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ゴキブリ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ゴキブリ目
生息年代: 358.9–0 Ma
石炭紀 - 現在
ドミノゴキブリ(Therea petiveriana)
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
上目 : 網翅上目 Dictyoptera
: ゴキブリ目 Blattodea
シノニム
  • Blattaria (ゴキブリのみを指す)

ゴキブリ目(ゴキブリもく、: Blattodea)は、ゴキブリシロアリを含む昆虫である[1]。かつてシロアリは別分類 (等翅目,Isoptera) と考えられていたが、遺伝子分子的な証拠がゴキブリと共通の祖先から進化したことを示唆している。ゴキブリ目とカマキリ目は現在どちらも網翅上目の一部と考えられている。ゴキブリ目には、約5004400種のゴキブリと約300属3000種のシロアリが含まれる。

シロアリがコロニーを形成する淡い色で柔らかい体の真社会性昆虫であるのに対し、ゴキブリは体色が暗く(多くは茶色)、表皮はスクレロチン化英語版し、はっきりした体節のくびれを持つ。シロアリのコロニーには、成熟した雌雄の生殖虫である王と女王、多数の非生殖虫である働きアリと兵アリからなるカーストがある[2]。ゴキブリはコロニー型ではないが集団を作る習性があり、全ての成虫が繁殖可能であることから前社会性とみなされる場合がある。このほか両グループの類似点としては、様々な社会的行動、足跡を辿る習性、血縁認識、コミュニケーション方法などがある。

系統と進化

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フランスの石炭紀地層から産出した初期の網翅類の化石

107種[注釈 1]を対象に行なったDNA配列の分岐学解析では、シロアリがゴキブリ目の内群に入ることや、キゴキブリ (Cryptocercusがシロアリの姉妹群であることが示された。カマキリはゴキブリ目の姉妹群であることが示された[3]。またキゴキブリは、腸内細菌種などの特性をシロアリと共有している[4]

ゴキブリのLamproblattidaeとTryonicidaeという科はゴキブリ亜目 (Blattoidea[訳語疑問点]内に配置されている。ムカシゴキブリ科とチャバネゴキブリ科についてはラテン学名が刷新されている[注釈 2]

エッグルトンとベッカローニとインワードら (2007年) に基づき、2019年に多数の学識者によって修正されたゴキブリ目(ゴキブリ科とシロアリ科)の進化関係を以下のクラドグラムに示す[7][8]

このクラドグラムは、アリエノプテラ科をカマキリ目の姉妹群として示している。当初は独自のアリエノプテラ目で、絶滅したゴキブリのウメノコレウス上科に一旦組み入れられたものの[9]、近年の分析ではアリエノプテラ科とウメノコレウス上科をゴキブリ目に含めないで、網翅上目の姉妹分類に配置している[10]

網翅上目

Manipulatoridae (絶滅)

アリエノプテラ科 (絶滅)

カマキリ目

ゴキブリ目[注釈 3]
オオゴキブリ亜目

チャバネゴキブリ
(Ectobiidae)

ヒメゴキブリ亜科
(Pseudophyllodromiinae)

旧チャバネゴキブリ亜科
(Blattellinae)

オオゴキブリ
(Blaberidae)

Solumblattodea
ムカシゴキブリ亜目

ムカシゴキブリ
(Corydiidae)

ホラアナゴキブリ
(Nocticolidae)

Blattoidea
Blattoidae

Tryonicidae

ゴキブリ科
(Blattidae)

Kittrickea

Lamproblattidae

Xylophagodea

キゴキブリ科
(Cryptocercidae)

シロアリ

ムカシシロアリ科
(Mastotermitidae)

Euisoptera

Archotermopsidae

シュウカクシロアリ科
(Hodotermitidae)

Stolotermitidae

レイビシロアリ科
(Kalotermitidae)

Stylotermitidae

ミゾガシラシロアリ科
(Rhinotermitidae)

ノコギリシロアリ科
(Serritermitidae)

シロアリ科
(Termitidae)

Isoptera

多様性

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世界中の至る所でゴキブリは4,000種以上発見されており、各大陸に固有の在来種がいる。これらの大半が雑食性または腐食性であり、特に落ち葉や腐った木の中、密生した草木、岩の隙間、樹皮下の空洞、丸太の下、ごみの中といった生息範囲に住んでいる。樹上生活型もいれば洞穴性もおり、水生型もいる[11]。少数の種は建物内の人間近辺で生活するようになり、人間によって輸送されて世界中に分布を広げ、害虫とみなされている[12]。一部の種はセルロースの消化を促進する共生生物を腸に抱えているが、多くの種が共生生物とは別にセルロースを消化する酵素も産生している[13]

