コンテンツにスキップ

井筒 (能)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。NekoJaNekoJa (会話 | 投稿記録) による 2006年10月31日 (火) 03:33個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (概略: りんく他)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

井筒』 (いづつ) は、を代表する曲の一つである。世阿弥作と考えられ、世阿弥自身この曲には自信があったという。多くの場合男性が女装して演ずるシテの女が、更に男装するのも特徴である。

井筒
作者(年代)
世阿弥(室町時代)
形式
複式夢幻能
能柄<上演時の分類>
紅入り鬘物、三番目物
現行上演流派
{{{現行上演流派}}}
異称
{{{異称}}}
シテ<主人公>
井筒の女の亡霊
その他おもな登場人物
旅の僧 
季節
場所
大和国石上、在原寺跡
本説<典拠となる作品>
伊勢物語
このテンプレートの使い方はこちら

注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


概略

伊勢物語』23段の「筒井筒」に取材した複式夢幻能であり、若い女性をシテとした、序ノ舞を舞う大小ものである。幼馴染在原業平紀有常女との間の情を、「井筒の女」と呼ばれた紀有常女の霊を主人公にして描く。筒井筒の物語にあらわれる以下の歌が、他の業平及び紀有常女の歌と共に、能の中に美しく取り入れられている。なお、井筒は井戸のことである。

  • 「筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 過きにけらしな 妹見ざるまに」
  • 「くらべこし 振分髪も 肩すぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」
  • 「風吹けば 沖���白浪 竜田山 夜半にや君が ひとりこゆらん」

舞台進行

  • 前シテ: 里の女(化身)
  • 後シテ: 井筒の女(霊)
  • ワキ: 旅の僧
  • アイ: 里の男
  • 正面先に井筒の作リ物。薄の穂が植えてある。

名ノリ笛につれてワキが登場し、諸国一見の僧であり初瀬に向かう所であると名乗る。今いる所は大和国在原寺という寺であり、昔、在原業平と紀有常女の夫婦が住んでいた石上である。これから夫婦の菩提をともども弔おうと言って、脇座に座る。

次第の囃子に乗り、前シテが静かに登場。秋の夕べ、寂しい寺に一人回向をする優美な女性の姿である。僧がこれに問いかけると、美女は井戸の水を塚にかけつつ、自分はこの近在の者である、ここはかの業平夫婦が住んでいた場所であるから、回向しているのだと答える。それにしても随分昔の話ではないか、今になって墓参するとは奇特なことだ、何か縁があるのでしょう、と僧が問うが、女はそれを否定し、昔語りを続け、懐かしがる。隣同士だった幼い二人は、井戸にお互いの顔を映しあい遊んだものだった。やがて思春期を迎える頃には恥ずかしく、疎遠になっていたが、男から女へ「筒井筒」の歌が送られ、女は「くらべこし」の歌を返した。夫婦の契りをした、あれは19才のときでした… 実は自分はその女なのだと打ち明け、シテは一旦退場する。

片幕で舞台に登場していたアイの居語(いがたり)となる。間狂言の口から同様の物語が語られる。多分今の女は井筒の女の霊であろう。僧は寺に一夜を籠ることにする。

一声の後、先の女が僧の夢の中に再度あらわれる。今度は業平の形見の冠と上着をつけて男装している。夜更けの寺で月の光に照らされながら、「恥ずかしいことだが」と言いつつ、昔の夫になって、女は序ノ舞を舞う。筒井筒の歌のモチーフを繰り返しつつ、薄をかき分け井戸を覗き込めば、月影に映る姿は女とは見えず亡き夫業平の面影そのものである。生前の夫婦愛を回想しつつ、やがて寺の鐘の音を聞き、ほのぼのと夜があけるにつれ、『明くれば古寺の、松風や芭蕉葉の、夢も破れて覚めにけり、夢は破れ、明けにけり』(シテのトメ拍子)。

資料

  • 岩波書店 日本古典文学大系 「謡曲集」上 「世阿弥の能」 引用部分はp.279 (初版第四刷)

関連項目

外部リンク