |{{lang|ko|[[ㅋ]]}} {{ipa|k}}<br />{{IPA|kʰ}}
| align="center" style="background-color:#CCC" |{{lang|ko|[[ㅎ]]}} {{ipa|h}}<br />{{IPA|h}}
|-
! colspan="2" |鼻音
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅁ]]}} {{ipa|m}}<br />{{IPA|m}}
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄴ]]}} {{ipa|n}}<br />{{IPA|n}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |
| align="center" style="background-color:#FFF" |
| align="center" style="background-color:#CFD" |
| align="center" style="background-color:#CCC" |{{lang|ko|[[ㅇ]]}}<br />&oslash;
|-
! colspan="2" |流音
| align="center" style="background-color:#EFC" |
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄹ]]}} {{ipa|r}}<br />{{IPA|ɾ~l}}
| align="center" style="background-color:#FFF" |
| align="center" style="background-color:#FFF" |
| align="center" style="background-color:#CFD" |
| align="center" style="background-color:#CCC" |
|}


朝鮮語の[[阻害音]]は[[無声音]]/[[有声音]]の対立が音韻論的意味を持たない。すなわち朝鮮語話者は[[無声音]]/[[有声音]]の区別がなく、ともに同一の音と認識する(それゆえに、例えば、日本語の「きんかくじ」と「ぎんかくじ」は朝鮮語話者にとっては同一の単語に聞こえ、その区別が極めて困難である{{要出典|date=2013年2月}})。その一方で、朝鮮語には平音/[[激音]]/[[濃音]]という対立がある。これらの音は呼気の強さや喉の緊張の度合いによって相互に異なる音と認識される。
*{{lang|ko|활활 / 훨훨}} 空を飛ぶ様子(ひらひら/バサバサ)
*{{lang|ko|팡팡 / 펑펑}} 水がほとばしる様子


'''平音'''は気音を伴わず、また喉の緊張も伴わない音である。{{ipa|s}} を除く平音 {{ipa|b,d,j,g}} は有声音間(すなわち母音―母音間、鼻音―母音間、流音―母音間のいずれか)で[[有声音|有声]][[無気音]]、それ以外の環境(具体的には語頭)で[[無声音|無声]]無気音(話者によっては弱い気音を伴いうる)として現れる。
このように、陽母音と陰母音によって対をなす言葉のうち、陽母音を含むものを'''{{lang|ko|작은말}}'''(直訳:小さい言葉)、陰母音を含むものを'''{{lang|ko|큰말}}'''(直訳:大きい言葉)と呼ぶ。


*{{lang|ko|비누}} {{ipa|binu}} {{IPA|pinu}} (石鹸) ― {{lang|ko|나비}} {{ipa|nabi}} {{IPA|nabi}} (蝶)
現代朝鮮語において、母音調和による語尾の異形態は{{lang|ko|아}}{{ipa|a}}~{{lang|ko|어}}{{ipa|ɔ}}の交替にしか見られない。すなわち、連用形を形成するこの語尾が、陽母音語幹動詞に付属する場合には{{lang|ko|아}}{{ipa|a}}が現れ、陰母音・中性母音語幹動詞に付属する場合には{{lang|ko|어}}{{ipa|ɔ}}が現れるのである。現代語の口語においては「{{lang|ko|알아}}」(分かってる)というべきところを「{{lang|ko|알어}}」というなど、この異形態さえ中和される傾向がわずかだが存在する。


{{ipa|s}} は有声音間にあっても常に無声音として現れる。また、{{ipa|s}} は母音 {{ipa|i}}({{ipa|y}} を含む)の直前では {{IPA|ɕ}} (日本語のシャ行子音と同じ)で現れる。なお、{{ipa|s}} は一般的に平音に分類されるが、これを激音(下述)に分類する研究者もある。
== 子音 ==

{| border="2" cellpadding="4" cellspacing="0" style="margin: 1em 1em 1em 0; background: #f9f9f9; border: 1px #aaa solid; border-collapse: collapse;text-align: center;"
*{{lang|ko|가수}} {{ipa|gasu}} {{IPA|kasu}} (歌手)
|+ '''音韻体系'''
*{{lang|ko|가시}} {{ipa|gasi}} {{IPA|kaɕi}} (とげ)
| colspan="2" |

|[[両唇音|両唇]]
'''激音''' {{ipa|p,t,c,k}} は強い気音を伴った音であり、いかなる位置においても[[無声音|無声]][[有気音]]として現れる。[[中国語]]における有気音と同じ性質の音である。
|[[歯茎音|歯茎]]

|[[歯茎硬口蓋音|歯茎硬口蓋]]
*{{lang|ko|도토리}} {{ipa|dotori}} {{IPA|totʰoɾi}} (どんぐり)
|[[軟口蓋音|軟口蓋]]

|[[声門音|声門]]
激音 {{ipa|h}} は有声音間にある場合には有声音化し {{IPA|ɦ}} と現れ、場合によっては無音のように聞こえることもある。有声音化するという特性から、これを平音に分類する研究者もある。
|-

| ROWSPAN="3"| [[破裂音]]
| [[平音]] || {{lang|ko|}} {{ipa|p}} || {{lang|ko|ㄷ}} {{ipa|t}} || {{lang|ko|ㅈ}} {{ipa|ʨ}} || {{lang|ko|ㄱ}} {{ipa|k}} ||
{{lang|ko|}} {{ipa|}} {{|}}

'''濃音'''は喉頭の緊張を伴った[[無声音|無声]][[無気音]]である。[[国際音声記号]]ではこの音を表示する記号がなく、[[声門破裂音|声門閉鎖音]]を表す {{IPA|<sup>ʔ</sup>}} を子音記号の左肩に附したり、[[放出音]]を表す {{IPA|&#700;}} を用いたりといった形で記号を代用する場合が多い。また、音声学の論文等では {{IPA|p#}} や {{IPA|p*}} などの表記も散見される。無気音を表す {{IPA|˭}} や強い調音を表す拡張IPAである {{IPA| ͈}} が使われることもある。

*{{lang|ko|꼬리}} {{ipa|γori}} {{IPA|k&#700;oɾi}} (しっぽ)

濃音 {{ipa|σ}} は平音 {{ipa|s}} の場合と同様に、母音 {{ipa|i}}({{ipa|y}} を含む)の直前で {{IPA|ɕ&#700;}} で現れる。

*{{lang|ko|김씨}} {{ipa|gimσi}} {{IPA|kimɕ&#700;i}} (金氏)

'''鼻音'''は {{ipa|m,n,ŋ}} 3種類があるが、{{ipa|ŋ}} は語頭に立たない。

'''流音''' {{ipa|r}} は音節頭の位置では通常[[はじき音]] {{IPA|ɾ}} で現れるが、音節末音 {{ipa|r}} の直後に現れる音節頭の /r/ は {{IPA|l}} として現れる。

*{{lang|ko|물리}} {{ipa|murri}} {{IPA|mulli}} (物理)

平壌方言では {{ipa|j,c,ζ}} が歯茎硬口蓋音 {{IPA|ʨ/ʥ}}, {{IPA|ʨʰ}},{{IPA|ʨ&#700;}} ではなく歯茎破擦音 {{IPA|ʦ/ʣ}}, {{IPA|ʦʰ}},{{IPA|ʦ&#700;}} で現れることがある。また、このような発音はソウル方言でも見られるが、朝鮮語話者の大部分はこの2つの音声を弁別的にとらえないため、個人差が非常に大きい。

==== 終声(パッチム) ====
音節末の位置にある子音を'''[[パッチム|終声]]'''('''パッチム''')と呼ぶ。初声には19種類の子音全てが立ちうるが、終声には以下の7種類の子音しか立たない。

{| class="wikitable"
!
! width="70"|両唇音
! width="70"|歯茎音
! width="70"|軟口蓋音
|-
|-
!阻害音
| [[濃音]] || {{lang|ko|ㅃ}} {{ipa|pʼ}} || {{lang|ko|ㄸ}} {{ipa|tʼ}} || {{lang|ko|ㅉ}} {{ipa|ʨʼ}} || {{lang|ko|ㄲ}} {{ipa|kʼ}} ||
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅂ]]}} {{ipa|b}}<br />{{IPA|p̚}}
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄷ]]}} {{ipa|d}}<br />{{IPA|t̚}}
| align="center" style="background-color:#CFD" |{{lang|ko|[[ㄱ]]}} {{ipa|g}}<br />{{IPA|k̚}}
|-
|-
!鼻音
| [[激音]] || {{lang|ko|ㅍ}} {{ipa|p&#688;}} || {{lang|ko|ㅌ}} {{ipa|t&#688;}} || {{lang|ko|ㅊ}} {{ipa|ʨ&#688;}} || {{lang|ko|ㅋ}} {{ipa|k&#688;}} ||
| align="center" style="background-color:#EFC" |{{lang|ko|[[ㅁ]]}} {{ipa|m}}<br />{{IPA|m}}
|-
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄴ]]}} {{ipa|n}}<br />{{IPA|n}}
| ROWSPAN="2"| [[摩擦音]]
| [[平音]] || || {{lang|ko|}} {{ipa|s}} || || || {{lang|ko|ㅎ}} {{ipa|h}}
| |{{lang|ko|}} {{ipa|}} {{|}}
|-
|-
!流音
| [[濃音]] || || {{lang|ko|ㅆ}} {{ipa|sʼ}} || || ||
| align="center" style="background-color:#EFC" |
|-
| align="center" style="background-color:#FDC" |{{lang|ko|[[ㄹ]]}} {{ipa|r}}<br />{{IPA|ɭ}}
| COLSPAN="2"| [[鼻音]]
| align="center" style="background-color:#CFD" |
| {{lang|ko|ㅁ}} {{ipa|m}} || {{lang|ko|ㄴ}} {{ipa|n}} || || {{lang|ko|ㅇ}} {{ipa|ŋ}}
|
|-
| COLSPAN="2"| [[流音]]
| || {{lang|ko|ㄹ}} {{ipa|l}} || || ||
|}
|}