シロアリは南極以外の全大陸で3,000種以上が発見されている。最多の種がいるのはアフリカで、ヨーロッパや北米に生息する種は比較的少ない。彼らもまた腐食性でその多くが木を食べており、セルロースを消化するための共生原生動物を抱えた特殊な腸を持つ。シロアリは体が柔らかく、できる限り視認されないようにしている。彼らは大まかに湿木、乾木、地下で生活するものに分けられる。一般に、湿木シロアリは針葉樹林を、乾木シロアリは広葉樹林を、地下シロアリは多種多様な場所を生息地としている[14]

特徴

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シロアリはコロニーを形成する真社会性昆虫である。彼らにはカースト(階級)があり、各コロニーに王と女王そして多くの非生殖な働きアリがいる。働きアリは、生殖虫と発育途上の幼虫を養うためコロニーに持ち帰る餌探しをする[15]。ゴキブリも社会性を示す昆虫ではあるがコロニー生活をしておらず、全ての成虫が繁殖可能である。集合型の種もいれば、集合傾向を見せるものや親による子の保護を行う種もいる[16]

ゴキブリとシロアリには、彼らが共通祖先から受け継いだと思われる顕著な行動類似点がある。これらには、暖かく湿った場所を好む習性、走触性、穴居性、巣素材の操作、衛生的行動、食物共有、共食い、排泄行動、振動でのコミュニケーション、血縁認識、足跡辿り、仲間を舐めて掃除する(対他グルーミング)、血族の世話(子育て)、触角の手入れ、特定の交配行動などが含まれる[17]。これら行動の一部に、シロアリと幼虫ゴキブリ間で顕著な類似点があるが、成虫ゴキブリだと当てはまらない。真社会性の進化過程において、各個体が結集したいという欲求を共有する必要がある。幼虫ゴキブリには集合傾向があり、成虫は多くの場合縄張りや資源を巡ってお互い積極的に競争する。同様に、シロアリのコロニーではお互いをグルーミングしあう事が一般的だが、この対他グルーミングはゴキブリの実行する一般的行動ではなく、とはいえ個々が自分自身を手入れしている[17]。この例外種がキゴキブリ科で、彼らは他のゴキブリ達よりもシロアリと密接な関連があると見なされている[18]。こちらは幼虫が相互に、あるいは成虫に対してグルーミングを行う[17]

両グループはまた、自分達の社会環境の影響を受ける。1匹でいる単独シロアリは、2匹一緒でいる場合よりも活力レベルが有意に低下して寿命が短くなる。孤立したゴキブリ幼虫は、集団化している個体の半分にも満たないペースで成長し、期待寿命も短い[17]

シロアリとゴキブリはどちらも糞食性で糞塊消費を行なっている。成虫シロアリの働きアリは餌探しをして餌を巣に運び込み、そこで餌を口または肛門で生殖虫および幼虫に渡し、栄養素の全てをこのやり方で提供する。幼虫ゴキブリは餌探しが不得意であり、自分の棲み家から出ることは滅多に無く、より大きな個体の糞塊を食べることで大部分の栄養素を採っている。ここから彼らは自分達の食料を消化するのに役立つ微生物叢を取得する[17]

キゴキブリ科 (Cryptocercidae) とシロアリの原始的な種Mastotermes darwiniensisは、メスの特定生殖構造の部分的な起源、そして双方ともゴキブリに典型的な卵鞘に卵子を産む、という事実を共有する[19]

ゴキブリ

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ワモンゴキブリ

現生ゴキブリに似た節足動物は、石炭紀の昆虫群集の中で優位を占めていた。現生ゴキブリは中生代三畳紀から出現したものである[20]。この昆虫群は夜行性で、食料と水を採餌するのは夜だけである。この個体群はカースト分化しないため、真社会性とは見なされていない。とはいえ彼らは依然として社会性生物であり、100万匹以上の個体に及ぶ集団での生活もできる[21]

