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鉄道車両

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鉄道車両(てつどうしゃりょう、英語: Rolling Stock)は線路の上を走行する車両である。

日本の鉄道車両の一例
新幹線0系(2008年引退)
ファイル:Eurostar at Vauxhall.jpg
ヨーロッパの鉄道車両の一例
ユーロスター クラス 373/TGV TMST

概要

鉄道車両は、線路の上を走行し鉄道列車を運行するために用いられる車両である。線路に沿ってのみ運行することができるという点が、自動車など他の陸上交通の車両と異なっている点である。

また、他の交通機関と異なる大きな特徴として、蒸気機関車など一部の例外を除いて、双方向に同じように走ることができるという点が挙げられる。通常の航空機飛行機など)は飛行中に後退することができない。また多くのや自動車では後退時の性能は前進時に比べて制限されており、基本的には向きを変えて常に前進で使用されることが前提である。これに対して鉄道車両は、どちらの向きにも同様に走ることができ、最高速度を出すことができる。双方向に同様に性能を発揮しなければならないという条件は設計上の強い制約となっており、鉄道車両の前後対称に近い形にも影響している。これは、次元数が1(自分では位相的に直線上しか動けない)であることに強く依存している。ちなみに、次元数が2(自分では位相的に面上しか動けない)の交通機関は自動車や船などであり、3(自分で3次元を自由に動ける)は、(大気圏内や海中という制限はあるものの)飛行機や潜水艦などである。

鉄道車両は、動力の有無、搭載するのが旅客か貨物か、動力の配置の仕方などで様々に分類され、また設備や用途による分類もある。一般的な旅客を乗せて走行する車両から、保線作業などに用いられる裏方的な車両まで様々なものがある。

国により鉄道に関連する法規は異なっているため、鉄道車両の厳密な定義はできない。また法規による規定と一般的、技術的な概念とが異なる場合もある。日本の例では、本線を列車として走行することのないモーターカー貨車移動機といった作業用の車両などは、法規上の正式な鉄道車両に分類されていないことも多い。路面電車のような軽軌道の車両も、本格的な鉄道車両と区別されることがある。木材を搬出する森林鉄道、鉱山の輸送専用路線(鉱山鉄道)の車両も適用される法規が異なるため、同様に一般的な鉄道車両と区別される場合がある。その一方で法規上の鉄道ではない場合が多い、製鉄所など工場構内のいわゆる構内鉄道の車両や、土木工事現場において線路を仮設して運行するトロッコ遊園地の鉄道型遊戯施設なども一般的な鉄道車両に準じる形態、構造のものは鉄道車両として扱われる。さらに、将来に向けた研究開発目的で製作され運転されている磁気浮上式鉄道のように、将来的には正式な鉄道として開業し、鉄道車両として登録される可能性があるが、現時点では一般に公開されておらず法規上の鉄道ではないという例もある。

この項目では、一般に公開されて旅客や貨物の輸送を行う鉄道で用いられている鉄道車両について説明する。

車種による分類

鉄道車両は、大きく分けると旅客車機関車貨車の3つに分類することができる。またこれ以外に事業用車を分類することもある。事業用車を分類する場合は、前3者は営業目的で用いられる車両であるので営業車として分類できる。

なお、車種以外に用途や設備により分類することができるが、これについてはそれぞれ旅客車機関車貨車事業用車を参照。

旅客車

旅客車は、鉄道車両のうち主に乗客を乗せるための車両である。動力を有している車両と有していない車両がある。どちらの車両でも、接客のための設備はおおむね共通した構造を有している。動力集中方式に分類される旅客車として客車が、動力分散方式に分類される旅客車として電車気動車が存在する。

郵便物を輸送する郵便車や、乗客の手荷物を輸送する鉄道手荷物輸送(チッキ)において荷物を搭載するための荷物車は、貨物を載せているようであるが旅客列車に連結して輸送されることが多く、一般に旅客車として分類されている。

電車

スイス国鉄RABDe500形電車

電車は、動力分散方式の旅客車のうち、電力によってモーターを回して走行する車両である。モーターによって走行する動力車(電動車)と、自力では走行できずに電動車に牽引・推進されることで走行する付随車が存在する。電車の付随車は、動力を有しない旅客を乗せるための車両という点で客車と変わらないようであるが、電車として統一した編成を組んで走行するためのブレーキ装置やその他の補助動力装置などが搭載されており、同一ではない。ただし鉄道事業者によっては電車の付随車を客車に分類していることもある。

搭載している電池の電力によって走行する方式も電車であるが、鉄道においては外部から電力を供給することが他の交通機関と比較して容易であること、走行に必要な大量の電力を貯蔵できる電池が実用的でないことなどから、架線第三軌条など線路に設置された給電設備から電力の供給を受けて走行することが一般的である。一方、搭載している熱機関によって発電してその電力でモーターを駆動する方式は、気動車に分類されている。

電車は、運転が容易で機動性に富み、保守がしやすいといった特徴があり、現代の軌道系の都市交通で用いられる鉄道車両として主たる地位を占めている。特に路面電車地下鉄で用いられる車両はほとんどが電車となっている。幹線を運行する長距離列車についても、ヨーロッパ日本を中心に電車による列車が多数運行されている。

日本語では、しばしば電車という言葉が鉄道車両、あるいは鉄道の列車そのものを指す用語として用いられている。

気動車

イギリス国鉄クラス221気動車

気動車は、動力分散方式の旅客車のうち、熱機関を搭載してその動力により走行する車両である。外燃機関である蒸気機関を動力とする車両は蒸気動車と呼ばれ、それ以外の内燃機関で走行する気動車を区別する時は内燃動車と称する。内燃動車において用いられる機関としてはディーゼルエンジンガソリンエンジンガスタービンエンジンなどがある。現代では一般的には、大出力を容易に得られ燃費のよいディーゼルエンジンが気動車の原動機として用いられている。ディーゼルエンジンを用いた気動車のことをしばしばディーゼルカーと呼ぶ。

内燃機関を動力とする場合、エンジンで直接車輪を駆動することはできず、何らかの方法で変速する必要がある。機械的な変速機を使う場合を機械式トルクコンバータを使う場合を液体式、一旦発電して電力でモーターを駆動する場合を電気式という。

気動車においても動力車と付随車が存在するが、内燃機関の出力上の制約などから、電車と異なりすべての車両にエンジンが搭載されているのが一般的で、気動車の付随車は例外的である。すべての車両にエンジンが搭載されているという点は、需要に応じて編成を増結しやすいという長所にもつながっている。

気動車は、動力分散式の旅客車として電車と似た特性を持っているが、電車と比べてエンジンの保守に手間がかかり、経費も嵩む。また、電車が動力の変換装置を持っているだけなのに対して、燃料自体を搭載してその動力への変換を行うことから、重量が大きくなり重量あたりの性能で劣っている。一方で地上側に電力を供給する膨大な設備を設置する必要がないというメリットがあるため、地方の閑散路線などでの運行には、電車より気動車の方がコスト面で適している。

客車

レンフェ (スペイン国鉄) タルゴ客車

客車という言葉は、広い意味では旅客車という意味を表すこともあるが、狭い意味では動力集中方式における旅客車を指す。この意味では、客車は自身に動力装置を持たず、他の車両(機関車)に牽引・推進してもらって走行する、主に旅客を乗せるための車両である。動力装置は搭載していないが、ブレーキについては鉄道の草創期の旧式な車両を除けば装備している。機関車により推進して運転する時に用いるための運転席を備えている車両もある。また、車内の照明や空調に用いるための電力を供給する発電機を搭載していることもあり、安全に走行して旅客に快適な旅を提供するために、必要な様々な機械類が搭載されている。

客車は、動力装置を搭載していないため製造・保守の経費が安く、また車内に対する騒音・振動などの面で電車や気動車に比べて有利である。一方で、動力集中方式となるため加減速度や機動性の点では不利となる。このため長距離を走行し停車駅が少なく、車内環境を重視するような、長距離優等列車や特に夜行列車などにおいて用いられる。