阻害音の終声は調音器官の開放を伴わない[[内破音]]である。ただし、{{ipa|d}} の直後に {{ipa|σ}} が来る場合には、終声 {{ipa|d}} は {{IPA|s}} で現れる。
朝鮮語の[[破裂音]]、[[破擦音]]には[[平音]]/[[濃音]]/[[激音]]の対立があり、[[摩擦音]]には[[平音]]/[[濃音]]の対立がある。平音は有声音の間で[[有声音]]、それ以外の環境では[[無声音]]として実現され、若干帯気する。濃音は[[咽頭]]で[[調音|第二次調音]]を行う無声無気音、激音は[[帯気音]]である。これらの音声的要素の他に[[VOT]](Voice Onset Time、子音の長さ)や(第一音節における)後続母音の高低などの音律的要素も[[平音]]/[[濃音]]/[[激音]]を区別する上で重要な役割を果たしており、音素的対立の主な要素が何であるかに関しては未だに統一された見解がない。
語頭の平音「ㅂ、ㅈ、ㄷ、ㄱ」は無声音だが、特に英語からの[[外来語]]では原音に近いよう有声音で発音することが奨励される。


*{{lang|ko|젖소}} {{ipa|jɔdσo}} {{IPA|ʨɔss&#700;o}} (乳牛)
[[濃音]]は{{ipa|pʼ}}のように「&nbsp;ʼ&nbsp;」を用いて表されるのが一般的だが、これは[[国際音声記号|IPA]]では[[放出音]](声門を使った[[非肺臓気流機構]]の音声の一つ)を表す記号であり、咽頭における[[調音|二次的調音]]を行う朝鮮語の濃音を表記するのにはふさわしくないため、代わりに{{ipa|p*}}のような表記によって咽頭における二次的調音を示すべきだという提案もある。[[声門閉鎖音]]を表す{{IPA|ʔ}}を用いて濃音を{{ipa|ʔp}}、{{IPA|ʔp}}のように表記することもあるが、正確なIPA記述とは言いがたい。


流音の終声 {{ipa|r}} は通常 {{IPA|ɭ}} で現れるが、直後に {{ipa|h}} が来るときは {{IPA|ɾ}} で現れる。 {{IPA|ɭ}} はヨーロッパ諸語や中国語の {{IPA|l}} より後部に調音点があり、舌先を反転させて後部歯茎に押し当てて側面から息を流すようにして発音する。
/l/は多様な条件異音を持ち、音節頭では[[はじき音]]{{IPA|ɾ}}、音節末では[[側面接近音]]{{IPA|l}}(話者によっては[[そり舌音]]{{IPA|ɭ}})である。音節頭にあっても、前の音節末の子音が{{IPA|l}}の場合には{{IPA|l}}となる。<!--また、音節頭の{{IPA|l}}は口蓋音化もするが、これについては後述する。この一文は当面削除したい。音節頭ならいつでも口蓋音化するとは思われないし、また後述もされていない。-->


*{{lang|ko|괄호}} {{ipa|gwarho}} {{IPA|kwaɾɦo}} (括弧)
音節頭に {{ipa|ŋ}}が現れることは無い。また、音節末に現れるのは{{ipa|p, t, k, m, n, ŋ, l}}の7つのみである。音節末の破裂音{{ipa|p, t, k}}は未破音([[内破音]])であり、IPAで示せば{{IPA|p ̚, t&nbsp; ̚, k ̚}}であるが、学習書では{{IPA|<sup>p</sup>, <sup>t</sup>, <sup>k</sup>}}という非IPA音韻/音声表記も広く行われている。音節末の破裂音{{ipa|p, k}}は後ろに続く音節の初声が{{ipa|s}}であるときにははっきりした破裂を示す。音節末の{{ipa|t}}の後に初声が{{ipa|s}}の音節が続く場合は濃音{{ipa|sʼ}}と同じになる。


== 規則 ==
== 音 ==
朝鮮語には以下のような規則がある。
朝鮮語には以下のような音がある。
*語頭に流音{{ipa|l}}が立たない。
*語頭において{{ipa|i, j}}の前には{{ipa|n}}が立たない。
一つ目の規則は[[アルタイ諸語]]にも見られる頭音規則であり、朝鮮語アルタイ語起源説の論拠ともなっている。一方で、二つ目の規則は[[中期朝鮮語]]には存在しない規則である。


====(1)歯茎硬口蓋音の直後の半母音 {{ipa|y}} ====
比較的朝鮮語に同化している漢字語もこの頭音規則を守っている。すなわち、一つ目の規則に適合させるため、語頭の{{ipa|l}}は{{ipa|n}}に変化し、二つ目の規則に適合させるため、{{ipa|i, j}}の前の語頭の{{ipa|n}}は脱落する。この規則は段階的に同時に適用される場合もある。すなわち、{{ipa|i, j}}の前の語頭の{{ipa|l}}はまず一つ目の規則のために{{ipa|n}}に変化し、その後二つ目の規則のために脱落する。
南の標準語では、歯茎硬口蓋音 {{ipa|j,c,ζ}} の直後に半母音 {{ipa|y}} が来えない。従って、つづり字の上で半母音が表記されていても、実際の音声は半母音を伴っていない。
*{{lang|ko|래일}} (來日)明日 {{ipa|lɛil}} > {{ipa|nɛil}}
*{{lang|ko|녀자}} (女子)女、女性 {{ipa|njɔʨa}} > {{ipa|jɔʨa}}
*{{lang|ko|려행}} (旅行)旅行 {{ipa|ljɔhɛŋ}} > {{ipa|njɔhɛŋ}} > {{ipa|jɔhɛŋ}}


*{{lang|ko|저}} {{ipa|jɔ}} {{IPA|ʨɔ}} (私)
20世紀以降の[[外来語]]に関しては頭音規則は無視されるものが多い。
*{{lang|ko|라디오}}{{ipa|ladio}} < en. radio({{ipa|nadio}} ともいうことがある
*{{lang|ko|}}{{ipa|}} {{|}} )
*{{lang|ko|레포트}}{{ipa|lepʰotʰɯ}} < en. report
*{{lang|ko|링}}{{ipa|liŋ}} < ring
*{{lang|ko|니트}}{{ipa|nitʰɯ}} < knit


一方、北の標準語では、{{ipa|j,c,ζ}} の直後に半母音 {{ipa|y}} が来うる。
韓国における[[朝鮮語の正書法|正書法]]では、頭音規則の影響を受けた発音通りに綴る。一方、北朝鮮では正書法上では頭音規則を無視し、実際の発音も頭音規則を無視するのが[[文化語]]において正式とされているが、頭音規則を守って発音する人もいて、特に年配に多い。


北の標準語では{{ipa|j,c,ζ}} は、歯茎破擦音 {{IPA|ʦ/ʣ}}, {{IPA|ʦʰ}},{{IPA|ʦ&#700;}} で発音するのが原則であるが、{{ipa|y}} と結合する場合には歯茎硬口蓋破擦音 {{IPA|ʨ/ʥ}}, {{IPA|ʨʰ}},{{IPA|ʨ&#700;}} で発音するものとされる<ref>《문화어발음사전》(사회과학출판사, 주체103(2014)년.)2-12頁参照。</ref>。このため、北の標準語では、次のようなものは、発音上区別が可能とされる。
== 同化規則 ==
ここでは音声の[[異音]]のレベルのものと、音韻の転化のレベルのものとが混在しているが、日本語を母語とする学習者のために有用であるためしばしば一緒に扱われる。


*{{lang|ko-kp|저}} {{ipa|jɔ}} {{IPA|ʦɔ}} (私)
'''口蓋音化''':{{ipa|j}}や{{ipa|i}}の前で{{ipa|s}}は{{IPA|ɕ}}、{{ipa|h}}は{{IPA|ç}}となる。
*{{lang|ko-kp|져}} {{ipa|jyɔ}} {{IPA|ʨɔ}} (負けて)


しかし、実際には、{{ipa|y}} と結合する場合以外でも、南と同様に歯茎硬口蓋破擦音 {{IPA|ʨ/ʥ}}, {{IPA|ʨʰ}},{{IPA|ʨ&#700;}} で発音することがある。
'''有声音化''':{{ipa|p, t, ʨ, k, h}}は{{IPA|p}}, {{IPA|t}}, {{IPA|ʨ}}, {{IPA|k}}, {{IPA|h}}。母音の間、または有声子音と母音の間では有声音化して{{IPA|b}}, {{IPA|d}}, {{IPA|ʥ}}, {{IPA|g}}, {{IPA|ɦ}}になる。


====(2)語頭の {{ipa|r}} 及び {{ipa|n}} ====
'''濃音化''':破裂音の終声({{ipa|p, t, k}})の後に平音の初声({{ipa|p, t, s, ʨ, k}})が続く場合、平音の初声は濃音化して({{IPA|p&#699;, t&#699;, s&#699;, ʨ&#699;, k&#699;}})となる。
南の標準語では、[[漢字語 (朝鮮語)|漢字語]]において {{ipa|r}} が語頭に立ちえない。このため、音節頭に本来 {{ipa|r}} を持つ[[朝鮮漢字音|漢字音]]が語頭に立つ場合、{{ipa|r}} の直後に {{ipa|i}} あるいは {{ipa|y}} があるものは {{ipa|r}} が脱落し、それ以外のものは {{ipa|r}} が {{ipa|n}} で発音される。
*{{lang|ko|압수}} 押収 {{ipa|ap.'''s'''u}} > {{IPA|ap.'''s&#699;'''u}}
*{{lang|ko|옷감}} 服の生地 {{ipa|ot.'''k'''am}} > {{IPA|ot̚.'''k&#699;'''am}}
*{{lang|ko|학교}} 学校 {{ipa|hak.'''k'''jo}} > {{IPA|hak̚.'''k&#699;'''jo}}


同様にして、音節頭に本来 {{ipa|n}} を持つ漢字音が語頭に立つ場合、{{ipa|n}} の直後に {{ipa|i}} あるいは {{ipa|y}} があるものは {{ipa|n}} が脱落する。
'''激音化''':終声とそれにつづく初声の一方が平音、一方が{{ipa|h}}の場合、{{ipa|p, t, ʨ, k}}は激音{{ipa|p&#688;, t&#688;, ʨ&#688;, k&#688;}}になる。綴り字上{{lang|ko|ㅎ}} が終声として書かれる場合もここに含めることが多い。
*{{lang|ko|급하다}} 急だ {{ipa|kɯ'''p'''.'''h'''a.ta}} > {{IPA|kɯ.'''p&#688;'''a.da}}
*{{lang|ko|축하}} 祝賀 {{ipa|ʨ&#688;u'''k'''.'''h'''a}} > {{IPA|ʨ&#688;u.'''k&#688;'''a}}
*{{lang|ko|그렇다}} そうだ「kɯ.lɔ'''h'''.'''t'''a」> {{IPA|kɯ.rɔ.'''t&#688;'''a}}
ただし、終声{{lang|ko|ㅎ}} の後に初声{{ipa|s}}が続く場合、対応する激音のない{{ipa|s}}は{{IPA|s&#699;}}になる。
*{{lang|ko|그렇습니다}} そうだ「kɯ.lɔ'''h'''.'''s'''ɯb.ni.ta」> {{IPA|kɯ.rɔ.'''sʻ'''ɯm.ni.da}}


