山口多聞のソースを表示

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{{基礎情報 軍人
| 氏名       = {{ruby|山口|やまぐち}} {{ruby|多聞|たもん}}
| 各国語表記 = 
| 箱サイズ   = 300px  
| 生年月日   = [[1892年]][[8月17日]]
| 没年月日   = {{死亡年月日と没年齢|1892|8|17|1942|6|6}}
| 画像       = TamonYamaguchi.jpg
| 画像サイズ = 240px
| 画像説明   = 山口 多聞
| 渾名       = 人殺し多聞丸
| 生誕地     = {{JPN}}・[[東京府]][[東京市]][[小石川区]]
| 死没地     = {{USA1912}}・[[ミッドウェー島]]近海
| 所属組織   = {{IJNAVY}}
| 軍歴       = [[1912年]] - [[1942年]]
| 最終階級   =[[file:Imperial Japan-Navy-OF-8-collar.svg|30px]]  [[中将|海軍中将]]
| 家族     = 
| 墓所       = [[東京都]][[港区 (東京都)|港区]][[青山霊園]]警視庁墓地
| 署名       = 
}}
'''山口 多聞'''（やまぐち たもん、[[1892年]]（[[明治]]25年）[[8月17日]] - [[1942年]]（[[昭和]]17年）[[6月6日]]）は、[[日本]]の[[大日本帝国海軍|海軍]][[軍人]]。[[海軍兵学校 (日本) |海兵]][[海軍兵学校卒業生一覧 (日本)#40期|40期]]次席<ref>{{Harvnb|秦|2005|p=|pp=663-665|loc=海軍兵学校卒業生}}</ref>・[[海軍大学校|海大]][[海軍大学校卒業生一覧#甲種24期|24期]]次席<ref>{{Harvnb|秦|2005|p=|pp=641-660|loc=海軍大学校甲種学生}}</ref>。[[ミッドウェー海戦]]において空母[[飛龍 (空母)|飛龍]]沈没時に[[戦死]]{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|pp=114-115|ps=(1942.6.4～5)ミッドウェー海戦}}。最終階級は[[中将|海軍中将]]<ref>{{Harvnb|秦|2005|p=261|pp=|loc=山口多聞}}</ref><ref name="jirei1170">{{アジア歴史資料センター|C13072092100|昭和18年7月13日(発令昭和17年6月5日付)海軍辞令公報(部内限)第1170号 p.27}}</ref>。[[位階]]は[[正四位]]。

== 生涯 ==
1892年（明治25年）8月17日、[[東京市]][[小石川区]]に旧[[松江藩]]士・山口宗義の三男として生まれる。松江藩における山口家の知行は200石であった<ref>{{Cite book|和書 |title=勇断提督・山口多聞 |year=1985 |publisher=[[徳間書店]] |page=8 |author=生出寿 |author-link=生出寿}}</ref>。名前の「多聞」は[[楠木正成]]の幼名「多聞丸」から取っており{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|p=29}}、幼少の頃父から「大楠公のようになってもらいたい」と諭された。

[[1909年]]（明治42年）3月、[[開成中学校・高等学校|開成中学]]卒業。開校以来の秀才といわれた<ref name=a>『昭和史の軍人たち』「山口多聞」</ref>。1909年（明治42年）9月、[[海軍兵学校 (日本) |海軍兵学校]]40期に150人中21位の成績で入学。同期に[[岡新]]、[[多田武雄]]、[[福留繁]]、[[宇垣纏]]、[[大西瀧治郎]]などがいる。棒倒しの奮闘では大西と双璧と言われ、剣道は兵学校で最高の1級であった<ref>秋永芳郎『海鷲の割腹』光人社16頁</ref>。[[1912年]]（明治45年）7月、144人中次席の成績で卒業し、[[少尉候補生]]となる。[[1913年]]（大正2年）12月、[[少尉]]任官。[[1914年]]（大正3年）5月、[[防護巡洋艦]]「[[筑摩 (防護巡洋艦)|筑摩]]」乗組。[[1915年]]（大正4年）2月、[[戦艦]]「[[安芸 (戦艦)|安芸]]」乗組。1915年（大正4年）12月、[[中尉]]に昇進し、[[海軍砲術学校]]普通科学生となる。[[1916年]]（大正5年）6月、[[海軍水雷学校]]普通科学生となり12月に第3潜水艇隊付。

[[1918年]]（大正7年）5月、[[特務艦隊#第二特務艦隊|第二特務艦隊]]司令部付となり[[第一次世界大戦]]に参加、[[地中海]]での[[連合国 (第一次世界大戦)|連合国]]艦船護衛の任にあたり、大戦後、戦利艦である[[Uボート]]回航要員を経験した。7月、[[駆逐艦]]「[[樫 (桃型駆逐艦)|樫]]」乗組。12月、[[大尉]]に昇進。

[[1919年]]（大正8年）1月、[[ヴァイマル共和政|旧ドイツ帝国]]潜水艦回航員。7月、横須賀防備隊付。10月、呉防備隊付。12月、海軍水雷学校高等科学生。[[1920年]]（大正9年）、佐世保防備隊付。[[1921年]]（大正10年）2月、[[アメリカ合衆国|アメリカ]][[駐在武官|駐在]]。1923年（大正12年）5月、帰国。6月、戦艦「[[長門 (戦艦)|長門]]」分隊長。11月1日、最初の妻である河村敏子と結婚式をあげる{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|p=32}}。12月、[[海軍潜水学校]]教官兼分隊長。

[[1924年]]（大正13年）12月1日、[[少佐]]に昇進。[[海軍大学校]]甲種学生（24期）。この頃海軍大学校同期の[[五十嵐恵 (海軍軍人)|五十嵐恵]]と料亭に出向いた際に山口は四人前の料理を頼み、それに五十嵐が「今日は他所で食べてきたので一人前減らしてくれ」と頼む。すると山口が「俺が三人前食うつもりで注文したんだ」と言い、本当に三人前の料理を平らげてしまったという逸話がある。<ref>五十嵐邁『美保関のかなたへ』角川ソフィア文庫263-264頁</ref>

[[1926年]]（大正15年）3月、[[水雷戦隊#第一水雷戦隊|第一水雷戦隊]]司令部付。11月25日、海軍大学校甲種学生（24期）を次席で卒業。12月、第一水雷戦隊参謀。[[1927年]]（[[昭和]]2年）11月、[[軍令部]]出仕。第一班第二課部員着任。[[1928年]]（昭和3年）12月、[[中佐]]に昇進。

