クメール語
クメール語 | |
---|---|
ភាសាខ្មែរ | |
話される国 |
カンボジア ベトナム タイ ラオス アメリカ合衆国 フランス カナダ オーストラリア |
地域 | 東南アジア |
話者数 | 1600万人 |
言語系統 | |
表記体系 | クメール文字 |
公的地位 | |
公用語 | カンボジア |
統制機関 | カンボジア王立アカデミー |
言語コード | |
ISO 639-1 |
km |
ISO 639-2 |
khm |
ISO 639-3 |
各種:khm — 中部方言kxm — 北部方言 |
オーストロアジア語族の分布
クメール語 |
クメール語(クメールご、ភាសាខ្មែរ)は、オーストロアジア語族のモン・クメール語派に属する言語。カンボジアでは、全人口の約9割を占めるクメール人(約1500万人)が用い、カンボジアの国語および公用語となっている。さらに、隣国タイ、ベトナム、ラオスのカンボジアとの国境に近い地域にも母語とする人々(約200万人)が住む。また、アメリカ、フランス、カナダ、オーストラリアなどの第三国に、約23万人の話者が定住している。 ISO 639による言語コードは ISO 639-1: km、ISO 639-2: khm。
音韻
[編集]声調、アクセントの存在しない言語である。[1] しかし、最近のプノンペン地方の方言には声調が見られる。
母音
[編集]短母音 [i],[ɯ],[u],[e],[ə],[o],[ɛ],[a],[ɔ]
長母音 [iː],[ɯː],[uː],[eː],[əː],[oː],[ɛː],[aː],[ɔː]
二重母音 [iˑa],[ɯˑa],[uˑo],[ae],[aə],[ɔə],[ao]
一部の母音には、喉の力を緩めて発音する弛喉母音が存在する。 弛喉母音とは、発声の際に、声帯の緊張が不十分であるが故に、息が洩れてくる母音である。また、通常の母音よりも口の開きがやや狭くなる。[2]
子音
[編集]子音は音節頭子音が17種類(p,t,c,k,ʔ,b,d,m,n,ɲ,ŋ,v,j,r,l,s,h)、音節末子音が13種類(p,t,c,k,ʔ,m,n,ɲ,ŋ,v,j,l,h)存在する。 子音には有気音、無気音の対立がある。 入破音という肺からの呼気を用いない特殊な子音がある。 また、二重子音がある。[3]
音節構造
[編集]子音の三連続は/str/, /skr/のみであり、二連続は85種ある。
[p] | [ɓ] | [t] | [ɗ] | [c] | [k] | [ʔ] | [m] | [n] | [ɲ] | [ŋ] | [j] | [l] | [r] | [s] | [h] | [ʋ] | t+h | k+h | t+r | k+r | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
[p] | [pʰt]- | [pɗ]- | [pʰc]- | [pʰk]- | [pʔ]- | [pʰn]- | [pʰɲ]- | [pʰŋ]- | [pʰj]- | [pʰl]- | [pr]- | [ps]- | [pʰ]- | ||||||||
[t] | [tʰp]- | [tɓ]- | [tʰk]- | [tʔ]- | [tʰm]- | [tʰn]- | [tʰŋ]- | [tʰj]- | [tʰl]- | [tr]- | [tʰ]- | [tʰʋ]- | |||||||||
[c] | [cʰp]- | [cɓ]- | [cɗ]- | [cʰk]- | [cʔ]- | [cʰm]- | [cʰn]- | [cʰŋ]- | [cʰl]- | [cr]- | [cʰ]- | [cʰʋ]- | |||||||||
[k] | [kʰp]- | [kɓ]- | [kʰt]- | [kɗ]- | [kʰc]- | [kʔ]- | [kʰm]- | [kʰn]- | [kʰɲ]- | [kŋ]- | [kʰj]- | [kʰl]- | [kr]- | [ks]- | [kʰ]- | [kʰʋ]- | |||||
[s] | [sp]- | [sɓ]- | [st]- | [sɗ]- | [sk]- | [sʔ]- | [sm]- | [sn]- | [sɲ]- | [sŋ]- | [sl]- | [sr]- | [sʋ]- | [stʰ]- | str- | skr- | |||||
[ʔ] | [ʔʋ]- | ||||||||||||||||||||
[m] | [mt]- | [mɗ]- | [mc]- | [mʔ]- | [mn]- | [mɲ]- | [ml]- | [mr]- | [ms]- | [mh]- | |||||||||||
