Tokyo Investigative Newsroom Tansa
Tokyo Investigative Newsroom Tansaは、特定非営利活動法人Tansaが運営するニューズルーム。探査報道に特化した国際的な独立メディアで、主にオンライン上で記事を発信している。編集長は元朝日新聞の渡辺周。顧問弁護士は喜田村洋一。
概要
[編集]Tansaは探査報道を専門としている。探査報道とは、暴露しなければ永遠に伏せられる事実を、独自取材で掘り起こし報じることを指す。一般的に「調査報道」と呼ばれるが、調査報道よりも深く緻密な取材をしているため「探査報道」と呼んでいる。
Tansaの目的は、犠牲者や被害者の置かれている状況を変え、原因となっている権力の不正を終わらせることである。取り上げるテーマは犠牲者を救うために何を変えたらいいのかという視点で選んでおり、社会の流行りや読者の興味に合わせてテーマを選ぶことはしていない。また、ジャーナリストとしての倫理を最優先に、権力に遠慮せず、あらゆる手段を使って不正の事実と証拠を入手し報じると公言している。
探査報道が挑む国家権力や企業はすでに国境を越えて広く活動しているため、Tansaではジャーナリズムのグローバルスタンダードである世界規模での連携を重視している。Tansaは2018年、82か国211の独立・非営利ニュース組織(2021年6月時点)が加盟する「Global Investigative Journalism Newsroom」の公式メンバーに日本で初めて加盟した[1]。報道機関としては国内唯一の加盟組織である[2]。殆どの記事や動画を、日本語と英語の2言語で発信している。
経営は、非営利組織(NPO法人)として運営している。あらゆる権力から独立するため、企業からの広告料を受け付けていない。また、経済状況に関わらず誰でも探査報道にアクセスできる社会であってほしいとの思いから、読者からの購読料を一切とっていない。収入は、個人からの寄付、財団などからの助成金、探査報道ジャーナリスト養成学校「Tansa School」の受講料が主な財源となっている。寄付には、毎月の継続寄付や特典のついたメンバーシップなどがある[3]。
沿革
[編集]Tansaの前身であるワセダクロニクルは、2017年2月1日に早稲田大学ジャーナリズム研究所で誕生した。「大学発メディア」として、ジャーナリズムの実践とジャーナリスト教育の両立を目指して立ち上がった。創設者および編集長は、元朝日新聞記者の渡辺周。創刊シリーズ「買われた記事」では、電通と共同通信による20年前から続くステマ記事の真相を暴いた。製薬企業から金を受け取った電通が、さらに共同通信に委託し、新薬の宣伝を「広告」ではなく「記事」として配信していたというスクープである[4]。株主総会で問いただされた電通は社内規定の���直しを表明し、共同通信は対価を伴う一般記事の廃止を約束した。東京都は製薬会社に改善命令を下した。この報道により、日本外国特派員協会から「報道の自由推進賞」を授与された。
2018年2月1日、NPO法人ワセダクロニクルとして早稲田大学から独立した。シリーズ「強制不妊」で、旧優生保護法のもと、厚生省が強制不妊手術の件数を都道府県に競わせていたことや、手術件数が全国最多の北海道が「千人突破記念誌」を発行していたことなどスクープを放った。他のメディアも追随し、国会議員が超党派で被害者救済の法案作りに着手した。安倍晋三元首相が被害者に謝罪し、救済法の成立が実現した。この報道により、反貧困ネットワークの「貧困ジャーナリズム大賞」を受賞した。強制不妊の推進にあたっては、当時のNHK経営委員や河北新報会長などメディアが当事者として加担していたことを暴いたことも評価された。この報道でNHK幹部は国会に呼ばれて説明を求められたが、事実確認ができないと言い訳に終始した。
その後も探査報道シリーズや連載コラムを数多くリリース。2020年には、ジャーナリズム支援市民基金から「ジャーナリズムXアワード大賞」を授与された。
ジャーナリスト教育に力を入れるという創刊当初の目標を引継ぎ、2020年11月に探査報道ジャーナリスト養成学校「Tansa School」を開校。国内外から多彩な講師を招き、オンライン授業と対面授業を併用した長期講座を実施している。「市民をジャーナリストに」、「ジャーナリストを一流のジャーナリストに」をモットーに、全国の記者をはじめ、弁護士、議員、投資家、NGO職員、学生などあらゆる受講生が集っている[5]。
2021年3月、NPO法人Tansaに名称を変え、ニューズルーム名を「Tokyo Investigative Newsroom Tansa」に変更した。同年10月、編集長の渡辺周が世界最大の社会起業家グローバルネットワーク「Ashoka」が認定する社会起業家、「Ashoka Special Relationship Innovator」に選出された[6]。日本では7人目であり、日本のジャーナリズム分野では初めての選出となる。
主な探査報道シリーズ
[編集]- 買われた記事[7]
- 電通と共同通信が20年前から読者を欺いていた。スポンサーのカネが伴う「宣伝」を、「記事」として配信していた。暴かれたタブーに、共同の配信を受けてきた地方紙が沈黙する中、電通が株主総会で表明した方針とは?