[[1929年]]（昭和4年）11月[[ロンドン海軍軍縮会議]]全権委員随行員。[[山本五十六]]と共に条約締結に強硬に反対している<ref>『山本五十六再考』「ロンドン会議の山本五十六」</ref>。[[1930年]]（昭和5年）7月、[[軽巡洋艦]]「[[由良 (軽巡洋艦)|由良]]」副長。11月、[[連合艦隊]]先任参謀<ref name="GF先任参謀">{{Harvnb|津村|1952|p=9}}</ref>。[[1932年]]（昭和7年）9月20日、妻・敏子が三男を出産後に急死。その後、山本五十六の紹介で[[四竈孝輔]]の姪である孝子と再婚した。多聞は孝子を溺愛しており、戦地から250通にのぼる手紙を孝子に送っている。11月、海軍大学校教官。12月、[[大佐]]に昇進。

[[1934年]]（昭和9年）6月、[[在アメリカ合衆国日本国大使館|在アメリカ合衆国大日本帝国大使館]]付武官。東部駐在員・[[黛治夫]]によれば「山口は情報収集に熱心だったが、その後軍令部や連合艦隊がその情報を活用するように働いてくれなかった。そこがだめだったと思う」という<ref>生出寿『勇断提督山口多聞』徳間書店29-34頁</ref>。[[1936年]]（昭和11年）10月、帰国。

=== 日中戦争（支那事変） ===
[[File:JNAF General at China.jpg|300px|thumb|左2人目から一連空司令官当時の山口、[[嶋田繁太郎]]、[[大西瀧治郎]]]]
1936年（昭和11年）12月、軽巡洋艦「[[五十鈴 (軽巡洋艦)|五十鈴]]」艦長。[[1937年]]（昭和12年）7月、[[日中戦争]]勃発。12月、戦艦「[[伊勢 (戦艦)|伊勢]]」艦長。[[1938年]]（昭和13年）[[11月15日]]、[[少将]]に昇進し、軍令部出仕。12月、[[第五艦隊 (日本海軍)|第五艦隊]]参謀長。[[1939年]]（昭和14年）11月、第一艦隊司令部付。12月戦艦「長門」乗艦。

[[1940年]]（昭和15年）[[1月15日]] 第一連合航空隊司令官。大西瀧治郎の案で大西を司令とする第二連合航空隊とともに第一空襲部隊を編成し、山口がその指揮官を務め、[[101号作戦]]（[[重慶爆撃]]）を開始する。5月12日、山口は准士官以上の搭乗員に「これから開始する101号作戦では兵力が半減しても重慶に連続猛攻撃を加え[[蔣介石政権]]を壊滅させる」と訓示する<ref>生出寿『勇断提督山口多聞』徳間書店70頁</ref>。爆撃を護衛戦闘機がないまま強行したために大きな犠牲を出してパイロットからは「人殺し多聞丸」と呼ばれた。重慶爆撃に関して大西が「日本は戦争をしている。イギリスは負けている。アメリカも戦争に文句はあるまい。[[絨毯爆撃]]で結構」と言い、山口は中央からの指示もあったため「重慶には各国大使館もあるし慎重に」と言って、二人は喧嘩になったが、山口が「俺も徹底したいけど中央が言うから」と漏らすと大西も「それが戦争だよな」と答えた<ref>草柳大蔵『特攻の思想　大西瀧治郎伝』文春文庫82-83頁</ref>。7月10日、山口は重慶爆撃を強行しようと考えたが、大西は「一週間待てば援護戦闘機がつけられる」と反対して対立する<ref name="源田発進">[[#源田発進|海軍航空隊発進]]170-172頁『重慶爆撃で激論』</ref>。山口が折れて、後に大西は[[源田実]]に対し「山口の方が一枚上手だったよ」と回想した<ref>生出寿『勇断提督山口多聞』徳間書店75-76頁</ref>。

7月中旬、[[横山保]]以下6機の[[零式艦上戦闘機|十二試艦上戦闘機]]（零戦）が漢口に進出してきた<ref name=":1">吉田俊雄『指揮官たちの太平洋戦争』光人社NF文庫、81-82頁。</ref>。横山は、この新鋭機の重要なトラブルを事前に解決する必要があるとして実験飛行を実施した<ref name=":1" />。101号作戦を遂行中の山口、大西両司令官はなるべく速やかに十二試艦戦で敵本拠地の敵戦闘機群を撃滅せよと命じた<ref name=":1" />。護衛のない中攻隊からすれば敵戦闘機群の撃滅を熱望するのは当然だったが、まだ納得できない横山は事情を説明して猶予を乞うた<ref name=":1" />。しばらくして司令官たちは横山を呼び出し、「貴様はいのちが惜しいのかッ」と挑発的な言葉をぶつけたと言う<ref name=":1" />。

=== 太平洋戦争 ===
==== 第一段作戦 ====
{{main|真珠湾攻撃}}
[[File:Attack on Pearl Harbor Japanese planes view.jpg|left|thumb|300px|日本軍機の[[九一式魚雷|魚雷]]攻撃を受ける米[[戦艦]]群]]
1940年（昭和15年）11月1日、[[第二航空戦隊]]司令官に着任。11月14日、[[高須四郎]]中将（前第二遣支艦隊司令長官）・山口多聞少将（前第一連合航空隊司令官）・大西瀧治郎少将（前第二連合航空隊司令官）は宮城において[[昭和天皇]]に謁見、その後は天皇・[[伏見宮博恭王]]元帥と午餐を共にした<ref>[[#昭和天皇実録八]]236頁(帰還将兵の軍状奏上)</ref>{{refnest|[{{NDLDC|2960657/17}} 昭和15年11月15日官報第4159号。国立国会図書館デジタルコレクション　コマ17]<ref group="注釈">『◎御陪食　昨十四日正午宮中ニ於テ博恭王殿下ヲ午餐ニ召サセラレ海軍中将高須四郎其他ヘ御陪食仰付ケラレタリ』</ref>}}。

[[1941年]]（昭和16年）4月10日、日本海軍は[[第一航空艦隊]]（司令長官[[南雲忠一]]中将、参謀長[[草鹿龍之介]]少将、参謀[[源田実]]中佐他）を新編、第二艦隊所属だった第二航空戦隊も、第一航空艦隊に編入された。
9月、海大図上演習で[[第四艦隊 (日本海軍)|第四艦隊]]司令長官[[井上成美]]中将は、[[ラバウル]]を確保するには[[ソロモン諸島|ソロモン]]、[[ニューギニア島|東部ニューギニア]]に前進基地を確保する必要があると考え、ラバウル攻略後は[[ラエ]]・[[サラマウア|サラモア]]まで進出することを主張した。これに対して山口は連合艦隊参謀長・宇垣纏中将とともに消極的な意見を述べ、攻略範囲は決まらなかったが、連合艦隊はそれらを加味し、他方面が有利に展開するなら早く実行するとした<ref>戦史叢書49南東方面海軍作戦(1)ガ島奪回作戦開始まで26頁</ref>。
この頃、日米戦争を予期して戦死を覚悟し、家族にむけて遺書を書いた{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|p=33}}。