[l] | [lp]- | [lɓ]- | [lk]- | [lʔ]- | [lm]- | [lŋ]- | [lh]- | [lʋ]- | [lkʰ]- |
文法
[編集]孤立語であり、活用・曲用・格変化といった語形変化は全くせず、文法関係は語順によって示される。
基本語順
[編集]- 主語 - 動詞 - 目的語
- 被修飾語 - 修飾語
助動詞は動詞の直前に置く。
その他
[編集]- 痕跡的な接頭辞・接中辞がある。
- 例: bɔŋ(接頭辞)+riən(学ぶ)=bɔŋriən(教える)
- しかし、現在では造語力を失っている
- 単独では使用できず、他の語に随伴するだけの語が存在する。韻を踏むものが多い[4]。
語彙
[編集]カンボジア本来の語は、単音節か、二音節語である。 古くからインド文化の影響を受けているため、サンスクリットやパーリ語からの借用語が圧倒的に多い。また、日常語においては、中国語、タイ語、ラーオ語からの借用語も多い。
また、フランス語からの借用語も少なからず残っている。
文字
[編集]記述には、南インドから伝わった文字を改良したクメール文字(表音文字)を使用する。横書きで、左から右へ書き、各単語間の分かち書きをしない。
主な子音33字を以下に示す。子音字はa系(赤)とo系(青)の2系統に分かれる。
a系 | o系 | 鼻音 | |||
---|---|---|---|---|---|
無気音 | 有気音 | 無気音 | 有気音 | ||
軟��蓋音 | ក [kɑ] | ខ [kʰɑ] | គ [kɔ] | ឃ [kʰɔ] | ង [ŋɔ] |
硬口蓋音 | ច [cɑ] | ឆ [cʰɑ] | ជ [cɔ] | ឈ [cʰɔ] | ញ [ɲɔ] |
歯茎音1 | ដ [ɗɑ] | ឋ [tʰɑ] | ឌ [ɗɔ] | ឍ [tʰɔ] | ណ [nɑ] |
歯茎音2 | ត [tɑ] | ថ [tʰɑ] | ទ [tɔ] | ធ [tʰɔ] | ន [nɔ] |
唇音 | ប [ɓɑ] | ផ [pʰɑ] | ព [pɔ] | ភ [pʰɔ] | ម [mɔ] |
接近音 | យ [jɔ] | រ [rɔ] | ល [lɔ] | វ [ʋɔ] | |
摩擦音など | ស [sɑ] | ហ [hɑ] | ឡ [lɑ] | អ [ʔɑ] |
脚注
[編集]- ^ 『カンボジア語実用会話集』10頁参照
- ^ 坂本恭章著『カンボジア語入門』(大学書林、1989年)1~5頁より
- ^ 上田広美、岡田知子編著『カンボジアを知るための62章』(明石書店、2014年)26、27頁より
- ^ 上田広美、岡田知子編著『カンボジアを知るための62章』(明石書店、2014年)34、35頁より引用
参考文献
[編集]- ラオ・キム・リァン、ラオ・えりか共著『カンボジア語実用会話集』(連合出版、1993年)
- ラオ・キム・リァン、ラオ・えりか共著『カンボジア旅行ポケット会話集 改訂版』(1994年)
- 上田広美著『CDエクスプレス カンボジア語』(白水社、2002年)
- 上田広美著『ニューエクスプレス カンボジア語』(白水社、2008年)
- 上田広美、岡田知子編著『カンボジアを知るための62章』(明石書店、2014年)
- ペン・セタリン著『クメール語入門』(連合出版、2008年)
- 坂本恭章著『カンボジア語辞典』(大学書林、1988年)
- 坂本恭章著『カンボジア語入門』(大学書林、1989年)
- 峰岸真琴、ペン・セタリン共著『日本語カンボジア語辞典』(めこん、1991年)
辞書
[編集]日本語:
- 坂本, 恭章『カンボジア語辞典』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2001年。 (上)、(中)、(下)
英語:
- Khmer Online Dictionary. 2021年9月9日閲覧。
- SEAlang Library Khmer Lexicography. 2021年9月9日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Khmer Software Initiative | ... makes Khmer Unicode run - 各OS版のクメール語フォントと入力システムを配布している
- Khmer Unicode Fonts - フリーのクメール語フォント集
- 東外大言語モジュール|カンボジア語
- CAMBODIA DESIGN WEB - ウェイバックマシン(2019年1月1日アーカイブ分) - いろいろ無料で利用できる教材(日本語)