韓国ではこの現象を一般に「頭音法則({{lang|ko|두음 법칙}})」と呼ぶ。北の標準語では、語頭の {{ipa|r}} および {{ipa|n}} は本来のまま維持される。
'''鼻音化(逆行同化):'''終声が破裂音{{ipa|p, t, k}}で、続く初声が鼻音{{ipa|m, n}}({{ipa|ŋ}}は初声になり得ない)のとき、終声が鼻音化して{{IPA|m, n, ŋ}}となる。
*{{lang|ko|앞만}} 前だけ {{ipa|a'''p'''.man}} > {{IPA|a'''m'''.man}}
*{{lang|ko|옷만}} 服だけ {{ipa|o'''t'''.man}} > {{IPA|o'''n'''.man}}
*{{lang|ko|학년}} 学年 {{ipa|ha'''k'''.njɔn}} > {{IPA|ha'''ŋ'''.njɔn}}


{| class="wikitable"
'''鼻音化(順行同化):'''終声が{{ipa|p, t, k, m, ŋ}}で、初声が{{ipa|l}}のとき、初声は鼻音化{{IPA|n}}となる。このとき、終声の{{ipa|p, t, k}}は鼻音化した初声によって鼻音化され、{{IPA|m, n, ŋ}}となる。
!単語
*{{lang|ko|금리}} 金利 {{ipa|kɯm.'''l'''i}} > {{IPA|kɯm.'''n'''i}}
!北の標準語
*{{lang|ko|생략}} 省略 {{ipa|sɛŋ.'''l'''jak}} > {{IPA|sɛŋ.'''n'''jak̚}}
!南の標準語
*{{lang|ko|법률}} 法律 {{ipa|pɔp.'''l'''jul}} > {{IPA|pɔ'''p'''.'''n'''jul}} > {{IPA|pɔ'''m'''.njul}}
|-
*{{lang|ko|국력}} 国力 {{ipa|kuk.'''l'''jɔk}} > {{IPA|ku'''k'''.'''n'''jɔk}} > {{IPA|ku'''ŋ'''.njɔk̚}}
|臨時
|{{lang|ko|림시}} ({{ipa|rimsi}})
|{{lang|ko|임시}} ({{ipa|imsi}})
|-
|勞動
|{{lang|ko|로동}} ({{ipa|rodoŋ}})
|{{lang|ko|노동}} ({{ipa|nodoŋ}})
|-
|女子
|{{lang|ko|녀자}} ({{ipa|nyɔja}})
|{{lang|ko|여자}} ({{ipa|yɔja}})
|}


しかしながら、外来語の発音にせよ北における[[漢字語 (朝鮮語)|漢字語]]の発音にせよ、語頭の {{ipa|r}} はもともと朝鮮語にはなかったものである。それゆえ、特に老年層においては外来語や漢字語の語頭の {{ipa|r}} を脱落させたり {{ipa|n}} で発音することがしばしばある。
'''流音化''':終声が{{ipa|n}}で初声が{{ipa|l}}、もしくは終声が{{ipa|l}}で初声が{{ipa|n}}のときに、{{ipa|n}}は流音化し{{ipa|l}}となる。
*{{lang|ko|신라}} 新羅 {{ipa|si'''n'''.la}} > {{IPA|ɕi'''l'''.la}}
*{{lang|ko|연락}} 連絡 {{ipa|jɔ'''n'''.lak}} > {{IPA|jɔ'''l'''.lak̚}}
*{{lang|ko|달나라}} 月世界 {{ipa|tal.'''n'''a.la}} > {{IPA|tal.'''l'''a.ra}}


*{{lang|ko|라이터}} {{ipa|naitɔː}} (ライター)
'''漢字語における鼻音化と流音化''':漢字語における[[形態素]]同士の境界においては、順行同化による鼻音化と流音化が行われる。

*{{lang|ko|팔-년}} 八年 {{ipa|pʰal.'''n'''jɔn}} > {{IPA|pʰal.'''l'''jɔn}}
なお、南北間でのこれらの違いについては、「朝鮮語の南北間差異」中の[[朝鮮語の南北間差異#漢字語に関する表記|漢字語に関する表記]]も参照のこと。
*{{lang|ko|생산-력}} 生産力 {{ipa|sɛŋ.san.'''l'''jɔk}} > {{IPA|sɛŋ.san.'''n'''jɔk̚}}

*{{lang|ko|신-라면}} 辛ラーメン {{ipa|sin.'''l'''a.mjɔn}} > {{IPA|ɕin.'''n'''a.mjɔn}}
== ピッチ ==
日本語の場合、例えば「雨」(高・低)と「飴」(低・高)のように、ピッチ(音の高低)の違いによって単語の意味を区別しうるが、朝鮮語の標準語はピッチによって単語の意味を区別することがない。しかしながら、朝鮮語の発話においてピッチは無秩序に現れるのではなく、自然な音の高低の流れが存在し、そのパターンから外れる発話は朝鮮語話者にとって不自然な発話に感じられる。

ソウル方言の場合、連続して発音される単位において、第2音節が最も高く発音され、それ以降の音節は徐々に降り調子で発音される。第1音節は初声が激音、濃音あるいは {{ipa|s}} の場合は第2音節と同程度の高さで発音され、それ以外の子音の場合あるいは母音で始まる場合には第2音節よりやや低く発音される。

なお、[[東南方言]]と東北方言には高低[[アクセント]]の体系があり、ピッチによって単語の意味を区別しうる。

== 音節構造 ==
朝鮮語の[[音節]]は母音を中核として形作られる。母音は半母音と単母音の結合(上昇二重母音)でありえ、母音の前には音節頭子音(初声)が1つ立つことができる。朝鮮語の音節は母音で終わる音節(開音節)以外に子音で終わる音節(閉音節)がありえ、母音の後ろには音節末子音(終声)が1つ立つことができる。従って、朝鮮語の音節構造で最も複雑なものは「子音+半母音+母音+子音」という構造である。

{| class="wikitable"
! colspan="2"|音節の構造
!例
|-
! rowspan="4"|開<br />音<br />節
|'''母音'''
|{{lang|ko|이}} {{ipa|i}} {{IPA|i}} (歯)
|-
|'''半母音+母音'''
|{{lang|ko|요}} {{ipa|yo}} {{IPA|jo}} (敷布団)
|-
|'''子音+母音'''
|{{lang|ko|소}} {{ipa|so}} {{IPA|so}} (牛)
|-
|'''子音+半母音+母音'''
|{{lang|ko|혀}} {{ipa|hyɔ}} {{IPA|hjɔ}} (舌)
|-
! rowspan="4"|閉<br />音<br />節
|'''母音+子音'''
|{{lang|ko|안}} {{ipa|an}} {{IPA|an}} (中)
|-
|'''半母音+母音+子音'''
|{{lang|ko|왕}} {{ipa|waŋ}} {{IPA|waŋ}} (王)
|-
|'''子音+母音+子音'''
|{{lang|ko|길}} {{ipa|gir}} {{IPA|kil}} (道)
|-
|'''子音+半母音+母音+子音'''
|{{lang|ko|광}} {{ipa|gwaŋ}} {{IPA|kwaŋ}} (光沢)
|}

== 音素の交替 ==
朝鮮語は音素交替の種類が多く、以下のような交替がある。

=== 音韻論的な交替 ===
音韻論的な交替とは、音素が置かれる音的な環境により、当該の音素が別の音素に入れ替わる現象をいう。朝鮮語では子音についてこの現象が見られる。子音音素は配列上の制約があるため、音の並びによっては許されない子音配列がある。そのような場合、当該の子音音素は別の子音音素に交替する。

==== 平音の濃音化 ====
平音 {{ipa|b,d,s,j,g}} は音節末の[[阻害音]] {{ipa|b,d,g}} の直後に来えない。その場合、当該の平音はそれぞれ濃音 {{ipa|β,δ,σ,ζ,γ}} に交替する。
*{{lang|ko|입시}} {{ipa|ibsi}} → {{ipa|ibσi}} (入試)[입씨]
*{{lang|ko|국밥}} {{ipa|gugbab}} → {{ipa|gugβab}} (クッパ)[국빱]

==== {{ipa|h}}の激音化 ====
{{ipa|h}} は音節末の[[阻害音]] {{ipa|b,d,g}} の直後に来えない。その場合、当該の {{ipa|h}} は直前の阻害音と同じ調音位置で発音される激音({{ipa|p,t,k}} のいずれか)に交替する。
*{{lang|ko|입학}} {{ipa|ibhag}} → {{ipa|ipag}} (入学)[이팍]
*{{lang|ko|각하}} {{ipa|gagha}} → {{ipa|gaka}} (閣下)[가카]

==== 阻害音の鼻音化 ====
音節末の[[阻害音]] {{ipa|b,d,g}} は[[鼻音]] {{ipa|m,n}} および[[流音]] {{ipa|r}} の直前に来えない。その場合、当該の音節末阻害音はそれぞれ鼻音 {{ipa|m,n,ŋ}} に交替する。
*{{lang|ko|욕망}} {{ipa|yogmaŋ}} → {{ipa|yoŋmaŋ}} [용망](欲望)
*{{lang|ko|앞날}} {{ipa|abnar}} → {{ipa|amnar}} [암날](前途、将来)
*{{lang|ko|됫날}} {{ipa|dödnar}} → {{ipa|dönnar}} [된날/뒌날](後日、将来)
*{{lang|ko|놓는}} {{ipa|nodnɯn}} → {{ipa|nonnɯn}} [논는](置く)

{{ipa|b,d,g}} の直後に {{ipa|r}} が来る場合、南の標準語では {{ipa|r}} も同時に鼻音化して {{ipa|n}} に交替する。北の標準語では 後に{{ipa|ya, yɔ, yo, yu}} が続く場合においては, {{ipa|r}} を {{ipa|n}} に交替せず、{{ipa|r}} のまま発音することが許容される。