山口の第二航空戦隊（旗艦「[[蒼龍 (空母)|蒼龍]]」）は、引続き第一航空艦隊（通称、南雲機動部隊）に所属して[[真珠湾攻撃]]作戦に参加した。山口は朝も夜も航空部隊に猛訓練をさせて事故が多発し、気違い多聞、人殺し多聞と呼ばれた<ref>江草聖子『二つの時代 夫は艦爆の神様と言われて』光人社　惜別の人17-18頁</ref>。軍令部からの要請でハワイ作戦に航続力の優れた空母三隻（[[加賀 (空母)|加賀]]、[[翔鶴 (空母)|翔鶴]]、[[瑞鶴 (空母)|瑞鶴]]）と[[第一航空戦隊]]と第二航空戦隊のパイロットを乗せ、二航戦には五航戦パイロットをのせてフィリピン方面作戦に参加させる案が練られる<ref name="源田始末211">[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]211-212頁</ref>。
この案を知った山口は「もし艦隊司令部でそういうことをやるなら、自分としては自決する以外に道はない」「今まで訓練してきた人と飛行機を取られ、母艦だけ残されては部下に会わす顔がない」「二航戦（蒼龍、飛龍）の航続力が足りないのならば、往きだけ一緒に行き、攻撃の後は置き去りにしてくれて構わない」と反対した<ref name="源田始末211" />。第一航空艦隊は最終的に空母6隻案でまとまり解決した<ref>戦史叢書10 ハワイ作戦 p.110-111、文芸春秋『完本・太平洋戦争〈上〉』1991年39-40頁</ref>。
山口は[[ホレーショ・ネルソン (初代ネルソン子爵)|ネルソン]]の「旗艦見えず戦闘の処置に困りたる時は敵艦に横付けして死闘をなせ、しからば予の意図に合致せん」という言を信条としており、10月には「時局は重大な転機を迎えている。十年兵を養うには一にこの日のためである。緊褌一番、実力の涵養に努めよ。戦場においては混戦となり、信号も届かない場面もあろう。その時は躊躇無く敵に向かって猛進撃すべし。それが司令官の意図に沿うものである」と訓示した<ref>生出寿『勇断提督山口多聞』徳間書店</ref>。

12月7日、真珠湾攻撃は成功し、大戦果を収めた。山口は攻撃後、「第二撃準備完了」と信号した。機動部隊指揮官（南雲）が再攻撃準備を命じたまま攻撃を下令しないので、南雲長官の今までの言動から再攻撃の意志がないものと見て、それとなく催促したものという意見もある<ref>戦史叢書10 ハワイ作戦343-344頁</ref>。一方、一航艦航空乙参謀だった[[吉岡忠一]]少佐は、この信号は準備をして知らせる決まりがあったための行動であり、山口の再攻撃具申はそれが伝説化したのだろうと語っている<ref>太平洋戦争研究会『太平洋戦争の意外な裏事情』PHP文庫51頁</ref>。山口の幕僚の証言によれば、搭乗員や航空参謀から再攻撃の意見がだされ、意見具申をするよう強く要望されたが、山口は「南雲さんはやらないよ」と洩らして、意見具申を行なわなかったという<ref>戦史叢書10 ハワイ作戦344頁</ref>。帰還中に連合艦隊からミッドウェー島基地を攻撃し、再使用不能にして帰るように命令があったが、その達成が不可能と判断した南雲は攻撃へ向かわなかったので、山口は信号を送り、直談しようとした。これが第二攻撃具申と誤って伝わったのではないかという意見もある。<ref>戦史叢書10 ハワイ作戦 412頁</ref>

その後、第一航空艦隊は南進して連戦連勝を続けた。山口も12月中旬の[[ウェーク島の戦い|第二次ウェーク島攻略作戦]]支援（同作戦は第八戦隊司令官[[阿部弘毅]]少将の指揮下）、[[1942年]]（昭和17年）1月の[[アンボン島|アンボン]]攻撃、2月19日の[[日本のオーストラリア空襲|ポートダーウィン攻撃]]、3月のジャワ海掃討戦、4月の[[セイロン沖海戦|インド洋作戦]]に参加した。

2月、山口は私見として[[宇垣纏]]少将（[[連合艦隊#歴代参謀長|連合艦隊参謀長]]、[[海軍兵学校卒業生一覧 (日本)#40期|40期]]）などに航空主兵に徹底した艦隊編成を航空整備進捗状況に合わせて拡大し、対米作戦を積極的に進めてアメリカを屈服させるという意見書を提出した<ref>戦史叢書43ミッドウェー海戦160-161頁</ref>。

二段作戦の研究では、米本土空襲を提案している。山口案は、5月に[[インド]]要地占領。7月に[[フィジー]]、[[サモア]]、[[ニューカレドニア]]および[[ニュージーランド]]、[[オーストラリア]]要地の占領。8、9月[[アリューシャン列島|アリューシャン]]占領。11、12月[[ミッドウェー島|ミッドウェー]]、[[ジョンストン島|ジョンストン]]、[[パルミラ環礁|パルミラ]]占領。12月、1943年（昭和18年）1月に[[ハワイ州|ハワイ]]占領。その後[[パナマ運河]]を破壊、[[カリフォルニア州]][[油田]]地帯占領、北米全域爆撃という計画であった<ref>秦郁彦『実録太平洋戦争』光風社35頁</ref>。

==== ミッドウェー海戦 ====
{{main|ミッドウェー海戦}}
第一航空艦隊が帰国すると、すぐにミッドウェー作戦が命令された。ミッドウェー作戦を知った山口は太平洋のアメリカの艦隊を壊滅できると乗り気であった<ref>プランゲ『ミッドウェーの奇跡上』千早正隆訳　原書房38頁</ref>。しかし、準備期間が短く、搭乗員の練成など準備が間に合わないことを理由に山口は[[源田実]]中佐とともに反対したが、山本五十六以下連合艦隊司令部は聞く耳を持たなかった<ref>草鹿龍之介『連合艦隊参謀長の回想』光和堂40頁</ref>。さらに、4月29日に戦艦「[[大和 (戦艦)|大和]]」で行われた作戦研究会で山口は第一航空艦隊のような集団を空母3隻で作り、その集団4つほどで[[輪形陣]]を行い、車掛りで襲来する空母部隊の構想を提案する。提案は了とされ、生産状況から近く実現できるものであったが、ミッドウェー作戦を急いだため、後回しにされて実現しなかった<ref>吉田俊雄『栄光と悲劇 連合艦隊 東郷平八郎と山本五十六』秋田書店 p339-340</ref>。

