コンテンツにスキップ

スタイレット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
気管挿管を容易にする気管内チューブスタイレット

スタイレット(Stylet)とは、気管挿管の際に用いられる気管チューブに挿入し、形を安定させるものである。患者の状態に合わせて気管チューブを適切な形状に安定させ、患者に挿管する。挿管完了後に気管チューブからスタイレットを抜去する。

構造

[編集]

芯部はアルミニウムなどの軟性金属、鞘状カバー部はポリ塩化ビニルでできているものが多く、患者の状態に合わせて形状を変えることができ、スムーズに気管内チューブに挿入することができるようになっている。

使用方法

[編集]
気管挿管についての詳細は「気管挿管」を参照

スタイレットの先端がチューブの先端より先に出ていると、気管損傷のおそれがあるため、スタイレット先端は原則として気管内チューブ内にとどめておくほうがよい。 金属疲労による機能低下を防ぐなどの目的で、ディスポーザブルなものが多いが、再使用が可能なものもある。

この補助具は、喉頭展開が困難な場合に用いるのが一般的である。喉頭鏡のブレードと同様に、利用可能なスタイレットにもいくつかの種類があり[1]、例えばグライドスコープTMビデオ喉頭鏡の60°のブレード角度に合うように特別に設計されたベラソンTMスタイレットがある[2]

ガムエラスティックブジー

[編集]

ガムエラスティックブジー(商品名 エシュマン気管チューブイントロデューサーなど)は、挿管困難に対して用いられる特殊なスタイレットである[3]。この柔軟な器具は、長さ60cm(24インチ)、直径15フレンチ(5mm)、先端がホッケースティック状に曲がっている。従来のスタイレットとは異なり、ガムエラスティックブジーは通常、気管に直接挿入し、気管チューブを通すためのガイドとして用いる(セルディンガー法に類似した方法である)。ガムエラスティックブジーは従来のスタイレットよりもかなり硬度が低いため、この方法は気管挿管の比較的低侵襲な手段と考えられている[4][5]

チューブ��クスチェンジャー

[編集]

(気管)チューブエクスチェンジャーは、長さ56~81cmの中空カテーテルで、(必ずしも)喉頭展開を必要とせず、気管チューブの抜去・交換に用いることができるものである[6]。例えば、通常のチューブに比べて留置が難しい、ダブルルーメン気管支チューブと通常の気管チューブとの入れ替えに用いられる。クック気道交換カテーテル(Cook Airway Exchange Catheter: CAEC)もこのタイプのカテーテルの一例で、この器具には酸素を送気英語版できる中央ルーメン(中空チャンネル)がある[7]。気道交換カテーテルは長い中空カテーテルで、多くはジェット換気、用手換気、酸素送気用のコネクターがある。また、カテーテルをカプノグラフに接続して呼吸状態のモニターを行うことも可能である。

光源つきスタイレット

[編集]

ライト付きスタイレット(ライトワンドとも)は、透過照明英語版の原理を用いた装置である。すなわち、スタイレット先端が強く発光するために、挿管の際に部屋を暗くすると気管を透過した光が体外から視認できるようになっており、食道では無く気管に挿管されたことを確認できる。喉頭鏡と異なり、声帯を直視する必要が無い[8]。従来の気道確保用具と根本的に異なる用法により、日本では、ライトワンドの改良型商品としてトラキライトTM[9]が一定の人気を博していた[10]が、2023年現在、販売されておらず、入手困難となっている[11]

脚注

[編集]
  1. ^ Benumof (2007), Hung OR and Stewart RD, Chapter 20: Intubating stylets, pp. 463–75
  2. ^ Agrò, F; Barzoi, G; Montecchia, F (2003). “Tracheal intubation using a Macintosh laryngoscope or a GlideScope in 15 patients with cervical spine immobilization”. =British Journal of Anaesthesia 90 (5): 705–6. doi:10.1093/bja/aeg560. PMID 12697606. 
  3. ^ El-Orbany, MI; Salem, MR (2004). “The Eschmann tracheal tube introducer is not an airway exchange device”. Anesthesia & Analgesia 99 (4): 1269–70; author reply 1270. doi:10.1213/01.ANE.0000133955.92363.B1. PMID 15385401. http://www.anesthesia-analgesia.org/content/99/4/1269.2.full. 
  4. ^ Armstrong, P; Sellers, WF (2004). “A response to 'Bougie trauma—it is still possible', Prabhu A, Pradham P, Sanaka R and Bilolikar A, Anaesthesia 2003; 58: 811–2”. Anaesthesia 59 (2): 204. doi:10.1111/j.1365-2044.2003.03632.x. PMID 14725554. 
  5. ^ Hodzovic, I; Latto, IP; Wilkes, AR; Hall, JE; Mapleson, WW (2004). “Evaluation of Frova, single-use intubation introducer, in a manikin. Comparison with Eschmann multiple-use introducer and Portex single-use introducer”. Anaesthesia 59 (8): 811–6. doi:10.1111/j.1365-2044.2004.03809.x. PMID 15270974. 
  6. ^ VBMチューブエクスチェンジャ”. 2023年4月24日閲覧。
  7. ^ “A prospective study of the safety of tracheal extubation using a pediatric airway exchange catheter for patients with a known difficult airway”. Chest 111 (6): 1660–5. (June 1997). doi:10.1378/chest.111.6.1660. PMID 9187190. 
  8. ^ Davis, L; Cook-Sather, SD; Schreiner, MS (2000). “Lighted stylet tracheal intubation: a review”. Anesthesia & Analgesia 90 (3): 745–56. doi:10.1097/00000539-200003000-00044. PMID 10702469. http://www.anesthesia-analgesia.org/content/90/3/745.full.pdf. 
  9. ^ “トラキライト™”. 日本臨床麻酔学会誌 25 (3): 258–263. (2005). doi:10.2199/jjsca.25.258. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/25/3/25_3_258/_article/-char/ja/. 
  10. ^ 青山 和義、竹中 伊知郎 (2008). “連載 初歩からのトラキライト:第1回 トラキライト®とは…暗闇に光る一条の光”. LiSA 15: 1014-1021. doi:10.11477/mf.3101100463. https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3101100463. 
  11. ^ レールダル・トラキライト販売終了のご案内”. laerdal.com. 2023年4月24日閲覧。


参考文献

[編集]