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ニルセビマブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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ニルセビマブ?
モノクローナル抗体
種類 全長抗体
原料 ヒト
抗原 F protein of RSV
臨床データ
販売名 Beyfortus
Drugs.com
ライセンス US Daily Med:リンク
胎児危険度分類
法的規制
データベースID
CAS番号
1989556-22-0
ATCコード J06BD08 (WHO)
PubChem SID: 384585358
DrugBank DB16258
UNII VRN8S9CW5V
KEGG D11380
ChEMBL CHEMBL4297575
別名
  • MEDI8897
  • nirsevimab-alip
化学的データ
化学式C6494H10060N1708O2050S46
分子量146,336.58 g·mol−1
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ニルセビマブ: Nirsevimab)は、呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス;RSV)に対する阻害活性を有するヒト遺伝子組換英語版モノクローナル抗体である[10][11]。RSVウイルス表面のF蛋白質[注 1]に結合する侵入阻害剤である[8][13][14]

多く見られる副作用は発疹、発熱、注射部位反応英語版(発赤、腫脹、疼痛など)である[5][15][16]

アストラゼネカとサノフィが共同開発し[10][11]、欧州[6][17]、英国[7]、カナダ[2][18]、米国[16]、日本[19][20]で承認されている。

効能・効果

日本では下記の用途での使用が承認されている[19]。用途1.は健康保険適用であるが、用途2.は適用外(自費診療)である[21]

  1. 生後初回又は2回目のRSウイルス感染流行期の重篤なRS ウイルス感染症のリスクを有する新生児、乳児及び幼児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制
  2. 生後初回のRSウイルス感染流行期の1.以外のすべての新生児及び乳児におけるRSウイルス感染による下気道疾患の予防

欧州連合(EU)では、新生児および乳児の初回RSV流行期におけるRSウイルス下気道感染症の予防に適応がある[5]

米国では、新生児、初回RSV流行期に生まれたか初回流行期に入った乳児、および第2RSV流行期までの生後24ヵ月までの乳児(重症RSV感染症に罹患しやすい)におけるRSV下気道疾患の予防に適応がある[8][16]。CDCは2023年10月の文書で、本薬剤の投与あるいは妊娠中の母親へのRSVpreFワクチン接種のいずれかの方法でのRSウイルス感染による下気道疾患予防を推奨している[22]

副作用

重大な過敏反応は報告されておらず、グレード3以上の有害事象が報告されたのは、臨床試験NCT02878330の参加者の8%(968人中77人)のみであった[23][13]

薬理

作用機序

ニルセビマブは、RSV融合(F)蛋白質英語版の融合前構造、すなわちウイルスが細胞に接着する部位に結合する。ニルセビマブのFc領域は改変されており、RSVの流行期中ずっと効果が持続するよう、薬剤の半減期を延長している[13]

開発の経緯

欧州医薬品庁(EMA)のヒト用医薬品委員会(Committee for Medicinal Products for Human Use)による見解は、RSV初回流行期を迎えた健康な早産児(未熟児)および満期(正期)産児[注 2]を対象にニルセビマブの有効性と安全性を検討した2つの無作為化二重盲検プラセボ対照多施設臨床試験のデータに基づいている[15]。これらの試験により、ニルセビマブは、初回RSV流行期中の正期産および早産児において、医療的治療を必要とするRSV下気道感染症(気管支炎肺炎など)を予防することが実証された[15]

ニルセビマブの安全性は、重症RSV疾患のリスクが高い5週以上の早産児(妊娠35週未満)および未熟児慢性肺疾患(早産児が直面する長期的呼吸器疾患)または先天性心疾患を有する乳児を対象とした第II/III相無作為化二重盲検多施設共同試験でも評価された[15]。この試験の結果、ニルセビマブの安全性プロファイルはパリビズマブと同等であった[15]

米国食品医薬品局(FDA)は、ニルセビマブの安全性と有効性を3つの試験(うち2つは無作為化二重盲検プラセボ対照多施設臨床試験)に基づいて評価した(試験03、04、05)[16]。有効性の主な指標は、ニルセビマブ投与後150日間に医療機関で受診したRSV下気道感染症(medically attended RSV lower respiratory tract infection;MA RSV LRTI)の発生率であった[16]。MA RSV LRTIには、臨床的重症度が悪化し、RSV検査が陽性であった下気道疾患に対するすべての医療機関受診(診察、緊急治療、救急外来受診、入院)が含まれる[16]