また、山口と海兵同期の宇垣参謀長によれば、「山口第二航空戦隊司令官は常に機動部隊として活躍したるが、第一航空艦隊の思想にあきたらず、作戦実施中もしばしば意見具申を為したる事実あると共に、計画以外妙機を把握して戦果の拡大を計り、或は状況の変化に即応する事絶無なること余輩に語りし事三回に及べり。彼の言概ね至当にして余輩と考えを一にし今後も大いに意見を具申すべきを告げたり。尚艦隊司令部は誰が握り居るやの質問に対し、『（[[南雲忠一]]）長官は一言も云わぬ、（[[草鹿龍之介]]）参謀長（[[大石保]]）先任参謀等どちらがどちらか知らぬが億劫屋揃である』と答えたり」という<ref>[[#戦藻録(1968)]]128頁</ref>。

4月下旬、自宅に戻ると、くつろぐ暇なく慌ただしく出立した{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|p=30}}。
6月上旬、[[ミッドウェー作戦]]に二航戦司令官（旗艦「[[飛龍 (空母)|飛龍]]」）として参加。
6月5日、南雲機動部隊から発進した第一攻撃隊が[[ミッドウェー島]]基地攻撃中、利根4号機は「敵らしきもの十隻見ゆ」の報告を発する<ref name="源田始末170">[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]170-172頁</ref>。利根偵察機は「敵兵力は巡洋艦五隻、駆逐艦五隻」と報告したあと、約30分後に「敵はその後方に空母らしきもの一隻を伴う」の報告を入れた<ref name="源田始末170" />。現地時間7時15分から始まった[[ミッドウェー島]]基地攻撃用の陸上爆弾への艦載機の兵装転換は、7時40分の45分に一時停止させていた。利根索敵機が報告した「敵らしきもの」がアメリカ機動部隊と判明すると、山口少将は一刻を争う状況と判断して、駆逐艦[[野分 (陽炎型駆逐艦)|野分]]を中継し、あらゆることを放棄し、現装備の陸用爆弾のままですぐに攻撃隊を発進させるように進言した<ref>草鹿龍之介『連合艦隊参謀長の回想』光和堂138頁</ref>。南雲司令部は、敵との距離（誤情報）や護衛戦闘機の不足、陸用爆弾による効果の低さ、帰還したミッドウェー基地攻撃隊の収容を優先させ、山口の進言を却下し、雷装への兵装転換を命じた<ref>戦史叢書43巻ミッドウェー海戦290-291頁</ref>。

第二航空戦隊通信参謀だった[[安井鈊二]]少佐<ref>{{アジア歴史資料センター|C13072086200|昭和17年7月1日(発令7月1日付)海軍辞令公報(部内限)第892号 p.4}}</ref>によれば、「直チニ攻撃隊ヲ発進ノ要アリト認ム」の形で、山口自ら起案し（普通は起案は参謀に任せる）、発信するように二航戦航空参謀の[[橋口喬]]少佐に指示したという<ref>豊田穣『豊田穣文学戦記全集　第三巻』光人社436-437頁</ref>。赤城の発着指揮所で一航艦司令部の様子を伝聞していた淵田中佐も同じ文面で証言している<ref>淵田美津雄・奥宮正武『ミッドウェー』朝日ソノラマ1982年276－277頁</ref>。一航艦航空参謀だった源田中佐<ref>[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]174頁</ref>、一航艦信号員だった橋本廣<ref>橋本廣『機動部隊の栄光』光人社NF文庫143頁</ref>、「日映」特派員として赤城に乗船していた牧島貞一記者は「ヲ」が抜けた文面を証言している<ref>豊田穣編纂『昭和の戦争 ジャーナリストの証言4 ミッドウェー海戦』講談社72頁</ref>。一方で、飛龍の掌航海長だった田村士郎兵曹長によれば、山口少将から発信の指示を田村が直接受けたとして、文面は「現装備ノママ直チニ攻撃隊ヲ発進セシムルヲ至当ト認ム」であり、南雲長官が雷装準備が完了するまで出撃を引き伸ばさないよう促していたという<ref>森史朗『ミッドウェー海戦 第二部』新潮社110頁</ref>。

第二次攻撃隊発艦準備中、南雲機動部隊は[[SBD (航空機)|SBDドーントレス急降下爆撃機]]の奇襲により、空母3隻（[[赤城 (空母)|赤城]]、[[加賀 (空母)|加賀]]、[[蒼龍 (空母)|蒼龍]]）が大破、炎上する<ref>[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]184-189頁『加賀、赤城、蒼龍次々に被弾』</ref>。第八戦隊旗艦「[[利根 (重巡洋艦)|利根]]」（司令官[[阿部弘毅]]少将）と機動部隊全艦に対し、山口は「我レ今ヨリ航空戦ノ指揮ヲ執ル」と発光信号を発し、また「飛龍」艦内には、「赤城・加賀・蒼龍は被爆した。本艦は今より全力を挙げ敵空母攻撃に向かう」と通報した。二航戦先任参謀伊藤清六中佐の手記によれば、山口は攻撃隊搭乗員に「飛龍一艦、少數の飛行機を驅つて敵空母二隻に全艦隊の仇を報じ得たるいはれなきにあらず。體當りでやつて来い、俺も後から行くぞ」と訓示した<ref name="戦藻録243">[[#戦藻録(1968)]]243頁</ref>。

[[File:HiryuBurning.jpg|left|thumb|300px|米軍機の[[急降下爆撃]]を受け炎上する「飛龍」]]
山口は次席指揮官の第八戦隊司令官[[阿部弘毅]]少将の命令を待たず、航空戦を敢行。敵空母との間合いを詰めて、敵が攻撃を終えた機体を収容する時を狙い、雷撃準備を終えた部隊で攻撃した。先任の阿部をおいて山口が主導したのは、その性格と第二航空戦隊が主力と考えて重要な戦機でもあったためである。接近したのは攻撃力発揮と攻撃隊を収容をするためであった<ref>戦史叢書43ミッドウェー海戦336-337頁</ref>。
二次に亘る航空攻撃の結果、敵主力空母「[[ヨークタウン (CV-5)|ヨークタウン]]」を大破（後、[[潜水艦]]「[[伊号第百六十八潜水艦|伊一六八]]」により撃沈）させるも、第三次攻撃は攻撃力消耗から薄暮攻撃を予定していた<ref>[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]198-201頁</ref>。
山口は「飛龍には他の空母の艦上戦闘機もあるので上空警戒機で阻止できる」という判断をした。水上偵察機（戦艦[[榛名 (戦艦)|榛名]]所属機）が敵機を発見し触接警戒しているので、飛龍は警戒を厳にし13機を上空に上げていた。だが[[SBD (航空機)|SBDドーントレス]]の攻撃を受けて「飛龍」は飛行甲板を破壊され、発着艦不能となった<ref>戦史叢書43ミッドウェー海戦342-343頁</ref>。