機関車

機関車は、動力集中方式の客車や貨車を推進・牽引して走行するための動力車である。機関車自体には動力装置とそれを運転するための運転席のみがあるのが普通で、旅客や貨物を搭載するための設備は備えていない。ただし、一部に客席を設けて旅客を乗せられるようにした機関車も存在している。また動力装置以外に、客車に対する暖房用の蒸気発生装置を搭載していたり、客車の照明・空調用の電源装置を搭載していたりする。

機関車は、その動力方式でさらに蒸気機関車電気機関車、内燃機関車の3つに大別できる。 それ以外にも1970年代にはアメリカと旧ソ連で、M-497のようなジェットエンジンによる推力を利用するジェットエンジン機関車も試作されたことがあった。ガスタービンで鉄輪を駆動するガスタービン機関車とは違い、排気推力を使うため、車輪は直接駆動しない。

蒸気機関車

国鉄C62形蒸気機関車

蒸気機関車は、蒸気機関を原動力として走行する機関車である。近代的な交通機関として鉄道が実用化された当初から用いられてきた機関車である。燃料を燃やし、その熱によって蒸気を発生させて、蒸気機関を駆動する。現実に存在したほとんどの蒸気機関車はレシプロ式で、ピストンの往復運動をクランクで車輪の回転運動に変換して走行していた。このほかに蒸気タービン式や、発電してモーターで走行するものなどがあった。

一般には燃料として石炭を用いるが、外燃機関であるため燃えるものであればほとんど何でも燃料として使用でき、木材重油などが用いられることもある。また変わったものとしてスイス連邦鉄道(スイス国鉄)にはかつて、架線から電気を集電し、その電力で電熱器により蒸気を作って走る電気式蒸気機関車が存在していた。原子炉で蒸気を発生させて走行する機関車も設計されたが、実用化された例はない。

無火機関車は、鉱山や火薬工場などの火気を嫌う場所で用いられる特殊な蒸気機関車で、外部に設置したボイラーからの蒸気の供給を受けて搭載している蒸気タンクに蓄積し、タンクに蒸気が残っている間だけ自走できるものである。

蒸気機関車は、製作費が安く線路側の設備もあまり必要としないという長所がある。しかし、操作や保守が難しく、熱効率が低く乗務員の労働環境が悪い、煤煙が環境汚染を引き起こすといった様々な短所があり、第二次世界大戦後各国で次第に他の機関車に置き換えられていった。主に発展途上国を中心に、2008年現在でも実用に用いられている蒸気機関車があるが、先進国においては保存鉄道で運行されている程度である。

電気機関車

中国国鉄韶山9型電気機関車

電気機関車は、電気でモーターを回して走行する機関車である。電力は架線や第三軌条から集電して取り入れるのが一般的であるが、蓄電池を搭載してその電力で走行する機関車も電気機関車に含まれる。電車と同様の理由で、蓄電池式の電気機関車は少数である。搭載している内燃機関により発電してその電力でモーターを回して走行する機関車は、一般に内燃機関車に分類されている。また電化区間では架線から集電して電気機関車として走行し、非電化区間では搭載している内燃機関を起動してその発電した電力によって走行するという機関車も存在しており、電気・内燃ハイブリッド機関車といえる。

電気機関車は、蒸気機関車に比べて効率がよく運転もしやすい。また高速化・大出力化が容易である。一方で電車と同じように膨大な地上設備を必要としている。このため運転頻度が高い路線を中心に用いられている。日本やヨーロッパ、ロシア中華人民共和国では幹線網の電化が進んでいるので、電気機関車が広く用いられている。一方、北アメリカオーストラリアなどでは鉄道網があまり電化されておらず、ディーゼル機関車が主力となっている。

内燃機関車

ニュージーランド鉄道DXクラスディーゼル機関車

内燃機関車は、内燃機関を動力源とする機関車の総称である。実際には搭載されているエンジンの種類により、ディーゼル機関車ガソリン機関車ガスタービン機関車などがあり、低燃費で大出力を発揮しやすいディーゼル機関車が、現代の鉄道において内燃機関車の主流となっている。気動車と同様に、機械式、液体式、電気式などの各種の変速方式がある。

ディーゼル機関車は電気機関車と同様、蒸気機関車と比較して効率がよく運転しやすい。また地上の電化設備を必要としていないが、電気機関車に比べて製作と保守に費用と手間が掛かる。こうしたことから、あまり運行頻度が高くない路線を中心に用いられている。電化されていない路線では、必然的に内燃機関車が用いられることになる。

貨車

北アメリカで用いられているダブルスタックカー

貨車は、貨物を搭載して輸送するための鉄道車両である。大半の貨車は機関車によって牽引・推進されて移動する動力集中方式の車両であるが、近年ではカーゴスプリンターJR貨物M250系電車のように動力分散方式の貨車も開発されてきている。

搭載される貨物に応じて、様々な形態の貨車が開発されてきた。かつては、走行するための装置(走り装置)の上に直接貨物を搭載するための車体・荷台を取り付けており、これに人間が手作業で貨物の積み込み・積み卸ろしを行っていた。しかし、鉄道以外の交通手段との間で手作業による積み替えが発生することや、貨車の列車間での繋ぎ替え、入換作業に手間が掛かるといった問題があった。

これに対して、クレーンフォークリフトといった荷役機械が開発され、第二次世界大戦後から各国でコンテナ化の動きが始まった。これにより、多くの国で貨車はほぼコンテナ車に統一され、その上に載せるコンテナを搭載する貨物に応じて開発するようになっている。

鉱山において鉱石を輸送する列車や、石油のように大量に消費される物資を輸送する列車については、今でも専用の貨車が開発されて使用されている。

事業用車

ロシアの鉄道クレーン

事業用車は、鉄道事業者が所有する車両のうち、直接営業目的に用いられない鉄道車両である。保線作業に用いたり、事業者内部の業務に必要とされる物品を輸送したりといった車両がある。直接旅客や貨物を乗せて運賃収入をあげることのない車両である。機関車も直接旅客や貨物を乗せることはないのが普通であるが、旅客列車や貨物列車を牽引する目的に用いられているので営業車に分類される。

鉄道事業者が事業用に用いる車両の中には、外見的な形としては鉄道車両であっても正式な車籍を登録していないものもあり、こうしたものは機械という扱いになり、正式な鉄道車両の範疇ではない。保線作業をするモーターカーや入換作業をする貨車移動機などにこうしたものがある。

動力集中方式と動力分散方式

鉄道車両を推進する動力の配置の仕方としては、動力集中方式動力分散方式がある。動力集中方式は、機関車牽引方式ともいい、編成中の動力はすべて機関車に集中しており、それ以外の客車貨車は機関車に牽かれて走るのみの方式である。これに対して動力分散方式では、特定の車両に動力を集中させるのではなく、編成中の各車両に分散して動力を搭載する。

図に概念を示す。図中赤く塗られてMと書かれているのが車両が動力車で、白抜きにTと書かれているのが動力のない付随車である。動力分散方式において、動力車と付随車の割合は形式によって様々である。この割合のことをMT比といい、図の例では4M2Tと表現される。

