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'''対艦兵器'''（たいかんへいき）は、[[対水上戦]]のための[[兵器]]のこと。主に[[航空機]]から発射される空対艦兵器、艦船から発射される艦対艦兵器、地上から発射される地対艦兵器がある。

== 空中発射型 ==
{{See also|航空機関砲|航空魚雷|空対艦ミサイル}}
[[第二次世界大戦]]中、航空機が使用する対艦兵器としては砲熕兵器や[[ロケット弾]]、[[魚雷]]、[[無誘導爆弾]]などが用いられていた{{Sfn|Lake|2019}}。その後、精密誘導兵器（PGM）の開発が進むと、まず[[誘導爆弾]]として導入が図られることになり、[[1943年]]には[[ドイツ空軍 (国防軍)|ドイツ空軍]]が[[フリッツX]]を、[[1945年]]には[[アメリカ海軍]]が[[ASM-N-2 BAT|バット]]を実戦投入して、前者は[[イタリア海軍]]の[[戦艦]]「[[ローマ (戦艦)|ローマ]]」を撃沈する戦果を挙げている{{Sfn|Lake|2019}}。またこれと並行して、[[エンジン|推進装置]]を備えた[[空対艦ミサイル]]の開発も進められており、ドイツ空軍では1943年より[[Hs 293 (ミサイル)|Hs.293]]も実戦投入した{{Sfn|Lake|2019}}。

大戦後、[[ソビエト連邦]]では[[ナチス・ドイツ]]から獲得したミサイル技術も踏まえて巡航ミサイルの開発を進めており、[[1953年]]には[[MiG-15 (航空機)|MiG-15戦闘機]]を無人化したような設計の{{仮リンク|KS-1|en|KS-1 Komet|label=KS-1（AS-1）}}を就役させ、これが同国初の空対艦ミサイルとなった{{Sfn|Gordon|2005|loc=ch.2 Death From The Skies}}。その後も順次に開発・配備が進められていき、[[1966年]]には最大射程{{Convert|350|nmi|km}}という長大な射程を誇る{{仮リンク|KSR-5|en|KSR-5|label=KSR-5（AS-6）}}が配備された{{Sfn|Friedman|1997|p=234}}。ただしソ連では、政治的な理由もあって、このように[[戦略爆撃機]]でなければ搭載できないような大型・長射程のミサイルの開発が先行したため、戦術的に使用できるようなミサイルの開発が開始されたのは[[1960年代]]中盤になってからであった{{Sfn|Gordon|2005|loc=ch.2 Death From The Skies}}。

これに対して、[[西側諸国]]ではむしろ比較的小型・短射程のミサイルの開発が先行しており、まず[[1959年]]、アメリカ海軍の[[対潜哨戒機]]が浮上した潜水艦を攻撃するための兵器として、[[指令誘導]]式の[[AGM-12 (ミサイル)|ブルパップ]]（射程{{Convert|10|nmi|km}}）が配備された{{Sfn|Friedman|1997|pp=253-254}}。その後、[[1970年代]]には[[北大西洋条約機構]]（NATO）諸国でも[[電波ホーミング誘導|電波]]・[[光波ホーミング誘導]]式の空対艦ミサイルの実用化が相次いだが、これらの多くはSSMとファミリー化されていた{{Sfn|Lake|2019}}。これらのうち、特に[[エグゾセ]]は[[1982年]]の[[フォークランド紛争]]で実戦投入され、[[駆逐艦]]「[[シェフィールド (駆逐艦)|シェフィールド]]」撃沈などで有名になった{{Sfn|Friedman|1997|pp=226-227}}。

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File:Sopwith Cuckoo.jpg|[[ソッピース クックー|クックー雷撃機]]から投下された[[航空魚雷]]
File:GBU-10 shortly before it impacts a small boat during a training exercise.jpg|水上標的に命中する[[:en:GBU-10 Paveway II|ペイブウェイII]]誘導爆弾
File:Tu-16 Badger G.jpg|[[Tu-16 (航空機)|Tu-16戦略爆撃機]]に搭載されたKSR-5 ASM
</gallery>