[[File:Renzo Kita, Last Moment of Admiral Yamaguchi.jpg|thumb|300px|「[http://search.artmuseums.go.jp/records.php?sakuhin=11366 提督の最後]」 [[北蓮蔵]]画 [[東京国立近代美術館]]保管（アメリカ合衆国より無期限貸与） 1943年（昭和18年）山口の最期を描いた[[戦争画]]。画面中央での罐の蓋で水を受けるのが山口、その向かって右奥は飛龍艦長・加来止男で、右手前から参謀が降ろされた軍艦旗を掲げ持って歩み寄る<ref>[[針生一郎]]他編 『戦争と美術 1937-1945』 [[国書刊行会]]、2007年、214頁</ref>。]]
山口は総員を飛行甲板に集合をさせる<ref name="市岡151">[[#市岡1987|短現の研究]]151頁</ref>。「皆が一生懸命努力したけれども、この通り本艦もやられてしまった。力尽きて陛下の艦をここに沈めなければならなくなったことはきわめて残念である。どうかみんなで仇を討ってくれ。ここでお別れする」と告げ、一同水盃をかわし[[皇居]]を遥拝し聖寿の[[万歳]]を唱え[[軍艦旗#日本の軍艦旗・自衛艦旗|軍艦旗]]と[[大日本帝国海軍の旗章#将旗|将旗]]を降納した。部下は退艦を懇請したが、山口は受け入れなかった。
また浅川正治（飛龍主計長）によれば、二航戦参謀、飛龍副長、飛龍各科長（幹部）は飛龍と共に沈むことを申し出たが、山口と飛龍艦長[[加来止男]]大佐は「二人だけでよい」として退去を命じた<ref name="市岡151" />。各員と握手をかわした時の二人について、浅川は「まるで散歩の途中でさようならをいうように淡々としていた」と回想している<ref name="市岡151" />。
この時、先任参謀[[伊藤清六]]中佐が｢何かお別れに戴くものはありませんか｣と頼むと、山口は黙って自分の被っていた戦闘帽を渡した<ref>[[#日本海軍の話]]p.84</ref>。
「飛龍」を雷撃処分した第10駆逐隊司令・[[阿部俊雄]]大佐が連合艦隊司令部で証言した事によれば、山口は訓示のあと退艦を願う部下達の制止をふりきり「マスクを被り艦橋に昇られたるが後、再び姿を見せられず」だったという<ref name="戦藻録141">[[#戦藻録(1968)]]141-142頁</ref>。このあと「飛龍」は第10駆逐隊の駆逐艦「[[巻雲 (夕雲型駆逐艦)|巻雲]]」に雷撃処分されたがすぐには沈まなかった。翌朝、空母「[[鳳翔 (空母)|鳳翔]]」偵察機が飛龍飛行甲板で帽子をふる生存者を発見、駆逐艦「[[谷風 (陽炎型駆逐艦)|谷風]]」が飛龍処分のために派遣されたが、既に「飛龍」は沈没していた<ref name="戦藻録141"/>。飛行甲板で手を振っていた人影は、「飛龍」の雷撃処分を知らなかった機関科部員で、のちに米軍によって救助された<ref>戦史叢書43ミッドウェー海戦380-382頁</ref>。

山口は昭和17年6月5日付で海軍中将に進級<ref name="jirei1170" />。同日付で、加来止男大佐（飛龍艦長）、[[岡田次作]]大佐（加賀艦長）、[[柳本柳作]]大佐（蒼龍艦長）も、それぞれ海軍少将に進級した<ref name="jirei1170" />。10月10日、[[昭和天皇]]は[[侍従]]の[[徳川義寛]]を勅使として差遣し、祭祀料を下賜した<ref name="昭和実録八810">[[#昭和天皇実録八]]810頁(故山口多聞葬送)</ref>。翌日の10月11日、山口の葬儀が青山斎場で行われた{{refnest|[[#城日記|城英一郎日記]]193頁<ref group="注釈">(昭和17年)一〇月一一日(日)晴、秋晴れの好天気、当直(中略)山口〔多聞〕中将の葬儀、青山斎場で行はる。当直のため出席できず、佐藤武官に名刺を言伝ふ。</ref>}}。

山口と加来の戦死は、翌年（昭和18年）4月24日夜に放送された『[https://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/sp/movie.cgi?das_id=D0001400264_00000 提督の最期]』と題する番組で日本国民に対して公表された{{refnest|[[#日本海軍の話]]p.73<ref group="注釈">『皆様、皆様は去る四月二十四日の午後七時十分から四十五分にわたって、大本営の報道部部長[[平出英夫]]大佐が血涙と共に放送された山口多聞中将と如来止男少将との悲壮な御最後の有様をまだまざまざと覚えてゐられることと思ひます。』</ref>}}。

「飛龍」に掲げられていた山口の少将旗は、生還した第二航空戦隊先任参謀伊藤清六中佐に託され、[[広島県]][[呉市]]の[[呉市海事歴史科学館]]に展示されている。同じく伊藤先任参謀に託された山口の戦闘帽（第一種略帽。艦内帽であった<ref name=":0">{{Harvnb|平間|2009|p=|pp=49-62|loc=教育参考館ガイド 海軍兵学校の宝物（著者：呉市入船山記念館学芸員 齋藤義朗}}</ref>）は、[[海軍兵学校 (日本)|海軍兵学校]]の跡地である[[海上自衛隊第1術科学校]]（広島県[[江田島市]]）にある教育参考館の六号室に展示されている（2009年現在）<ref name=":0" />。「大君につくすまことの一と筋は孝の道にも通ふなるらん」の和歌も残されている<ref>[[#日本海軍の話]]p.86</ref>。墓所は[[東京都]][[港区 (東京都)|港区]]の[[青山霊園|青山墓地]]。1998年（平成10年）6月4日、[[ミッドウェー島]]で三男の宗敏および日米双方の軍人や自衛官が出席し、戦死者の慰霊祭がおこなわれた{{Sfn|別冊歴史読本(45)|2009|pp=16-17}}。

