営業係数(えいぎょうけいすう、: operation ratio, operating ratio [1])とは、100営業収入を得るのに、どれだけの営業費用を要するかを表す指数。主に鉄道路線バス路線の経営状態を表す指標として使われる。100未満であれば黒字、超えれば赤字である。

名古屋市営バスの停留所に掲示された、系統毎の営業係数
黒字系統は青い字で、赤字系統は赤い字で記されている。
上:荒子駅 「112」が金山22号系統、「294」が中川巡回系統の営業係数。
下:石川橋 金山12号系統は数少ない黒字路線の一つ。

また、収入と費用の、すなわち経営効率を表す指標であって、赤字や黒字の絶対額を表さない[* 1]

概要

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営業係数をよく用いたのは日本国有鉄道(国鉄)など鉄道事業者である。国鉄の場合、毎年8月末に公表される監査報告書に記載されていた。

国鉄の営業係数は次のようなものを対象に計算された。損益分岐の指標としてばかりでなく、部門間での比較指標としても活用されている。また、一定期間での推移を観察した分析もあった。ここでは、1982年昭和57年)の監査報告についての報道での説明を元に解説する[* 2]

算定範囲

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  • 鉄道管理局全体の営業係数:管理局間の特徴を把握するため使用
    • 部門別の営業係数
      • 管理局管内の収支を旅客収支、貨物収支に区分して営業係数を算出し、比較に使用
    • 線区の営業係数
      • 幹線系線区、地方交通線系線区の営業係数:管理局ごとに算出して比較
      • 新幹線在来線の営業係数:その方向全体の動向を把握するため使用。合算した場合の総合的な収支も計算された。
      • 個別線区の営業係数:ドル箱路線ローカル線のリストアップ時によく使われた。

算定根拠

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どの括りで計算するにせよ、営業係数の算出に当たっては次のような要素を合算して収入・支出を計算し、その後支出を収入で割って営業係数を求める。基本的には一般の会計学で使用されている概念を応用したもの。

算出に際し、線区の分岐駅の取り扱いや異なる線区にまたがる利用の取り扱いは、販売した駅の所属する路線の収入として計上された[* 4]

国鉄財政の悪化と営業係数

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昭和59年度 地域別営業成績[2]
地域 営業係数 一般損益(億円)
北海道 415 ▲2,142
四国 336 ▲336
九州 294 ▲1,593
本州 132 ▲29
148 ▲4,100
昭和59年度 新幹線とその並行線の営業係数[2]
東海道・山陽 東北 上越
新幹線 53 209 244
並行在来線 169 214 153
合計 93 211 196

国鉄の財務状況が赤字となった1964年(昭和39年)[3]以降も、運賃の値上げは国会の議決事項である旨が日本国有鉄道法により規定されたままであり、1975年(昭和50年)以前は物価高騰に比較して貨客運賃の値上げは抑制され続けた。一方で、イギリス西ドイツフランスなどで実施されていた国鉄への公的助成は日本では赤字を埋め合わせるレベルには至らなかった[* 5]。また、労働組合の激しい反対運動で人員合理化が遅れた(国鉄労働組合国鉄動力車労働組合も参照)。

これらのことから、地方交通線ばかりでなく幹線もほとんどが赤字であり、常に黒字を計上していたのは国鉄末期には以下の線区程度であったと言われる。

なお、国電区間の路線は環状線としての性格を持ち、放射路線と乗り継ぐための短距離利用者(初乗り運賃が占める割合が高く、キロ当たりの単価が高い)が多いため、黒字を計上しやすかった。しかし、最悪期には国電区間を中心とした首都圏19線区(全て在来線)全体の営業係数は100を超過していた。首都圏の営業係数が再度100を切ったのは1977(昭和52)年度のことであるが、この年の利益は僅か6億円に過ぎなかった。その後、人口集中の恩恵を着実に受け、又、値上げが毎年のように繰り返され、旅客逸走(国鉄離れ)を上回る収入があったこと、人員整理が徐々に進められていったことから、順調に営業係数は改善し、1982年(昭和57年)には19線区中11線区で営業係数が100を切ることとなった[* 6]

逆に、赤字線区の筆頭として取りあげられていたのは以下のような線区であり、営業係数が3,000から4,000を上回る路線もいくつかあった。それは乗客数(営業収入)が極端に少ないこと(分母が小さくなる)や、保線費用が除雪等のため多くかかること(分子が大きくなる)などが要因だった。

