
連載
憂楽帳
50年以上続く毎日新聞夕刊社会面掲載のコラム。編集局の副部長クラスが交代で執筆。記者個人の身近なテーマを取り上げます。
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晩年の「睡蓮」
2025/3/13 13:29 467文字学生時代から印象派の画家、クロード・モネ(1840~1926年)が好きだ。86年間の生涯の晩年に焦点を当てた展覧会が京都市京セラ美術館で開かれていて、足を運んだ。 約20点が会場に並ぶ連作「睡蓮(すいれん)」は当初、中央にスイレンが描かれたが、彼の関心は刻々と表情を変える水面に移っていく。周囲の木
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市民会館の開館準備
2025/3/12 13:09 455文字「私自身、本当に新施設が必要なの?と懐疑的なところから始まったんです」。人口約11万人の香川県丸亀市で市民会館の建て替え作業を進める担当課長の村尾剛志さん(55)は、2017年度に今の課に異動した頃を振り返る。 市民全体に及ぶ価値を探ろうと翌年、車座集会を始め、市内各地で230回を重ねた。ハード整
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大震災とアメフトと
2025/3/11 13:24 462文字東日本大震災が起きた2011年3月、福島県いわき市で保険代理店を営んでいた近藤秀則さん(45)は、かつて訪れた水戸へ行こうと思い立った。周囲は避難し、地元の駅前も真っ暗で気持ちがめいっていた。水戸駅近くのホテルで予約が取れたが、行ってみると街はひどい状態。宿のボイラーは壊れ、水しか出なかった。 繁
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ある詐欺団
2025/3/10 13:23 459文字数年前、ある詐欺団を追跡取材した。拠点は北朝鮮との国境に近い中国の吉林省延吉市。中国の「かけ子」が日本の高齢者に電話をかけてだまし、日本の「受け子」が被害者からキャッシュカードを受け取り、金を引き出していた。 「ネットゲームをしているような感じ。感覚がまひしていた」。かけ子の40代男性が告白した。
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笑顔を守る
2025/3/8 13:00 452文字アフリカ・モザンビークで10年以上、草の根の人道支援を続ける女性がいる。一般社団法人「モザンビークのいのちをつなぐ会」の代表、榎本恵さん(52)だ。イスラム過激派のテロが激化したため、今は故郷の北九州で暮らし、SNSで現地とつながる。 会が活動する地域は北部カボデルガド州。首都から遠く離れ、海外か
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「学生革命」は起きるか
2025/3/7 13:04 425文字東欧のセルビアで今、学生たちの怒りが爆発している。 昨年12月以降、全ての国立大学は学生に占拠され、機能不全に。学生らは約3カ月にわたって街頭に繰り出し、大規模な反政府デモを繰り広げる。市民はデモ隊に食事や飲み物を配り、サポートする。取材に応じた大学生のゴランさん(23歳、仮名)は「この国が良くな
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それぞれの体験
2025/3/6 13:05 444文字群馬県庁で取材中の出来事だった。2011年3月11日、前橋市では震度5強の揺れを観測した。5階にいたせいか、体感した揺れは震度以上のものだった。 当時は目の前の情報を追うことで精いっぱいで、少し先のことさえ考える余裕がなかった。だが、ある映像が目に飛び込んできたことで、すぐに将来へ考えが及ぶことに
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ささやかな配慮
2025/3/5 13:16 435文字耳の不自由な女児が7年前に亡くなった交通事故を巡り、賠償額が争点となった裁判の判決が1月にあった。判決文にある「ささやかな合理的配慮」という言葉が印象的だった。 合理的配慮とは、障害者本人の申し出により、周囲の人が重い負担にならない程度で協力していくことだ。2016年に施行された障害者差別解消法で
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助け合って前へ /岩手
2025/3/5 05:04 447文字「故郷の岩手で働くのはとても新鮮です」。岩手県花巻市の旅館「愛隣館」で働く小西美咲さん(23)は笑顔で話す。実は小西さん、石川県七尾市にある旅館「加賀屋」の社員。この縁を結んだのは、二つの大地震だった。 愛隣館の3代目社長、清水隆太郎さん(48)は2000年春から2年間、加賀屋で働いた。「日本を代
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助け合って前へ
2025/3/4 13:10 447文字「故郷の岩手で働くのはとても新鮮です」。岩手県花巻市の旅館「愛隣館」で働く小西美咲さん(23)は笑顔で話す。実は小西さん、石川県七尾市にある旅館「加賀屋」の社員。この縁を結んだのは、二つの大地震だった。 愛隣館の3代目社長、清水隆太郎さん(48)は2000年春から2年間、加賀屋で働いた。「日本を代
