エポニム

人名を拠り所とする語句

エポニム英語: eponym)、冠名語(かんめいご)は、

  • おもに人物の名前を拠り所とする語句[1][2]である。
    • 発見者らの氏名などから二次的に命名された語句で、広範で用いられる[3][4][5]。本項でおもに記す。
  • 名祖なおや[1][3]。事物、土地、民族などの名称の起源となった人物[6][7][8][9]などを指す。

概要

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おもに人物や事物の名称を拠り所として、実在や架空の人物、神話の登場人物などを含む[10][11][12][13][14]。語源は、ギリシャ語で「……の後に」を意味する“epi”と、英語の-onym “onoma”の合成語[15][6][8]である。

日本語訳として、冠名語[16]冠名語句[1]冠名用語[17]などが用いられる。江戸時代以後は当該の始祖となる人物の氏名に拠るものが多く、江戸以前は後世に見立てや洒落による命名が多い[18]

新たに発見、発明、考案された理論、法則、定理、単位、概念、現象、構造、装置、物質などに、発見者らの氏名を冠することを、エポニミー英語: eponymy[15][19][20][21]と称し、人名を冠した用語そのものを指す[22][8]事例も見られる。エポニミー現象は西洋の近代自然科学が勃興する16世紀から17世紀頃に出現し、18世紀末期から19世紀頃に次第に浸透して定着[15]する。エポニミーは発見者らを褒賞する企図[23][19][24][25]もある。人名を冠して企業業績が上昇する効果を、エポニミー効果 (eponymy effect) [26][27]と称する。

医学分野のエポニムはメディカル・エポニム (en:Medical eponyms) と称し、人物や場所の名称に拠る症状や疾患などの名称[14]を指す。

成立

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エポニムの成立過程を下記する。

自身の氏名を付す

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自然界で発生した物はその主体にまだ名称が存在せず、自身に自らの名は命名で��ない。

創造主、発見者が自らの氏名を付す

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企業店舗などの屋号に自らの名を付すことは広く見られ、企業の名称がその製品の総称となる事例も多い。

自然科学分野の発明では事例が少ない[1]

二世など自身の氏名を子に襲名させる事例がある。

小惑星の名称は小惑星センター (MPC) から発見者に命名権が与えられ、発見者の氏名が付される事例がある。

創造主、発見者以外の他者が命名

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引用する者、後世の者、マスコミ、命名機関などが、発見者や発明者などの名で呼称する[15]事例がある。最初の発見や発明者に限らず、再発見、再発明、紹介者らに拠る事例も多く、スティグラーの法則と称する。

彗星の名称は、小惑星センター (MPC) が発見者の氏名を付す。

関係者の名前を付す

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恩師、スポンサー、協力者、国王領主家族などの名を付す事例がある。

自然科学、特に生物学名献名と称する。

偉人の名前を付す

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無関係な偉人の名を付す場合で、水星金星クレーターなどで見られる。コペルニクス・クレーター天文学者コペルニクスは関連せず、同じく日本人の氏名で紫式部狩野永徳二葉亭四迷などに拠るクレーターが水星にあるがそれぞれ関連しない。

ソビエト連邦など社会主義国は、指導者や革命家の名を無関係の都市に付して改名する事例が多い。レニングラードサンクトペテルブルク)、スターリングラードヴォルゴグラード)、スヴェルドロフスクエカテリンブルク)、ゴーリキーニジニ・ノヴゴロド)、オルジョニキーゼウラジカフカス)、フルンゼビシュケク)、カール・マルクス・シュタットケムニッツ)、チトーグラードポドゴリツァ)、カリーニングラードケーニヒスベルク)などがあるが、現在はカリーニングラードを除いて旧市名に復している。

空港に偉人や著名人の名を付す事例が多い。ジョン・F・ケネディ国際空港ニューヨーク)、ワシントン・ダレス国際空港ワシントンD.C.)、パリ=シャルル・ド・ゴール空港パリ)、リバプール・ジョン・レノン空港リバプール)などが世界各国で多数見られ、日本では高知龍馬空港高知県南国市)がある。

