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'''湊谷 弘'''（みなとや ひろし、[[1943年]][[10月17日]] - [[2016年]][[6月15日]]）は、[[日本]]の[[柔道家]]（[[講道館]]9段）。[[富山県]]出身。

[[1967年]]と[[1969年]]に開催された[[世界柔道選手権大会|世界選手権大会]]の軽中量級覇者である。

== 経歴 ==
=== 生い立ち ===
[[富山県]][[福野町]]（現・[[南砺市]]）で[[接骨院]]を営む家に、7人兄妹の末っ子として生まれる<ref name="近代柔道201004">{{Cite news|author = 木村秀和|authorlink=|url=|title = 転機-あの試合、あの言葉 第61回-湊谷弘-|newspaper = [[近代柔道]]（2010年4月号）|publisher = [[ベースボール・マガジン社]]|date = 2010-04-20|accessdate=}}</ref>。[[父親|父]]が道場を経営していた関係で5歳頃から柔道を始め、当時は幼心にも[[全国高等学校総合体育大会|インターハイ]]か[[国民体育大会|国体]]への出場を目標に稽古に励んだ。なお、兄妹はいずれもスポーツマン・スポーツウーマンで、後に[[卓球]]のダブルスで日本一になった者もいる<ref name="近代柔道201004"/>。

[[中学校]]を卒業すると、進学校であり柔道でも[[富山県立小杉高等学校|県立小杉高校]]らと共に当時富山県内の4強に数えられた県立福野高校（現・[[富山県立南砺福野高等学校|県立南砺福野高校]]）へ進学。当時は[[武道]]=体重無差別の時代であり、現在なら軽量級に区分される当時体重60kgの湊谷は、常に自分より大きい相手と戦うことが当たり前だった。高校3年次のインターハイ県予選では準決勝まで進むも、体重90kgの相手と延長戦の末に引き分け、[[あみだくじ]]で決勝進出を逃している<ref name="近代柔道201004"/>。また、国体予選では5人の出場枠に対しベスト8止まりで、代表の座は射止められなかった。結論を言えば、高校時代の湊谷は全国大会には一度も出場していないことになる。

全国大会出場が叶えられず「もっと強くなりたい」という願望が一層大きくなった湊谷の思いとは裏腹に、高校時代に良い結果を残していない湊谷に対して大学柔道部からの勧誘は皆無だった。それに加え、家庭の経済的な事情も考慮し、湊谷は[[富山県警察|富山県警]]を受験してこれに合格する。しかし、近所に住む[[大日本武徳会武道専門学校 (旧制)|武道専門学校]]出身の[[酒井吉男]]（富山県柔道連盟副会長）が、同じく武専出身で当時の大学柔道界で最強を誇った[[天理大学]]の指導員を務める[[松本安市]]・[[吉松義彦]]・[[橋元親]]らに推薦してくれたため同大学を受験。倍率5倍以上であったが、合格者25人のうちギリギリ23番目の成績で合格し<ref name="近代柔道201004"/>{{Refnest|group="注釈"|[[柔道]]の試合審査では1勝2敗3分と惨憺たるものだったが、800m走が断トツだったことによる合格だった<ref name="近代柔道201004"/>。}}、合格していた警察官への進路は辞退した。

=== 飛躍の天理大学時代 ===
[[1962年]]の4月に[[天理大学]]柔道部に入部するも、実力の劣る湊谷は、実力ごとにAからDまでクラス分けされた中の最低ランクDに分類され、監督・コーチ陣からは名前すら覚えて貰えなかった。また、長身細身の体格から“'''ホネ'''”と揶揄され、先輩からは柔道部特有の"かわいがり"（いわゆるシゴキ）を受けた。一日に3-4回（最高で11回）は絞め落とされたそうである<ref name="近代柔道201004"/>。この頃のことを湊谷は、「何度も退部を考えた事はあったが、生活費を工面してくれる[[兄]]や貧しいながらも学費を捻出してくれた[[父親|父]]の事が頭をよぎり、[[負け犬]]となって[[富山県|富山]]に帰るわけにはいかなかった」と述懐している<ref name="近代柔道201004"/>。

