構体 (鉄道車両)
構体(こうたい)とは、鉄道車両の車体において、台枠・骨組・外板などで構成され車体の強度を担う部分である。座席などの室内設備、照明、制御機器などは含まない[1]。
概要
車体の底面にあたる部分が台枠と床であり、その上に進行方向左右にある側、車体の前後の妻(ただし運転台のある面は先頭や前面とも言う)、上を覆う屋根に囲まれた箱形の部分が構体である。
古い時代の客車などでは、鋼製の台枠が基礎となって構体全体を支え、その上に家屋の構造にも似た木造の構造物が載った形であった。つまり台枠が全体として荷重等を負担し、妻や側の部分は台枠上で自立しているのみであった(木造車)。日本の場合���は昭和初期から、事故時の安全性等の問題により、鋼板・鋼材など金属の骨組や外板で車体を構成し、内装は木材を主体とした車両(鋼製車あるいは半鋼製車と呼ぶ)に移行し、さらに戦後は内装にも座席などを除いて金属を用いた全金属製車両に移っていった。この素材も当初は普通鋼が一般的であったがアルミニウム合金やステンレス鋼に変化してきた。
各部名称
- 台枠
- 溝形鋼を四角に組んだ外枠に長手方向および横(枕木)方向に梁を組んだ形になっている。詳細は台枠を参照。
- 側
- 縦の柱を側柱とよぶ。窓より下の部分の板を腰板、窓より上の部分の板を幕板とよぶ。上端に長手方向には長桁が通っている。窓および出入台の扉があって開口部が多い。鉄道車両#側構も参照。
- 屋根
- 横方向に垂木が通され、その上を屋根が覆う構造になっている。なお、黎明期の鉄道車両においては平たい屋根の上にもう一段屋根を重ねた、いわゆる二重屋根(ダブルルーフ)構造が採用された[2]。二重屋根部には明り取り窓が設けられる例が多く、採光の面でメリットがあるとされたが[2]、一方で車体強度確保の困難さや工作点数の増加などデメリットも存在し[2]、大正年代後期以降に新規設計された鉄道車両においては丸屋根(シングルルーフ)構造が一般的なものとなった。
- 妻
- 貫通路が設けられ、端面は平面でなく貫通路部分が出て側の部分の方が下がるような角度(後退角)が付けられている(折妻)。のちに平面のものになった(平妻)。鉄道車両#妻構も参照。
側面窓配置
構体側面には通常、扉や窓が設けられる。鉄道車両を主題とする書籍・雑誌などにおいて構体側面に設けられた扉や窓の配置を説明する際には、客用扉を「D」[3][4]、乗務員扉を「d」[3]または「E」[5]、荷物用扉を「B」[4][5]のアルファベット文字でそれぞれ表し、側窓の枚数を1 - 9のアラビア数字で表す表記[3][4][5]が用いられる。例えば、「側面の前端部に乗務員扉を備え、客用扉は片側3箇所設けられ、側窓は乗務員扉と客用扉の間に1枚、客用扉間に各3枚、後端部に2枚それぞれ設置されている車両」[3]を同表記法を用いて記述すると、d1D3D3D2となる[3]。
セミ・モノコック構造
ボギー車は2つの離れた台車で車体を支えており、概略は2点で支持する梁に分布する荷重が掛かっている状��であるほか、連結等に伴う前後方向の力などの衝撃力も加わる。すでに(半)鋼製車でも台枠だけでなく側板等でこれらの力を負担する設計とされていたが、さらに進めて台枠に側と屋根を組み合わせた四角の管のような構造全体で負担する方式が、セミ・モノコック構造(準張殻構造)である。これは純然たるモノコックとはやや異なり、開口部が多くフレームで補強されている形態である。
日本の客車の場合では、この構造が軽量客車と呼ばれるナハ10形以降採用されるようになった。ナハ10形では、床に波形鋼板(キーストンプレート)を張って車端衝撃を担わせ、従来は台枠の長手方向の中央に入れられていた中梁が省略されている[6]。また屋根、側構、屋根を関連させ、横梁、側柱、タルキがなるべく同一断面に配置され、これに鋼板を張ることで、荷重に対して全体が一つの梁のような構造となるものである[7]。
ステンレス構体
ステンレス鋼は、腐食しにくく、また塗装を省略できるため広く用いられるようになってきた。日本では通勤用電車に特に広く用いられている。溶接にはスポット溶接が主に用いられている。前面にはデザイン構成上の意味もあってFRPや普通鋼が多く用いられる[8]。
なお詳細については「セミステンレス車両」および「オールステンレス車両」も参照。
アルミニウム合金構体
アルミニウム合金は、普通鋼やステンレス鋼よりも軽量である。また、ステンレスと比べれば成型の自由度が高い。初期には、鋼製車と同様に骨組と外板を溶接で組立てていた。溶接に高度な技術を要し、一方で材料自体が鉄やステンレスより高価なために、広く普及するに至らなかった。
しかしアルミ合金は複雑な断面の押出成形が可能なため、やがて外板と骨組の一部を組み合わせた形材が成形できるようになったことで、溶接作業量が大きく減少することになった。これはシングルスキン構造と呼ばれる。
さらなる成形技術の進歩により、ダブルスキン構造と呼ばれる形材が成形できるようになった。これは、外板が段ボールのように表裏にあり、シングルスキン構造よりも重量が重くなる傾向がある一方、高剛性なため骨組が不要となり、新幹線車両などに採用される事例が増えてきている[9]。
それぞれの構造の詳細については「アルミニウム合金製の鉄道車両」や各リンク先も参照されたい。
脚注
- ^ a b 川辺2010 81-84頁。
- ^ a b c 『日本の電車物語 旧性能電車編』 p.60
- ^ a b c d e 鉄道ピクトリアル 1980年9月臨時増刊号(通巻380号) 「私鉄車両めぐり(116) 京浜急行電鉄」 p.150
- ^ a b c 鉄道ピクトリアル 1972年3月臨時増刊号(通巻263号) 「私鉄車両めぐり(91) 東武鉄道」 p.76
- ^ a b c 鉄道ピクトリアル 1961年3月号(通巻116号) 「私鉄車両めぐり(44) 東武鉄道 その1」 p.50
- ^ 『鉄道ピクトリアル』No.670 10-15頁。
- ^ 『鉄道ピクトリアル』No.385 10-15頁。
- ^ 井上他 2002。
- ^ 大西 2005。
参考文献
- 川辺謙一『「超」図説講義 鉄道のひみつ』学習研究社、2010年。ISBN 978-4054045125。
- 秋山芳弘『よくわかる最新鉄道の基本と仕組み』秀和システム、2009年。ISBN 978-4798021768。
- 大西剛司 (2005年11月). “より強く、より軽い構体を探求する” (PDF). 近畿車輛技報12号. 2010年11月13日閲覧。
- 井上修他 (2002年). “複合材料製先頭構体の開発” (PDF). JR East Techinical Review No.1. 2010年11月13日閲覧。
- 福原俊一『日本の電車物語 旧性能電車編』JTBパブリッシング、2007年。ISBN 978-4-533-06867-6。