2008 TC3
2008 TC3 | |
---|---|
2008 TC3の突入軌道
| |
仮符号・別名 | 8TA9D69(CSSの暫定符号) 2008 TC3 アルマハータ・シッタ隕石 |
分類 | 地球近傍小惑星→隕石 |
軌道の種類 | アポロ群→消滅 |
発見 | |
発見日 | 2008年10月6日 |
発見者 | CSS |
落下日 | 2008年10月7日 |
軌道要素と性質 元期:2008年10月6日 (JD 2454745.5)[1] (落下直前の軌道) / 2008年10月8日 (JD 2454747.5)[1] (落下しなかった場合の、通過直後の軌道) | |
軌道長半径 (a) | 1.2705 / 0.7617 AU |
近日点距離 (q) | 0.9082 / 0.4933 AU |
離心率 (e) | 0.2852 / 0.3524 |
公転周期 (P) | 1.432 / 0.665 年 |
軌道傾斜角 (i) | 2.328 / 0.381 度 |
近日点引数 (ω) | 233.951 / 349.799 度 |
昇交点黄経 (Ω) | 194.133 / 193.877 度 |
平均近点角 (M) | 328.476 / 218.484 度 |
物理的性質 | |
直径 | 4.1 m[2] |
質量 | 8 ×103 kg |
平均密度 | 2.1 or 2.5 g/cm3 (隕石サンプルの実測値) |
スペクトル分類 | F |
絶対等級 (H) | 30.9 |
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
2008 TC3は、2008年10月7日の協定世界時2時46分(現地時間5時46分、日本時間11時46分)[3]に地球の大気圏に突入し、スーダンのヌビア砂漠上空37km付近(成層圏)で爆発した、推定直径2mから5m、推定質量約8トン[4]の微小天体(流星体)である。これは史上初の「地球の大気圏と衝突する前に発見された天体」であり、スペースガードとして知られる地球近傍天体の検出と追跡のプロセスが実地で試されることとなった。
2008年12月から行われた現地調査によって、280個、約4kgの破片が回収され、アルマハータ・シッタ隕石 (Almahata Sitta meteorite) と名付けられた。これらはユレイライトと呼ばれる、微小ダイヤモンドを含んだ珍しいタイプの隕石である[2][5][6]。
発見
[編集]この微小天体は、大気圏に突入する約20時間前の10月6日6時39分[1][7]、リチャード・コワルスキーによって、アメリカ合衆国アリゾナ州ツーソンの北にあるレモン山天文台のカタリナ・スカイサーベイ用1.5m望遠鏡を用いて発見された[8]。
19時間足らずの間に、27組のアマチュアまたはプロの観測者によって586回の視差測定と多数の写真観測が行われ、小惑星センターに報告された。それらの観測を元に、11時間で25本の小惑星電子回報が発行され、その度に軌道が更新された。ピサ大学の「CLOMON 2」半自動追跡システム[9][10]とジェット推進研究所の「Sentry」システムが衝突を予測した。カナリア諸島のラ・パルマにある4.2mのウィリアム・ハーシェル望遠鏡を用いて行われた分光観測は、C型ないしM型小惑星のものと一致した。
10月7日1時49分[7]、微小天体は地球の影に入り、観測不能になった。
2008 TC3の母天体の候補としてはアポロ群の小惑星 (152679) 1998 KU2が挙げられていたが[2]、原始惑星由来であるともされる[11]。中野主一は、もし地球に落下せず、ぎりぎりのところを通過した場合は、地球の重力による摂動でアテン群の軌道に遷移したと推測している[1]。
爆発
[編集]微小天体は、スーダン北部の上空で、秒速12.8km(時速2万9千マイル)で流星のように大気圏に突入したことが確認された。方位角281度(西微北)、地平線に対して19度の方向から飛来してきたと推定される。
この流星体は早朝の空でTNT換算2.1キロトン相当の爆発を起こし、大きな火球 (large fireball or bolide[12]) を発生させた。そこはほとんど人が住んでいないヌビア砂漠の僻地だったが、1,400km離れたチャド上空を飛行していたKLM機の乗員が激しい閃光を目撃している[2][7]。欧州気象衛星開発機構 (EUMETSAT) のメテオサット8号が、解像度の低い画像で火球を捉えていた。その画像によれば、火球の位置は北緯21度東経32.15度である[13]。ケニヤの低周波音検出アレイは、TNT換算1.1~2.1キロトン相当の爆発によると思われる衝撃波を捉えた[14]。この規模の隕石は、1年に2個か3個の割合で地球に落下している[15]。
微小天体の軌道は北緯20.3度東経33.5度付近で地球の表面と接することが示されていたが[16]、実際にはそこより100から200km西かつナイル川よりやや東、エジプトとスーダンの国境より100kmほど南の上空で爆散したと考えられる。
アメリカ合衆国政府の発表によれば[17][18]、アメリカの衛星による観測では、2時45分40秒(協定世界時)に、北緯20.9度東経31.4度、高度65.4kmで火球が出現し、北緯20.8度東経32.2度、高度37kmで爆発したという。
破片の回収
[編集]調査
[編集]2008年12月6日から現地調査が行われ、280個、約4kgの破片が回収された。それらはヌビア砂漠を縦断している鉄道線の最寄駅[19]から“アルマハータ・シッタ(アラビア語で「6番駅」の意)隕石”と名付けられた。この調査はカリフォルニア州のSETI研究所のピーター・ジェニスケンスとハルツーム大学のムアーウィア・シャッダードの下で、同大学の学生・職員たちによって行われた。調査を始めてから3日の間に最初の15個の隕石が見つかった。調査は多くの目撃者へのインタビューと、カリフォルニア州パサデナのジェット推進研究所が作成した目標地域の地図[20]に基いて行われた[21]。これら以前にも空で目撃された火球の破片が発見されることはあったが、地球に衝突する前に宇宙空間で捕捉された物体の破片が発見されたのはこれが初めてである。
分析
[編集]アルマハータ・シッタ隕石のサンプルは、分析のためにカリフォルニア州のエイムズ研究センター、ヒューストンのジョンソン宇宙センター、ワシントン・カーネギー協会、ニューヨークのフォーダム大学などに送られた[21]。分析結果は、炭化物の粒を多量に含む、珍しい、非常に粒子の細かい、空隙率が30%前後の、多種混合角礫岩ユレイライトの端成分エコンドライトであることを示している[2][22]。反射スペクトルはF型小惑星のようである[22]。
このような組成の物質は、直径が少なくとも100km以上ある天体の内部で結晶分化作用により形成されたと考えられる[6]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ a b c d 「観測史上初 地表面に衝突した小惑星 2008 TC3」(『天文ガイド』2008年12月号、中野主一)