体格で劣る湊谷は従来の練習に加え、[[筋力トレーニング]]や走り込み、1人打ち込みなど自主トレーニングを遮二無二こなし、2年生の夏になると[[ブルース・リー]]のように細いながらも筋肉質の体を手に入れた。この頃には[[広背筋|背筋力]]も200kgを越え、3年生の先輩の半分は相手にすらならないほど強くなり、[[秋]]には柔道部内のクラスもAに昇格<ref name="近代柔道201004"/>。そのスタイルは天理大典型の攻めの柔道で、176cmの長身から奥襟を取って連射砲の如く繰り出す[[大内刈]]・[[大外刈]]・[[小外掛]]・[[内股]]・[[支釣込足]]や[[掬投]]に長じ<ref name="機関誌201608">{{Cite news|author = [[佐藤宣践]]|authorlink=|url=|title = 故 湊谷弘九段のご逝去を悼んで|newspaper = [[柔道 (雑誌) |機関誌「柔道」]]（2016年8月号）、10-11頁|publisher = 財団法人[[講道館]]|date = 2016-08-01|accessdate=}}</ref>、[[1963年]]はその卓越した実力を証明するかのように[[全日本学生柔道選手権大会|全日本学生選手権大会]]（軽量級）で3位入賞を果たした。軽量級ながら体重無差別で行われる学生団体戦のレギュラーにも抜擢され、また出場するだけでも名誉とされた[[1964年]]の全日本学生東西対抗大会で優秀選手賞を受賞するなどして、この頃には[[1964年東京オリンピック|東京五輪]]の候補選手に選ばれている。大学4年次の[[1965年]]には、[[リオデジャネイロ]]で開催される[[世界柔道選手権大会|世界選手権大会]]の代表選考会で東京五輪覇者の[[中谷雄英]]（[[明治大学]]）を破り、代表に選ばれた。世界選手権では、決勝戦で同じ日本代表の[[松田博文]]（[[関西大学]]）に敗れるも[[銀メダル]]を獲得し、一躍その名を広めた。

=== 世界選手権とオリンピック ===
[[1966年]]に大学を卒業すると、[[1964年東京オリンピック|東京五輪]]無差別級の金メダリストであり天理大学で修行したこともある[[オランダ]]の[[アントン・ヘーシンク]]から誘いを受け渡欧。[[ユトレヒト]]にあるヘーシンク道場やオランダ体育大学で指導員を務める傍ら、一方で[[ウィレム・ルスカ]]やシュナイダー兄弟らを相手に自身の乱取稽古も行い<ref name="機関誌201608"/>、また[[寝業]]も徹底的に鍛え上げた。「[[水]]も[[食品|食べ物]]も合わないし言葉もわからなかったが、[[柔道]]は共通だから困る事はなかった」と湊谷は述べている。欧州各国にも出稽古し、5人掛け・7人掛け等をこなしたという<ref name="近代柔道201004"/>。

[[1967年]]5月に帰国すると、同年の世界選手権大会（[[ソルトレイクシティ]]）代表選考会では、試合前に[[松本安市]]監督から代表選出の条件として課された全試合一本勝を成し遂げ、日本代表に選ばれた<ref name="近代柔道201004"/>。8月の世界選手権大会では決勝で[[大韓民国|韓国]]の[[朴吉淳]]を[[大外刈]]で破り、世界チャンピオンとなった。なお、この大会では7試合を戦い、合計10分もかからないほどの圧倒的強さで、同期の[[佐藤宣践]]は「無人の野を行くが如し」の快進撃であったと表している<ref name="機関誌201608"/>。

オリンピックイヤーの[[1968年]]は、湊谷自身も後に「出れば100%[[金メダル]]の自信があった」と語る通り、[[近代オリンピック|五輪]]に向け周囲の期待も高まるが、開催国に種目決定権があった当時の[[メキシコ]]は柔道競技を採用しなかった。翌[[1969年]]には、千載一遇の機会を逃した鬱憤を晴らすかのように[[全日本選抜柔道体重別選手権大会|全日本選抜体重別選手権大会]]で優勝し、世界選手権大会で2連覇を達成したほか、軽中量級の体格ながら、体重無差別で行われる[[全日本柔道選手権大会|全日本選手権大会]]でブロック予選を勝ち抜き本選出場を果たしたことも見逃せない。

本人が「五輪の金メダルは欲しかった」と語る通り、[[1972年]]の[[1972年ミュンヘンオリンピック|ミュンヘン五輪]]を目標に自身を奮い立たせるものの、20代後半という年齢的な体力の衰えは隠せなかった。[[1971年]]7月の全日本体重別選手権大会で3位に終わり、9月の世界選手権大会でも決勝で若手の[[津沢寿志]]（正気塾）に敗れた。翌1972年の全日本体重別選手権大会でも[[野村豊和]]に敗れ準優勝であった。これを最後に同階級の第一線からは退いたが、以降も[[サンボ (格闘技)|サンボ]]の大会で優勝したり、[[1975年]]の全日本選手権大会に出場し選手宣誓を務めるなどした<ref name="近代柔道201004"/>。なお、柔道を始めた頃に目標としていた[[国民体育大会|国体]]への出場は、実に14回を数えていた。

=== 指導者として ===
[[オランダ]]からの帰国後、選手と並行して[[金沢工業大学]]の助手・柔道部監督を務めていた湊谷は、指導者としても秀でた能力を発揮し、同大柔道部を13年連続で北信越ブロック優勝に導いた。[[1974年]]に[[准教授|助教授]]、[[1991年]]には[[教授]]となり、また、天性の明るさと甘いマスクから<ref name="機関誌201608"/>、この間に[[テレビ金沢]]で[[ニュースキャスター|キャスター]]も経験している。