== 人物 ==
[[宇垣纏]]中将（ミッドウェー海戦時の連合艦隊参謀長）は、山口は潜水艦を専務とするも剛毅果断にして見識高いと評価、戦死を聴いて「痛恨限りなし」と悼み、「餘の級中最も優秀の人傑を失ふものなり」と最大級の賛辞をおくっている<ref name="戦藻録141"/>。のちに山口戦死時の詳しい状況を聴き「見事なる覺悟立派なる最後、彼満足して逝きたり。死處を得て其の精神を萬代に貽し得る士は幸なり」と偲んでいる<ref name="戦藻録243"/>。
[[大西瀧治郎]]中将は、「山口の死は一時に大艦数隻失う以上の損失」と死を惜しんだ<ref>山口宗敏『父・山口多聞』光人社NF文庫116頁</ref>。
[[福留繁]]中将によれば、山口は航空に関しては素人であったため幕僚にいいかと聞く、いいかいいか司令と自称していたという<ref>山口宗敏『父・山口多聞』光人社NF文庫96-97頁</ref>。
[[草鹿龍之介]]中将は、山口を「部内にも名望ある三拍子も四拍子もそろった名提督」と評価する<ref>草鹿龍之介『連合艦隊参謀長の回想』光和堂</ref>。
[[角田覚治]]少将は、山口の戦死を聞き、「山口を[[機動部隊]][[司令長官]]にしてあげたかった。彼の下でなら、喜んで一武将として戦ったのに」と死を惜しんだ<ref name="#1">淵田美津雄、奥宮正武『ミッドウェー』学研M文庫</ref><ref group="注釈">角田は兵学校で山口の1期上だが、大佐への進級・少将の進級はいずれも山口より1年遅れており、山口の方が先任となっていた。</ref>。
[[源田実]]（元第一航空艦隊参謀）は、第二航空戦隊司令官としての山口と交流があった。第二次ウェーク島攻撃支援の際に蒼龍艦攻隊の名パイロットだった金井一空曹が撃墜されて戦死すると、山口は内地帰投後におりにふれて「金井を殺すようなら、あの時彼を飛ばさなければよかった」としんみりと語り、源田は「この人（山口）にもこんなしんみりした反面があるのか」と思ったという<ref>[[#源田始末|海軍航空隊始末記]]210頁</ref>。また山口について「後には連合艦隊長官級の人物となり、英将ネルソンにも匹敵すべき名将となったであろうが、ほんとに惜しい人であった」と語っている<ref>源田実『海軍航空隊始末記』文春文庫212頁</ref>。[[淵田美津雄]]大佐によれば、山口は当時の海軍の部将中ではナンバーワンの俊英であり、頭はシャープで、海兵の席次が優秀な人が戦闘でパッとしなかったのに比べ、山口は勝負度胸も太く、見識も優れ、判断行動ともに機敏であったという<ref name="#1"/>。第二次世界大戦におけるアメリカ海軍の戦史編纂担当者[[サミュエル・モリソン]]（アメリカ海軍少将）は、山口を傑出した海軍将官であると評価し、「山本の後継者に想定されていたと言われている」と紹介している<ref>[[#Morison vol.4]] Little, Brown and Company p.137</ref>。

[[保坂正康]]は、[[山本五十六]]（[[連合艦隊]]司令長官）が[[ブーゲンビル島]]上空で戦死した[[海軍甲事件]]の際、山本の搭乗機を待ち伏せて撃墜する作戦について、[[チェスター・ニミッツ]]（[[太平洋艦隊 (アメリカ海軍)|アメリカ太平洋艦隊]]司令長官）は、山本が死んでも有能な後継者が出てきては困ると懸念したが、部下の「山口多聞は有能であったが、既にミッドウェー海戦で死んでいるので問題ない」旨の意見を採用し、この作戦を決裁したと述べている<ref>{{Harvnb|半藤一利|保阪正康|2008|pp=59-79|loc=第3章 米内光政と山口多聞|p=}}</ref>。{{仮リンク|E.B.ポッター|en|E. B. Potter}}は、山本五十六待ち伏せ作戦の実施前に、ニミッツが[[エドウィン・レイトン]]（太平洋艦隊情報参謀）と日本海軍の提督たちについてあれこれと検討した後で、レイトンが「山本五十六は彼らの中で頭一つ抜き出た日本海軍における最優秀の指揮官であり、山本を殺した後のことを心配する必要はない」旨をニミッツに述べて納得させたのだと述べている<ref>E.B.ポッター『提督ニミッツ』南郷洋一郎（訳）、フジ出版社。</ref>。

[[山本五十六]]と[[ホレーショ・ネルソン (初代ネルソン子爵)|ネルソン]]を尊敬していた<ref>『父・山口多聞』光人社NF文庫99ページ</ref>。

== 経歴 ==
* [[1912年]]（明治45年）[[7月17日]] [[海軍兵学校 (日本)|海軍兵学校]]卒業 少尉候補生となる。
* [[1913年]]（大正2年）[[12月1日]] 少尉任官。
* [[1915年]]（大正4年）[[12月13日]] 中尉進級。
* [[1918年]]（大正7年）12月1日 大尉進級。
* [[1921年]]（大正10年）[[アメリカ合衆国|米国]][[プリンストン大学]]に留学。
* [[1924年]]（大正13年）12月1日 少佐進級。
* [[1926年]]（大正15年）[[海軍大学校]]甲種学生卒業（24期、次席）。
** 12月1日 第一潜水艦戦隊[[参謀]]となる。
* [[1928年]]（昭和3年）[[2月20日]] [[軍令部]]参謀。
** [[12月10日]] 中佐進級。
* [[1929年]]（昭和4年）[[ロンドン海軍軍縮会議]]全権委員随員となる。
* [[1930年]]（昭和5年）[[11月15日]] [[連合艦隊]] 兼 [[第一艦隊 (日本海軍)|第一艦隊]]参謀（連合艦隊先任参謀<ref name="GF先任参謀" />）となる。
* [[1932年]]（昭和7年）11月15日 [[海軍大学校]]教官となる。
** [[11月19日]] [[陸軍大学校]]兵学教官も兼任。同年12月1日に大佐進級。
* [[1934年]]（昭和9年）[[在アメリカ合衆国日本国大使館|在米国大使館]][[駐在武官|付武官]]になる。
* [[1936年]]（昭和11年）12月1日 [[軽巡洋艦]]「[[五十鈴 (軽巡洋艦)|五十鈴]]」艦長となる。
* [[1937年]]（昭和12年）12月1日 [[戦艦]]「[[伊勢 (戦艦)|伊勢]]」艦長となる。
* [[1938年]]（昭和13年）11月15日 少将進級。
** 12月15日に[[第五艦隊 (日本海軍)|第五艦隊]][[参謀長]]。
* [[1940年]]（昭和15年）[[1月15日]] 第一連合航空隊司令官となる。
** [[11月1日]] [[第二航空戦隊]]司令官。
* [[1942年]]（昭和17年）[[6月5日]] [[ミッドウェー海戦]]で戦死。49歳没。同日付で中将進級<ref name="jirei1170" />。