*{{lang|ko|독립}} {{ipa|dogrib}} → {{ipa|doŋnib}} [동닙](独立)
*{{lang|ko|협력}} {{ipa|hyɔbryɔg}} → {{ipa|hyɔmnyɔg}} [혐녁](協力) cf. {{ipa|hyɔmryɔg}} 〔北の許容発音〕

==== 流音の鼻音化 ====
南の標準語において、[[流音]] {{ipa|r}} は[[鼻音]] {{ipa|m,ŋ}} の直後に来えない。その場合、当該の {{ipa|r}} は鼻音 {{ipa|n}} に交替する。北の標準語では,後に{{ipa|ya, yɔ, yo, yu}} が続く場合においては, {{ipa|r}} を {{ipa|n}} に交替せず、{{ipa|r}} のまま発音することが許容される。
*{{lang|ko|통로}} {{ipa|toŋro}} → {{ipa|toŋno}} [통노](通路)
*{{lang|ko|침략}} {{ipa|cimryag}} → {{ipa|chimnyag}} [침냑](侵略) cf. {{ipa|chimryag}} 〔北の許容発音〕

==== {{ipa|n}}の流音化 ====
{{ipa|n}} は流音 {{ipa|r}} の直前あるいは直後に来えない。その場合、当該の {{ipa|n}} は流音 {{ipa|r}} に交替する。なお、この場合に {{ipa|rr}} という音の連続の実際の音声は {{IPA|ll}} である。
*{{lang|ko|신라}} {{ipa|sinra}} → {{ipa|sirra}} [실라](新羅)
*{{lang|ko|찰나}} {{ipa|carna}} → {{ipa|carra}} [찰라](刹那)
*{{lang|ko|물난리}} {{ipa|murnanri}} → {{ipa|murrarri}} [물랄리](水害)
*{{lang|ko|대관령}} {{ipa|dɛgwanryɔŋ}} → {{ipa|dɛgwarryɔŋ}} [대괄령]([[大関嶺]])

=== 形態音韻論的な交替 ===
同一の[[形態素]]が一定の音韻的環境によりいくつかの[[異形態]]として現れるときに、異形態間で音韻が交替することを[[形態音韻論]]的な交替という。朝鮮語にはそのような形態音韻論的交替が多い。

==== 終声の形態音韻論的な交替 ====
[[体言]]および[[用言]]は語幹末音に子音を持つ場合、語幹末の子音は交替しうる。交替の類型は以下の2種類がありえる。

===== 音の中和 =====
例えば、{{ipa|nopa}} (高く)は {{ipa|nop}} が語幹であるが、語幹末音の {{ipa|p}} は {{ipa|nopa}} のように直後に一部の母音が来て {{ipa|p}} が音節頭の位置にあるときは激音 {{ipa|p}} として現れるが、{{ipa|p}} の直後に子音が来るなどしてこの音が音節末の位置に来る場合には {{ipa|nobδa}} (高い)のように {{ipa|b}} に交替する。これは激音 {{ipa|p}} が音節末の位置に立つことができず、音節末の位置では {{ipa|b}} と {{ipa|p}} の区別が失われて平音 {{ipa|b}} のみが現れるためである([[中和 (言語学)|中和]])。正書法上では、終声字に激音や濃音などの字母を用いることで表現される。
*{{ipa|p}}~{{ipa|b}}
**{{lang|ko|잎이}} {{ipa|ipi}} (葉が) ~ {{lang|ko|잎}} {{ipa|ib}} (葉)~ {{lang|ko|잎 앞}} {{ipa|ibab}} (葉の前)
*{{ipa|t,s,σ,j,c}}~{{ipa|d}}
**{{lang|ko|밭에}} {{ipa|bate}} (畑に) ~ {{lang|ko|밭}} {{ipa|bad}} (畑)~ {{lang|ko|밭 아래}} {{ipa|badarɛ}} (畑の下)
**{{lang|ko|옷이}} {{ipa|osi}} (服が) ~ {{lang|ko|옷}} {{ipa|od}} (服)~ {{lang|ko|옷 안}} {{ipa|odan}} (服の中)
**{{lang|ko|있어}} {{ipa|iσɔ}} (いて) ~ {{lang|ko|있자}} {{ipa|idζa}} (いよう)
**{{lang|ko|낮에}} {{ipa|naje}} (昼に) ~ {{lang|ko|낮}} {{ipa|nad}} (昼)
**{{lang|ko|빛이}} {{ipa|bici}} (光が) ~ {{lang|ko|빛}} {{ipa|bid}} (光)
*{{ipa|k,γ}}~{{ipa|g}}
**{{lang|ko|부엌에}} {{ipa|buɔke}} (台所に) ~ {{lang|ko|부엌}} {{ipa|buɔg}} (台所) ~ {{lang|ko|부엌 안}} {{ipa|buɔgan}} (台所の内)
**{{lang|ko|밖에}} {{ipa|baγe}} (外に) ~ {{lang|ko|밖}} {{ipa|bag}} (外)

<!--終声の次の形態素の最初の音節が「{{lang|ko|아}}、{{lang|ko|어}}、{{lang|ko|오}}、{{lang|ko|우}}、{{lang|ko|애}}、{{lang|ko|외}}、{{lang|ko|위}}」などの場合、終声は中和した後、次の音節の初声になって発音する。ただし、言葉の流れによって次の母音と離れて発音する場合もある。
*{{ipa|p}}~{{ipa|b}}
**{{lang|ko|늪이}} {{ipa|nɯpi}} (沼が) ~ {{lang|ko|늪 앞}} {{ipa|nɯbab}} (沼の前)
*{{ipa|t,s,j,c}}~{{ipa|d}}
**{{lang|ko|밭에}} {{ipa|bate}} (畑に) ~ {{lang|ko|밭 아래}} {{ipa|badarɛ}} (畑の下)
**{{lang|ko|맛이}} {{ipa|masi}} (味が) ~ {{lang|ko|맛없다}} {{ipa|madɔbδa}} (まずい)
**{{lang|ko|젖이}} {{ipa|jɔji}} (乳が) ~ {{lang|ko|젖어머니}} {{ipa|jɔdɔmɔni}} (乳母)
**{{lang|ko|꽃이}} {{ipa|γoci}} (花が) ~ {{lang|ko|꽃 위}} {{ipa|γodü}} (花の上) cf. {{lang|ko|꽃 우}} {{ipa|γodu}} 〔北の標準語〕
**※{{lang|ko|팥을}} {{ipa|patɯr}} (小豆を) ~ {{lang|ko|팥 아홉킬로}} {{ipa|pad ahobkirro}} (小豆9キロ) cf. {{lang|ko|팥 아홉키로}} {{ipa|pad ahobkiro}} 〔北の標準語〕
*{{ipa|k}}~{{ipa|g}}
**{{lang|ko|부엌에}} {{ipa|buɔke}} (台所に) ~ {{lang|ko|부엌 안}} {{ipa|buɔgan}} (台所の内)

また、{{ipa|d}}で発音する終声「{{lang|ko|ㅅ}}、{{lang|ko|ㅊ}}、{{lang|ko|ㅈ}}」の次の形態素の子音が「{{lang|ko|ㅎ}}」の場合は{{ipa|t}}と発音する。
**{{lang|ko|꽃 한 송이}} {{ipa|γotansoŋi}} (花一輪)
**{{lang|ko|뭇 형벌}} {{ipa|mutyɔŋbɔr}} (諸刑罰)
**{{lang|ko|온갖 힘}} {{ipa|ongatim}} (すべての力)

なお、「{{lang|ko|맛있다}}」(おいしい)、「{{lang|ko|멋있다}}」(かっこいい)は南の標準語で{{ipa|madidδa}}と{{ipa|masidδa}}、{{ipa|mɔdidδa}}と{{ipa|mɔsidδa}}と二通りに発音できるが、北の標準語では{{ipa|masidδa}}、{{ipa|mɔsidδa}}だけに限定される。-->

===== 音の脱落 =====
{{ipa|barba}} (踏んで)は {{ipa|barb}} が語幹であるが、このように語幹末に子音が2つ連続している場合、語幹末の子音が {{ipa|barba}} のように初声の位置に立つときは連続する2つの子音が両方とも現れる。しかし、語幹末の子音が終声の位置に立つときは {{ipa|babδa}} (踏む)のように2つの子音のうち一方が脱落する。これは朝鮮語において音節末の位置に2つ以上の子音が同時に立ちえないためである。正書法上では、二重パッチムの多くがこれに当たる。ただし同じ二重パッチムでも、ㄶ,ㅀのㅎは /h/ で発音するような性質のものではなく、後述の激音化を表現するためのものである。
*{{ipa|bσ}}~{{ipa|b}}
**{{lang|ko|값이}} {{ipa|gabσi}} (値が) ~ {{lang|ko|값}} {{ipa|gab}} (値)~ {{lang|ko|값있다}} {{ipa|gabidδa}} (やりがいがある)
*{{ipa|rb}}~{{ipa|b}}
**{{lang|ko|밟아}} {{ipa|barba}} (踏んで) ~ {{lang|ko|밟자}} {{ipa|baːbζa}} (踏もう)
*{{ipa|rp}}~{{ipa|b}}
**{{lang|ko|읊어}} {{ipa|ɯrpɔ}} (詠んで) ~ {{lang|ko|읊자}} {{ipa|ɯbζa}} (詠もう)
*{{ipa|rm}}~{{ipa|m}}
**{{lang|ko|삶이}} {{ipa|saːrmi}} (生活が) ~ {{lang|ko|삶}} {{ipa|saːm}} (生活)
*{{ipa|nj}}~{{ipa|n}}
**{{lang|ko|앉아}} {{ipa|anja}} (座って) ~ {{lang|ko|앉자}} {{ipa|anζa}} (座ろう)
*{{ipa|rb}}~{{ipa|r}}
**{{lang|ko|넓어}} {{ipa|nɔrbɔ}} (広く) ~ {{lang|ko|넓다}} {{ipa|nɔrδa}} (広い)
*{{ipa|rg}}~{{ipa|g}}
**{{lang|ko|읽어}} {{ipa|irgɔ}} (読んで) ~ {{lang|ko|읽자}} {{ipa|igζa}} (読もう)
*{{ipa|gσ}}~{{ipa|g}}
**{{lang|ko|넋이}} {{ipa|nɔgσi}} (魂が) ~ {{lang|ko|넋}} {{ipa|nɔg}} (魂)~ {{lang|ko|넋 없다}} {{ipa|nɔgɔbδa}} (ぼんやりしている)
*{{ipa|rg}}~{{ipa|r}}
**{{lang|ko|읽어}} {{ipa|irgɔ}} (読んで) ~ {{lang|ko|읽고}} {{ipa|irγo}} (読み)
*{{ipa|rσ}}~{{ipa|r}}
**{{lang|ko|외곬으로}} {{ipa|ögorσɯro}} (一途に) ~ {{lang|ko|외곬}} {{ipa|ögor}} (一途)
*{{ipa|rt}}~{{ipa|r}}
**{{lang|ko|핥아}} {{ipa|harta}} (なめて) ~ {{lang|ko|핥고}} {{ipa|harγo}} (なめて)