== 艦上発射型 ==
{{See also|艦砲|魚雷|艦対艦ミサイル}}
[[大砲]]が艦船に搭載されて[[艦砲]]として用いられるようになったのは[[14世紀]]からとされているが、当時の大砲は決して船を破壊したり沈めたりするものではなく、[[弓 (武器)|弓]]と同じように人間を殺傷することを目的とした兵器であった{{Sfn|青木|1982|pp=73-80}}。これに対し、[[イングランド王国|イングランド国王]]であった[[ヘンリー8世 (イングランド王)|ヘンリー8世]]は、[[攻城砲]]を艦載化すれば船体をも破壊できると着想して王室のジェイムズ・ベイカー造船技師長に検討を指示しており、[[第五次イタリア戦争]]中の[[1545年]]8月15日、「ミストレス」と「アン・ギャラント」に搭載された砲がフランスの[[ガレー船]]団に対して実戦投入されて戦果を挙げた{{Sfn|小林|2007|pp=108-109}}。これは対艦兵器としての艦砲の嚆矢であった{{Sfn|小林|2007|pp=108-109}}。

その後、[[19世紀]]にかけて[[榴弾|炸裂弾]]の導入と[[砲弾]]の大型化によって破壊力は飛躍的に強化されたが、重砲化に伴って発射間隔が長くなり単位時間あたりの投射火力がかえって低下したことや、射程の延伸に見合った照準方法が間に合わなかったこと、また[[装甲]]の技術も発達したことから、皮肉にも、19世紀後半は、大砲の効果が大きく減殺された時代となった{{Sfn|青木|1983|pp=125-158}}{{Efn2|[[蒸気船]]への移行に伴って、一時的な[[衝角]]の復権にも繋がり、19世紀後半に数多くの衝角攻撃が行われたが、成功したものは極めてわずかであった{{Sfn|青木|1983|pp=125-158}}。}}。

この時期には[[水雷]]兵器も発達しており、まず小型ボートを用いて敵艦に[[外装水雷]]を接触させる方法が用いられたのち、自ら推進する[[魚雷]]が開発され、[[水雷艇]]など小型艦艇の主な対艦兵器として広く用いられるようになっていった{{Sfn|青木|1983|pp=107-113}}。一方、大型の戦闘艦については、[[速射砲]]の登場によって中口径砲の破壊力が向上し、また砲術の発達によって重砲の破壊力を効果的に用いることができるようになると、より大口径・強力な砲を搭載できるように艦を大型化させるという[[大艦巨砲主義]]の時代が到来した{{Sfn|青木|1983|pp=125-158}}。

その後、[[航空機]]の発達とともに[[航空主兵論]]が台頭し、[[第二次世界大戦]]で艦艇に対する航空機の優位が明確になったことから、軍艦の装備としては[[対潜兵器]]や[[対空兵器]]が重視されるようになっていった{{Sfn|岡部|2002}}。しかし[[ソビエト連邦]]では、艦上から発射する[[巡航ミサイル]]を対艦兵器として使用すること（[[艦対艦ミサイル]]）の有用性に着目して{{Sfn|岡部|2002}}、まず短射程の[[P-15 (ミサイル)|P-15（SS-N-2）]]を先行して開発し、[[1959年]]より[[ミサイル艇]]に搭載して配備を開始した{{Sfn|岡部|2005}}。また翌[[1960年]]には、{{Convert|250|nmi|km}}という長大な射程を誇る[[P-6 (ミサイル)|P-6（SS-N-3）]]が登場し、こちらはアメリカ海軍の[[空母打撃群#アメリカ海軍|空母任務部隊]]への対抗策として、[[潜水艦]]や[[ミサイル巡洋艦]]に搭載された{{Sfn|岡部|2005}}。