アメリカ海軍ニミッツ級航空母艦に、歴代アメリカ大統領、著名政治家、軍人などの名前を付し、ドワイト・D・アイゼンハワーカール・ヴィンソンセオドア・ルーズベルトロナルド・レーガンジョージ・H・W・ブッシュジェラルド・R・フォードジョン・F・ケネディなどがある。イギリス海軍空母クイーン・エリザベスフランス海軍の空母シャルル・ド・ゴールクルーズ客船クイーン・ヴィクトリアなど、国を代表する艦船に偉人や著名人の名を付す事例が多い。

小惑星の名称は小惑星センター (MPC) から発見者に命名権が与えられるが、偉人の名前を付す場合は死後100年の経過を要する。

語形による分類

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変化せず用いる

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単位名は、ニュートンなど変化させずに用いる事例が多い[1]

語形を変化

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古来は広範でエポニムをラテン語化した。アメリカは、探検家アメリゴ・ヴェスプッチアメリゴのラテン名Americus Vespuciusに由来し、ラテン語terra(「大地」女性名詞)の類推でAmericaとなった[28]

現在は語幹のラテン語化は少ないが、生物学名の種小名(属格)、元素名 (-ium) [1]素粒子名 (-on) など、語尾のラテン語化が慣例とされる分野がある。

人名などへ語尾を付加し形容詞派生させた例も多く見られる。英語の例では、ラグランジアンハミルトニアンなど(eponymous adjectives)。

人名のアクロニウムは企業名や商品名で多く見られる。

他の語句を付す

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人名の後に、法則や定理、係数や効果などの語を付したもので、ボイル=シャルルの法則[8]ベルヌーイの定理[1]などがある。

フレミング左手の法則など、説明的な命名と併用される事例もある。

略語

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多数の人名が連なる場合に、EPRパラドックス(アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス)、HR図(ヘルツシュプルング・ラッセル図)[1]などアクロニム[1]を用いる事例がある

awkプログラミング言語)など、アクロニムが正式名称の場合もある。

エポニムの例

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一般

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地名、料理など

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地名はアメリゴ・ヴェスプッチからアメリカアイゲウスからエーゲ海エウローペーからヨーロッパなど人名に拠る事例が多く、パラドックス哲学も関係者の氏名が多く含まれ、料理もマドレーヌピッツアマルゲリータビーフストロガノフシャリアピン・ステーキなど関係者の氏名を用いる事例が多いが、それぞれの語源は異説が多い。

科学

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生物学名和名などは献名、ほかに医学のエポニムの一覧数学のエポニムの一覧天文学のエポニムの一覧人名に由来する物理単位の一覧人名反応(化学)、それぞれに詳述がある。

