アオカメムシ(青椿象、青亀虫)は、カメムシ目カメムシ亜目カメムシ科アオカメ属[要出典]やその他の属に属する昆虫の総称である。その名の通り、緑色を主体とした体色をした、代表的なカメムシの一群である。さまざまな作物の害虫であり、強い悪臭を発する。さまざまな植物につき、主として果実から吸汁する。幼虫は成長のためには、おおむね種子の栄養蓄積部である胚乳子葉からの吸汁が、必須である。

アオカメムシ
Palomena prasina幼虫
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: カメムシ目 Hemiptera
亜目 : カメムシ亜目 Heteroptera
: カメムシ科 Pentatomidae
亜科 : カメムシ亜科 Pentatominae
: Nezara, Glaucias,
Plautia, Palomena など

特徴

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外形は一般のカメムシ類の典型と言ってよい。全体としては、頭がとがり、胸部は左右に張り出し、羽根を畳んだ腹部は楕円形に次第にすぼまる。

頭部は三角形で、基部の両端に丸い複眼がある。触角は細長い。口器は針状で、腹面に折り畳まれている。胸部は幅広く、両端は円くとがる。腹部はほとんど羽根の下に収まっている。

種類

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日本でよく見かけるのは以下のような種である。

  • アオクサカメムシ Nezara antennata Scott
    最もよく名を知られた種と思われる。全身が緑色である。日本全土に分布し、さまざまな植物につくが、特にマメ科などの作物の害虫として知られる。
  • ミナミアオカメムシ Nezara viridula (L.)
    アオクサカメムシに極めてよく似ている。本州南岸以南、熱帯に広くに分布する。平地の水田のイネや、その他のイネ科植物の穂につく。

なお、この2種は緑色の個体だけでなく、前胸が黄色のもの。体周辺に黄色の縁取りのあるもの、黄色に緑の斑点が出るものなどの個体変異があり、これらは遺伝的な形質であると言われる。

 
ツヤアオカメムシ
  • ツヤアオカメムシ Glaucias subpunctatus (Walker)
    アオクサカメムシより一回り大きく、表面に独特のつやがある。さまざまな果物につくが、繁殖に必要な餌はスギヒノキ球果内部の種子である。
  • チャバネアオカメムシ Plautia crossota stali Scott
    羽根が茶色のアオカメムシ。ミカンなど様々な果物や野菜の果実に被害を与えるが、繁殖に必要な餌はツヤアオカメムシ同様スギ、ヒノキの球果内部の種子である。
 
エゾアオカメムシ
Palomena angulosa
  • エゾアオカメムシ Palomena angulosa (Motschulski)
    本州中部以南では山地に分布し、さまざまな草につくが、マメ科の作物を食害することもある。

生活史

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成虫食草の上に数十個のを並べてくっつける。卵は楕円形で、てっぺんに蓋がある。幼虫は蓋を押し上げて出てくると、しばらくは卵塊の周辺に集まって過ごす。やがて採食のために移動するが、集団のままで動くことが多く、次第に分散する。幼虫は始めは黒っぽく、令が進むと次第に緑っぽくなる。

年2~3化で、成虫で越冬して、春に産卵する。孵化した二世代目のものが夏以降に成虫になり、産卵する。成長が速いものは、夏にもう一回世代を重ねる。

利害

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多くのものが、作物の害虫である。幼虫の育つ植物は比較的限定される種が多いものの、成虫になるとそれぞれに、広い範囲の植物を餌とするので、被害を受ける作物の範囲も広い。

イネにつく場合、若い穂に集まって汁を吸う。汁を吸われたイネは、米になった場合に吸われた部分を中心に褐色に変化する。これを斑点米と言う。

ミカンカキなどの果実の若いものには、チャバネアオカメムシやツヤアオカメムシが集まることがある。これらが汁を吸った部分は、果実が若いうちは、その部分の成長が悪くなってでこぼこになる。ある程度熟した果実が攻撃を浮けた場合、外見上は小さな点が残るだけだが、内部にスポンジ化したような部分を生じる。その部分から腐る場合も多い。

これらの被害が発生する機構は、口針を使って組織を破壊しつつ、消化液の作用がある唾液と混ぜて液化したものを吸収するため、摂食が行われた植物組織内部に、広範な組織欠損を生じることによる。

大発生について

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アオカメムシ類は、さまざまな作物の害虫であるが、これまでに何度かの大発生で世間を騒がせたことがある。

ミナミアオカメの大発生

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1950年代末から、ミナミアオカメムシが水田で大発生して、四国や九州の稲作に大きな打撃を与えた。これは、農薬の普及からニカメイガなどの危険がなくなったことから、稲作が多様化し、稲穂の時期が長くなったことに起因するとも言われる。約10年で沈静化した。詳しくはミナミアオカメムシの項を参照。

昭和末の大発生

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1990年代ころより、西日本各地でカメムシの大発生が伝えられるようになった。この大発生は、広範囲にわたること、その出現時の個体数の多さで、非常に顕著なものであった。大発生地では、夜間に明かりの回りに無数のカメムシが隙間なしに止まり、街灯の周辺には飛び回るカメムシが雲のようになっていた。この時の大発生に参加したのは、主としてチャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシと、クサギカメムシであった。カメムシの大群は、日を追って次第に移動していったようである。

和歌山県では1992年に、県南部の梅だけで被害額は13億円との試算がある。この時のカメムシ個体数は10a当たり500万頭との推定値も出されている。

発生したカメムシは、ウメ畑、ミカン畑やカキ畑に侵入し、大被害を与えた。殺虫剤を散布しても、カメムシはとなりの畑に移動するだけで、数を減らすにはほとんど効果がなかった。誘蛾灯の下に容器を置き、これに水をいれて溺れさせようとの方法が取られたが、ひどい場合には容器内がカメムシで一杯になり、捕殺の役割を果たさなくなった例がある。

この大発生の原因は、スギ・ヒノキの人工林での、これらのカメムシの大発生が元であったようである。各地の人工林が繁殖の適齢を迎えたため、各地でカメムシの餌が一気に増加したためだというのである。ちなみに、花粉症の増加もほぼ前後して起きているとの見方もある。

飼育

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重要な作物害虫であるため、害虫としての特性把握や殺虫剤試験のため、農林試験場などの研究機関において、しばしば累代飼育が行われている。アオカメムシ類は様々な植物の様々な部位から吸汁するとはいえ、本質的には種子食のカメムシであるため、乾燥した生のダイズラッカセイの種子を餌として与え、水を十分含ませた脱脂綿で給水することによって、容易に累代飼育できる種が多い。

関連項目

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