音楽隊 (航空自衛隊)
音楽隊(おんがくたい)は、諸外国の軍楽隊に相当する航空自衛隊の部隊である。航空自衛隊の職種の一つである「音楽員[1]」の隊員で編成され、音楽演奏を主な任務とする[2]。同様に陸上自衛隊と海上自衛隊にも、それぞれ音楽隊が編成されている。
任務
[編集]航空自衛隊音楽隊の任務は、大きく次の四つに分類される[3]。
- 儀式・式典演奏
- 音楽隊の最も重要な任務として、国家行事における演奏や、外国要人等が来日時の式典演奏を行う。
- 士気振作
- 隊員の士気の
振作 (、鼓舞する・励ますの意味)のため、各基地を訪問して演奏を行う[4]。 - 広報活動
- 自衛隊の広報活動の一環として、定期演奏会[5]などの演奏会をはじめ、CD録音、テレビ番組の収録[6]および、民間の行事(競馬GI競走のファンファーレ[7]、大相撲千秋楽[8]の国歌斉唱など)において演奏を行う。
- 国際的な活動
- 国際軍楽祭への参加等、国際親善を目的とした広報活動を行う。
編成
[編集]航空自衛隊には、防衛大臣直轄部隊である航空中央音楽隊があるほか、各地域を管轄する四つの航空方面隊にもそれぞれ音楽隊がある。
航空中央音楽隊
[編集]沿革
[編集]- 1959年(昭和34年)10月23日:臨時航空音楽隊が45名編成(幹部3・空曹28・空士14)で発足。
- 1961年(昭和36年)2月1日:防衛庁長官(当時)直轄の音楽隊である航空音楽隊となる。
- 1962年(昭和37年)2月17日:第1回定期演奏会を新宿厚生年金会館ホールで挙行。
- 1963年(昭和38年)10月27日:第1回自衛隊音楽まつりに参加。
- 1964年(昭和39年)10月:東京オリンピックにおいて、開閉会式等での演奏を行う。
- 1972年(昭和47年):岩井直溥が編曲し、日本の吹奏楽ポップスの先駆けとなったアルバム「ブラスバンド・プレイズ・ブラス・ロック」「ダイナミック・マーチ・イン・バート・バカラック」の演奏を担当[9]。
- 1982年(昭和57年)4月6日:航空中央音楽隊に改称。隊長以下70名編成となる。
- 1992年(平成):米国 4年J.P.スーザ財団から世界の優秀な軍楽隊に対して贈られる「ジョージ・S・ハワード大佐顕彰優秀軍楽隊賞」を、アジアから初めて受賞。
- 1999年(平成11年):カナダのハリファックスで催された国際軍楽祭「第20回ロイヤル・ノヴァスコシア国際タトゥー」に、自衛隊の音楽隊として初めて参加。また、アメリカ合衆国ワシントンD.C.においてアメリカ空軍軍楽隊との共演も行う。
- 2006年(平成18年)10月10日-16日:韓国の原州(ウォンジュ)市で催された「2006ウォンジュ・国際タトゥー」に参加。
- 2015年(平成27年)
代 | 氏名 | 在任期間 | 出身校・期 | 前職 | 後職 |
---|---|---|---|---|---|
臨時航空音楽隊長 | |||||
- |
松本秀喜 | 1959.10.23 - 1961.1.31 | 陸軍戸山学校・ 昭和13年卒[25] |
陸上自衛隊(中央音楽隊副隊長)から転官 | 航空音楽隊長 |
航空音楽隊長 | |||||
1 | 松本秀喜 | 1961.2.1 - 1965.12.31 | 陸軍戸山学校 | 臨時航空音楽隊長 →1964.6.1 1等空佐昇任 |
退職 →第3代警視庁音楽隊長 |
2 | 渡辺一 | 1966.1.1 - 1970.3.15 | 陸軍戸山学校 | 航空音楽隊 →1968.1.1 2等空佐昇任 |
航空自衛隊補給統制処付 →1970.3.31 退職 |
3 | 塚原國男 (3等空佐) |
1970.3.16 - 1972.6.30 | 陸軍戸山学校 | 航空音楽隊 | 退職・2等空佐昇任 |
4 | 斎藤高順 (1等空佐) |
1972.7.1 - 1976.3.29 | 東京音楽学校 | 航空幕僚監部人事教育部付 (作曲家[注釈 1]) |