[[1994年]]にはかつての師・アントン・ヘーシンクを[[石川県|石川]]に招き、大学柔道場で技を掛け合うなどした<ref name="北國新聞">{{Cite news|url=|title = 地域スポーツ　-金沢の湊谷さん、「恩師」悼む 柔道ヘーシンク氏死去に-|newspaper = [[北國新聞]]|publisher = 北國新聞社|date = 2010-08-29|accessdate=}}</ref>。
[[1996年]]、教え子の1人が[[正力松太郎杯国際学生柔道大会|正力杯学生体重別選手権大会]]で3位入賞。これは、練習時間の制限というハンディを背負った工業大学の学生であることを考慮すれば、特筆される快挙であった。
一方で、柔道界においては[[全日本柔道連盟]]評議員や[[全日本学生柔道連盟]]理事などを務める傍ら、北信越学生柔道連盟の会長に就任し、北信越地域における柔道の発展に尽力した。[[2004年]]からは、自身の名を冠した「湊谷杯全国学生柔道体重別選手権」も主催した。

[[2009年]]3月、[[東海大学]]出身で[[全日本ジュニア柔道体重別選手権大会|全日本ジュニア大会]]の優勝経験もある[[鈴木貴士]]に監督を譲り、大学を退任。以後は同大の[[名誉教授]]となって<ref name="金沢工業大学">{{Cite news|url=http://www.kanazawa-it.ac.jp/kyouinroku/a/k0020EX.html|title = 教員プロフィール -湊谷 弘-|newspaper = |publisher = 学校法人金沢工業大学|date = 2011年4月20日|archive-url= https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8685814/www.kanazawa-it.ac.jp/kyouinroku/a/k0020EX.html |archive-date=2014-06-15}}</ref>、[[金沢市]]郊外で[[妻]]と共に悠々自適の生活に<ref name="近代柔道201004"/>。齢65を越えてからも早朝ランニングや日々の鍛錬は欠かさず[[ベンチプレス]]は130kgを指し、また、折を見ては金沢工業大学にある柔道場{{Refnest|group="注釈"|湊谷の功績を記念して「湊谷道場」と呼ばれる。}}で学生と共に[[汗]]を流していた<ref name="近代柔道201004"/><ref name="機関誌201608"/>。

[[1943年]]度生まれの同期の中でも抜群の若さを保ち自他共に一番長生きすると思われていた湊谷だったが{{Refnest|group="注釈"|同期には[[松田博文]]、[[重岡孝文]]、[[岡野功]]、[[関根忍]]、[[丸木英二]]、[[佐藤宣践]]、[[岩釣兼生]]らがおり、[[近代オリンピック|五輪]]や[[世界柔道選手権大会|世界選手権]]、[[全日本柔道選手権大会|全日本選手権]]で湊谷を含めチャンピオン輩出数8人は群を抜い多く、いわゆる黄金世代であった。}}、[[2016年]]2月に[[脳梗塞]]で倒れ、右半身の麻痺と言語障害をもつことになる<ref name="機関誌201608"/>。回復を願う周囲の願いも虚しく、同年[[6月15日]]に[[心不全]]で死去した<ref name="読売新聞">{{Cite news|url=|title = 訃報　-湊谷弘氏=金沢工業大学名誉教授-|newspaper = [[読売新聞]]|publisher = [[読売新聞社]]|date = 2016-06-16|accessdate = 2016-06-16}}</ref>。{{没年齢|1943|10|17|2016|6|15}}。

== 主な戦績 ==
*[[1963年]] - [[全日本学生柔道選手権大会]]（軽量級） 3位
*[[1965年]] - [[世界柔道選手権大会]]（軽量級）　準優勝
*[[1966年]] - 全日本学生柔道選手権大会<!--（●●級）-->　優勝
*[[1968年]] - 全日本学生柔道選手権大会<!--（●●級）-->　優勝
*[[1967年]] - 世界柔道選手権大会（軽中量級）　優勝
*[[1969年]] - 世界柔道選手権大会（軽中量級）　優勝
*[[1969年]] - [[全日本柔道選手権大会]]　出場
*[[1969年]] - [[全日本選抜柔道体重別選手権大会]]（軽軽量級）　優勝
*[[1970年]] - 全日本柔道選手権大会　出場
*[[1970年]] - 全日本選抜柔道体重別選手権大会（軽軽量級）　優勝
*[[1971年]] - 世界柔道選手権大会（軽中量級）　準優勝

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}

=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}

=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 関連項目 ==
*[[柔道家一覧]]
*[[富山県出身の人物一覧]]
*[[天理大学の人物一覧]]
*[[金沢工業大学の人物一覧]]

== 外部リンク ==
* {{JudoInside|5427|湊谷弘}}
{{世界柔道選手権優勝者-男子73kg級|70}}
{{DEFAULTSORT:みなとや ひろし}}
[[Category:日本の男子柔道家]]
[[Category:金沢工業大学の教員]]
[[Category:富山県出身の人物]]
[[Category:天理大学出身の人物]]
[[Category:1943年生]]
[[Category:2016年没]]

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