動力集中方式と動力分散方式の得失は以下の通りである。

車両製造費用
動力集中方式の動力車である機関車は、すべての動力機能を集中して備えているため高価である。これに対して動力分散方式の車両は、動力車と付随車で異なるが、機関車よりは安価である。動力集中方式の付随車はこれよりも安い。したがって、製造費用は動力集中方式の動力車 > 動力分散方式の車両 > 動力集中方式の付随車という式が成り立つ。同じ程度の輸送力を発揮できる編成で比較すると、12両編成の場合、動力分散方式の車両がすべて動力車(12M)ならば動力分散方式の方が高く、6M6Tの場合で同等、4M8Tの場合は動力分散方式の方が安いという試算がなされている[1]。ただしこの例では、動力集中方式の列車について折り返し駅での機回しを省略するために両端に機関車を繋いだ構成を考えているため、機回しを行うことを前提にすれば機関車を1両削減できて、動力集中方式により有利となる。
車両保守費用
動力を備えている車両は、備えていない車両に比べて保守に手間が掛かる。このため保守費用の面でも動力集中方式の動力車 > 動力分散方式の車両 > 動力集中方式の付随車という式が成り立つ。動力集中方式では、機関車だけ予備を用意しておけば、機関車の検査・修理中にも付随車は使用することができるが、動力分散方式では基本的にすべての車両について予備が必要となる。こうしたことから保守費用の面では動力分散方式が不利である。
エネルギー消費
エネルギー消費については、動力を1箇所に集中している方が各所に分散するより効率面で有利である。一方動力集中方式では、編成を構成している車両すべてを牽引する力が車体に働くため車体構造を頑丈にする必要があり、車両重量が大きくなる。また、近年は電車方式の列車を中心に、減速時にモーターで発電して架線に電力を返す回生ブレーキが普及しており、これは動力集中方式の列車では困難である。これらのことから、回生ブレーキがある場合は動力分散方式のほうがエネルギー消費が少ない。
車内スペース
動力集中方式では、編成中に乗客が乗車できない車両が生じる。同じ列車長であれば、動力分散方式の方が乗客の利用できるスペースが広く、より多くの乗客を乗せることができる。一方で動力分散方式では、2階建て車両を実現しようとすると、床下に搭載された動力機器が障害となってスペースが限られることがある。
乗り心地
動力分散方式の車両では床下に動力機器を搭載しているため、騒音や振動が車内に伝わりやすく、乗り心地の面では動力集中方式に比べて不利である。
線路への影響
動力集中方式の列車は、動力の集中した機関車が特に重くなり、走行することによる線路への悪影響が大きくなる。線路の許容できる軸重が限られている区間では、重量の大きな機関車の入線が制限されるが、動力分散方式ではそのような制限が影響することはあまりない。
ダイヤ編成
動力分散方式の列車は、各車両に動力が分散しているため加速度・減速度が共に高く、停車駅が多くても運転時間を短縮できる。また両端に運転台があり、運転士が移動するだけで折り返すことができるので機動性に富んでいる。ただしこれについては動力集中方式でも、プッシュプル方式を用いることで解決できる。電車方式の列車の場合、非電化区間への直通が難しく運行区間が限られるが、機関車方式の場合は非電化区間に入る駅で機関車だけを交換すれば直通することができる。これは特に、電化方式や信号方式が国によって異なっていて複雑なヨーロッパのような場所で国際列車を運行する上では有利となる。また動力集中方式では、製造費用の安い付随車をあらかじめ多数用意しておき需要に応じて増結することが容易であるが、動力分散方式では動力機構上の技術的な制約や、動力集中方式の付随車に比べれば高価な車両を多数用意することの経済的な制約から、こうした需要に応じた増結はやや困難である。

1970年代の日本国有鉄道(国鉄)において、こうした点の検討が詳しくなされ、1本の列車編成が長くなるほど動力集中方式が有利で、短くなると動力分散方式が有利であるとされた。具体的には直流電化区間では列車長11両から12両、交流電化区間では列車長9両から10両、非電化区間では列車長4両から5両のところに費用の分岐点があり、それより長い列車では動力集中方式が有利であるとした[2]。つまり短い編成を頻繁に運行するような路線では動力分散方式が、長い編成を時々運行するような路線では動力集中方式が有利となる。

その後技術の発展で、可変電圧可変周波数制御(インバータ制御)が実用化されて保守の手間が少ない交流電動機が電車に用いられるようになり、また回生ブレーキが一般的になったため、より動力分散方式が有利になる傾向にある。

日本では第二次世界大戦後から、幹線の長距離列車においても動力分散方式を推進してきた。これは地盤が弱く軸重を強化しづらいうえ、地形が急峻かつ複雑なため勾配・曲線が必然的に多くなるという国土において高速化を図るために選択されたものである。これに対してヨーロッパなどでは長らく動力集中方式が使われてきた。しかし近年になって動力分散方式が有利になりつつあることから、ヨーロッパにおいても動力分散方式の車両が普及する傾向にある。

動力集中方式の車両においても、編成の両端に機関車を連結して、通常時は固定された編成で運用されるものがあり、この場合は運用形態の面ではかなり動力分散方式に近くなっている。

構造

鉄道車両の構造を上回り(車体)と下回り(走り装置)、動力機構に分けて説明する。

車体

たいていの鉄道車両では、車体はほぼ箱状の構造をしている。床面は台枠、進行方向前後は妻構、左右は側構、上面は屋根構という。

車体は古くは木造であったが、強度面の問題から早期に骨組みは鋼製でその他の部材が木材という構成に移行した。このため、台枠は強度を保つためにとても頑丈な構造となった。事故発生時の木造車体の粉砕が犠牲者を多くすることが問題とされ、やがて車体全体が鋼製のものへと発展していった。鋼製車体の中でも、半鋼製ともいうべき側構や妻構のみが鋼製で屋根は木造のものから、全鋼製のものへと移り変わっている。この際に車体の基本構造は変えなかったので、台枠は相変わらず非常に頑丈な構造で設計され、車体の他の部分が金属になったことに伴う重量増加は大きな問題となった。また、溶接技術が未発達な頃の鋼製車はリベット接合であった。やがて車体全体で強度を分担して受け持つモノコック構造が用いられるようになり、車体は大幅に軽量化された。

鋼製の車体は腐食の問題があり、錆が発生しないステンレス鋼を材料として使用することが検討された。まず、車体の骨組みは鋼製として外板をステンレスにしたセミステンレス車両が開発された。続いて車体すべてをステンレスで製造したオールステンレス車両が開発された。ステンレスの溶接には当初はスポット溶接、後にはレーザー溶接が用いられている。また腰板や幕板部の歪みを防ぐためにコルゲートのついた外板を使用するのが一般的である。ステンレスの外板を使用した車体は、錆を防ぐための塗装を省略することができるようになり、こんにち見られるような銀色の車両となった。ステンレス鋼は、鋼製車体に用いられる炭素鋼と比較して重量あたりの強度は同等で、同じ強度の車体を製造すると重量としてはほぼ同じになる。しかし、鋼製車体では腐食の進行を想定して「さびしろ」と呼ばれる余分な強度をあらかじめ持たせておくのに対して、ステンレス車体ではこれが必要とされないため、鋼製車体に比べて軽量にすることができる。

錆が発生しない材料としてはアルミニウム合金もあり��アルミニウム合金製の鉄道車両も開発された。当初は骨組に外板を貼り付ける工法であったが、やがて大形押出型材を利用したシングルスキン構造ダブルスキン構造が開発され、ミグ溶接摩擦攪拌接合、レーザーミグハイブリッド溶接などにより接合されている。500系新幹線ではハニカム構造により軽量化が図られている。アルミニウム製の車両はステンレス車両と同様に塗装を省略できるほか、アルミニウム自体が軽量な素材であるため車体の軽量化を実現できる。また、アルミニウム車体はリサイクルしやすく、車体を解体して出たアルミニウムを再び鉄道車両に使用する試みが行われている。

車体の素材としては他に繊維強化プラスチック (FRP) を一部の複雑な形状の部分に用いている例がある。

台枠

台枠は、車体の一番基本となる構造である。車体全体の強度を受け持ち、台車や車軸に重量を伝える役割をしている。また連結運転の際には、隣の車両との間での力の伝達も行う。この隣の車両との間で生じる力のことを車端衝撃荷重という。

車両の前後の端に横方向に設けられている梁のことを端梁という。連結器はこの端梁に取り付けられるため、車端衝撃荷重に耐える強度が必要とされる。車両の左右に車体全長に渡って設けられている梁は側梁で、台枠の強度のかなりの部分を受け持つと共に、側構の車体全長方向の強度も受け持っている。両側の側梁の間に横方向に渡されている梁は横梁で、これがいくつも並んで台枠全体としては上から見るとはしご状の構造になっている。また端梁中央から車体中央方向へ中梁が延びていて、これは車端衝撃荷重を台枠全体に伝える働きをする。台車や車軸の真上に当たる部分には、枕梁という強度の強い梁が設けられていて、車体全体の重量を台車・車軸に伝達している。

かつては台枠でほとんどの強度を受け持ち、車体の他の部分はその部分で必要とされるだけの強度で作る方式であった。しかし軽量化のために、車体全体で必要とされる強度を分担して受け持つモノコック構造が後に主流となった。

貨車でも有蓋車や無蓋車などの大抵の車両では台枠があり、特にコンテナ車の車体は台枠そのものと言ってよい。タンク車では台枠のないフレームレス構造のものがあり、この場合タンク体全体で強度を受け持っている。