退職 →第4代警視庁音楽隊長 |
5 | 長野浩二 | 1976.3.30 - 1978.9.15 | 航空音楽隊 →1977.1.1 2等空佐昇任 |
航空幕僚監部監理部総務課 | |
6 | 目良與市 | 1978.9.16 - 1979.10.27 | 航空音楽隊 →1979.1.1 2等空佐昇任 |
死去[26] | |
- |
清水佐一 (1等空尉) |
1979.10.27 - 1979.11.1 | 職務代理 | ||
7 | 印南智之 | 1979.11.2 - 1982.4.5 | 航空音楽隊 | 航空中央音楽隊長 | |
航空中央音楽隊長 | |||||
[注釈 2] |
7印南智之 | 1982.4.6 - 1987.6.30 | 航空音楽隊長 | 航空自衛隊第1補給処立川支処付 | |
8 | 進藤潤 | 1987.7.1 - 2000.1.3 | 国立音楽大学 | 航空中央音楽隊 →1987.7.1 2等空佐昇任 |
航空中央音楽隊付 →2000.3.18 退職(1等空佐昇任) |
9 | 高木義勝 | 2000.1.4 - 2005.3.31 | 国立音楽大学 | 中部航空音楽隊長 | |
10 | 大坪修 | 2005.4.1 - 2008.3.31 | 防衛大学校30期 | 西部航空方面隊司令部総務課長 | 自衛隊帯広地方協力本部募集課長 |
11 | 松山洋伸 | 2008.4.1 - 2010.8.26 | 防衛大学校33期 | 航空幕僚監部人事教育部補任課 | 航空自衛隊幹部学校付 |
12 | 立山吉博 | 2010.8.27 - 2012.7.31 | 防衛大学校33期 | 航空自衛隊幹部学校人事課長 | 航空自衛隊幹部学校人事課長 |
13 | 水科克夫 | 2012.8.1 - 2016.6.14 | 国立音楽大学 一般幹候(一般)71期 |
西部航空音楽隊長 | 退職(1等空佐昇任) 国際協力機構専門家(パプアニューギニア)2017〜2019 |
14 | 中嶋明 | 2016.6.15 - 2017.3.30 | 一般幹部候補生96期 | 航空中央音楽隊副隊長 | 航空幕僚監部総務部総務課 |
15 | 那須純一 | 2017.3.31 - 2018.7.14 | 防衛大学校33期 | 第3輸送航空隊監理部長 | 航空救難団司令部人事部長 |
16 | 松井徹生 | 2018.7.15 - 2021.11. | 日本大学芸術学部 | 西部航空音楽隊長 | |
17 | 前田忠信 | 2021.11. | -一般幹候(部内)91期 | 航空幕僚監部隊務評価室 |
方面音楽隊
[編集]各航空方面隊にそれぞれ直轄の音楽隊がある。各隊長の階級は3等空佐または1等空尉。
- 北部航空音楽隊:青森県三沢市三沢基地所在。1976年10月1日編成[27]。
- 中部航空音楽隊:静岡県浜松市浜松基地所在。1976年10月1日編成[27]。
- 西部航空音楽隊:福岡県春日市春日基地所在。1976年10月1日編成[27]。
- 南西航空音楽隊:沖縄県那覇市那覇基地所在。1985年1月29日編成[27]。1997年より、ジャズ主体の編成としている[27]。
隊員の処遇
[編集]採用
[編集]音楽隊員になるためには自衛官採用試験に合格するだけでなく、9月ごろに各音楽隊で実施される部隊説明会に参加し、実技を行う必要がある[28]。募集対象は要員に空きがあるパートのみであり、その応募倍率は、パートごとにそれぞれ10~20倍になる[2]。音楽隊員になることができる自衛官採用試験の区分は、自衛官候補生、一般曹候補生および一般幹部候補生(音楽要員[29])である。入隊後には採用区分別に自衛官としての基礎教育を一般隊員とともに教育隊で受ける。その教育期間中に改めて音楽要員の適性検査(演奏実技、楽典、ソルフェージュ、面接等)を受ける[30]。検査に合格した者は教育隊の課程終了後、航空中央音楽隊で約1か月間の集合教育訓練を受けた後に、各音楽隊へ配属される[30]。