==== 初声の形態音韻論的な交替 ====
上述の音韻論的な交替以外の条件で実現される濃音化、激音化、鼻音化はいずれも形態音韻論的な交替と見られる。これらの交替は[[形態素]]の境界において起こる。

===== 濃音化 =====
子音語幹[[用言]]に平音で始まる[[接尾辞]]・[[語尾]]が付く場合、語幹末子音が鼻音・流音の場合であっても直後の接尾辞・語尾の頭音である平音が濃音化する。

*{{lang|ko|삼고}} {{ipa|saːmγo}} (見なして)
*{{lang|ko|핥고}} {{ipa|harγo}} (なめて)

[[体言]]では、合成語において平音の濃音化が見られる。また、一部の[[漢字語 (朝鮮語)|漢字語]]においても平音の濃音化が見られる。

*{{lang|ko|말버릇}} {{ipa|maːrβɔrɯd}} (口癖)
*{{lang|ko|보험증}} {{ipa|boːhɔmζɯŋ}} (保険証)

なお、漢字語においては {{ipa|r}} の直後で平音 {{ipa|d}},{{ipa|s}},{{ipa|j}} が濃音化する。

*{{lang|ko|철도}} {{ipa|cɔrδo}} (鉄道)
*{{lang|ko|발사}} {{ipa|balσa}} (発射)
*{{lang|ko|물질}} {{ipa|murζir}} (物質)

===== 激音化 =====
用言のうち、接尾辞・語尾の頭音の平音が激音で現れるものがある。このような用言は語幹末に {{ipa|h}} を持つと考える場合が多い。正書法上では、終声字に「{{lang|ko|ㅎ}}」を含む場合({{lang|ko|ㅎ}},{{lang|ko|ㄶ}},{{lang|ko|ㅀ}})がこれに当たる。
*{{lang|ko|놓아}} {{ipa|noa}} [노아](置いて)、{{lang|ko|놓는}} {{ipa|nonnɯn}} [논는](置く) → {{lang|ko|놓고}} {{ipa|noko}} [노코](置いて)
*{{lang|ko|많아}} {{ipa|mana}} [마나](多くて)、{{lang|ko|많은}} {{ipa|manɯn}} [마는](多くの) → {{lang|ko|많고}} {{ipa|manko}} [만코](多くて)
*{{lang|ko|옳아}} {{ipa|ora}} [오라](正しくて)、{{lang|ko|옳는}} {{ipa|orrɯn}} [올른](正しい) → {{lang|ko|옳다}} {{ipa|orta}} [올타](正しい)

===== 鼻音化 =====
[[漢字語 (朝鮮語)|漢字語]]において、終声 {{ipa|n}} の直後で 流音 {{ipa|r}} が {{ipa|n}} で現れる場合、終声 {{ipa|n}} と初声 {{ipa|r}} の間に[[形態素]]の境界がある場合に {{ipa|r}} が {{ipa|n}} に交替する。
*{{lang|ko|생산량}} {{ipa|sɛŋsanryaŋ}} → {{ipa|sɛŋsannyaŋ}} (生産量)
*{{lang|ko|의견란}} {{ipa|ɯigyɔnran}} → {{ipa|ɯigyɔnnan}} (意見欄)

===== 口蓋音化 =====
語幹末音に {{ipa|d}} を持つ語幹の直後に {{ipa|i}} あるいは {{ipa|hi}} で始まる接尾辞・語尾が付くとき、{{ipa|d}} と {{ipa|i}} あるいは {{ipa|hi}} が組み合わさり {{ipa|ji}} あるいは {{ipa|ci}} と現れる現象。正書法上では終声字「{{lang|ko|ㄷ}},{{lang|ko|ㅌ}}」の直後に「{{lang|ko|이}},{{lang|ko|히}}」が書かれて {{ipa|ji}}({{lang|ko|지}}),{{ipa|ci}}({{lang|ko|치}}) と発音される。
*{{lang|ko|미닫이}} {{ipa|midaji}} (引き戸)
*{{lang|ko|같이}} {{ipa|gaci}} (同じく)
*{{lang|ko|닫힌다}} {{ipa|dacinda}} (閉じられる)
*{{lang|ko|핥인다}} {{ipa|harcinda}} (なめられる)

===== 音の添加 =====
{{See|リエゾン#朝鮮語}}
合成語および派生語において前部形態素が子音で終わり、後部形態素が母音 {{ipa|i}} あるいは半母音 {{ipa|y}} で始まる場合、後部形態素の頭に子音 {{ipa|n}} あるいは {{ipa|r}} が添加されうる。ただし、表記には通常反映されない。また、「있다」の場合はこの規定が適用できない。

*{{lang|ko|담요}} {{ipa|damnyo}} (毛布)
*{{lang|ko|식용유}} {{ipa|sigyoŋnyu}} (食用油)
*{{lang|ko|영업용}} {{ipa|yɔŋɔmnyoŋ}} (営業用)
*{{lang|ko|내복약}} {{ipa|nɛboŋnyag}} (内服薬)
*{{lang|ko|그림엽서}} {{ipa|gɯrimnyɔbσɔ}} (絵葉書)
*{{lang|ko|꽃잎}} {{ipa|γonnib}} (花びら)
*{{lang|ko|서울역}} {{ipa|sɔurryɔg}} (ソウル駅)
*{{lang|ko|금융}} {{ipa|gɯmnyuŋ}} (金融) - {{ipa|gɯmyuŋ}}と発音することも許容できる。ただし、北朝鮮では「{{ipa|gɯmyuŋ}}」のみとされる。

=== 音素交替と正書法 ===
[[朝鮮語の正書法]]では、同一の[[形態素]]は常に同一につづるという原則にのっとって定められている(形態主義)。従って、上記のようなさまざまな音素交替があっても発音の通りにつづらない(ごく稀に正書法上で別の表記を定めることがある)。詳細は[[朝鮮語の正書法]]の[[朝鮮語の正書法#形態主義|形態主義]]を参照のこと。

== 母音調和 ==
朝鮮語はかつてかなりはっきりした[[母音調和]]を有していた。[[中期朝鮮語]]では母音は'''陽母音''' {{ipa|a,o,ʌ}} と'''陰母音''' {{ipa|ə,u,ɯ}} それに'''中性母音''' {{ipa|i}} の3グループに区分され、原則的に同一単語内部では同一グループの母音のみが用いられた。ただし、中性母音は陽母音・陰母音いずれの母音とも同時に現れた。

{| class="wikitable"
!陽母音
| align="center"|{{lang|ko|ㅏ}} {{ipa|a}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅗ}} {{ipa|o}}
| align="center"|{{lang|ko|ㆍ}} {{ipa|ʌ}}
|-
!陰母音
| align="center"|{{lang|ko|ㅓ}} {{ipa|ə}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅜ}} {{ipa|u}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅡ}} {{ipa|ɯ}}
|-
!中性母音
| align="center" colspan="3"|{{lang|ko|ㅣ}} {{ipa|i}}
|}

*{{ipa|sasʌm}} (鹿)― 陽母音
*{{ipa|ərgur}} (姿)― 陰母音

中期朝鮮語における母音調和は[[形態素]]内のみにとどまらずその形態素に付属する[[語尾]]類にまで及んだ。例えば「…は」の意の助詞は {{ipa|nʌn}}~{{ipa|nɯn}} のように、陽母音形と陰母音形があり、語幹が陽母音から成るのか陰母音から成るのかによって使い分けられた。

*{{ipa|nanʌn}} (我は)― 陽母音
*{{ipa|nənɯn}} (汝は)― 陰母音

現代朝鮮語において母音調和はほとんど崩壊しており、いくつかの点において化石化してその痕跡を留めているに過ぎない。1つは[[用言]]の活用形における、{{ipa|a}}~{{ipa|ɔ}}(「第III語基」、「連用形」などと呼ばれる形)である。陽母音語幹は陽母音の {{ipa|a}} をとり、陰母音語幹は陰母音の {{ipa|ɔ}} をとる。しかしながら、話し言葉の場合、子音語幹用言においては陽母音語幹の後ろでも {{ipa|ɔ}} が現れる。

*{{lang|ko|받아}} {{ipa|bada}} (もらって) cf. {{lang|ko|받어}} {{ipa|badɔ}} 〔話し言葉〕
*{{lang|ko|먹어}} {{ipa|mɔgɔ}} (食べて)

一部の用言は母音の陰陽の違いによるペアを持つ。

*{{lang|ko|작다}} {{ipa|jaːgδa}} (小さい) ― {{lang|ko|적다}} {{ipa|jɔːgδa}} (少ない)

[[オノマトペ]]をはじめとした音象徴語は現代朝鮮語において母音調和が最も残っている語彙である。陽母音を含む単語が「明、小、軽」などのニュアンスを含むのに対し、陰母音を含む単語は「暗、大、重」などのニュアンスを含むとされる。

*{{lang|ko|활활}} {{ipa|hwarhwar}}:鳥が軽やかに飛ぶ様子
*{{lang|ko|훨훨}} {{ipa|hwɔrhwɔr}}:大きな鳥がゆっくりと飛ぶ様子

ただし、[[中期朝鮮語]]と現代朝鮮語とでは母音体系が異なっているため、音象徴語に見られる母音調和のペアは中期朝鮮語のそれと同一ではない。以下は現代朝鮮語の音象徴語に見られる母音調和のペアである。

{| class="wikitable"
!陽母音
| align="center" colspan="2"|{{lang|ko|ㅏ}} {{ipa|a}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅗ}} {{ipa|o}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅐ}} {{ipa|ɛ}}
|-
!陰母音
| align="center"|{{lang|ko|ㅓ}} {{ipa|ɔ}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅡ}} {{ipa|ɯ}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅜ}} {{ipa|u}}
| align="center"|{{lang|ko|ㅣ}} {{ipa|i}}
|}