スポーツ

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英語

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脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j 下坂英「科学におけるエポニム」『東洋英和大学院紀要』第15号、東洋英和女学院大学大学院、2019年、51-56頁、ISSN 1349-7715NAID 1200065961952021年8月15日閲覧 
  2. ^ Fahad Al Aboud (2014年). “Eponyms in Statistics”. American Journal of Research Communication. 2019年6月15日閲覧。
  3. ^ a b c エポニム eponym デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2019年6月15日閲覧。
  4. ^ 現代人のカタカナ語辞典 エポニム”. イミダス. 2019年6月15日閲覧。
  5. ^ eponymous”. 会津大学. 2019年6月15日閲覧。
  6. ^ a b eponym”. 会津大学. 2019年6月15日閲覧。
  7. ^ a b 上野誠治 (2013年3月31日). “翻訳と解説形態論 : 語構造の分析(2)”. 北海学園大学人文学会. pp. 27-60. 2019年6月15日閲覧。
  8. ^ a b c d 鶴岡森昭「エポニムの知名度調査の学校間比較 : 高校物理を事例として」『物理教育』第53巻第4号、日本物理教育学会、2005年、307-312頁、2019年6月15日閲覧 
  9. ^ a b Eponyms”. オーストラリア国立大学 (2010年10月19日). 2019年6月15日閲覧。
  10. ^ Chapter 1 細胞とDNA”. 講談社サイエンティフィク. 2019年6月15日閲覧。
  11. ^ Khalid Al Aboud. “SIMILAR NAMES AND TERMS IN DERMATOLOGY; AN APPRAISAL”. Our Dermatology Online journal. 2021年9月1日閲覧。
  12. ^ Deep in Thought”. ニューヨーク・タイムズ (2016年7月28日). 2019年6月15日閲覧。
  13. ^ JEFF GRANT (2007). “An Epiphany of Eponyms”. Word Ways 40 (1): 28-30. https://digitalcommons.butler.edu/wordways/vol40/iss1/16 2021年8月10日閲覧。. 
  14. ^ a b Borja Mora (2010年9月13日). “Medical Eponyms - Time for a Name Change”. JAMA Network. 2019年6月15日閲覧。
  15. ^ a b c d 青木仕「医学におけるエポニミー現象に関する研究 : 症候群の分析」『医学図書館』第35巻第4号、日本医学図書館協会、1988年、219-227頁、doi:10.7142/igakutoshokan.35.219ISSN 0445-2429NAID 1300020214002021年8月10日閲覧 
  16. ^ サトウタツヤ. “スキナーとそのお墓:あるいは冠名現象としてのスキナー箱”. 公益社団法人日本心理学会. 2019年6月15日閲覧。
  17. ^ 田中芳文 (2017年3月). “現代アメリカ英語の諸相 : 医療現場の英語表現を探る”. 島根大学外国語教育センター. pp. 33-44. 2019年6月15日閲覧。
  18. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 4.
  19. ^ a b 大谷卓史「著作権の哲学 : 著作権の倫理学的正当化とその知的財産権政策への含意」『吉備国際大学研究紀要 国際環境経営学部』第21号、順正学園吉備国際大学、2011年3月、1-24頁、ISSN 18836232NAID 1100084276632019年6月15日閲覧 
  20. ^ 生物学とは何か”. 玉川学園. 2019年6月15日閲覧。
  21. ^ 青木仕. “看護学分野におけるエポニミー現象の分析”. 医学情報サービス研究大会. 2019年6月15日閲覧。
  22. ^ 加野芳正 (2019年3月). “日本学術会議 中国・四国地区ニュース”. 日本学術会議. 2019年6月15日閲覧。
  23. ^ 村上陽一郎. “「21世紀における科学技術と人間社会のあり方」”. 福島県. 2019年6月15日閲覧。
  24. ^ 村上陽一郎「ノーベル賞と科学研究における褒賞制度」『学術の動向』第7巻第7号、日本学術協力財団、2002年7月、17-18頁、doi:10.5363/tits.7.7_172019年6月15日閲覧 
  25. ^ 村上陽一郎「科学技術と今後の課題 (特集 生命の世紀と仏教) -- (連続公開講演会より)」『東洋学術研究』、東洋哲学研究所、2001年、NAID 400026516502019年6月15日閲覧 
  26. ^ エポニミー効果 デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2019年6月15日閲覧。
  27. ^ 現代人のカタカナ語辞典 エポニミー効果”. イミダス. 2019年6月15日閲覧。
  28. ^ 『スタンダード英語語源辞典』大修館
  29. ^ a b c イギリスの貴族の名前がついた運動の名は? 東大王・伊沢拓司の最強クイズ”. KADOKAWA (2019年3月2日). 2019年6月15日閲覧。
  30. ^ アマトリチャーナ、食べて応援 イタリア地震、被災の町由来のパスタ 内外で広がる”. 朝日新聞 (2016年8月27日). 2019年6月15日閲覧。
  31. ^ 日本酒・本格焼酎・泡盛 銘柄コレクションの解説 綾杉”. コトバンク. 2019年6月15日閲覧。
  32. ^ 冬は酒蔵めぐりで温かくなろう”. 福岡市 (2017年1月12日). 2019年6月15日閲覧。
  33. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 77.
  34. ^ a b c d e f g h 猪浦道夫. “人名の普通名詞化(eponym)”. DHC総合教育研究所. 2019年6月15日閲覧。
  35. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 120.
  36. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 21.
  37. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 108.
  38. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 5.
  39. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 23.
  40. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 119.
  41. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 103.
  42. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 126.
  43. ^ 野呂間人形・野呂松人形”. コトバンク. 2019年12月21日閲覧。
  44. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 100.
  45. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 91.
  46. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 86.
  47. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 80.
  48. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 125.
  49. ^ オープンキャンパス 模擬授業スケジュール”. 東洋英和女学院大学. 2019年6月15日閲覧。
  50. ^ 曽田豊二 (1997年9月10日). “九州大学医学部の誕生と関連医史学資料について”. 日本医史学会. 2019年6月15日閲覧。
  51. ^ 『人名ではない人名録』 2014, p. 130.

参考文献

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関連項目

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