2020年現在は音楽大学を卒業して採用される者が多いが、一般の大学や高等学校を卒業して採用される者も一部にいる[31][32]。これらの他にも留学、大学院、フリーランス、大学中退などさまざまな経歴の隊員がいる[33]。音楽隊には他の職種のような術科学校はないため、即戦力であることが求められる[32]。
日常の業務
[編集]楽器の練習のほか、付加職務としてデスクワークも行う。また、自衛官としての基礎体力錬成のために筋力トレーニングやランニングなどの体育訓練を行うほか、行進演奏訓練、基本教練、小銃射撃訓練などを行う[34]。
定年
[編集]自衛隊の多くの職種では、1佐以下の階級の者の定年は60歳未満(2曹・3曹の55歳から1佐の58歳まで4段階)であるが、音楽の職務にたずさわる自衛官の定年は、階級にかかわらず60歳と定められている[35]。
脚注
[編集]注釈
[編集]映像
[編集]- ^ 『ニコ超2017空自ライブ』 。2021年5月22日閲覧。
- ^ “航空中央音楽隊 ドイツ国際軍楽祭”. 航空自衛隊チャンネル (JASDF Official Channel) (2018年10月22日). 2020年7月12日閲覧。
- ^ “航空中央音楽隊 オランダ国際軍楽祭”. 航空自衛隊チャンネル (JASDF Official Channel) (2018年10月23日). 2020年7月12日閲覧。
- ^ “【ノーカット】完全中継!天皇陛下即位パレード「祝賀御列の儀」特別番組”. TBS NEWS (2019年11月9日). 2020年7月12日閲覧。
- ^ “航空中央音楽隊 フランス国際軍楽祭2022 (オリンピックホール)”. 航空自衛隊チャンネル (JASDF Official Channel) (2022年9月22日). 2022年9月24日閲覧。
- ^ 航空自衛隊 航空中央音楽隊 (2024年8月16日). “フィリピン🇵🇭2024”. YouTube. 2024年8月17日閲覧。
出典
[編集]- ^ “リクルート > 自衛官採用情報 > 航空自衛隊の職種”. 航空自衛隊. 2023年10月14日閲覧。
- ^ a b “スペシャルコンテンツ > 隊員インタビュー > 音楽”. 航空自衛隊 (2006年9月). 2015年7月2日閲覧。
- ^ “音楽隊の任務・活動”. 航空中央音楽隊. 2015年1月2日閲覧。
- ^ “入間基地Twitter”. 入間基地 (2019年5月10日). 2019年5月11日閲覧。
- ^ “航空中央音楽隊 第52回定期演奏会@すみだトリフォニーホール”. 航空中央音楽隊. 2015年1月2日閲覧。
- ^ “TBS日曜劇場『空飛ぶ広報室』に出演しました!!”. 航空中央音楽隊. 2015年1月2日閲覧。
- ^ “JRA競馬GI天皇賞(秋)/23年10月30日”. 航空中央音楽隊. 2015年1月2日閲覧。
- ^ “航空自衛隊Twitter”. 航空自衛隊 (2017年5月30日). 2019年7月19日閲覧。
- ^ 岩井直溥(語り)・富樫鉄火(聞き書き). “吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走! 岩井直溥自伝 第18回「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」前夜”. 吹奏楽マガジン BAND POWER. 2023年6月18日閲覧。
- ^ “ニコニコ超会議2015@幕張メッセ”. 航空中央音楽隊. 2015年5月28日閲覧。
- ^ Inc, Natasha. “ニコナタ(音楽)「超音楽祭2015」レポート (3/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー”. 音楽ナタリー. 2021年5月22日閲覧。