これに対し、アメリカ海軍では当初[[艦対空ミサイル]]（SAM）で対艦兵器も兼用する方針であり、また大戦中に建造された砲装型[[巡洋艦]]などの強力な[[艦砲]]が多数残っていたこともあって{{Sfn|Gardiner|1996|pp=551-552}}、艦上発射型の巡航ミサイルはまず[[対地兵器|対地]]用の[[戦略兵器]]として配備された{{Sfn|岡部|2005}}。一方、西側諸国のなかでも周辺諸国に対して海上兵力で劣勢にあった[[北ヨーロッパ]]諸国や[[イスラエル]]では早くから艦対艦ミサイルに着目しており、[[1966年]]には[[スウェーデン]]が[[RB 08 (ミサイル)|RB 08]]を、また[[1972年]]にはイスラエルが[[ガブリエル (ミサイル)|ガブリエル]]{{Sfn|Friedman|1997|p=230}}、[[ノルウェー]]が[[ペンギン (ミサイル)|ペンギン]]を配備した{{Sfn|Friedman|1997|pp=232-234}}。

[[1967年]]には、ソ連から提供されたP-15ミサイルを搭載した[[エジプト海軍]]の[[ミサイル艇]]が[[イスラエル海軍]]の駆逐艦「[[エイラート (駆逐艦)|エイラート]]」を撃沈する事件が発生し、西側諸国にSSMの脅威を強く印象づけた{{Sfn|Friedman|2016}}。続く[[1973年]]の[[第四次中東戦争]]では、イスラエルと[[シリア]]のミサイル艇同士の交戦（[[ラタキア沖海戦]]）が発生し、[[海戦]]のミサイル化を象徴する戦闘となった{{Sfn|Friedman|2016}}。これらは艦上発射を前提として開発されたものであったが、その後は上記のように[[ハープーン (ミサイル)|ハープーン]]などASMと共通化したSSMが主流となっていった{{Sfn|Lake|2019}}。

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File:Tir.jpg|前装式の[[:en:18-pounder long gun|18ポンド砲]]
File:Uss iowa bb-61 pr.jpg|戦艦「[[アイオワ (戦艦)|アイオワ]]」の[[艦砲射撃]]
File:Gabrielout.jpg|ガブリエルSSM
</gallery>

== 地上発射型 ==
{{See also|沿岸砲|地対艦ミサイル}}
巡航ミサイルを艦船に搭載して対艦兵器として使うようになるのと並行して、これを地上からも運用する[[地対艦ミサイル]]が登場した。一方、ソビエト連邦では[[弾道ミサイル]]を対艦兵器として使用することも検討していた。まず[[潜水艦発射弾道ミサイル]]（SLBM）である[[R-27 (弾道ミサイル)|R-27（SS-N-6）]]をベースとした[[対艦弾道ミサイル]]（ASBM）としてR-27Kを開発して、[[1970年]]より発射試験を開始し、良好な成績を得た{{Sfn|小原|2017}}。またアメリカ合衆国でも、[[1970年代]]より配備された[[準中距離弾道ミサイル]]（MRBM）である[[MGM-31 (ミサイル)#パーシング II|パーシング II]]で良好な射撃精度を得ると、これを対艦兵器として使用することも考慮されるようになった{{Sfn|小原|2017}}。しかし[[第一次戦略兵器制限交渉]]（SALT I）や[[中距離核戦力全廃条約]]（INF条約）の影響もあって{{Sfn|山下|2020}}、いずれもASBMとして配備されるには至らなかった{{Sfn|小原|2017}}。

[[1990年代]]以降、[[米中間における軍事的衝突の潜在的可能性]]を踏まえ、[[中華人民共和国]]が[[接近阻止・領域拒否]]（A2/AD）能力の整備に力を入れるようになると、ASBMの開発・配備も推進されるようになった{{Sfn|小原|2017}}。[[2010年]]にはMRBMをベースにした[[DF-21 (ミサイル)|DF-21D]]、また[[2018年]]には[[中距離弾道ミサイル]]（IRBM）をベースにした{{仮リンク|DF-26 (ミサイル)|en|DF-26|label=DF-26B}}が配備を開始している{{Sfn|山下|2020}}。