台枠の上面は床を構成し、座席やその他の車内設備を設置すると共に、旅客や貨物の荷重を負担する。また下面には床下機器が吊り下げられる。

妻構

妻構は、鉄道車両の前後部分である。車体の端を垂直に切り落としたような構造の場合を切妻といい、そのうち両側を削った構造の場合を折妻といい、それ以外の場合曲面妻という。

隣接車両と連結して旅客や乗務員の通り抜けが必要とされる場合には、中央部に貫通路が設けられる。また先頭車や機関車の場合は、窓を構成してフロントガラスをはめ込み運転席とする。貫通路と運転席を両立した貫通運転台構造もある。

特急用の車両の場合などは、先頭部分の形状は特に外観を重要視して設計することがあり、複雑な形状となる。

運転席がある場合には、前灯、尾灯、ワイパーなどが設置される。貫通路がある場合は貫通幌などが設置される。また貫通路のある中間車の場合は貫通路の両側に妻窓が設けられることがある。

側構

側構は、鉄道車両の左右部分である。屋根構の荷重の大部分を負担している。旅客車に用いられる場合、側構には扉と窓という大きな開口部が設けられており、これを考慮して強度設計が行われる。窓より下の外板を腰板、窓より上の外板を幕板という。かつては側構の窓部分の開口による強度不足を補うために、ウィンドウ・シル/ヘッダーという帯状の補強構造物が窓の上と下に取り付けられていた。ビードやコルゲートといった表面加工が見られる車両もある。

屋根構

屋根構は、車両の天井・屋根部分を構成している。妻構や側構に比べれば受け持つ強度は少ない。前後方向に長桁が、左右方向には垂木が骨組みとして組み込まれている。車内側に照明や配線を、車外側には屋根上のパンタグラフなどの機器を載せられるだけの強度を設計する。冷房付きの車両では、室外機を屋根の上に搭載することが一般的で、これは重量が大きいため設置位置をあらかじめ検討してその重量に耐えるだけの強度構造とする。また、冷房は車内と車外を貫通して取り付けることが多いため、その場合は大きな開口部を設置することになり、この点でも強度上の配慮が必要となる。冷房の設置を全く考慮していなかった車両に後から冷房化を行う際には、屋根の強度が不足して室外機の設置位置として他の方法を選択せざるを得なくなることもある。

運転席

電車の運転席

機関車や電車・気動車の先頭車両などには、機関士・運転士が運転を行うための運転席が設けられる。運転台とも言う。一般に妻面に設置されるが、機関車の中には機器の配置の都合でセンターキャブと呼ばれる車体中央付近に運転席を配置した構成も見られる。

運転席は、客室と区分された運転室になっている場合と、客室に直接設置されている場合があるが、運転室になっているものが大半である。運転室がある場合、車両の全幅に渡って設置される場合と、半分ほどの幅になっている場合がある。運転室は運転士が乗務するだけでなく、車掌やその他の客室乗務員などが乗務するスペースともなる。貫通式の運転台と呼ばれるものは、運転席の位置が列車の先頭や末端ではなく他の車両と連結されて中間になった時に、旅客や乗務員が車両間を移動できるように中央部に貫通路を設けることができる構成になっているものである。貫通路を設置できない運転台は非貫通運転台という。

実際に運転士が座る席は、車体中央に設置される場合と、左右どちらかに偏って設置されている場合がある。自動車ではそれぞれの国の道路の進行方向に応じて、左側通行の国では右側に運転手席を配置するのが一般的であるが、鉄道の場合は線路上を走行する関係上対向車両とのすれ違いは大きな問題ではないので、複線区間の進行方向とは特に関係していない。タブレット閉塞の区間ではタブレットの取り扱いに便利な側に設置する例がある。また、信号機が見やすい位置も考慮される。

自動車のアクセルに相当するのは主幹制御器(マスター・コントローラー、マスコン)である。自動車と違い手で操作する。縦方向の軸を中心に水平に回転させて操作するものと、横方向の軸を中心に垂直に回転させて操作するものがある。また、ブレーキハンドルと一体化したワンハンドルマスコンもある。マスコンを左手で操作するか右手で操作するかは同じ鉄道事業者の中でも統一されておらず、車種によって様々である。

ブレーキを操作するのはブレーキハンドルであり、これも手で操作する。機関車では、機関車のみに作用する単弁(単独ブレーキ弁)と列車全体に作用する自弁(自動ブレーキ弁)が別々に存在する。

このほかに、警笛を鳴らすペダル、ATSに代表される自動列車保安装置の取り扱い装置、前灯やワイパーのスイッチ、速度計、圧力計、電圧計、列車無線の送受話器、時刻表差し、車内放送のマイク、車掌スイッチなどが設置されている。最近の車両では、モニタを運転席に設置して車両の状態を表示し、またタッチパネル式の入力装置により簡単な点検作業や車内の空調温度設定など様々な作業が運転席からできるようにされている。

運転席は前面衝突の際に最初に巻き込まれる場所であるので、運転士の保護に配慮した設計がなされる。主に想定される衝突事故は踏切における障害物との衝突であり、前頭部はその衝突に耐えられるように強化されている。また運転士の座る位置を高くすることで、車体下部に障害物を巻き込んだ際の影響を抑えている。クラッシャブルゾーンを設けて衝撃を吸収する構造になっているものもある。

運転席はすべての車両に設置されているわけではない。機関車のほとんどには両端に運転席が設置されているが、センターキャブの機関車では両側へ進行するときに兼用される運転席が中央に1つ設置されている。また、主に北アメリカではBユニットと呼ばれる運転席を持たない機関車が用いられており、これは運転席を備えているAユニットと連結してそこから制御されることを前提にしている。

電車では、その形式が長編成を組むことを前提にしている場合には、中間車として設計された車両には運転席が設けられない。これは気動車も同様であるが、長編成を組むような路線では電車が用いられることが多く、気動車が投入される路線では編成が短いこともあり、中間車として運転席を持たずに設計・製造される気動車の数は電車に比べて少ない。運転席を設けた車両を制御車、設けていない車両を中間車という。

客車は動力がないため運転席も設置されないのが普通であるが、機関車を末端に連結して列車全体を後押しする形で運転する時に、先頭部の客車に設けた運転席から運転する形態があり、その場合には運転席が設置される。そうした客車を制御客車という。

1両の車両の両端に運転席が設けられている場合を両運転台、片方にだけ設けられている場合を片運転台という。片運転台の車両は、運転席のない側に走行する際には、そちら側に他の車両を連結して、その車両の運転席から操作することが前提である。その車両に設けられている運転席から、運転席のない側へ後退運転をすることも可能であるが、駅や車両基地構内などでの入換などに限られており、本線での運転では行われない。

運転席が設けられない車両にも、車両基地内での編成を分割した状態での入換・回送に備えるために簡易型の運転席が設けられていることもある。こうした運転席では、保安設備などの関係で本線上で営業運転をすることはできない。

鉄道車両のは、車体の出入��に設けられて、必要に応じて開閉して旅客と貨物の乗降を可能にし、また走行中の安全と車体内の環境を保つ働きをする。側構に設けられた外部に直接出る扉のほかに、車内を区切るために設けられた扉や、連結されている隣の車両に移るところに設けられた貫通扉などがある。

引戸は扉が横にスライドして開閉する構造であり、広く用いられている。一般的には側構の内部に戸袋を設けて、そこに引き込む形で開閉される。ただし外吊り式と呼ばれる扉の場合は、車体の外部に扉が設置されており戸袋はない。2枚の扉が両側に開く両開き扉と、1枚の扉が片側にだけ開く片開き扉があり、通勤列車のように短時間に多人数の乗降を必要としている車両では両開きが広く用いられる。

開戸は蝶番によって壁に取り付けられ、蝶番を支点として回転することにより開く構造である。内側に開くものと外側に開くものがあるが、外側に開くものはホームにいる旅客に扉が衝突する危険があり、あまり用いられない。ただしイギリスではスラムドアで広く用いられたことがある。内側に開くものは、乗務員用の扉に広く見られる。