- 強制不妊[8]
- 敗戦後、「日本民族の復興」を掲げた政治家が、不妊手術の強制を合法化した。狙いは障害者の排除。医師、裁判官、NHK幹部ら「エリート」が1万6500人超への手術を推進した。「ナチス化」を危惧する声もかき消される。
- 製薬マネーと医師[9]
- 製薬会社の「お客様」は患者ではない。薬を処方する医師だ。年間1000万円超が、学会の推奨薬を決めたり薬の値段を決めたりする医師に「ポケットマネー」として渡る。「政治とカネ」を凌ぐ癒着の構造が、そこにあった。
- 消えた核科学者[10]
- 動燃のプルトニウム製造係長、竹村達也氏が1972年に失踪した。その直後、刑事は動燃にきて「北に持って行かれたな」という。竹村の技術は北朝鮮の核兵器開発に利用されたのではないか。日本人拉致の真の目的とは何か。
- 双葉病院 置き去り事件[11]
- 2011年3月11日、原発から5キロの病院に多くの寝たきり患者が取り残された。原発が水素爆発してもなお、救助の手は及ばない。すべての救出が完了したのは16日。45人が命を落とした。「戦時下」に匹敵する非常事態の中で何があったのか。検察の調書を調べていくと、自衛隊の致命的なミスをはじめ数々の新事実が明らかになる。
- 「PFOA」は、フッ素加工のフライパンや撥水加工の衣服に使われている化学物質だ。だが胎児への影響や、発がん性が判明。日本では2021年10月に製造が禁止された。その矢先、大阪・摂津市の住民の血液から高濃度のPFOAが検出される。近くにはPFOAを製造してきたダイキンの工場。なぜ、住民の体内に蓄積するまで製造を続けたのか。週刊誌「週刊金曜日」にて提携連載企画を行っている。
- 虚構の地方創生[14]
- コロナ禍で全国に渡った地方創生臨時交付金が、無駄遣いの温床になっていた。だが巨額をつぎ込んでも、東京一極集中は進むばかりだ。2014年以来の「地方創生」は政権維持と大企業のための虚構だった。
データベース
[編集]Tansaでは、記事だけでなくデータベース製作にも力を入れている。
「製薬マネーデータベース」は、製薬会社から医師個人に支払われた謝礼や研究費の金額を検索できる。製薬会社から金を受け取ったことで、医師の処方や研究が製薬会社に有利なようにゆがめられることがないよう、支払いの透明化を目的にしており、誰でも無料で利用できる。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所との共同製作である。2019年に文部科学省が、製薬マネーデータベースを使用し、2016年度に2,000万円以上を得た大学教授は7人いたことを発表した。このことは国会で取り上げられ、各大学に対して医学部医師の兼業規定や倫理規定の見直しを求める考えを表明した[15]。
「JUDGIT!」は、国の予算の使い道を簡単に検索できるデータベースである[16]。予算の使用前の計画ではなく、実施に使用した実績額を調べられる。無駄な税金の使い方をしていないか、予算配分が手薄になっているところはないか、などを調べやすくする統合データベースである。政策シンクタンクの構想日本、データ可視化が専門のVisualizing.JP、日本大学文理学部情報学科の尾上洋介研究室と共同で製作。無料で公開している[17]。
受賞歴
[編集]- 2017年 - 日本外国特派員協会 「報道の自由推進賞」
- 2018年 - 反貧困ネットワーク「貧困ジャーナリズム大賞」
- 2019年 - Linked Open Deta チャレンジ Japan 2019 アプリケーション部門「優秀賞」
- 2020年 - 一社オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構「最優秀賞」、ジャーナリズム支援市民基金「ジャーナリズムXアワード大賞」[2]
- 2022年 - アジア・パシフィック・イニシアティブ「PEPジャーナリズム大賞」、ジャーナリズム支援市民基金「ジャーナリズムXアワード大賞」
- 2023年 - メディア・アンビシャス大賞<活字部門>優秀賞[18]