臨床試験03には、RSV流行期中または初回RSV流行期に入った早産児1,453人(妊娠29週以上35週未満で出生)が組み入れられた[16]。試験に参加した1,453人の早産児のうち、969人にニルセビマブが単回投与され、484人にプラセボが投与された[16]。ニルセビマブを投与された乳児のうち、MA RSV LRTIを経験したのは25例(2.6%)であったのに対し、プラセボを投与された乳児は46例(9.5%)であった[16]。ニルセビマブは、プラセボと比較してMA RSV LRTIのリスクを約70%減少させた[16]

臨床試験04の主要解析群には、1,490人の正期産および後期早産児[注 3]が含まれ、そのうち994人にニルセビマブが単回投与され、496人にプラセボが投与された[16]。ニルセビマブ投与を受けた乳児のうち、MA RSV LRTI を経験したのは 12 例(1.2%)であったのに対し、プラセボ投与を受けた乳児は 25 例(5.0%)であった。ニルセビマブは、プラセボと比較して MA RSV LRTI のリスクを約 75%減少させた[16]

臨床試験05は多施設共同無作為化二重盲検アクティブ(パリビズマブ)対照試験であり、2回目のRSV流行期まで重症RSV疾患に罹患し易い生後24ヵ月までの小児に対するニルセビマブの使用を支持した[16]。この試験には、早産児および未熟児慢性肺疾患または先天性心疾患を有する乳児925人が登録された[16]。試験05の安全性と薬物動態データは、この集団におけるMA RSV LRTI予防のためのニルセビマブ使用のエビデンスを提供した[16]

FDAはニルセビマブの申請をファスト・トラック英語版に指定し[16]、その承認をアストラゼネカに与えた[16]

承認

2022年9月15日、欧州医薬品庁(EMA)のヒト用医薬品委員会は、新生児および乳児におけるRSV下気道疾患の予防を適応症とするニルセビマブの販売承認を付与するよう勧告した[24][15]。ニルセビマブは、EMAの優先審査プログラム[注 4]の下で審査された[24]。この医薬品の申請者はアストラゼネカABである[24]。2022年11月、ニルセビマブは欧州連合(EU)[6][17]および英国[25]で医療用として承認された。カナダでは2023年4月に[2][18]、米国では2023年7月に[16]、日本では2024年3月に[19]承認されている。

研究開発

2022年現在、ニルセビマブは一般乳児集団におけるRSVに対する実験的ワクチンとして研究されている[10][11]。MELODY試験は現在進行中の無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、後期早産児および満期産児を対象にニルセビマブの安全性と有効性を評価している。初期の結果は有望で、ニルセビマブは、正期産または後期早産児において、プラセボと比較して下気道感染症英語版を74.5%減少させた[14][26][27]

2023年4月時点で進行中の臨床試験を下記に挙げる。

脚注

注釈

  1. ^ ウイルスと宿主細胞膜の融合に寄与する[12]
  2. ^ 在胎週数37週以上42週未満で出生した児
  3. ^ 在胎週数34週以上37週未満で出生した児
  4. ^ accelerated assessment program