折戸は、2枚の扉が蝶番でつながっており折り畳まれる形で開く扉である。戸袋を設ける必要がなく広い開口面積を確保できるため、一部の車両で用いられている。

プラグドアは、扉が一旦外に動いた後車体と平行にスライドして開く構造で、複雑な機構のため高価であるが、外板と扉部分が平坦になり見た目がよくなると共に、高速鉄道では空気抵抗の削減が期待できる。ヨーロッパではLRTでも広く用いられている。

鉄道車両の扉は古くは手動であったが、最近の新しい車両はほとんどが自動ドアである。車掌または運転士の取り扱う車掌スイッチにより一斉に開閉される。扉を開閉するのはドアエンジンにより、空気圧式のものと電気式のものがある。

車内の温度維持の目的で、すべての車両の扉が同時に開くのではなく、旅客が乗降する時に必要とされる扉のみを旅客の意思で開けられるようになっているものがある。かつては乗客が手で開けて、閉める時のみ自動という半自動式が見られたが、近年はドアの脇に開閉の操作ボタンをつけたものが主流である。

プラットホームの長さが列車の全長より短い場合に、ホームに掛かっている車両のみ扉を開けるようにすることをドアカットという。

自動ドアでも、事故の際に旅客が脱出できるように手動で開けられるようにするドアコックが付いている。

は、鉄道車両では運転席の前面、客室の両側、妻面、扉などあちこちに付けられている。固定された構造のものと、開閉可能なものがある。

運転席の前面の窓にはフロントガラスがはめ込まれており、一般に固定された構造である。ただし側面の窓を開けられるようになっているものもある。また、乗務員用扉に取り付けられている窓は一般に開閉可能である。運転席と客室またはデッキを区切る壁にも窓が設置されていることがある。

客室では側面に窓が設置されている。固定式のもの、一段上昇式のもの、一段下降式のもの、二段に分かれていてそれぞれが上昇、あるいは下降するもの、内側に傾いて開くもの、引き違いで横にスライドして開くものなどがある。戸袋にも固定式の窓が設置されていることがある。妻面にも窓を設置することがある。また、扉自体に設置されていることもある。

窓ガラスとしては強化ガラス合わせガラスが用いられる。2枚のガラスの間に空気層を設けた複層ガラスも用いられることがある。貫通扉に設置される窓ガラスは、火災の際の延焼防止などの観点から網入りのものがよく用いられている。

また、多くの客室の側面窓にはカーテンなどの遮光装置が設置されている。上部から引き降ろして所定の位置で止められる巻上カーテン式、一般家庭のカーテンのように横から引っ張って閉める横引カーテン式、2枚のガラスの間にブラインドが設置されているベネシャンブラインド式、金属または木製のよろい戸を使うよろい戸式などがある。巻上カーテン式の場合、カーテンレールにある窪みに金具を引っ掛けて止めるものと、任意の位置で止められるフリーストップ式のものがある。また、運転室と客室やデッキを区切る壁の窓には、夜間やトンネル内での客室内照明の明かりが運転に支障することを避けるために遮光幕が設置されていることがある。

座席

座席の配置形態としてはロングシート、クロスシート、セミクロスシートなどがある。用途別の分類に示したように、その鉄道車両が投入を予定されている用途に応じて車内の座席の配置の仕方は異なっている。

座席の表面には難燃性モケット、ビニールレザー、平織物、皮革などが用いられている。内部にはばねを入れて、その周りにポリウレタンフォームやビニールフォーム、フェルトなどを詰め物としている。

照明

車両の照明は、古くはオイルランプが用いられていたが、白熱灯に変わり、近年では蛍光灯が主流となっている。天井に照明器具が取り付けられ、そこに蛍光灯が取り付けられている。直接蛍光灯が露出しているタイプは通勤用車両など低コストな車両に多く、より高級な車両になると蛍光灯の周囲をカバーで覆っている(但し関西では通勤用車両でもカバーを付けているものも多い)。一等車など特別な車両では間接照明も用いられる。

客室の直接の照明のほかに、トイレの照明や行き先表示装置の照明などもある。

空調装置

客室内では多人数の旅客と乗務員が過ごすため、換気に配慮して設計が行われる。強制通風式と自然通風式がある。強制通風式では送風機を設置し、吸気と排気の両方を強制的に、あるいは吸気のみ、排気のみを強制的に行う。自然通風式ではベンチレーターを屋根の上などに設置して通風を行う。

暖房はかなり古くから多くの旅客車に装備されている。石炭やを車内のダルマストーブなどで焚く暖房は古くから使われていた。蒸気暖房は、蒸気機関車または機関車や暖房車に搭載された蒸気発生装置からの蒸気を客室内の蒸気管に通して暖めるものであるが、蒸気機関車がなくなるにつれて次第になくなっていった。電気暖房は電気式のヒーターにより車内を暖める。気動車ではエンジンの排気熱で温める温水暖房もある。また冷房が搭載されている車両ではヒートポンプ式もある。

冷房は、比較的新しい旅客車に装備されている。電力消費が大きく、電源の確保に注意を払う必要がある。機関直結式冷房装置のようにエンジンから直接圧縮機を駆動して冷房を稼動させる形式もある。車内への冷気送り出しは天井部分に設置したダクトから行われるのが一般的である。室外機の配置の仕方により、集中式集約分散式分散式などがある。

トイレ

長距離列車に用いられる車両などには、トイレが設置される。施錠できる扉を持った個室に便器と手洗いが設置されている。洗浄用の水はタンクに貯留されていて、必要に応じて車両基地などで補給されている。かつては便器から流された汚物は線路に垂れ流されており、これによる衛生上の問題があった。汚物をタンクに貯蔵する方式は、タンクがすぐに溢れてしまう問題があり、汚物に含まれる水分を濾過・処理して便器の水洗に再利用する仕組みが考案されてから広く普及するようになった。しかし2008年現在においても世界的に見れば垂れ流し式のトイレは数多く見られる。

連結器

連結器は隣の車両と連結して編成を構成する装置である。密着式連結器、自動連結器、ねじ式連結器などの各種の連結器がある。その他に、ブレーキ用の空気圧を供給するブレーキ管や、電気配線などを連結するジャンパ連結器などが車両の間で繋がれる。

貫通路

貫通路は車両同士を連結して旅客や乗務員が行き来できるようにした通路である。踏み板と貫通で構成されている。貫通幌は、双方の車両に半分ずつ装備されていて中央で合わせて連結するものと、片方の車両にまとめて装備されていて相手側の車両に渡しかけて連結するものがある。前者の場合、連結する金具の重量で貫通幌中央部が垂れ下がるので、外部から金具で吊らなくてはならず連結作業に手間が掛かる。後者の場合はこの問題がないが、幌の装備されている側同士、装備されていない側同士の連結作業ができないので、事前に幌のある側とない側を連結できるようによく運行計画を練っておく必要がある。

また、高速鉄道などで騒音と空気抵抗の低減を狙って連結部車体全周に幌を取り付けたものもある。

走り装置

走り装置は、鉄道車両がレール上を走行するために必要な車輪、車軸、軸受といった構造の総称である。駆動装置を含むこともある。

鉄道車両では、軸受が車体に固定されていてカーブに沿って向きを変えることができないものと、台車に軸受が取り付けられていて車体に対して台車が回転することでカーブに沿って向きを変えられるようになっているものがある。前者を、1両あたりの車軸が2軸の場合を二軸車といい、後者をボギー車という。

ボギー車と二軸車の概念を図で示す。図の上がボギー車で、下が二軸車である。ボギー車では、台車に車軸が取り付けられているので、台車が車体に対して回転することでカーブで車輪がカーブの方向を向くことができる。一方、二軸車は車軸が車体に直接取り付けられているので回転することはない。この場合、カーブでは車輪が斜めにレールに接触することになり多少の無理が生じるため、カーブにおいては所定の軌間よりも若干レールの間隔が広げられて車輪の運動を容易にするようにされており、この間隔の拡大のことをスラックと呼ぶ。

二軸車は構造が単純で、製作・保守ともに安上がりである。しかし車体を長くするとカーブ走行時に車輪がレールに対して斜めに当たる角度が増大し、無理が拡大し脱線の恐れも出てくるため、ある限度以上に車体を長くすることができない。走行特性が悪く、高速で走行することも難しい。ボギー車は費用が掛かるが、曲線走行時の無理が少なく高速で走っても脱線しづらい。乗り心地にも優れているため、現代の鉄道車両の主流はボギー車で、二軸車の採用は限られたものとなっている。