ゴキブリは背外側が扁平かつ概ね楕円形で、胸部と後頭部を覆う盾状の甲板(前胸背板)がある。触角はよく発達しており長細く、口の部分は齧るのに適したものである。通常は前翼が堅くて後翼が膜状である。脚の基節は扁平で、腿節が折りたたまれた際はきれいに収めることが可能である。ゴキブリは不完全変態である。蛹段階がなく、幼虫は大きさと翼がない点を除けば成虫と似ている[22]。雌ゴキブリは卵鞘として知られる鞘を作る。卵鞘は種にもよるがおよそ12 - 25個の卵を収められる[23]。一部の種では子育て行動が見られるが、それ以外の種は幼虫に何も施さない。大部分の種は成虫になるまで3 - 4箇月かかるが[24]、一部の種では幼虫段階が数年間続くものもいる。幼虫段階の継続時間に影響を与える主要因は、季節差と食事で摂取する栄養量である[25]

伝達方法

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大半の昆虫種と同様、ゴキブリはフェロモン放出によってお互いにコミュニケーションを図る。また、ゴキブリが体から炭化水素を分泌して、触角での触れ合いを通じてそれを感じ取ることも発見されている。これらの炭化水素はゴキブリのコミュニケーションに一役買っており、その個体が自分の親族であるか否かを察知することさえ可能で、近親交配を防いでいる。実験室で隔離されたゴキブリには行動に大きな影響が見られ、これらの炭化水素やフェロモンによる刺激反応が少なく、これらのコミュニケーション技能の開発には恐らく集団環境が必要であることが示唆されている[21]

シロアリ

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シロアリ

シロアリの種は全て程度の差こそあれ真社会性であり、コロニーの成員はカースト分化されている。シロアリ個体群の大部分は、採餌、営巣、グルーミング、子育てを担当する働きアリで構成されている。兵アリには捕食者や他の競争相手から巣を守る責任がある。兵アリは大顎が高度に発達しているほか、捕食者にとって有害な複数の防御物質を分泌できる多くの外分泌腺がある[26]

通常、王と女王だけが生殖をおこない、他のカーストはすべて非生殖である。生殖虫には、一次生殖虫と幼形生殖虫の2つの階級がある。一次生殖虫はコロニーを創設した個体であり、複眼、翼の名残り(脱皮前にかつて羽があった場所の斑点)、明瞭に硬化した表皮で特徴づけられる。幼形生殖虫(補充生殖虫)は通常、一次生殖虫のどちらかが死亡した時にコロニー内より発現する[27]。一次生殖虫が健在でも発現することがある[28]。幼形生殖虫には翼の有無による二種類の表現型がある。有翼の場合は親のコロニーから飛び去って雌雄2匹で新たなコロニーを作るが、翼のない場合は親のコロニー内に残る。これら2形態が生じる発達経路の違いは、一般的にコロニー内の食物の入手可能性またはコロニー内での様々なレベルの寄生に依存する[28]。特定のニンフがどのカーストに発達するかは、後の齢期で明確になってくる。この時期に、潜在的な生殖虫は性腺領域が大きくなり始める[26]

シロアリの蟻塚。オーストラリア、ノーザンテリトリー

シロアリのコロニーは、樹上か塚状または地下の場合もあり、原始的なシロアリは切り株や丸太など密閉構造の内部に営巣する。巣の構造は主にシロアリ自身の排泄物で、他の材料は植物繊維を噛み砕いたもの(段ボール状で強度は低いが防水性の物質になる)と土(強度はあるが水の浸食を受ける)である。

樹上巣は密閉通路によって地面と繋がっている。大半の種の働きアリは体が柔らかくて目は見えず、囲われた巣内で一生涯を暮らし、野外に出ることはない[29][注釈 4]。巣は複雑な構造で、トンネルは採餌エリアと繋がっている[29]。アフリカではシロアリの塚が高さ9 m×直径30 mになることもあり、地域を肥沃にして生物多様性が活性化したスポットを作りだすこともある[31][32]

脚注

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注釈

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  1. ^ シロアリの亜科すべて、全6つのゴキブリ科(亜科は29のうち22)、また外群としてカマキリ目15のうち5つから取られた種。
  2. ^ ムカシゴキブリ科は現在Corydiidae(旧称がPolyphagidae)。チャバネゴキブリ科は現在Ectobiidae(旧称がBlattellidae)[5][6]
  3. ^ ゴキブリやシロアリは分類(目、亜目、上科、科、亜科など)に表記ゆれがあり、この図では基準を「ゴキブリ目」として他を割り当てた。
  4. ^ Trinervitermes trinervoidesはこの例外にあたり、夜間に職蟻は地表にて小集団で餌探しをし、捕食者を抑止するために有害なテルペンを分泌する[30]

出典

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関連項目

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外部リンク

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