また、昭和40年代以前に廃止された路線では、以下のような路線が赤字線として知られていた。

営業係数は政府や国鉄が赤字ローカル線の廃止論議をする際によく登場していたが、実際に赤字83線特定地方交通線の取り組みで廃止対象となる基準には路線の距離や輸送密度などが用いられ、赤字額が膨大であることを理由にはされていない[* 7]

営業係数としては筆頭ではないものの、巷間三大都市圏として知られる中でも、昭和50年代以降民営化直前までに黒字の常連へと復帰できたのは首都圏のみである。名古屋鉄道管理局や関西の3鉄道管理局[* 8]管内の営業収支は殆どが赤字で、黒字線区の常連は大阪環状線唯1線に過ぎなかった。管理局としての営業係数も、1980年代に入っても100を超えていた[* 9][4]

国鉄分割民営化後

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このような営業係数は、公共企業体であった国鉄が民営化されてJRとなってからは、線区別の公表はされなくなった。国鉄民営化後は『鉄道統計年報[5]にて、鉄道事業者毎に公表されている。

週刊東洋経済2010年平成22年)4月3日号にて、ジャーナリスト梅原淳が民営化直前の営業収支をもとに輸送人員の推移や各社の収支を材料に推測した、線区別の営業係数の「試算」が掲載されている。

JR北海道は、2015年11月6日に発表した2015年度9月期中間決算にて、輸送密度が500人未満の線区別の営業係数を初めて公表した[6]。更に2016年には、全線区別の営業係数を公表した[7][8]

経営悪化などを理由として公的な介入がなされたり、検討されている場合には、検討会の配布資料などとして、線区別の営業係数が公表されることがある[* 10][9]

2022年に国土交通省が公表した鉄道事業者各社へのアンケート結果では、事業者から「営業係数の算出は各社独自の基準でなされており、他事業者間で比較できない」と指摘されている[10][11]

バス

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鉄道と違いバスは路線の設定が柔軟に行えるため赤字路線は廃止することが多いが、過疎地ではバスが唯一の交通手段でスクールバスとして機能している例もあり[12]、廃止には地元との協議が必要となる。

利用者に現状を知ってもらうためとして、公営交通には営業係数を公表する事業者もある[13]名古屋市交通局では市バス公営バス)の赤字額が大きいため、毎年バスターミナルなどに各線の営業係数を示した表を貼り、「あと1回乗って下さい」などと利用客に現状をアピールしている。また、京都市交通局ではすべての停留所の時刻表に当該系統の営業係数を掲示している。

鉄道開業の影響を受けることもあり、仙台市営バスでは仙台市地下鉄東西線の開通で競合する黒字路線を廃止したことで、全路線で営業係数が110以上となった。ワースト1位の八ツ森線は1826となっていた[14][* 11]

脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、10億円の収入があり、10億1,000万円の費用を要したA線と、1億円の収入があり、1億500万円の費用を要したB線では、赤字の絶対額はA線は1,000万円、B線は500万円でA線の方が多いが、営業係数で見るとA線は101(100円の収入のために101円の費用が掛かる)、B線は105(100円の収入のために105円の費用が掛かる)となり、B線の営業係数の方が大きくなる。
  2. ^ 本節での営業係数の算定範囲や算定根拠の説明に際しては、下記の報道より抽出・箇条書き化した。
    「東北3鉄道管理局の57年度経営・営業赤字広がる-新幹線の資本経費が圧迫」『日本経済新聞』1983年8月27日地方経済面(東北A)
    「「収支均衡」視界晴れず 足引っ張る「貨物」-国鉄監査報告・決算に見る」『日本経済新聞』1983年8月27日朝刊23面
    「値上げも効果なし 関西3鉄局管内の57年度決算 2076億円の赤字」『日本経済新聞』1983年8月27日大阪朝刊16面
  3. ^ 複線化や複々線化。
  4. ^ 美幸線の例では、宗谷本線と美幸線が分岐する美深駅で、同駅から美幸線の仁宇布駅までの乗車券を販売した場合は、美深駅の所属する宗谷本線に計上された。( 長谷部秀見『日本一赤字ローカル線物語』草思社、1982年。ISBN 978-4-7942-0153-9 より)
  5. ^ 日本の国鉄でもたとえば、1976(昭和51)年度より開始された地方交通線への助成や、拠点旅客ターミナル駅の増改築などに投入された大都市交通施設整備費補助金など、制度的には幾つかが設けられている。
  6. ^ 「「収支均衡」視界晴れず 足引っ張る「貨物」-国鉄監査報告・決算に見る」『日本経済新聞』1983年8月27日朝刊23面
    首都圏の1982(昭和57)年度決算は収入7,294億円、黒字幅は736億円であり、記事では首都圏については「独立採算が導入されてもOKの状態」と書かれている。
  7. ^ 実際、営業係数の悪い赤字ローカル線の赤字額(1983年度)はほとんど数億円程度で、逆に東海道山陽東北本線などの長大幹線の赤字額が千億円以上、はるかに凌いだ。
  8. ^ 大阪鉄道管理局、天王寺鉄道管理局(共に現 : 西日本旅客鉄道大阪支社)、福知山鉄道管理局(現 : 西日本旅客鉄道福知山支社
  9. ^ 「値上げも効果なし 関西3鉄局管内の57年度決算 2076億円の赤字」『日本経済新聞』1983年8月27日大阪朝刊16面
    1982(昭和57)年度の場合、3管理局管内の赤字合計は見出しの通り2,076億円で、営業係数としては181と報じている。
  10. ^ 例:名鉄西尾・蒲郡線(西尾駅~蒲郡駅)対策協議会 第13回幹事会議事録 2008年6月19日 蒲郡市
    この例では名古屋鉄道蒲郡線西尾~蒲郡間の平成18年度の収支が、収入405百万円に対し、支出が1,078百万円で営業係数が266となっている旨が説明されている。第13 回幹事会議事録では市の側から「名鉄全線あるいは他線区の営業係数を示していただきたい。今後、市として公費を投入することも考え得る中では、現状示されている数値だけでは納得ができない。他線区との比較、ということが必要になるのではないか。」と名鉄他線の営業係数の開示要求があったことも明記されている。
  11. ^ 八ツ森線は 2021年4月1日に廃止された

出典

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  1. ^ 営業係数 「鉄道用語」内『こひつじの部屋』磯兼雄一郎(元名古屋工業大学助教)
    上記は高橋政士編『詳細 鉄道用語辞典』山海堂 2006年5月P42
    池口英司『鉄道用語の基礎知識850』イカロス出版 2007年6月P26などを参考として書かれた。
  2. ^ a b c 日本国有鉄道監査委員会『日本国有鉄道監査報告書 昭和59年度』(レポート)国立国会図書館デジタルコレクション、1985年8月、244-250頁。doi:10.11501/12066723 
  3. ^ 同年10月1日に東海道新幹線が開業。
  4. ^ 「名鉄局の57年度経営成績 赤字は最高の871億円 関連事業の好調が救い」『日本経済新聞』1983年8月27日
    収入719億円、支出1,590億円で営業係数は213と報じられている。
  5. ^ 国土交通省鉄道局監修、政府資料等普及調査会にて毎年3月に発行
  6. ^ 平成26年度 お客様のご利用が少ない線区の収支状況について 2015年11月9日 北海道旅客鉄道
  7. ^ [1] 道内全区間で赤字 JR北海道が営業係数公表 2016年1月29日 北海道新聞
  8. ^ 平成26年度 線区別の収支状況等について 2016年2月10日 北海道旅客鉄道
  9. ^ (2)鉄道利用状況 伊賀市
    上記資料では近畿日本鉄道伊賀線の2005年度の営業係数が296である旨が記述されている。
  10. ^ 鎌倉淳 (2022年4月19日). “ローカル線「廃止の目安」は輸送密度2000 - 4000人。鉄道会社が意見表明”. 旅行総合研究所タビリス. 2022年4月21日閲覧。
  11. ^ 【資料3】鉄道事業者へのアンケート調査について (第3回鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会)” (PDF). 国土交通省 (2022年4月18日). 2022年4月21日閲覧。
  12. ^ <仙台市バス赤字>被災沿岸、山間部で深刻 廃止や減便人口減に拍車も - 河北新報
  13. ^ 例:平成21年度 系統別収支・営業係数の公表について 大阪市交通局
  14. ^ 仙台市バス、全46路線赤字 地下鉄東西線開業響く - 河北新報

関連項目

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外部リンク

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