諸田玲子「登山大名」(392)
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知らせとは、大老酒井忠清の発病である。
十月十三日、将軍の代替わりの祝賀のひとつ、猿楽の催しに出かけた際、痰(たん)がつかえ、このときは医師も駆けつけ、手当ても速やかだったので無事回復したが、以来、顔や手足が浮腫(むく)んで、体調もすぐれぬという。
「にわかには信じられぬ。従弟(いとこ)は病とは無縁、精力的に働いておったではないか」
大ぶりの顔はいつもてかてかと血色がよく、小柄な体で忙(せわ)し...
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