メディア掲載・出演等
[編集]メディア
[編集]- 2022年
- 週刊金曜日・提携連載企画:「公害『PFOA』」
- デモクラシータイムス:フライパンが危ない!隠された令和の水俣「PFOA」NO.1【Tansa報道最前線】
- デモクラシータイムス:ダイキン城下町の公害 隠された令和の水俣「PFOA」NO.2【Tansa報道最前線】
- デモクラシータイムス:東京の水も危ない⁉ 汚染源は横田基地? 隠された令和の水俣「PFOA」NO.3【Tansa報道最前線】
- デモクラシータイムス:PFOA汚染と母子 令和の水俣「PFOA」NO.4【Tansa報道最前線】
- デモクラシータイムス:ダイキン「社外秘」文書入手!摂津でPFOA大量排出【Tansa×デモタイ 探査報道最前線】
- 2021年
- 2020年
- 2018年
- 日刊ゲンダイDIGITAL「語り部の経営者たち」:<1>無給で走り続けた2年間
- 日刊ゲンダイDIGITAL「語り部の経営者たち」:<2>寄付金による報道に勝算
- 日刊ゲンダイDIGITAL「語り部の経営者たち」:<3>記事にお金がついてくる
- 日刊ゲンダイDIGITAL「語り部の経営者たち」:<4>当局提供ネタよりも発掘
- 日刊ゲンダイDIGITAL「語り部の経営者たち」:<5>気が付けば同士が自然に
議会
[編集]- 2022年
- 参議院予算委員会 2022年(令和3年)5月30日 立憲民主党 蓮舫「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の使途について」[19]
脚注
[編集]- ^ [1]
- ^ a b “Tansaを知る | Tansa” (2021年2月27日). 2021年6月7日閲覧。
- ^ “サポーターになる | Tansa” (2021年3月5日). 2021年6月7日閲覧。
- ^ [2]
- ^ “探査報道ジャーナリスト養成学校 | Tansa” (2021年2月28日). 2021年6月7日閲覧。
- ^ [3]
- ^ “買われた記事 | Tansa”. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “強制不妊 | Tansa”. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “製薬マネーと医師 | Tansa”. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “消えた核科学者 | Tansa”. 2021年6月7日閲覧。
- ^ “双葉病院 置き去り事件 | Tansa”. 2021年6月7日閲覧。
- ^ [4]
- ^ [5]
- ^ [6]
- ^ [7]
- ^ [8]
- ^ “データベース | Tansa” (2021年2月28日). 2021年6月7日閲覧。
- ^ “メディア・アンビシャス - 市民が育てるメディア”. media-am-s.com. 2023年5月11日閲覧。
- ^ "巨大イカに2695万円…コロナ交付金による“地方創生”の実態" 女性自身 光文社 2022年6月16日6:00更新 2024年1月16日閲覧
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 公式ウェブサイト
- 公式ウェブサイト
- Tokyo Investigative Newsroom Tansa (@Tansa_jp) - X(旧Twitter)
- Tokyo Investigative Newsroom Tansa (@tansa_english) - X(旧Twitter)
- Tokyo Investigative Newsroom Tansa (Tansajp) - Facebook
- Tokyo Investigative Newsroom Tansa (@tansanewsroom) - Instagram
- NPO法人 Tansa - Syncable