*{{lang|ko|꼴깍}} {{ipa|γorγag}} ― {{lang|ko|꿀꺽}} {{ipa|γurγɔg}} (ごくり)
'''その他''':{{ipa|h}}は{{IPA|ɰ}}の前では{{IPA|x}}になる。
*{{lang|ko|싹싹}} {{ipa|σagσag}} ― {{lang|ko|쓱쓱}} {{ipa|σɯgσɯg}} (ごしごし)
*{{lang|ko|뱅뱅}} {{ipa|bɛŋbɛŋ}} ― {{lang|ko|빙빙}} {{ipa|biŋbiŋ}} (ぐるぐる)


== 脚注 ==
== ピッチアクセント ==
{{脚注ヘルプ}}
[[中期朝鮮語]]には[[日本語]]に似た[[高低アクセント]]が存在した。韓国ではこれを[[声調]]({{lang|ko|성조}})と呼んでいるが、[[音節]]内での音の上がり下がりがないという点において中国語の声調とは異なる。現在でも一部の[[方言]]では高低アクセントが弁別的機能を持っている。韓国におけるソウル方言を基本とした標準語にはアクセント体系が存在しない。
<references/>


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2014年1月13日 (月) 08:30 (UTC)}}
*『表現が広がるこれからの朝鮮語』権在淑 三修社 1988年 ISBN 4384014724
*宇都木昭(2007)「音響音声学からの接近」,『韓国語教育論講座』第1巻,くろしお出版 ISBN 978-4-87424-374-9
*{{lang|ko|이현복}}(2002) “{{lang|ko|한국어 표준발음사전}}”,{{lang|ko|서울대학교출판부}}
*{{lang|ko|이호영}}(1996) “{{lang|ko|국어음성학}}”,{{lang|ko|태학사}}
*{{lang|ko|허웅}}(1985;1997) “{{lang|ko|국어 음운학}}”,{{lang|ko|샘 문화사}}
<!--*『表現が広がるこれからの朝鮮語』権在淑 三修社 1988年 ISBN 4384014724 コメントアウト。この本は学習書であり、音韻の概説のためにはあまり役に立たない-->


[[Category:韓国・朝鮮語|おんいん]]
:おんいん
[[Category:朝鮮語|おんいん]]
[[Category:音韻論|ちようせんこ]]

2023年12月6日 (水) 07:00時点における最新版

朝鮮語の音韻(ちょうせんごのおんいん)では、韓国語・朝鮮語のうち大韓民国の標準語(以下「南の標準語」)の音韻に関して記述する。必要に応じて朝鮮民主主義人民共和国の標準語(「文化語」、以下「北の標準語」)の音韻に関して補う。

標準語の発音は南北ともに条文化された規範によって規定されている。その意味では、標準語の発音とは手本となるべき一種の「理想音」と言うことができる。しかしながら、実質的には南の標準語の発音はソウルの発音に基づき、北の標準語の発音は平壌の発音に基づいている。

音素

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母音

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単母音

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【図1】朝鮮語の母音音素と実際の音声。이호영(1996)に基づく。

標準語における単母音の音素は以下の10種類である。

音素 代表的な音声
/a/ [a] 아이 /ai/ [ai] (子ども)
/ɔ/ [ɔ/ʌ] 어디 /ɔdi/ [ɔdi] (どこ)
/o/ [o] 오이 /oi/ [oi] (きゅうり)
/u/ [u] 우리 /uri/ [uɾi] (我々)
/ɯ/ [ɯ] /gɯ/ [kɯ] (その)
/i/ [i] 이마 /ima/ [ima] (ひたい)
/ɛ/ [ɛ] /hɛ/ [hɛ] (太陽)
/e/ [e] 누에 /nue/ [nue] (蚕)
/ö/ [ø] /sö/ [sø] (鉄)
/ü/ [y] /ü/ [y] (上)
【注】/ / は音素表記、[ ]国際音声記号による音声表記を表す(以下同じ)。なお、音素表記は本項目独自のものであるため必ずしも一般的ではない。

それぞれの音素について、より厳密には以下の通りである。

  • /a/ は中舌寄りの [ɐ] である。
  • /ɔ/ はソウル方言では唇の丸めがより弱い [ɞ] であり、平壌方言では唇の丸めがより強い [ɔ] である。

韓国ではほぼ全域において、老年層を除き /ɛ/(広い「エ」)と /e/(狭い「エ」)の区別が失われ、ともに同一の音で発音される。その音声は [ɛ][e] の中間音で、日本語/e/ (エ)に近い(【図1】の「1」参照)。また、ソウル方言、平壌方言ともに /ö//ü/ が存在しない。これらの方言では通常、/ö/[we] (平壌方言では [wɛ])で現れ、/ü/[wi] で現れる。従って、現代の非老年層におけるソウル方言では、単母音は最も少ない話者で7種類(/a,ɔ,o,u,ɯ,i,e/)となっている。

長母音

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長母音は単語の第1音節にのみ現れる。ソウル方言の場合、老年層は母音の長短によって単語の意味を区別しうるが、非老年層は母音の長短の区別がなく、おしなべて短母音で現れる。

  • /nun/ (目) ― /nuːn/ (雪)
  • /sɛ/ (新しい) ― /sɛː/ (鳥)
  • /pam/ (夜) ― /paːm/ (栗)
  • /pal/ (足) ― /paːl/ (簾)
  • /mal/ (馬または枡、斗) ― /maːl/ (言葉、言語)
  • 적다 /tɕɔk̚t'a/ (書く) ― 적다 /tɕɔːk̚t'a/ (少ない)
  • 의사 /ɯisa/ (議事または医師) ― 의사 /ɯiːsa/ (意思または義士)

なお、老年層におけるソウル方言の場合、/ɔ/ の長母音の音声は [əː] で現れ、短母音の場合と異なる音声で現れるのが特徴である(【図1】の「2」参照)。

  • 어른 /ɔːrɯn/ [əːɾɯn] (大人)

半母音と二重母音

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朝鮮語には /y/ [j]/w/ [w] 2つの半母音がある。研究者によっては半母音を認めず、半母音と単母音の結合を二重母音(上昇二重母音)と見なす場合もある。

単母音
/a/

/ɔ/

/o/

/u/

/ɯ/

/i/

/ɛ/

/e/

/ö/

/ü/
/y/+母音
/ya/

/yɔ/

/yo/

/yu/

/yɛ/

/ye/
/w/+母音
/wa/

/wɔ/

/wi/

/wɛ/

/we/

/ɯi/ という音の連続は「半母音+単母音」と見ず、二重母音と見なす見解が一般的である。しかしながら、/ɯi/ はソウル方言では単母音化して /ɯ/(語頭で) あるいは /i/(非語頭で) と現れる場合が多い。

  • 의사 /ɯisa/ (医者)― ソウル方言 /ɯsa/
  • 예의 /yeɯi/ (礼儀)― ソウル方言 /yei/

子音

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標準語における子音音素は全部で19種類ある。

初声

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音節頭の位置にある子音を初声と呼ぶ。19種類の子音全てが初声の位置に来ることができる。

両唇音 歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 声門音
閉鎖音 摩擦音


平音 /b/
[p]
/d/
[t]
/s/
[s~ɕ][1]
/j/
[ʨ]
/g/
[k]
濃音 /β/
[pʼ]
/δ/
[tʼ]
/σ/
[sʼ~ɕʼ]
/ζ/
[ʨʼ]
/γ/
[kʼ]
激音 /p/
[pʰ]
/t/
[tʰ]
/c/
[ʨʰ]
/k/
[kʰ]
/h/
[h]
鼻音 /m/
[m]
/n/
[n]

ø
流音 /r/
[ɾ~l]

朝鮮語の阻害音無声音/有声音の対立が音韻論的意味を持たない。すなわち朝鮮語話者は無声音/有声音の区別がなく、ともに同一の音と認識する(それゆえに、例えば、日本語の「きんかくじ」と「ぎんかくじ」は朝鮮語話者にとっては同一の単語に聞こえ、その区別が極めて困難である[要出典])。その一方で、朝鮮語には平音/激音/濃音という対立がある。これらの音は呼気の強さや喉の緊張の度合いによって相互に異なる音と認識される。

平音は気音を伴わず、また喉の緊張も伴わない音である。/s/ を除く平音 /b,d,j,g/ は有声音間(すなわち母音―母音間、鼻音―母音間、流音―母音間のいずれか)で有声無気音、それ以外の環境(具体的には語頭)で無声無気音(話者によっては弱い気音を伴いうる)として現れる。

  • 비누 /binu/ [pinu] (石鹸) ― 나비 /nabi/ [nabi] (蝶)

/s/ は有声音間にあっても常に無声音として現れる。また、/s/ は母音 /i//y/ を含む)の直前では [ɕ] (日本語のシャ行子音と同じ)で現れる。なお、/s/ は一般的に平音に分類されるが、これを激音(下述)に分類する研究者もある。

  • 가수 /gasu/ [kasu] (歌手)
  • 가시 /gasi/ [kaɕi] (とげ)

激音 /p,t,c,k/ は強い気音を伴った音であり、いかなる位置においても無声有気音として現れる。中国語における有気音と同じ性質の音である。

  • 도토리 /dotori/ [totʰoɾi] (どんぐり)

激音 /h/ は有声音間にある場合には有声音化し [ɦ] と現れ、場合によっては無音のように聞こえることもある。有声音化するという特性から、これを平音に分類する研究者もある。

  • 지하 /jiha/ [ʨiɦa] (地下)

濃音は喉頭の緊張を伴った無声無気音である。国際音声記号ではこの音を表示する記号がなく、声門閉鎖音を表す [ʔ] を子音記号の左肩に附したり、放出音を表す [ʼ] を用いたりといった形で記号を代用する場合が多い。また、音声学の論文等では [p#][p*] などの表記も散見される。無気音を表す [˭] や強い調音を表す拡張IPAである [ ͈] が使われることもある。

  • 꼬리 /γori/ [kʼoɾi] (しっぽ)

濃音 /σ/ は平音 /s/ の場合と同様に、母音 /i//y/ を含む)の直前で [ɕʼ] で現れる。

  • 김씨 /gimσi/ [kimɕʼi] (金氏)