蒸気機関車では、シリンダーからコネクティングロッドで動輪を駆動する関係で、動軸は車体に固定されていてカーブに沿って回転させることができないものが普通である。カーブでの走行性能を改善するために、若干の横方向の移動を許容したり、一部の車輪のフランジを削ったりしている。一方蒸気機関車でも先輪や従輪などの動力のない車輪については台車構造が標準である。他の電気や内燃動力の車両は多くが台車構造であるが、二軸レールバスのようにそうでない車両も存在する。

二軸車では、車軸同士の間隔のことを固定軸距(ホイールベース)という。これに対してボギー車では、台車における車軸の間隔を固定軸距といい、台車同士の距離は台車間隔(ボギーセンター間距離)という。固定軸距が長いとカーブにおいて脱線しやすくなるが、短いと蛇行動を引き起こしやすくなり、安定して高速走行し脱線を防ぐためには、台車や軸受けに取り付けられたばねの定数や固定軸距、台車そのものの設計などの間に適切な関係を設定する必要がある。

二軸車のほかに三軸車というものも存在する。三軸車は、中央の車軸の横方向の移動を許容しなければカーブにおける無理がより大きくなってしまうという問題があり、構造的に難しいが、二軸車に比べて安易に荷重を増加できることからかつての貨車などに見られた。またボギー車においても、ボギー台車に3つの車軸を備えた三軸台車というものが存在し、さらに四軸のものも見られる。逆に一軸台車というものもあり、路面電車などに見られる。

連接台車

ボギー台車では1つの車体の下に2つずつ備えているが、2つの車体を連結する部分の下に台車を取り付けて車体同士の連結構造と一体化した台車もあり、連接台車と呼ばれる。曲線通過が容易になり車体の重心を下げられるなどの利点があるが、車両を切り離すことが容易ではないなどの問題もある。

路面電車などでは、その車体に全く車輪・車軸構造を持たずに、両側の車体によって支えられているだけの構造のものもある。これも連接車の一種とみなされる。

低床式路面電車などでは、車体を下げつつ客室空間を確保する目的で、左右の車輪を車軸でつながずに独立した車輪としているものがある。

珍しい例としては、車体の片方にはボギー台車を装備している一方で、もう片方は固定車軸を備えている車両があり、片ボギー車と呼ばれる。

輪軸

新幹線0系電車の車輪

車輪と車軸を合わせて輪軸と称する。車輪と車軸は別に作られて、車軸に強い圧力を掛けて車軸より小さな取り付け穴の設けられた車輪に圧入することで車輪が車軸に固定される。

ほとんどの鉄道車両の車軸には、一番外側に軸受にはめ込む軸受座があり、その内側に車輪を取り付ける輪心座がある。ただし車輪より内側部分に軸受を設置する特殊な例もある。車輪より内側には、ディスクブレーキ用のブレーキディスクや、駆動装置用の歯車などが設置されている。ブレーキディスクについては、車輪より外側に設置したものもある。

車輪については、現代ではほとんどが一体圧延で作られているが、かつてはレールに接する面と中央部分が別に作られていた。レールに接する面をタイヤといい、中央部分を輪心という。タイヤは、熱されて膨張した状態で輪心にはめ込まれ、冷却して元の大きさに戻すことできつく輪心に固定される。この方式は、外側が摩耗してきた時にタイヤだけを交換すれば輪心を再利用できるという利点があるが、走行中にタイヤが緩んで外れてしまう恐れがあり、新しい鉄道車両ではほとんど利用されなくなった。路面電車などでは輪心とタイヤの間にゴムなどを挟みこんで騒音低減効果を狙った弾性車輪も使用されているが、ドイツではこれを高速鉄道に使用してエシェデ事故を引き起こす大きな原因となった。

車輪がレールと接する面を踏面(とうめん)あるいはタイヤコンタという。踏面の形状は走行特性を決定する重要な要因である。外側に行くにつれて半径が小さくなる円錐状をしているが、実際の踏面形状はさらに複雑に定められている。

車輪の一番内側にはフランジが取り付けられている。しばしば誤解されているが、鉄道車両がレールに沿って走行しているのは、踏面形状によりカーブで外側の車輪のレールと接する面の半径が内側の車輪のレールと接する面の半径より大きくなることにより、自然に内側に曲がっていく自己操舵作用によるもので、フランジをレールに擦り付けることで曲がっているのではない。フランジは、自己操舵作用の限界を超えた時に脱線を防ぐために取り付けられているストッパーである。

軸受

軸受は車軸を収めて車体の荷重を車軸に伝える装置である。かつては平軸受が多く使われていたが、軸受側にも回転するコロ状の装置を取り付けたコロ軸受が一般的となった。円錐コロ軸受では、車軸が軸受に対して軸方向に移動することが全くできないが、円筒コロ軸受ではわずかに軸方向の移動を許容している。軸方向の移動は末端のスラスト受によって受け止められる。

軸受は通常、軸箱に収められて使用されている。

軸箱支持装置

軸箱と軸箱支持装置

右図に示したのは、二軸車で多く使われている二段リンク式の懸架装置である。中央の青い箱状の構造が軸箱である。軸箱は前後左右に移動することができないように軸箱守(じくばこもり)で固定されており、図では軸箱の両側のグレーの構造が軸箱守である。これに対して上下方向へは、動揺を吸収して安定して走行し乗り心地を改善するために、ばねを設けて軸箱が動くことを許容する仕組みになっている。軸箱の上下方向の動きを許容し荷重を伝えるばねを軸ばねといい、図では黄色い板ばねになっている。

例として示したのは軸箱守式の軸箱支持装置であるが、このほかに円筒案内式、軸梁式、板ばね式、リンクアーム式、ゴム式など各種の方式がある。

台車枠

台車枠は、台車全体の構造を形成している枠組みで、車体支持装置を通じて上部に車体を載せ、軸箱支持装置を通じて下部に軸受・輪軸を備えて、車体の重量を輪軸へ伝達する役割をしている。基礎ブレーキ装置を搭載してブレーキ機構を形成している。また動力台車の場合、動力に関する機構も台車枠に装荷される。

車体支持装置

ダイレクトマウント台車の構成

車体支持装置は、台車の回転を許容しながら車体の荷重を支えるための機構である。揺れ枕の機構を用いて左右方向の動揺を吸収緩和しながら、枕バネの機構により上下動を吸収している。車体と台車の間の回転は、枕ばりと台車の間で行われる機構になっている。

最近は、揺れ枕の機構を廃して空気バネにより荷重を支えながらバネの変位により回転に対処するボルスタレス台車が増加しつつある。

駆動装置

動力に関する装置は台車に装荷されているが、動力方式によって若干異なる。

電気車では電車でも電気機関車でも、モ��ターが台車に装荷されている。吊り掛け駆動方式の場合は、台車枠と車軸の間にモーターが掛け渡されている構造になっており、一方カルダン駆動方式の場合はモーターは台車枠側に固定して装荷され、そこからカルダンジョイントを通じて車軸を駆動している。

内燃動車では車体側にエンジンと変速機が搭載されており、そこからドライブシャフトで台車枠に装荷された減速機を駆動して、減速機が車軸を駆動している。

基礎ブレーキ装置

基礎ブレーキ装置は、台車に装荷されているブレーキのための装置である。鉄道用のブレーキのうち、摩擦ブレーキは踏面ブレーキディスクブレーキがあり、これらを駆動する装置が台車枠に取り付けられている。現代のほとんどの鉄道車両は空気圧によってこれらのブレーキを駆動しており、空気圧は車体に搭載された空気圧縮機から供給されている。空気圧はブレーキシリンダーに供給され、そこからてこなどの機構を通じて制輪子を動かして制動力を得る。制輪子としては昔から鋳鉄制輪子が用いられてきたが、近年ではレジンなど合成材料を用いることもある。

特殊な台車

振り子台車

振り子台車は、曲線において車体を台車に対して傾ける機構を備えていて、遠心力による乗客の乗り心地への影響を低減することで、曲線の高速走行を可能にする台車である。コロ機構により車体を支えて、必要な時に回転させる方式が主流で、カーブ走行時の遠心力で自然に車体を傾ける自然振り子式と、油圧のアクチュエータなどを用いて強制的に車体を傾ける強制振り子式がある。