出典

  1. ^ a b Beyfortus APMDS”. Therapeutic Goods Administration (TGA) (8 December 2023). 7 March 2024時点のオリジナルよりアーカイブ7 March 2024閲覧。
  2. ^ a b c Beyfortus Product information”. Health Canada (22 October 2009). 8 August 2023時点のオリジナルよりアーカイブ7 August 2023閲覧。
  3. ^ Summary Basis of Decision for Beyfortus”. Health Canada (7 June 2023). 12 January 2024時点のオリジナルよりアーカイブ20 August 2023閲覧。
  4. ^ Details for: Beyfortus”. Health Canada (19 April 2023). 3 March 2024時点のオリジナルよりアーカイブ20 August 2023閲覧。
  5. ^ a b c Beyfortus EPAR”. European Medicines Agency (23 June 2023). 1 August 2023時点のオリジナルよりアーカイブ6 August 2023閲覧。 Text was copied from this source which is copyright European Medicines Agency. Reproduction is authorized provided the source is acknowledged.
  6. ^ a b c Beyfortus Product information”. Union Register of medicinal products (3 November 2022). 6 November 2022時点のオリジナルよりアーカイブ6 November 2022閲覧。
  7. ^ a b Respiratory syncytial virus (RSV) immunisation programme: JCVI advice, 7 June 2023”. Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA) (22 June 2023). 11 July 2023時点のオリジナルよりアーカイブ7 August 2023閲覧。
  8. ^ a b c Beyfortus- nirsevimab injection”. DailyMed (17 July 2023). 7 August 2023時点のオリジナルよりアーカイブ6 August 2023閲覧。
  9. ^ "Press Release: U.S. CDC Advisory Committee unanimously recommends routine use of Beyfortus (nirsevimab-alip) to protect infants against RSV disease" (Press release). Sanofi - Aventis Groupe. 3 August 2023. 2023年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。GlobeNewswire News Roomより2023年8月7日閲覧
  10. ^ a b c "Nirsevimab demonstrated protection against respiratory syncytial virus disease in healthy infants in Phase 3 trial" (Press release). Sanofi. 26 April 2021. 2021年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月27日閲覧
  11. ^ a b c "Nirsevimab MELODY Phase III trial met primary endpoint of reducing RSV lower respiratory tract infections in healthy infants" (Press release). AstraZeneca. 26 April 2021. 2021年12月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月27日閲覧
  12. ^ “Respiratory Syncytial Virus: Virology, Reverse Genetics, and Pathogenesis of Disease”. Challenges and Opportunities for Respiratory Syncytial Virus Vaccines. Current Topics in Microbiology and Immunology. 372. (2013). pp. 3–38. doi:10.1007/978-3-642-38919-1_1. ISBN 978-3-642-38918-4. PMC 4794264. PMID 24362682 
  13. ^ a b c “Single-Dose Nirsevimab for Prevention of RSV in Preterm Infants”. The New England Journal of Medicine 383 (5): 415–425. (July 2020). doi:10.1056/NEJMoa1913556. PMID 32726528. 
  14. ^ a b “Nirsevimab for Prevention of RSV in Healthy Late-Preterm and Term Infants”. The New England Journal of Medicine 386 (9): 837–846. (March 2022). doi:10.1056/NEJMoa2110275. PMID 35235726. 
  15. ^ a b c d e f "New medicine to protect babies and infants from respiratory syncytial virus (RSV) infection". European Medicines Agency (EMA) (Press release). 16 September 2022. 2022年9月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月18日閲覧 Text was copied from this source which is copyright European Medicines Agency. Reproduction is authorized provided the source is acknowledged.
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r "FDA Approves New Drug to Prevent RSV in Babies and Toddlers" (Press release). U.S. Food and Drug Administration (FDA). 2023年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月19日閲覧  この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
  17. ^ a b "Beyfortus approved in the EU for the prevention of RSV lower respiratory tract disease in infants". AstraZeneca (Press release). 4 November 2022. 2022年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年11月6日閲覧
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  19. ^ a b c RSウイルス感染症予防薬・ベイフォータスなど新薬9製品承認へ 薬食審・第二部会が了承 | ニュース | ミクスOnline”. www.mixonline.jp. 2024年7月18日閲覧。
  20. ^ 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン|公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY”. www.jpeds.or.jp. 2024年7月18日閲覧。
  21. ^ 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン”. 日本小児科学会. 2024年7月19日閲覧。
  22. ^ Fleming-Dutra, Katherine E. (6 October 2023). “Use of the Pfizer Respiratory Syncytial Virus Vaccine During Pregnancy for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus–Associated Lower Respiratory Tract Disease in Infants: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2023” (英語). MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report 72 (41): 1115–1122. doi:10.15585/mmwr.mm7241e1. ISSN 0149-2195. PMC 10578951. PMID 37824423. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10578951/. 
  23. ^ 臨床試験番号 NCT02878330 - ClinicalTrials.gov
  24. ^ a b c Beyfortus: Pending EC decision”. European Medicines Agency (EMA) (15 September 2022). 19 September 2022時点のオリジナルよりアーカイブ18 September 2022閲覧。 Text was copied from this source which is copyright European Medicines Agency. Reproduction is authorized provided the source is acknowledged.
  25. ^ "MHRA Grants Approval of Beyfortus (nirsevimab) for Prevention of RSV Disease in Infants" (Press release). Sanofi. 9 November 2022. 2023年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。BusinessWireより2023年4月13日閲覧
  26. ^ Zacks Equity Research (25 March 2022). “Pfizer's (PFE) RSV Jab Gets Another Breakthrough Therapy Tag”. Nasdaq. 8 April 2022時点のオリジナルよりアーカイブ8 April 2022閲覧。
  27. ^ "Nirsevimab significantly protected infants against RSV disease in Phase III MELODY trial". AstraZeneca (Press release). 3 March 2022. 2022年10月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年11月6日閲覧