E-6現像
E-6現像(イーろくげんぞう)は、内式カラーリバーサルフィルムの処方である。厳密にはコダックが公表している処方の名称で、同社のエクタクローム(en:Ektachrome)に対して指定されているものだが、富士フイルムのフジクローム他多数の内式カラーリバーサルフィルムに使用できる。E-6プロセス(英語: E-6 process)、E-6処方(イーろくしょほう)とも呼ぶ。
E-6現像は、富士フイルムの「CR-56現像」、アグファ(現在のアグフア・ゲバルト)の「AP-44現像」と完全に互換性がある現像である[1]。
概要・歴史
[編集]E-6現像は、コダックのE-3現像およびE-4現像に代わって登場した。E-3現像は、像を反転させるために光によるカブリ処理(fogging、再露光により未反応の銀塩を反応させ、反転像を得るプロセス)が必要であり、また、退色する欠点があった。E-4現像は、臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)のような高度に有害な汚染物質を使用していた。E-6ではfoggingは露光ではなく反転浴による。
外式カラーリバーサルフィルムの処方であるK-14現像等とは異なり、E-6現像は、黒白ネガフィルムの現像あるいはカラーネガフィルムのC-41現像に用いるのと同じ器具で、愛好家が自家現像することも不可能ではない。この現像方法は、感度が高く温度の変化によって結果が異なっていく。第一現像と第一水洗(停止浴)の温度を100.0 °F (37.8 °C)に保ち、現像の許容誤差を維持するためには、適温の水浴が推奨される。
E-6現像には、2つのヴァージョンがある。商業的現像所では、6浴式を使用している。
ドイツのテテナール写真工業が製造販売する「E6 3浴処理キット」のような「趣味の現像」のための薬品キットは、3浴式を使用しており、6浴式における「発色現像」と「反転浴」、「プレ漂白」と「漂白」と「定着」がそれぞれ結合している。3浴式現像では、発色現像が独立している。しかしながら3浴式現像では、現像の制御が乏しく、色落ちや色移りに悩まされる。「漂白」と「定着」、あるいは「漂白定着」のステージが省かれているからである。テテナールでは3浴式とうたっているが、「第一現像」「発色現像」「漂白定着」「安定処理」の4段階である[1]。「洗浄」「水洗」「停止浴」(第一水洗)「安定洗浄」(安定処理、最終洗浄)は、6浴式であっても3浴式であっても省略されて表現される。
E-6現像はポピュラーで、リバーサルフィルムを現像する現像所・現像店は存在し、コダックの日本法人では国内49店舗・現像所を「E-6現像品質優良店」として「E-6会」に加盟させている[2]。コダック・エクタクロームの一般向け普及版として2006年(平成18年)に発売された「エリートクローム」シリーズも、もちろんE-6現像用のフィルムである。写真フィルムの現像所は、基本的には現在、写真フィルム以外は現像を受け付けていないが、2011年12月現在も製造発売されているコダックのスーパー8用のカラーリバーサルフィルム「コダックエクタクローム 100D」、富士フイルムのシングル8用のカラーリバーサルフィルム「フジクロームR25N」等の小型映画用8mmフィルムも、現像の際にはE-6現像が行なわれており[3]、原理的には自家現像も可能である。
6浴式現像
[編集]E-6現像における6浴処理は下記の工程をもつ。下記はコダックの指定する処方である[4]。
- 第一現像: 6分間、100.0 °F (37.8 °C) - 現像液 DA-1(潜像を含むハロゲン化銀粒子を還元し、銀による銀像を露にする)
- 第一水洗: 2分間、100.0 °F (37.8 °C) - 水(現像液を除去し現像を停止させる)
- 反転浴: 2分間、96 °F (36 °C) - 103 °F (39 °C) - 反転液 RA-1(発色させるための準備)
- 発色現像: 6分間、96 °F (36 °C) - 103 °F (39 °C) - 発色現像液 CD-3(イエロー・��ゼンタ・シアンの発現)
- プレ漂白: 2分間、90 °F (32 °C) - 103 °F (39 °C) - 調整液 CA-2(漂白の準備)
- 漂白: 6分間、92 °F (33 °C) - 103 °F (39 °C) - 漂白液 E-6AR(金属銀をハロゲン化しハロゲン化銀は定着後に除去される)
- 定着: 4分間、92 °F (33 °C) - 103 °F (39 °C) - 定着液 E-6AR(ハロゲン化銀をすべて水溶性銀に転換する)
- 最終水洗: 4分間、92 °F (33 °C) - 103 °F (39 °C) - 水(残留化学物質を除去)
- 最終洗浄: 1分間、80 °F (27 °C) - 103 °F (39 °C) - 洗浄液 E-6AR(湿潤剤で水分を減少させる)
- 乾燥: ハウスダストのない環境で行うこと
3浴式現像
[編集]E-6現像における3浴処理は下記の工程をもつ[1]。テテナールキット1リットルを使用した手現像の場合[1]。
- プリウォーム: 5分間、38℃
- 第一現像: 6分半間、38℃ - 第一現像液
- 水洗: 2分半間、38℃
- 発色現像: 7分間、38℃ - 発色現像液(CD1、CD2の2液)
- 水洗: 2分半間、36℃
- 漂白定着: 7分間、36℃ - 漂白定着液(BX1、BX2の2液)
- 最終水洗: 4分間、36℃
- 安定処理: 1分間、20-25℃ - 安定液(テテナール安定液 LF、C-41現像と同一の薬剤)
- 乾燥: ハウスダストのない環境で行うこと
脚注
[編集]- ^ a b c d 「E6 3浴処理1Lキット 使用説明書」、近代インターナショナル、2011年12月2日閲覧。
- ^ E-6会加盟店、コダック、2011年12月2日閲覧。
- ^ “自社現像”. レトロエンタープライズ. 2011年12月2日閲覧。
- ^ “PROCESSING SOLUTIONS AND THEIR EFFECTS” (PDF) (英語). コダック. 2011年12月2日閲覧。
参考文献
[編集]- 長友健二『一眼レフ こんな写真が撮りたかった!』、日本実業出版社、2002年5月 ISBN 4534034083 - 巻末に用語集がある
- Anchell, Steve / Troop, Bill The Film Developing Cookbook, Focal Press, 1998年12月 ISBN 0240802772
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Kodak Process E-6 Publication Z-119 - コダック公式ウェブサイト
- Kodak Q-LAB Process Control Handbook - コダック公式ウェブサイト 、Z-119より詳細なマニュアル
- Kodak Professional First Developer Replenisher, Process E-6 (PDF) - コダック公式ウェブサイト
- Product Bulletin Library - 富士フイルム公式ウェブサイト
- E-6 Ektachrome - エクタクロームスーパー8および16mmフィルムの自家現像
- E6 3浴処理1Lキット 使用説明書 - 近代インターナショナル公式ウェブサイト(製造元テテナール写真工業)
- E-6会加盟店 - コダック公式ウェブサイト