==家族==
[[松江藩]]山口家は、[[豊臣秀吉]]に仕えた[[武将]]・[[山口宗永]]の弟・宗春の妻（佐原木氏）が松平直政の乳母となり、宗春の子の宗張が直政に仕えたことから始まる。宗張の子の代に七郎左衛門家（本家）と、多聞の家系である軍兵衛家（分家）に分かれた。<ref>『海将山口多聞を生んだ松江藩士山口家―近代日本の礎となった人々―』松江歴史館、2019年、6頁</ref>
* 父・ [[山口宗義]]（1851－1934） - 旧松江藩士。[[大学南校]]卒、[[大蔵省]]主計官、[[台湾総督府]]財政部長、[[日本銀行]]理事などを歴任し、漢詩人としても知られる<ref>[https://kotobank.jp/word/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E5%AE%97%E7%BE%A9-1117383　山口宗義（読み）やまぐち むねよし]コトバンク</ref>。
* 兄・山口堅吉 - [[三菱銀行]]外国部長を経て常務。岳父に[[山田直矢]]（[[大久保利通]]甥）<ref>[http://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/who/docs/who8-23291　山口堅吉]『人事興信録』第8版 [昭和3(1928)年7月]</ref>。
* 弟・山口鉄彦 - [[大日本自転車]]、[[日米商店]]重役（ともに岳父[[岡崎久次郎]]の会社）<ref>[https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/who/docs/who8-23344　山口鐵彦]『人事興信録』第8版 [昭和3(1928)年7月]</ref>。孫に[[アイリーン・美緒子・スミス]]<ref>『魂を撮ろう　ユージン・スミスとアイリーンの水俣』石井妙子、文藝春秋、2121、「曽母・桂子」の章</ref>
* 叔父 [[山口半六]]（日本初の[[工学博士]]で[[建築家]]）
* 叔父 [[山口鋭之助]]（[[博士（理学）|理学博士]]、[[物理学者]]、[[京都大学|京都帝国大学]]理工科大学教授、[[学習院]]長、[[宮中顧問官]]）。
* 親戚・山口宗樹 - 日塗エンジニアリング社長、日本塗料常務。宗義の孫
* 親戚・山口礼 - レーシングドライバー
* 相婿・[[奥宮正武]] - 海兵58期、海軍中佐、戦後に[[中将|空将]]（山口と奥宮の妻同士が姉妹）

== 栄典・受章・受賞 ==
<!--山口が勲章や賞典を天皇などから与えられることは「受章」「受賞」と表現する。「授章」「授賞」は、山口が勲章や賞典を誰かに与えることである。-->
;位階
* [[1914年]]（大正3年）[[1月30日]] - [[正八位]]<ref>『官報』第451号「叙任及辞令」1914年1月31日。</ref>
* [[1916年]]（大正5年）[[1月21日]] - [[従七位]]<ref>『官報』第1040号「叙任及辞令」1916年1月22日。</ref>
* [[1919年]]（大正8年）[[1月10日]] - [[正七位]]<ref>『官報』第1930号「叙任及辞令」1919年01月11日。</ref>
* [[1924年]]（大正13年）[[4月15日]] - [[従六位]]<ref>『官報』第3532号「叙任及辞令」1924年06月03日。</ref>
* [[1929年]]（昭和4年）[[3月15日]] - [[正六位]]<ref>『官報』第709号「叙任及辞令」1929年5月14日。</ref>
* [[1932年]]（昭和7年）[[12月28日]] - [[従五位]]<ref>『官報』第1801号「叙任及辞令」1932年12月29日。</ref>
* [[1938年]]（昭和13年）[[2月1日]] - [[正五位]]<ref>『官報』第3337号「叙任及辞令」1938年2月19日。</ref><ref name="多門">{{アジア歴史資料センター|A11115294200|海軍中将山口多聞叙位ノ件}}</ref>
* [[1942年]]（昭和17年）
** [[6月5日]] - [[従四位]]<ref name="多門"/>
** [[8月17日]] - [[正四位]]<ref>{{アジア歴史資料センター|A11115294300|故海軍中将山口多聞外四名位階追陞ノ件}}</ref>

;勲章等
* [[1915年]]（大正4年）[[11月10日]] - [[記念章|大礼記念章（大正）]]<ref>『官報』第1410号・付録「辞令」1917年4月17日。</ref>
* [[1919年]]（大正8年）[[5月30日]] - [[瑞宝章|勲五等瑞宝章]]<ref>『官報』第2046号「叙任及辞令」1919年5月31日。</ref>
* [[1929年]]（昭和4年）[[1月30日]] - [[瑞宝章|勲三等瑞宝章]]<ref>『官報』第625号「叙任及辞令」1929年1月31日。</ref>
* [[1931年]]（昭和6年）[[10月31日]] - [[賞杯|銀杯一組]]<ref>『官報』第1455号「叙任及辞令」1931年11月4日。</ref>
* [[1939年]]（昭和14年）[[4月13日]] - [[瑞宝章|勲二等瑞宝章]]<ref>『官報』第3682号「叙任及辞令」1939年4月17日。</ref>
* [[ファイル:JPN Kinshi-kunsho 1Class BAR.svg|50px]] [[功一級金鵄勲章]]{{refnest|[[#城日記|城英一郎日記]]265-266頁<ref group="注釈">(昭和18年)四月二三日(木)晴　一〇〇〇、古賀〔峯一〕大将拝謁、勅語下賜。山口多聞中将、功一級特旨論功、発表さる。(以下略)</ref>}}

;外国勲章佩用允許
* [[1929年]]（昭和4年）[[7月29日]] - [[チリ|チリ共和国]]：第五等有効章<ref>『官報』第777号「叙任及辞令」1929年8月1日。</ref>

== 演じた俳優 ==
* [[三船敏郎]] - [[ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐]]（1960年）
* [[峯島英郎]] - [[連合艦隊司令長官 山本五十六]]（1968年）
* [[藤田進]] - [[トラ・トラ・トラ!]]（1970年）
* [[ジョン・フジオカ]] - [[ミッドウェイ (1976年の映画)|ミッドウェイ]]（1976年）
* [[近藤洋介 (俳優)|近藤洋介]] - [[大日本帝国 (映画)|大日本帝国]]（1982年）
* [[阿部寛]] - [[聯合艦隊司令長官 山本五十六]]（2011年）
* [[浅野忠信]] - [[ミッドウェイ (2019年の映画)|ミッドウェイ]] (2019年)