自己操舵台車

二軸車に比べればボギー車は固定軸距がはるかに短く、カーブ走行時の問題は小さい。しかしそれでも車輪がレールに対して斜めに当たっているということには変わりがなく、重量の大きな列車が高速で走行すると軌道の歪みをもたらして保線に手が掛かったり、車輪やフランジが摩耗したりといった問題が起きる。このため台車そのものがカーブ走行時に折れ曲がる構造にして、車輪をカーブ方向に向けられるものがあり、自己操舵台車と呼ばれている。直線走行時に台車が折れ曲がってしまうと蛇行動の要因となってしまうため、直線走行時と曲線走行時に求められる特性が相反して単純ではないが、実用化された例がある。

動力機構

電気車

電気車では、集電装置から電力を取り入れて、制御器により所望の電圧・周波数などに変換して電動機を駆動している。

集電装置は、現代では多くがパンタグラフであり、屋根の上に装備されている。避雷器と断路器を通って車内の回路に電流が流れる。第三軌条方式では集電靴から電力を取り込む。

直流車の場合は、この電力を運転席からの指令に応じて抵抗制御電機子チョッパ制御界磁チョッパ制御界磁添加励磁制御VVVFインバータ制御などの各種の制御方式により必要とされる電圧・電流・周波数に変換する。交直車は直流区間では直流車と同じで、交流区間では主変圧器で電圧を落としてから整流器を通して直流に変換し、直流時と同じ回路につなぐ。交流車では、タップ切替制御やサイリスタ位相制御などにより電圧・電流・周波数の変換を行っている。

制御器で変換された電力は電動機に供給され、電動機が車軸を駆動している。

内燃動車

内燃動車では、搭載された内燃機関により回転力を得る。電気式ではこの回転で発電機を駆動し、得た電力により電気車と同様の制御を行っている。機械式では歯車式の変速機により、液体式ではトルクコンバータにより変速して、推進軸により台車に装荷された減速機を駆動し、減速機が車軸を駆動している。

歴史

鉄道車両は、鉱山の輸送などに用いるために考えられたトロッコが出発点となっている。その後、蒸気機関車が発明されると共に近代的な輸送機関として発展するようになった。初期の客車は馬車の延長線であったが、やがて大型化と高速化のために台車を用いたボギー車が発達した。19世紀の終わりから20世紀の始めにかけて、電気を動力とする鉄道車両と、内燃機関を動力とする鉄道車両が開発されて、次第に普及していった。第二次世界大戦後には各国で蒸気機関車は電気・ディーゼル動力へ置き換えられていった。また動力分散方式が広く普及するようになり、高速鉄道も開発されるに至った。

鉄道車両の形式・車号呼称

鉄道車両は、同じ設計で製造された車両をそれ以外と区別するために、形式が与えられる。新幹線0系電車ユーロスター クラス 373/TGV TMSTのような例がある。数字・アルファベット・カナなどの組み合わせで与えられていることが多い。形式の与え方は鉄道事業者によって様々であり、統一されたものはない。また同じ設計で造られた車両の中で区別するために車両個別の番号も与えられている。

設計が多少変更されたが別形式にするほどではない場合には、番台分けが行われる。これは車両個別を区別するための番号について、途中を飛ばして100番からなどきりのよいところから次の番号を与えることで区別するものである。

国鉄・JRについては国鉄の車両形式JRの車両形式で形式の与え方が説明されている。日本の私鉄についてはそれぞれの会社記事の中で説明されている。

また、編成単位に編成番号を表示している事業者もある。これは編成を構成している個別の車両の番号とは別個に、編成全体を識別するために与えられている番号である。

なお、車両呼称とは別に特急用車両や特別席を有した一部の車両には「車両愛称」を与える場合もあり、案内などで使用される場合もある。たとえば、京成電鉄の「スカイライナー」のように当初は使用車両であるAE形電車の愛称であったものが、列車愛称に流用される場合もある。

編成

鉄道車両は、列車として使用する際に単独ないしは2両以上組み合わせて使用される。その際の使用車両の組み合わせを編成という。そのため、1両のみで運行される場合、「1両編成」という場合もある。現在では、地方のローカル線のようにとりわけ極端に輸送人員が少ない場合や、ほとんどの路面電車をのぞき、2両以上が原則となるものが多い。

そのうち、輸送力が最小時の必要両数で組成された部分を基本編成と称する。また、輸送力増強のための増結編成を付属編成と言い、列車全体を単位として電源やサービス設備を設計する手法を固定編成と言う。

これらを運転中に編成落とし(列車の増結、解結)をしたり、分離運転(多層建て列車)したりする。

製造から廃車解体まで

企画

鉄道車両の新規の製造のための企画は、新規の路線開業・列車の増発・電化や高速化などの輸送改善に伴う置き換え、老朽化した車両の置き換えなどの理由で行われる。鉄道車両は自動車に比べて耐用年数が長く、30年から40年程度使用することは珍しくないため、長期的な計画に基づいて新造計画が立てられる。必要となる車両数は、投入を予定している路線の列車ダイヤや既存の車両の廃車の進行予定を検討しながら決定される。

設計

どのような車両を新製するかの方針が決まると、具体的な設計が行われる。設計を誰が行うかは、国や鉄道事業者に応じて、また時代によっても異なっている。

鉄道の始まった初期には、車両メーカーと鉄道事業者は未分化で、鉄道事業者自体が新製車両の設計を行い、部内の工場で製作していた。鉄道事業者内部で設計���製造を担当する最高責任者は多くの事業者で技師長 (CME: Chief Mechanical Engineer) と呼ばれ、技師長の方針によって、その事業者の車両の性格が決定付けられていた。

やがて、独立した鉄道車両メーカーが設立されると、設計は鉄道事業者が行い、具体的な製造はメーカーに任せるといった形態が現れるようになる。設計の主導権はまだ事業者が持っており、多数の同形式車両を発注する際には、同じ設計の車両を異なる車両メーカーに並行して発注するといったことも行われる。この場合でも、細かい部分の仕様はメーカーに任されていることが多く、完成した車両にはメーカーによる差異が現れることがある。

鉄道事業者側は仕様だけを指定し、それを満たす鉄道車両の設計をメーカーの側で行うこともある。これは特に自力で設計を行えるだけの技術力に乏しい中小の鉄道事業者などでみられる。

メーカーが鉄道車両のラインナップを提示し、その中から鉄道事業者の要求に合った車両を選択して発注する形態もある。これは航空機業界の形態に近くなる。

アメリカなどではメーカーのラインナップから選択する形態が多く、結果として複数の鉄道事業者に同形式の車両が所属することになる。一方、日本やヨーロッパでは今でも鉄道時業者側の技術的な独自性が強く、設計を鉄道事業者側で行うこともかなりある。

既に製造されている車両のマイナーチェンジ程度であれば、比較的速く設計から製造に移ることができる。全くの新形式を設計する場合には1年半程度の設計・試作期間を費やし、その後1年程度試作車両の試運転で問題点の洗い出しをし、さらに1年程度費やして修正設計と量産化というスケジュールが一般的である[3]

製造

鉄道車両は複雑な構成をしているため、車両のすべてをメーカーで直接製造することはなく、多くの部品を部品メーカーから購入して取り付ける。メーカーの側で購入して取り付けるものもあれば、鉄道事業者があらかじめ購入しておいた部品を支給して取り付けさせるものもある。鉄道事業者が支給する部品のことを、たとえ民間の鉄道会社が支給したものであっても「官給品」という。官給品は、新規に購入したものばかりではなく、在庫しておいた補修部品を転用したり、時には廃車されて解体された車両から取り外された部品を転用したりする。廃車された車両から回収された部品のことを「廃車発生品」と呼ぶ。車両コストのおよそ半分が部品購入費である。

鉄道車両の製造は、自動車のように同じ車両を量産するわけではなく、様々に仕様の異なる車両を造り分けることになるため、オートメーション化は進んでいない。組立工程の多くは現代においても手作業である。

多くの国で鉄道事業者と車両メーカー、部品メーカーは強い関係があり、技術開発や使用実績のフィードバックなどで協力関係にある。国内産業保護のために、国外の車両メーカーに発注する際にも国内での最終組み立てを義務付けたり、部品の購入を義務付けたりする。