<gallery widths="180px" heights="150px">
File:Type 88 (AShM) firing, Japan GSDF.jpg|[[88式地対艦誘導弾]]
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== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
* {{Cite news|first=Robert|last=Crumplar|date=May 26, 2015|title=Essay: Changing the Anti-Ship Cruise Missile Paradigm|url=https://news.usni.org/2015/05/26/essay-changing-the-anti-ship-cruise-missile-paradigm|newspaper=USNI news|publisher=[[:en:United States Naval Institute|United States Naval Institute]]|ref=harv}}
* {{Cite book|authorlink=:en:Norman Friedman|first=Norman|last=Friedman|year=1997|title= The Naval Institute guide to world naval weapon systems 1997-1998|publisher=[[:en:United States Naval Institute|Naval Institute Press]]|isbn=9781557502681|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Norman|last=Friedman|year=2016|chapter=Technological Review - Shipboard Antiship Missiles|title=Seaforth World Naval Review 2017|publisher=[[:en:Pen and Sword Books|Pen and Sword Books]]|isbn=978-1473892781|ref=harv}}
* {{Cite book|first=Robert|last=Gardiner|title=[[:en:Conway Publishing|Conway's]] All the World's Fighting Ships 1947-1995|year= 1996|publisher=Naval Institute Press|isbn=978-1557501325|ref=harv}}
* {{Cite book|authorlink=:en:Yefim Gordon|first=Yefim|last=Gordon |year=2005|title= Soviet/Russian Aircraft Weapons Since World War Two|publisher=Midland Publishing|isbn=978-1857801880|ref=harv}}
* {{Cite journal|first=Jon|last=Lake|year=2019|title=Anti-Ship Missile Evolution|journal=Asian Military Review|issue=6|url=https://asianmilitaryreview.com/2020/01/anti-ship-missile-evolution/|ref=harv}}
* {{Citation|和書|authorlink=青木栄一 (地理学者)|last=青木|first=栄一|year=1982|title=シーパワーの世界史〈1〉海軍の誕生と帆走海軍の発達|publisher=[[出版協同社]]|ncid=BN06116852}}
* {{Citation|和書|last=青木|first=栄一|year=1983|title=シーパワーの世界史〈2〉蒸気力海軍の発達|publisher=出版協同社|ncid=BN06117039}}
* {{Citation|和書|authorlink=岡部いさく|last=岡部|first=いさく|year=2002|month=3|title=核兵器とミサイル (海戦を変えた新技術の推移)|journal=[[世界の艦船]]|issue=593|pages=102-105|publisher=[[海人社]]|naid=40002156277}}
* {{Citation|和書|last=岡部|first=いさく|year=2005|month=3|title=対地対艦ミサイル (艦載ミサイルの発達と現況)|journal=世界の艦船|issue=639|pages=88-93|publisher=海人社|naid=40006607570}}
* {{Citation|和書|last=小林|first=幸雄|year=2007|title=図説イングランド海軍の歴史|publisher=[[原書房]]|isbn=978-4562040483}}
* {{Citation|和書|last=小原|first=凡司|year=2017|month=3|title=中国の対艦弾道ミサイルの脅威度 (海上自衛隊vs中国海軍)|journal=世界の艦船|issue=855|pages=90-93|publisher=海人社|naid=40021078215}}
* {{Citation|和書|last=山下|first=奈々|year=2020|month=4|url=https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/review/sp-1-s/sp-1-8.pdf|title=【研究ノート】中国のASBM の開発動向－DF21Dを中心に－|publisher=[[海上自衛隊幹部学校]]|journal=海幹校戦略研究|issue=通巻第19|pages=116-135|naid=40022259444}}

== 関連項目 ==
* [[対空兵器]]
* [[対地兵器]]
* [[対潜兵器]]

{{DEFAULTSORT:たいかんへいき}}
[[Category:対艦兵器|*]]
[[Category:海洋兵器]]

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