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教え子からの便り
2025/3/3 13:12 440文字新潟県新発田市の小学校で日本語指導員として外国から来た児童を支援している阿久津ルミ子さん(74)。久しぶりに連絡すると中学3年になった男子生徒の成長に声を弾ませていた。 出会いは生徒が小学2年のとき。パキスタンから来たばかりで阿久津さんが3年間日本語を教えた。それから5年。昨夏に会ったときにはサッ
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弾圧の記憶
2025/3/1 13:00 447文字2月28日は台湾で重い意味を持つ一日だ。78年前、国民党の政治腐敗に抗議するデモ隊に当局が発砲。各地に広がった弾圧で、最大2万8000人(推計)が命を失ったとされる。 現在では平和を祈る休日となり、毎年追悼集会が各地で開かれる。そこには海外に暮らす被害者の遺族もかけつけ、今年は日本や米国などに住む
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遠くても小さくても
2025/2/28 13:10 444文字停戦発効から1カ月あまりが過ぎたパレスチナ自治区ガザ地区。イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘中、多くの民間人や子どもまでが犠牲となる不条理に、私が暮らす熊本にも声を上げてきた人たちがいる。「パレスチナを想(おも)うくまもと市民の会」。2023年10月の戦闘開始直後から、週末を中心に、有志らが街
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雨晴海岸にて
2025/2/27 13:08 462文字心に残る風景がある。能登半島の東の付け根にある富山県高岡市の雨晴(あまはらし)海岸から、富山湾越しに立山連峰を望む眺めだ。 淡いブルーの空が深いブルーの海にグラデーションでつながっていく。手前にあるモンブランケーキのような形の女岩(めいわ)はてっぺんに松を頂く姿がユーモラス。奥には雄大な北アルプス
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本に2年の旅を
2025/2/26 13:11 453文字1月のこの欄で、旅する人の目的地にもなっている高松市の古書店を紹介した。香川には、逆に本そのものに旅をさせている場所もある。 香川県東部のさぬき市、瀬戸内海に面して約1キロにわたり松が立ち並ぶ「津田の松原」。「日本の渚(なぎさ)百選」にも選ばれた白砂青松の浜からすぐの場所に、古民家を改修した「うみ
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頭でも味わうコーヒー
2025/2/25 13:05 481文字東京のJR新橋駅北改札を出てすぐに「サザコーヒー」がある。聞き慣れない名かもしれないが、東京駅近くのKITTE、品川駅や埼玉・大宮駅の構内商業施設など首都圏にじわりと広がる。発祥の地は茨城県ひたちなか市だ。 1969年、斜陽化が進む映画館の敷地に現会長の鈴木誉志男さん(82)が喫茶店を開いたのが始
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続くムーブメント
2025/2/22 13:12 462文字障害のある人の芸術的才能に着目し、障害への視点や社会のあり方を問い直す。そんな市民運動「エイブル・アート・ムーブメント」が今年で30年を迎えた。提唱したのは、奈良で障害のある人が生活する「たんぽぽの家」の設立に携わり、昨秋82歳で死去した播磨靖夫さんだ。 「バイタリティーがすごかった」。運動に4年
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シリアはどこへ
2025/2/21 13:07 439文字東京都新宿区の住宅街の一角。国内では珍しいシリア製品を扱う「雑貨と喫茶 しゃーむ」が昨年9月、オープンした。 店主は高岡豊さん(49)。東京外国語大研究員で、シリアやイスラム過激派の専門家として知られる。研究のかたわら、店を開いたのは内戦下で苦しむ「市民を支援するため」だった。毎年1回、シリア特��
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旅先になる古書店 /香川
2025/2/21 05:18 469文字勤務する香川で、個性的な書店や私設図書館など本を巡る場所をのぞくと、その場をめがけて旅に来ている人に気が付く。その中で、もはや知る人ぞ知るディープな観光名所とも呼べそうなのが、高松市の古書店「なタ書」だ。中心商店街から路地に入った、元は連れ込み宿だったというトタン張りの建物の2階にある。 完全予約
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いつか通る道
2025/2/20 13:08 454文字昨年10月、70代の母から電話があった。「12月に目を手術することになった。病院に付き添ってほしい」。目の手術と聞き、驚いた。 詳しく話を聞くと、数年前から左目の視界の中心に白いもやがあり、見えにくいそうだ。眼科で白内障と診断されていたこと、症状があったことを知らされていなかった。 厚生労働省によ
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