- ^ “第25回日本管打・吹奏楽アカデミー賞表彰式@講道館”. 航空中央音楽隊. 2018年9月1日閲覧。
- ^ “第25回 日本管打・吹奏楽アカデミー賞 ACADEMY25”. 一般社団法人日本管打・吹奏楽学会. 2018年9月1日閲覧。
- ^ 「1等空士 森田早貴(ソプラノ) 幼少期よりヤマハ音楽教室にて、ピアノやエレクトーン、作曲など学ぶ。愛知県立明和高校音楽科を経て、愛知県立芸術大学音楽学部声楽専攻卒業。― 中略 ― 2017年に航空自衛隊に入隊し、航空自衛隊航空中央音楽隊にてヴォーカルとピアノを担当。」以上、平成30年度 陸・海・空自衛隊合同コンサート、セットアップリストより。
- ^ “航空中央音楽隊のドイツ国際軍楽祭参加について”. 航空自衛隊. 2018年10月4日閲覧。
- ^ “航空中央音楽隊のオランダ���際軍楽祭参加について”. 航空自衛隊. 2018年10月4日閲覧。
- ^ 野岸泰之、2020、「皇室行事を支援する自衛隊」、『月刊MAMOR 2020年3月号』(157)、扶桑社 pp. 30-35
- ^ “航空中央音楽隊のアルベールヴィル国際軍楽祭への参加について”. 航空自衛隊 (2022年7月6日). 2022年7月6日閲覧。
- ^ “司会はフジ「島田彩夏アナ」に決定…安倍元総理「国葬の台本」その中身をスクープする(週刊現代) @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2023年1月12日閲覧。
- ^ 立川分屯基地に所在する航空中央音楽隊の府中基地への移転に向けた整備2019年(令和元年)8月、防衛省
- ^ 航空自衛隊府中基地に関する令和4年度概算要求の主要事業について2021年(令和3年)9月、防衛省
- ^ 航空安全管理隊ホームページ活動状況
- ^ 航空自衛隊航空中央音楽隊 JASDF Central Band【公式】 [@JASDF_Cen_Band] (2023年3月17日). "お久しぶりです!実は、航空中央音楽隊が府中基地に移転しました!". X(旧Twitter)より2023年3月17日閲覧。
- ^ “国際軍楽祭”アヴァンシェ・タトゥー”への参加について” (PDF). 航空自衛隊 (2023年9月7日). 2023年9月11日閲覧。
- ^ 音楽年鑑 昭和42年版 音楽之友社, 1966
- ^ 『官報』本紙15859号(昭和54年11月29日)
- ^ a b c d e “音楽隊の歴史”. 航空中央音楽隊. 2015年7月2日閲覧。
- ^ “リクルート関連・メイン”. 航空中央音楽隊. 2015年1月2日閲覧。
- ^ “2019年度 航空自衛隊一般幹部候補生(音楽要員)の採用について”. 航空中央音楽隊. 2019年3月27日閲覧。
- ^ a b “リクルート関連 Part-2 音楽隊員になるためのワークフロー”. 航空中央音楽隊. 2019年3月27日閲覧。
- ^ “「航空自衛隊音楽隊」に所属する本学出身プロドラマー、佐藤凱斗さんにインタビュー 私がプロの世界に入るまで”. 明星大学 (2020年9月2日). 2020年9月19日閲覧。
- ^ a b 西部航空音楽隊 (2020年6月15日). “春日基地Twitter”. 航空自衛隊春日基地. 2020年6月16日閲覧。
- ^ 森田早貴 (2020年6月16日). “航空中央音楽隊 森田早貴Twitter”. 2020年6月16日閲覧。
- ^ 西部航空音楽隊 (2020年6月18日). “春日基地Twitter”. 航空自衛隊春日基地. 2020年6月18日閲覧。
- ^ 自衛隊沖縄地方協力本部援護課. “自衛官の定年年齢の引上げについて” (PDF). 自衛隊沖縄地方協力本部. 2022年2月27日閲覧。