- ^ a b c d e 「地表面に衝突した小惑星 2008 TC3 アフリカ・スーダンで粉砕破片を発見」(『天文ガイド』2009年7月号、関口朋彦)
- ^ 直径1~3mの天体が本日、大気圏突入:この種の予測は初めて(WIRED.jp 2008年10月7日)
- ^ 流星の破片4kg分の回収に成功 大気圏外から追跡(WIRED.jp, 2009年3月27日)
- ^ 隕石と小惑星の関係を初めて実証(ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト、2009年3月26日)
- ^ a b 流星の破片4kg分の回収に成功(2):起源は(WIRED.jp, 2009年3月27日)
- ^ a b c “Asteroid 2008 TC3 Strikes Earth: Predictions and Observations Agree”. NASA (2008年11月4日). 2009年6月18日閲覧。
- ^ Williams, Gareth V. (2008年10月6日). “MPEC 2008-T50”. Minor Planet Center. 2008年10月8日閲覧。
- ^ “NEODys Main Risk Page”. 2008年10月8日閲覧。
- ^ “NEODys 2008 TC3 page”. 2008年10月8日閲覧。
- ^ ダイヤモンドを含む隕石は消滅した原始惑星の一部.アストロアーツ
- ^ “Astronomers predict shooting star over Sudan from space boulder”. AFP. 2008年10月8日閲覧。
- ^ “m8 HRV 200810070245” (2008年10月8日). 2008年10月8日閲覧。
- ^ “Impact of Asteroid 2008 TC3 Confirmed”. NASA Near Earth Object Program (2008年10月7日). 2008年10月8日閲覧。
- ^ Borenstein, Seth (2008年10月6日). “Small asteroid headed for light show over Africa”. Yahoo! News. 2008年10月8日閲覧。
- ^ "Mike" (2008年10月6日). “Very near NEO Meteoroid impact!”. MKVH.de. 2009年6月21日閲覧。
- ^ “Asteroid Update”. spaceweather.com (2008年10月15日). 2008年10月18日閲覧。
- ^ “US Gov 28-2”. US Gov (2008年10月15日). 2008年10月18日閲覧。
- ^ Station Nr. 6. - Nubian Desert(Panoramio, 2008年4月16日)
- ^ http://www.nasa.gov/images/content/322049main_treasure2.jpg
- ^ a b “NASA Team Finds Riches in Meteorite Treasure Hunt”. NASA (2009年3月27日). 2009年4月5日閲覧。
- ^ a b Jenniskens, P.; et al. (2009), p. 485, abstract.
参考文献
[編集]- Jenniskens, P.; et al. (2009), "The impact and recovery of asteroid 2008 TC3", Nature, Letters, Vol. 458, pp. 485-488, 2009 March 26, with supplemental online material; and front cover photo of magazine issue of one of the fragments.
- Kwok, Roberta (2009), "The Rock That Fell to Earth", Nature, News Feature, Vol. 458, pp. 401-403, 2009 March 26.
外部リンク
[編集]- Meteoritical Bulletin Database: Almahata Sitta
- 外部サイトの画像
- Animation of impact from the asteroid's point of view (Pasquale Tricarico of the Planetary Science Institute)
- Impact Trajectory on October 7, 2008
- Circled, the object caught on camera as it sped towards Earth
- The full story of Earth-impacting asteroid 2008 TC3 by Emily Lakdawalla (The Planetary Society Blog)
- 2008 TC3: A Serendipitous Event by Tavi Greiner (The Slooh SkyLog)
- Announcement with animation
- Atkinson, Nancy. “Where Are the Images from Asteroid 2008 TC3?”. Universe Today. 2009年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月8日閲覧。
- “webcam record of flash effect from Red Sea beach at El Gouna, Egypt, 725 km away” (GIF). 2009年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月8日閲覧。 (linked from [1])
- Javaux, Gilbert. “P.G.J.- 2008 TC3... Première détection d'un astéroïde avant son impact sur Terre” (French). 2009年6月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年6月8日閲覧。 (orbits, charts, observation records, fragment analysis)
- Online science newsletter article published March 12, 2009
- BBC article about the asteroid, March 25, 2009
- APOD Astronomy Picture of the Day