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group=注釈}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*[https://dl.ndl.go.jp/ 国立国会図書館デジタルコレクション] - [[国立国会図書館]]
**{{Cite book|和書|author=くろがね会編|year=1943|month=7|chapter=ある提督の死　山口多聞中将と如来止男少将|title=日本海軍の話|publisher=四方木書房|ref=日本海軍の話}}
**{{Cite book|和書|author=英文大阪毎日学習号編輯局 編|year=1943|month=6|chapter=艦と共に壮烈の最期　山口如來両提督歴戦の偉功|title=大東亜戦争記録画報. 續篇|publisher=大阪出版社|ref=大東亜戦争記録画報. 續篇}}

<!--��ィキペディア推奨スタイル、著者五十音順 -->
*<!--イチオカ1987 -->{{Cite book|和書|author=市岡揚一郎|coauthors=|year=1987|month=7|origyear=|title=短現の研究　{{small|日本を動かす海軍エリート}}|chapter=戦地での体験|publisher=[[新潮社]]|series=|isbn=4-10-366301-4|ref=市岡1987}}
* {{Cite book|和書|author=宇垣纏|authorlink=宇垣纏|coauthors=[[成瀬恭]]発行人|year=1968||month=1|title=戦藻録 {{small|明治百年史叢書}}|publisher=[[原書房]]|isbn=|ref=戦藻録(1968)}}
* 『凡将山本五十六　烈将山口多聞』 生出寿著 [[徳間文庫]] ISBN 4198922829
* 『炎の提督山口多聞』 [[岡本好古]]著 [[徳間書店#書籍|徳間文庫]] ISBN 4195676630
* <!-- クナイ2016-03 -->{{Cite book|和書|editor=宮内庁|editor-link=宮内庁|coauthors=|authorlink=|year=2016|month=3|title=昭和天皇実録　第八　{{small|昭和十五年至昭和十七年}}|chapter=|publisher=[[東京書籍]]株式会社|ISBN=978-4-487-74408-4|ref=昭和天皇実録八}}
*<!--ゲンタ1996-12 -->{{Cite book|和書|author=源田実|coauthors=|year=1996|month=12|origyear=1962|title=海軍航空隊始末記|chapter=|publisher=[[文藝春秋]]|series=[[文春文庫]]|isbn=4-16-731003-1|ref=源田始末}}
*<!--ゲンタ1997-08 -->{{Cite book|和書|author=源田実|coauthors=|year=1997|month=8|origyear=1961|title=海軍航空隊、発進|chapter=|publisher=文藝春秋|series=文春文庫|isbn=4-16-731004-X|ref=源田発進}}
*<!-- ジョウ 1982 -->{{Cite book|和書|author=城英一郎著|editor=野村実|year=1982|month=2|chapter=|title={{smaller|侍従武官}}　城英一郎日記|publisher=山川出版社|series=近代日本史料選書|isbn=|ref=城日記}}
*{{Citation|和書|ref=harv|title=海豹士官行状記|last=津村|first=敏行|year=1952|publisher=駿河台書房}}※ 津村敏行の本名は日比野寛三、[[海軍兵学校卒業生一覧 (日本)#58期|海兵58期]]、海軍中佐<ref>{{Cite book|和書 |title=あ丶海軍予備学生 |year=1983 |publisher=雪国書房 |page=316 |chapter=著者略歴}}</ref>。
*{{Citation|last=Morison |first=Samuel E. |year=1949 |title=History of United States Naval Operations in World War II Volume 4 Coral Sea, Midway, and Submarine Actions: May 1942- August 1942|publisher= Little, Brown and Company |isbn=0316583049 |ref= Morison vol.4}}
* 『山本五十六再考』 [[野村実|野村實]]著 [[中公文庫]]
* 『昭和史の軍人たち』 [[秦郁彦]]著 [[文藝春秋]]
* {{Citation |和書 |last=秦 |first=郁彦 編著 |authorlink=秦郁彦 |year=2005 |title=日本陸海軍総合事典 |edition=第2 |publisher=[[東京大学出版会]]|isbn=|ref=harv}}
* {{Cite book|和書|author=半藤一利|authorlink=半藤一利|author2=保阪正康|authorlink2=保阪正康|title=昭和の名将と愚将|date=|year=2008|publisher=[[文藝春秋]]（文春新書）|others=|isbn=9784166606184|ref=harv}}
* {{Citation |和書 |last=平間 |first=洋一（他9名）|authorlink=平間洋一 |year=2009 |title=今こそ知りたい海軍兵学校 |edition= |publisher=[[新人物往来社]]|isbn=|ref=harv}}
* 『山口多聞　空母「飛竜」に殉じた果断の提督』 [[星亮一]]著 [[PHP文庫]] ISBN 4569571417
* 『山口多聞　ミッドウェー海戦の闘将』 [[松田十刻]]著 [[学研ホールディングス|学習研究社]] ISBN 4059001775
* 『山口多聞　空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官』 松田十刻著 [[潮書房光人社|光人社]]
* 『父・山口多聞』 山口宗敏（多聞の三男）著 [[潮書房光人社#光人社NF文庫|光人社NF文庫]] ISBN 4769824807
*<!-- レキシドクホン  -->{{Cite book|和書|editor=佐藤實|date=2009-08|chapter=|title=未公開写真で初めてわかる大東亜戦争　{{smaller|秘蔵アルバムでよみがえる英霊たちの勇姿}}|publisher=新人物往来社|series=別冊歴史読本45|isbn=978-4-404-03645-2|ref={{SfnRef|別冊歴史読本(45)|2009}}}}
**肖像―帝国軍人の素顔　{{smaller|ミッドウェーに散った空と海の提督}}　山口多聞

== 関連項目 ==
{{commons category}}
* [[ミッドウェー海戦]]
* 漫画『[[ドリフターズ (漫画)|ドリフターズ]]』（作者[[平野耕太]]）、歴史上の著名人が異世界に召還されるという設定で、その人物のひとりとして空母[[飛龍 (空母)|飛龍]]とともに召還された。
* 架空戦記『孔明の艦隊』（作者[[志茂田景樹]]）、[[三国志]]の人物が[[連合艦隊]]の提督に憑依するという設定で、[[張飛]]の霊が山口多聞に憑依する。

{{S-start}}
{{S-mil}}
{{Succession box
| title  = [[第二航空戦隊]]司令官
| years  = 1940年11月1日 - 1942年6月5日
| before = [[戸塚道太郎]]
| after  = [[城島高次]]
}}
{{S-end}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:やまくち たもん}}
[[Category:大日本帝国海軍中将]]
[[Category:海軍大学校の教員]]
[[Category:第一次世界大戦期の日本の軍人]]
[[Category:日中戦争の人物]]
[[Category:太平洋戦争で戦死した人物]]
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[[Category:海軍兵学校 (日本)出身の人物]]
[[Category:海軍大学校出身の人物]]
[[Category:東京都区部出身の人物]]
[[Category:1892年生]]
[[Category:1942年没]]
<references />
[[Category:青山霊園に埋葬されている人物]]

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