輸送

完成した鉄道車両は巨大なものであるため、工場から実際に使用される場所(ベースとなる車両基地)までの輸送は大きな問題である。工場から発注者まで線路がつながっている場合には、その線路を自走していったり、機関車に牽引されていったりする。線路がつながっていない場合、つながっていても利用できない事情がある時には、トレーラーや船などによる輸送が行われる。広島電鉄5000形電車のように空輸された稀な例もある。

試運転と訓練

投入される路線に到着した新しい車両は、まず試運転を行う。特に、その路線で初めて用いられる新しい形式の車両である場合には、繰り返し試運転を行って慎重に確認が行われる。近年の車両では、インバータなどの機器から出る電磁波により、他の装置が誘導障害を起こすことがあるため、車載機器と線路側の機器の相互運用性が慎重に確認される。 並行して、その路線を担当している運転士や車掌など、乗務員の新型車両に対する訓練も行われる。

運用

試運転や訓練が完了して使用可能になった鉄道車両は、運用に投入されることで実際の営業運転での使用が開始される。使用開始のタイミングは、ダイヤ改正に合わせて同形式をまとめて一斉に投入する場合と、使用可能になった都度順次投入していく場合がある。

鉄道運行計画では、車両運用という形で車両の使用計画が立てられている。A駅からC駅まで運行した後、折り返しB駅まで走る、というような計画が立てられており、そうした計画に対して実際のどの編成を充当するかが決められている。

運用に就いている間、鉄道車両は定期的に検査を受けることになる。初期には車両の形式はばらばらで、各車両の状態もまちまちであり、加えてそれまでの経験の蓄積が少なかったためどの程度の間隔で検査・修繕を行えばよいかがわからず、結果として部品が壊れるまで走らせて、壊れた時に取り替えるという事後保全方式となっていた。車両の形式が統一され、統計的にどの程度の間隔で検査や修繕を行えばよいかがわかってくると、平均的な故障間隔より短い期間で定期検査を行って、壊れそうなものはあらかじめ取り替えておく予防保全方式が採られるようになった。部品の信頼性が向上した現代では、定期検査の間隔はかつてに比べてかなり長いものとなっている。

ある車両が検査に入っている間、代わりに運用に就く車両として予備車が用意されている。予備車は、どれか特定の車両が指定されていることもあるが、普通はその時運用がない車両が予備として扱われているだけである。検査の代走だけではなく、故障が起きて急遽修理に回された車両の代走や、ダイヤが乱れて代わりの列車を走らせる時にも用いられる。予備車をすべて使っても運用を満たせなくなると、列車の運休が発生する。

転属

大きな鉄道事業者で複数の路線・車両基地を保有している時には、路線・車両基地間で車両の転属が行われることがある。車両基地の間で担当路線・列車の受け持ちが変更になった場合や、新車の投入計画の関係で転属が行われる。特に重要視する路線に新車を重点配置するために、それまでその路線で使われていた車両を他の路線に転属させ、さらに古い車両を廃車にするという「玉突き転配」が行われることがある。

改造

鉄道車両が使用されている間に、様々な改造が行われることがある。ワンマン運転対応改造や冷房化といった軽微なものから、内外装のリフォーム、装備する機器類の交換、さらには客車にディーゼルエンジンを積んで自走可能にするといった、車種そのものが変わる(客車を気動車に)大規模な改造まで、様々な改造が行われる。

台車や台枠を流用して、新たな車体を作り直すということもあり、車体更新と呼ばれる。

廃車・解体

鉄道車両の耐用年数は車種によってまちまちであるが、事故災害などで使用不能になるケースを除くと、おおむね在来線車両で10 - 30年程度、高速運転を行う新幹線車両は十数年程度である。耐用年数が来る前に環境の変化や組み替えなどで廃車になるケースも存在する。

鉄道車両としての登録から削除する(車籍を抜く)ことを用途廃止といい、一般的には廃車という。

車両の耐用年数を決定する要素としては、物理的命数、経済的命数、陳腐的命数の3つがある。物理的命数は、車両を構成する重要部品が物理的に使用に耐えなくなる限界を指し、主に台枠や構体の耐用年数によって決定される。経済的命数は、老朽化に伴って故障が増え、修繕費が増加して新型車両に置き換えた方が安くなる年数を指す。陳腐的命数は、時代の変化やより新型の車両の投入などにより、古い車両が時代遅れになることによる耐用年数を指す。近年では陳腐的命数による耐用年数の決定が主である。なお、日本の税法上では、鉄道車両の減価償却期間は13年とされている。

廃車になった車両は、多くの場合解体処分される。解体処分には、主要機器を取り外して構体を溶断・切断していく方法と、重機などにより叩き壊して解体する方法がある。1990年代以降では帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄05系第24編成のように車体などの金属をリサイクルして新型車両に使う、東日本旅客鉄道(JR東日本)では209系以降で車両廃車後のリサイクル率を高めて設計する車両を登場させる等、解体後の活用法まで踏まえた指針も多くなっている。

大きな鉄道事業者で陳腐的命数によって廃車になった車両は、物理的にはまだ走行が可能であり、新型車両を導入することが財政的に難しい中小の鉄道事業者が中古で購入して再使用することがある。再使用に当たっては、使用先の条件に合わせて様々な改造が行われることが一般的である。また部品取り用として未改造の車両を同時に確保して購入するパターンもある。国際的に転売が行われることもある。

一部の価値が認められた車両は、保存鉄道動態保存が行われたり、公園や博物館などで静態保存が行われたりする。

鉄道車両工業

世界全体では、カナダのボンバルディア・トランスポーテーション、フランスのアルストム、ドイツのシーメンスが三大鉄道車両メーカーで、この3社で全体の約半分のシェアを持っている。

2000年から2004年に掛けての統計では、世界市場におけるシェアは首位のボンバルディアが21%、2位のアルストムが17%、3位のシーメンスが15%で、このほかにアメリカのGEトランスポーテーション・システムが7%、同じ���アメリカのゼネラルモーターズ(鉄道車両製造部門は2005年にエレクトロ・モーティブ・ディーゼル (EMD) として独立)が4%、イタリアのアンサルドブレーダが4%などとなっている。ただしこの数値は鉄道車両以外の鉄道システム部門の数値を含んでいる[4]

ボンバルディアはカナダの会社であるが、2001年にドイツのアドトランツを買収しているため、鉄道車両事業のかなりの部分をドイツで行っている。実質的にヨーロッパで全世界の鉄道車両の半数以上が製造されている。

1999年から2000年に掛けての統計では、全世界での鉄道車両生産額は約25億ユーロであった。このうち、ヨーロッパが約60%、アジア太平洋が20%、北アメリカが18%、南アメリカが2%と、鉄道車両を購入している市場の面でもヨーロッパが過半を占めている。2001年時点で、全世界に電気機関車は約2万7000両、ディーゼル機関車は約8万6000両、旅客車は約18万両、貨車は約380万両存在している[5]

合併や倒産で現存していないものを含む鉄道車両メーカーの一覧については、鉄道車両の製造メーカー一覧を参照。

脚注

  1. ^ 『鉄道工学ハンドブック』pp.156 - 158
  2. ^ 久保 敏「客車の再評価 -50系誕生前夜動力方式検討の経緯-」『鉄道ピクトリアル』No.785(2007年2月)pp.10 - 14 電気車研究会
  3. ^ 『鉄道工学ハンドブック』p.174
  4. ^ ALSTOM Analyst Day(PDFファイル)p.11
  5. ^ Rail Privatisation Creates New Opportunities: The key to rail industry growth is continual investment in infrastructure. Investment in vehicles is also set to increase significantly in the next few years - Global Market Trends

参考文献

  • 久保田 博『鉄道工学ハンドブック』(初版)グランプリ出版、1995年。ISBN 4-87687-163-9 
  • 伊原 一夫『鉄道車両メカニズム図鑑』(初版)グランプリ出版、1987年。ISBN 4-906189-64-4 
  • 電気学会電気鉄道における教育調査専門委員会 編『最新 電気鉄道工学』(初版)コロナ社、2000年。ISBN 4-339-00723-4 

関連項目