鼻音/m,n,ŋ/ 3種類があるが、/ŋ/ は語頭に立たない。

流音 /r/ は音節頭の位置では通常はじき音 [ɾ] で現れるが、音節末音 /r/ の直後に現れる音節頭の /r/ は [l] として現れる。

  • 물리 /murri/ [mulli] (物理)

平壌方言では /j,c,ζ/ が歯茎硬口蓋音 [ʨ/ʥ][ʨʰ][ʨʼ] ではなく歯茎破擦音 [ʦ/ʣ][ʦʰ][ʦʼ] で現れることがある。また、このような発音はソウル方言でも見られるが、朝鮮語話者の大部分はこの2つの音声を弁別的にとらえないため、個人差が非常に大きい。

終声(パッチム)

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音節末の位置にある子音を終声パッチム)と呼ぶ。初声には19種類の子音全てが立ちうるが、終声には以下の7種類の子音しか立たない。

両唇音 歯茎音 軟口蓋音
阻害音 /b/
[p̚]
/d/
[t̚]
/g/
[k̚]
鼻音 /m/
[m]
/n/
[n]
/ŋ/
[ŋ]
流音 /r/
[ɭ]

阻害音の終声は調音器官の開放を伴わない内破音である。ただし、/d/ の直後に /σ/ が来る場合には、終声 /d/[s] で現れる。

  • 젖소 /jɔdσo/ [ʨɔssʼo] (乳牛)

流音の終声 /r/ は通常 [ɭ] で現れるが、直後に /h/ が来るときは [ɾ] で現れる。 [ɭ] はヨーロッパ諸語や中国語の [l] より後部に調音点があり、舌先を反転させて後部歯茎に押し当てて側面から息を流すようにして発音する。

  • 괄호 /gwarho/ [kwaɾɦo] (括弧)

音素配列上の制約

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朝鮮語には以下のような音素配列上の制約がある。

(1)歯茎硬口蓋音の直後の半母音 /y/

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南の標準語では、歯茎硬口蓋音 /j,c,ζ/ の直後に半母音 /y/ が来えない。従って、つづり字の上で半母音が表記されていても、実際の音声は半母音を伴っていない。

  • /jɔ/ [ʨɔ] (私)
  • /jɔ/ [ʨɔ] (負けて)

一方、北の標準語では、/j,c,ζ/ の直後に半母音 /y/ が来うる。

北の標準語では/j,c,ζ/ は、歯茎破擦音 [ʦ/ʣ][ʦʰ][ʦʼ] で発音するのが原則であるが、/y/ と結合する場合には歯茎硬口蓋破擦音 [ʨ/ʥ][ʨʰ][ʨʼ] で発音するものとされる[2]。このため、北の標準語では、次のようなものは、発音上区別が可能とされる。

  • /jɔ/ [ʦɔ] (私)
  • /jyɔ/ [ʨɔ] (負けて)

しかし、実際には、/y/ と結合する場合以外でも、南と同様に歯茎硬口蓋破擦音 [ʨ/ʥ][ʨʰ][ʨʼ] で発音することがある。

(2)語頭の /r/ 及び /n/

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南の標準語では、漢字語において /r/ が語頭に立ちえない。このため、音節頭に本来 /r/ を持つ漢字音が語頭に立つ場合、/r/ の直後に /i/ あるいは /y/ があるものは /r/ が脱落し、それ以外のものは /r//n/ で発音される。

同様にして、音節頭に本来 /n/ を持つ漢字音が語頭に立つ場合、/n/ の直後に /i/ あるいは /y/ があるものは /n/ が脱落する。

韓国ではこの現象を一般に「頭音法則(두음 법칙)」と呼ぶ。北の標準語では、語頭の /r/ および /n/ は本来のまま維持される。

単語 北の標準語 南の標準語
臨時 림시/rimsi/ 임시/imsi/
勞動 로동/rodoŋ/ 노동/nodoŋ/
女子 녀자/nyɔja/ 여자/yɔja/

しかしながら、外来語の発音にせよ北における漢字語の発音にせよ、語頭の /r/ はもともと朝鮮語にはなかったものである。それゆえ、特に老年層においては外来語や漢字語の語頭の /r/ を脱落させたり /n/ で発音することがしばしばある。

  • 라이터 /naitɔː/ (ライター)

なお、南北間でのこれらの違いについては、「朝鮮語の南北間差異」中の漢字語に関する表記も参照のこと。

ピッチ

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日本語の場合、例えば「雨」(高・低)と「飴」(低・高)のように、ピッチ(音の高低)の違いによって単語の意味を区別しうるが、朝鮮語の標準語はピッチによって単語の意味を区別することがない。しかしながら、朝鮮語の発話においてピッチは無秩序に現れるのではなく、自然な音の高低の流れが存在し、そのパターンから外れる発話は朝鮮語話者にとって不自然な発話に感じられる。

ソウル方言の場合、連続して発音される単位において、第2音節が最も高く発音され、それ以降の音節は徐々に降り調子で発音される。第1音節は初声が激音、濃音あるいは /s/ の場合は第2音節と同程度の高さで発音され、それ以外の子音の場合あるいは母音で始まる場合には第2音節よりやや低く発音される。

なお、東南方言と東北方言には高低アクセントの体系があり、ピッチによって単語の意味を区別しうる。

音節構造

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朝鮮語の音節は母音を中核として形作られる。母音は半母音と単母音の結合(上昇二重母音)でありえ、母音の前には音節頭子音(初声)が1つ立つことができる。朝鮮語の音節は母音で終わる音節(開音節)以外に子音で終わる音節(閉音節)がありえ、母音の後ろには音節末子音(終声)が1つ立つことができる。従って、朝鮮語の音節構造で最も複雑なものは「子音+半母音+母音+子音」という構造である。

音節の構造


母音 /i/ [i] (歯)
半母音+母音 /yo/ [jo] (敷布団)
子音+母音 /so/ [so] (牛)
子音+半母音+母音 /hyɔ/ [hjɔ] (舌)


母音+子音 /an/ [an] (中)
半母音+母音+子音 /waŋ/ [waŋ] (王)
子音+母音+子音 /gir/ [kil] (道)
子音+半母音+母音+子音 /gwaŋ/ [kwaŋ] (光沢)

音素の交替

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朝鮮語は音素交替の種類が多く、以下のような交替がある。

音韻論的な交替

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音韻論的な交替とは、音素が置かれる音的な環境により、当該の音素が別の音素に入れ替わる現象をいう。朝鮮語では子音についてこの現象が見られる。子音音素は配列上の制約があるため、音の並びによっては許されない子音配列がある。そのような場合、当該の子音音素は別の子音音素に交替する。

平音の濃音化

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平音 /b,d,s,j,g/ は音節末の阻害音 /b,d,g/ の直後に来えない。その場合、当該の平音はそれぞれ濃音 /β,δ,σ,ζ,γ/ に交替する。

  • 입시 /ibsi//ibσi/ (入試)[입씨]
  • 국밥 /gugbab//gugβab/ (クッパ)[국빱]

/h/の激音化

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/h/ は音節末の阻害音 /b,d,g/ の直後に来えない。その場合、当該の /h/ は直前の阻害音と同じ調音位置で発音される激音(/p,t,k/ のいずれか)に交替する。

  • 입학 /ibhag//ipag/ (入学)[이팍]
  • 각하 /gagha//gaka/ (閣下)[가카]

阻害音の鼻音化

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音節末の阻害音 /b,d,g/鼻音 /m,n/ および流音 /r/ の直前に来えない。その場合、当該の音節末阻害音はそれぞれ鼻音 /m,n,ŋ/ に交替する。

  • 욕망 /yogmaŋ//yoŋmaŋ/ [용망](欲望)
  • 앞날 /abnar//amnar/ [암날](前途、将来)
  • 됫날 /dödnar//dönnar/ [된날/뒌날](後日、将来)
  • 놓는 /nodnɯn//nonnɯn/ [논는](置く)

/b,d,g/ の直後に /r/ が来る場合、南の標準語では /r/ も同時に鼻音化して /n/ に交替する。北の標準語では 後に/ya, yɔ, yo, yu/ が続く場合においては, /r//n/ に交替せず、/r/ のまま発音することが許容される。

  • 독립 /dogrib//doŋnib/ [동닙](独立)
  • 협력 /hyɔbryɔg//hyɔmnyɔg/ [혐녁](協力) cf. /hyɔmryɔg/ 〔北の許容発音〕

流音の鼻音化

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南の標準語において、流音 /r/鼻音 /m,ŋ/ の直後に来えない。その場合、当該の /r/ は鼻音 /n/ に交替する。北の標準語では,後に/ya, yɔ, yo, yu/ が続く場合においては, /r//n/ に交替せず、/r/ のまま発音することが許容される。

  • 통로 /toŋro//toŋno/ [통노](通路)
  • 침략 /cimryag//chimnyag/ [침냑](侵略) cf. /chimryag/ 〔北の許容発音〕

/n/の流音化

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/n/ は流音 /r/ の直前あるいは直後に来えない。その場合、当該の /n/ は流音 /r/ に交替する。なお、この場合に /rr/ という音の連続の実際の音声は [ll] である。

  • 신라 /sinra//sirra/ [실라](新羅)
  • 찰나 /carna//carra/ [찰라](刹那)
  • 물난리 /murnanri//murrarri/ [물랄리](水害)
  • 대관령 /dɛgwanryɔŋ//dɛgwarryɔŋ/ [대괄령](大関嶺

形態音韻論的な交替

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同一の形態素が一定の音韻的環境によりいくつかの異形態として現れるときに、異形態間で音韻が交替することを形態音韻論的な交替という。朝鮮語にはそのような形態音韻論的交替が多い。

終声の形態音韻論的な交替

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体言および用言は語幹末音に子音を持つ場合、語幹末の子音は交替しうる。交替の類型は以下の2種類がありえる。

音の中和
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例えば、/nopa/ (高く)は /nop/ が語幹であるが、語幹末音の /p//nopa/ のように直後に一部の母音が来て /p/ が音節頭の位置にあるときは激音 /p/ として現れるが、/p/ の直後に子音が来るなどしてこの音が音節末の位置に来る場合には /nobδa/ (高い)のように /b/ に交替する。これは激音 /p/ が音節末の位置に立つことができず、音節末の位置では /b//p/ の区別が失われて平音 /b/ のみが現れるためである(中和)。正書法上では、終声字に激音や濃音などの字母を用いることで表現される。

  • /p//b/
    • 잎이 /ipi/ (葉が) ~ /ib/ (葉)~ 잎 앞 /ibab/ (葉の前)
  • /t,s,σ,j,c//d/
    • 밭에 /bate/ (畑に) ~ /bad/ (畑)~ 밭 아래 /badarɛ/ (畑の下)
    • 옷이 /osi/ (服が) ~ /od/ (服)~ 옷 안 /odan/ (服の中)
    • 있어 /iσɔ/ (いて) ~ 있자 /idζa/ (いよう)
    • 낮에 /naje/ (昼に) ~ /nad/ (昼)
    • 빛이 /bici/ (光が) ~ /bid/ (光)
  • /k,γ//g/
    • 부엌에 /buɔke/ (台所に) ~ 부엌 /buɔg/ (台所) ~ 부엌 안 /buɔgan/ (台所の内)
    • 밖에 /baγe/ (外に) ~ /bag/ (外)


音の脱落
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/barba/ (踏んで)は /barb/ が語幹であるが、このように語幹末に子音が2つ連続している場合、語幹末の子音が /barba/ のように初声の位置に立つときは連続する2つの子音が両方とも現れる。しかし、語幹末の子音が終声の位置に立つときは /babδa/ (踏む)のように2つの子音のうち一方が脱落する。これは朝鮮語において音節末の位置に2つ以上の子音が同時に立ちえないためである。正書法上では、二重パッチムの多くがこれに当たる。ただし同じ二重パッチムでも、ㄶ,ㅀのㅎは /h/ で発音するような性質のものではなく、後述の激音化を表現するためのものである。

  • /bσ//b/
    • 값이 /gabσi/ (値が) ~ /gab/ (値)~ 값있다 /gabidδa/ (やりがいがある)
  • /rb//b/
    • 밟아 /barba/ (踏んで) ~ 밟자 /baːbζa/ (踏もう)
  • /rp//b/
    • 읊어 /ɯrpɔ/ (詠んで) ~ 읊자 /ɯbζa/ (詠もう)
  • /rm//m/
    • 삶이 /saːrmi/ (生活が) ~ /saːm/ (生活)
  • /nj//n/
    • 앉아 /anja/ (座って) ~ 앉자 /anζa/ (座ろう)
  • /rb//r/
    • 넓어 /nɔrbɔ/ (広く) ~ 넓다 /nɔrδa/ (広い)
  • /rg//g/
    • 읽어 /irgɔ/ (読んで) ~ 읽자 /igζa/ (読もう)
  • /gσ//g/
    • 넋이 /nɔgσi/ (魂が) ~ /nɔg/ (魂)~ 넋 없다 /nɔgɔbδa/ (ぼんやりしている)
  • /rg//r/
    • 읽어 /irgɔ/ (読んで) ~ 읽고 /irγo/ (読み)
  • /rσ//r/
    • 외곬으로 /ögorσɯro/ (一途に) ~ 외곬 /ögor/ (一途)
  • /rt//r/
    • 핥아 /harta/ (なめて) ~ 핥고 /harγo/ (なめて)

初声の形態音韻論的な交替

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上述の音韻論的な交替以外の条件で実現される濃音化、激音化、鼻音化はいずれも形態音韻論的な交替と見られる。これらの交替は形態素の境界において起こる。

濃音化
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子音語幹用言に平音で始まる接尾辞語尾が付く場合、語幹末子音が鼻音・流音の場合であっても直後の接尾辞・語尾の頭音である平音が濃音化する。

  • 삼고 /saːmγo/ (見なして)
  • 핥고 /harγo/ (なめて)

体言では、合成語において平音の濃音化が見られる。また、一部の漢字語においても平音の濃音化が見られる。

  • 말버릇 /maːrβɔrɯd/ (口癖)
  • 보험증 /boːhɔmζɯŋ/ (保険証)

なお、漢字語においては /r/ の直後で平音 /d//s//j/ が濃音化する。

  • 철도 /cɔrδo/ (鉄道)
  • 발사 /balσa/ (発射)
  • 물질 /murζir/ (物質)
激音化
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用言のうち、接尾辞・語尾の頭音の平音が激音で現れるものがある。このような用言は語幹末に /h/ を持つと考える場合が多い。正書法上では、終声字に「」を含む場合()がこれに当たる。

  • 놓아 /noa/ [노아](置いて)、놓는 /nonnɯn/ [논는](置く) → 놓고 /noko/ [노코](置いて)
  • 많아 /mana/ [마나](多くて)、많은 /manɯn/ [마는](多くの) → 많고 /manko/ [만코](多くて)
  • 옳아 /ora/ [오라](正しくて)、옳는 /orrɯn/ [올른](正しい) → 옳다 /orta/ [올타](正しい)
鼻音化
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漢字語において、終声 /n/ の直後で 流音 /r//n/ で現れる場合、終声 /n/ と初声 /r/ の間に形態素の境界がある場合に /r//n/ に交替する。

  • 생산량 /sɛŋsanryaŋ//sɛŋsannyaŋ/ (生産量)
  • 의견란 /ɯigyɔnran//ɯigyɔnnan/ (意見欄)
口蓋音化
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語幹末音に /d/ を持つ語幹の直後に /i/ あるいは /hi/ で始まる接尾辞・語尾が付くとき、/d//i/ あるいは /hi/ が組み合わさり /ji/ あるいは /ci/ と現れる現象。正書法上では終声字「」の直後に「」が書かれて /ji/),/ci/) と発音される。

  • 미닫이 /midaji/ (引き戸)
  • 같이 /gaci/ (同じく)
  • 닫힌다 /dacinda/ (閉じられる)
  • 핥인다 /harcinda/ (なめられる)
音の添加
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合成語および派生語において前部形態素が子音で終わり、後部形態素が母音 /i/ あるいは半母音 /y/ で始まる場合、後部形態素の頭に子音 /n/ あるいは /r/ が添加されうる。ただし、表記には通常反映されない。また、「있다」の場合はこの規定が適用できない。

  • 담요 /damnyo/ (毛布)
  • 식용유 /sigyoŋnyu/ (食用油)
  • 영업용 /yɔŋɔmnyoŋ/ (営業用)
  • 내복약 /nɛboŋnyag/ (内服薬)
  • 그림엽서 /gɯrimnyɔbσɔ/ (絵葉書)
  • 꽃잎 /γonnib/ (花びら)
  • 서울역 /sɔurryɔg/ (ソウル駅)
  • 금융 /gɯmnyuŋ/ (金融) - /gɯmyuŋ/と発音することも許容できる。ただし、北朝鮮では「/gɯmyuŋ/」のみとされる。

音素交替と正書法

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朝鮮語の正書法では、同一の形態素は常に同一につづるという原則にのっとって定められている(形態主義)。従って、上記のようなさまざまな音素交替があっても発音の通りにつづらない(ごく稀に正書法上で別の表記を定めることがある)。詳細は朝鮮語の正書法形態主義を参照のこと。

母音調和

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朝鮮語はかつてかなりはっきりした母音調和を有していた。中期朝鮮語では母音は陽母音 /a,o,ʌ/陰母音 /ə,u,ɯ/ それに中性母音 /i/ の3グループに区分され、原則的に同一単語内部では同一グループの母音のみが用いられた。ただし、中性母音は陽母音・陰母音いずれの母音とも同時に現れた。

陽母音 /a/ /o/ /ʌ/
陰母音 /ə/ /u/ /ɯ/
中性母音 /i/
  • /sasʌm/ (鹿)― 陽母音
  • /ərgur/ (姿)― 陰母音

中期朝鮮語における母音調和は形態素内のみにとどまらずその形態素に付属する語尾類にまで及んだ。例えば「…は」の意の助詞は /nʌn//nɯn/ のように、陽母音形と陰母音形があり、語幹が陽母音から成るのか陰母音から成るのかによって使い分けられた。

  • /nanʌn/ (我は)― 陽母音
  • /nənɯn/ (汝は)― 陰母音

現代朝鮮語において母音調和はほとんど崩壊しており、いくつかの点において化石化してその痕跡を留めているに過ぎない。1つは用言の活用形における、/a//ɔ/(「第III語基」、「連用形」などと呼ばれる形)である。陽母音語幹は陽母音の /a/ をとり、陰母音語幹は陰母音の /ɔ/ をとる。しかしながら、話し言葉の場合、子音語幹用言においては陽母音語幹の後ろでも /ɔ/ が現れる。

  • 받아 /bada/ (もらって) cf. 받어 /badɔ/ 〔話し言葉〕
  • 먹어 /mɔgɔ/ (食べて)

一部の用言は母音の陰陽の違いによるペアを持つ。

  • 작다 /jaːgδa/ (小さい) ― 적다 /jɔːgδa/ (少ない)

オノマトペをはじめとした音象徴語は現代朝鮮語において母音調和が最も残っている語彙である。陽母音を含む単語が「明、小、軽」などのニュアンスを含むのに対し、陰母音を含む単語は「暗、大、重」などのニュアンスを含むとされる。

  • 활활 /hwarhwar/:鳥が軽やかに飛ぶ様子
  • 훨훨 /hwɔrhwɔr/:大きな鳥がゆっくりと飛ぶ様子

ただし、中期朝鮮語と現代朝鮮語とでは母音体系が異なっているため、音象徴語に見られる母音調和のペアは中期朝鮮語のそれと同一ではない。以下は現代朝鮮語の音象徴語に見られる母音調和のペアである。

陽母音 /a/ /o/ /ɛ/
陰母音 /ɔ/ /ɯ/ /u/ /i/
  • 꼴깍 /γorγag/꿀꺽 /γurγɔg/ (ごくり)
  • 싹싹 /σagσag/쓱쓱 /σɯgσɯg/ (ごしごし)
  • 뱅뱅 /bɛŋbɛŋ/빙빙 /biŋbiŋ/ (ぐるぐる)

脚注

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  1. ^ 条件異音であり、/i/, /y/の前では[ɕ]、それ以外では[s]となる。
  2. ^ 《문화어발음사전》(사회과학출판사, 주체103(2014)년.)2-12頁参照。

参考文献

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  • 宇都木昭(2007)「音響音声学からの接近」,『韓国語教育論講座』第1巻,くろしお出版 ISBN 978-4-87424-374-9
  • 이현복(2002) “한국어 표준발음사전”,서울대학교출판부
  • 이호영(1996) “국어음성학”,태학사
  • 허웅(1985;1997) “국어 음운학”,샘 문화사